なによシンジ、それぇ!


  『なにって、アスカ見た事ないの? ささだよ、笹』


   アンタばかぁ? そんなの知ってるわよ。 なんで笹なんか家の中に入れるのよ!


  『だって、そろそろ七夕じゃないか』


   たなばた?


  『そう、七夕。 あ、アスカは知らないかもね。 日本じゃさ、7月7日に七夕って言うのがあるんだよ』


   ふぅん。 で、そのたなばたって言うの? なにやるの?


  『えっとね、こうやって笹を飾って、短冊に願い事を書くんだ』


   願い事?


  『そう、願い事。 そうして願うと、願い事が叶うんだよ』


   へぇぇ、洒落た行事があるのね。


  『そうだね』


   でもさ、なんで笹に願い事を書くの?


  『それはね、織り姫と彦星って言う二人がいてね・・・』





それから、シンジの話は御伽噺になった。

いつもだったらそんな話、真面目に聞く気になんかならなかったのに、あの時は何故か、真剣に聞いちゃったのよね。

シンジが嬉しそうだったからかな。

楽しそうに一生懸命話すシンジを見ていたら、何故かこっちも嬉しくなってきちゃったの。

あたしは気がついたらひざを抱えて、シンジの顔をじっと見詰めていた。

シンジはそれにも気づかない様子で、一生懸命に話すのよね。

何かおかしくなっちゃって、思わずあたし、くすくす笑っちゃったんだ。

そしたらシンジは



  『何かおかしかった?』



って真剣になって聞くのよね。

あたし、それがまたおかしくって、今度はおなかを抱えて笑っちゃったんだ。

そしたらシンジはちょっと膨れた顔をして、



  『なんだよ、なにがそんなにおかしいんだよ』



って怒っちゃった。

まぁ、無理もないわよね。 一生懸命話しているのに、笑い出しちゃったんだから。

でもね、なんかおかしくなっちゃったのよ。 

あ、シンジの事をばかにしたんじゃないのよ、もちろん。

一生懸命に御伽噺を話すシンジを見てたら、何か可愛くなっちゃってね・・・

もちろんそんな事は口に出せないから、あたしは



   ごめん、シンジ! 悪気はなかったのよ。 ほんとにごめんね!



って謝ったの。

シンジはちょっと驚いたような顔をしたけど、でも笑って許してくれた。

ありがとう、シンジ。

あたしって駄目よね。 自分の気持ち、全然言えないんだから。














シンジはまた、お話の続きをしてくれた。

あたしは今度は笑う事なんかしないで、じっと聞いてた。

でも、ちょっと頬が緩んでいたのかな? シンジに



  『アスカ、なんか嬉しそうだね』



って言われちゃった。 

そう、嬉しかったのよ。どうしてか解らないけどね。










  『・・・っていう伝説があるんだ、日本には』

  『・・・アスカ? どうかした? アスカ?』



シンジのその言葉で、あたしは我に返った。

気が付かないうちに、シンジの話に聞き入ってたのよね。



   ううん、何でもない。

   それよりシンジ、よくそんな話、知ってるわね。



あたしはそう、シンジに聞いた。

そしたらシンジは少しだけ淋しそうな顔をして、



  『うん・・・ 先生のところでいろいろ本を読んだからね・・・』



だって。




   本を読んだだけ? 七夕の飾り付けとかってしなかったの?


  『だって、先生のところには僕一人だったし、一人でやっても淋しいだけだよ。

   だから実を言うと、この七夕は結構楽しみにしてたんだ』




そしてシンジは、本当に嬉しそうに笑った。

あの笑顔は、今でも心に残ってる。

凄くきれいな笑顔だった・・・




   それじゃ、あたしも手伝うわ。 なにしたらいいの?


  『それじゃ、この折り紙を切って、飾りを作ってよ。鎖とか、何でもいいから』


   ・・・う〜ん、あたし、そういうの良く知らないのよね。


  『え、そうなの? アスカって何でも知ってると思ってたけど』


   あたしだって知らない事、あるわよ。 シンジ、ちょっと教えてくれる?




そしたらシンジは、凄く驚いた顔をしてた。

無理もないわよね。 あたしから教えてくれなんていった事、一回もなかったんだから。

あたしもその事を解ってたから、シンジの驚いた顔には気づかない振りをして、いろいろ教えてもらった。

折り紙の織り方とか、上手い飾りの作り方とか。

ちょっと折り紙を折ってはさみを入れるだけで、面白い形の飾りが出来るのね。 あたし、結構夢中になってた。

シンジはそんなあたしが嬉しかったのか解らないけど、本当に一生懸命に教えてくれた。



気が付いたら、山ほどの飾りが出来ちゃって、困っちゃったんだ。

お互い顔を見合わせて、思いっきり笑っちゃったもんね。

楽しかったな、あのときは。


何とか飾り付けは終わって、笹もきちんと飾った。

え、余った飾りはどうしたかですって?


もちろんちゃんと使ったわよ。

部屋中に飾ってね。

帰ってきたミサトが、目を白黒させてたわね。








最後に短冊に願い事を書いたんだけど・・・


これはシンジと相談して、お互いの願い事は見ないって約束したんだ。

そうしないと、ホントの願い事は書けないからって。


はじめはね、こんなのに本気になるつもりは全然なかったんだけど、でも気が付いたら願い事、一生懸命書いてた。

どうしてかしらね。


ほんとに一生懸命に、願い事を赤い短冊に書いたんだ。






そして、シンジといっしょに笹に短冊を付けた。

ミサトも何か書いてたみたいね。

まぁ、ミサトの書く事なんて、見なくても想像つくけど。



約束だからって、シンジはあたしのは絶対に見ようとしなかった。

シンジはこういうところ、ほんとに真面目なのよね。

それがいいところ、なんだけどさ。




あたしは・・・

ごめん、シンジ!

夜中に起きた時に、つい見ちゃった!

見ちゃいけないって思ってたんだけど、でも・・・ つい・・・



なんて書いてあったかですって?


そ・れ・は・ね・・・














 ぜーーーったいに、ヒミツ!!













































































ねえ、ママ



あたし、いま、とても幸せよ



今まで、いろんな事があったわ



辛い事もたくさん、たくさんあった







でも、あたし、今はとっても幸せなの



シンジがいて、ミサトがいて、加持さんもいて、ヒカリもいて、3ばかの二人もいて、



・・・レイもいて・・・













あたし、生きていて良かった



死なないでよかった



あきらめないでよかった





















ママ・・・



いままで、見ていてくれてありがとう



あたしを守っていてくれて、ありがとう












あたしはもう大丈夫



だって、あたしにはみんながいるんだもん



だからママ、心配しないでね

















ママ・・・








ありがとう












いままで、ありがとう












ありがとう












・・・































さよなら












































七夕に









 fin.
























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