2017年 6月17日
 
 
 「今日までか・・・・・」
 加持はいつもより遅く目覚めた。
 場所は京都のホテル
 
 『スマン、シンジ君。もう少しだけ寝かせてくれ・・・・・』
 
 勝手にそう思い、加持は二度寝を決め込んだ。
 だが、眠る前にもう一度呟いた。
 「今日で終わりか・・・・」
 
 
 
 「朝か・・・・・・」
 
 シンジはいつもの時間通りに目覚める。
 だが、今日は楽しみにしていたことがある。
 
 加持さんがバイクを持ってきてくれるから
 
 更に、加持さんの誕生日だから
 
 
 加持リョウジの選んだ結末
 No Fear ! 40万hit記念 短編投稿(今頃)
 
 
 2017年
 サード・インパクトは起きたものの、被害は想像以上に少なく済んだ。
 もっとも、気がつかないだけかもしれないが、まぁ『生きている』という喜びをかみしめている間はしょうがない。
 
 その依代、碇シンジも16歳となっていた。
 『心』が深く傷ついていたチルドレン達もようやく光が見えてきた。
 サードインパクトの直後はシンジの精神状態が一番酷かった。
 だが、予想外の復活を果たした加持と、急速に回復したアスカのお陰でシンジも急速に回復していった。
 お陰で今は高校に通えるようにまでなっている。
 
 加持が生きていたのはゲンドウと冬月の根回しのお陰だった。
 そして加持はゲンドウに頼まれた。
 
 サード・インパクトが起きる2週湯間ぐらい前、加持は目を覚ました。
 その直後に司令室へ連れていかれゲンドウと対面した。
 
 待っていたのはゲンドウからの依頼だった。
 「シンジが高校に入るまで、身の回りの世話をして欲しい。」
 そのために、ゲンドウは加持に対し頭を下げた。
 世界でトップクラスの男に頭を下げられた加持は断りきれなかった。
 
 で、加持は現在は保護者役となっている。
 
 
 あの時、ミサトはだめだった。
 加持が現場に到着した時は、既にミサトの体は焦げた肉のミンチとなっていた。
 瓦礫と混ざって普通なら目も当てられない状態になっていた。
 愛する者を失った男の悲しみは強く、加持も例外ではなかった。
 我を失った加持はその付近にいた戦略自衛隊員を手当たり次第に殺めていった。
 
 
 ある者はナイフで切り裂かれ
 
 ある者は銃弾をこめかみに喰らい
 
 ある者はマシンガンを体全体にくまなく撃ち込まれ
 
 ある者は投げられたナイフで心臓を貫かれ
 
 ある者は仕掛けたC4プラスチック爆弾に引っ掛かり
 
 ある者はニキータ・ミサイルで壁ごと吹っ飛ばし
 
 ある者は首をへし折られ
 
 ある者はショットガンを口の中に突っ込まれ
 
 ある者は鉄パイプで殴り倒され
 
 ある者はワイヤーで体を千切られ
 
 
 我を忘れた加持は殺人兵器と同義だった。
 目的のためには手段を問わず、強い信念を持った殺人兵器に敵はなかった。
 
 加持の暴走は突然止まった。
 
 後ろで爆発が起きた
 咄嗟に身をかがめた
 視界がクリアになるとミサトの生首が目の前に転がっていた
 顔は半分焦げてしまい真っ黒だったが、もう半分は綺麗なままだった。
 それを見た瞬間、加持は涙を流した。
 愛した女が変わり果てた姿になってしまった現実を突きつけられた。
 目の前にあった現実は加持の精神状態を嬲っていた。
 
 この後,更に暴れた
 
 
 加持は目を覚ました。
 時計を見たら、約束の時間まではまだ2時間あった。
 ここからシンジの住むマンションまでは1時間はかかる。
 
 素早くテントを撤収し、荷物をまとめた。
 自分の荷物はもう殆どない。
 最後の仕事が終わったら死ぬつもりだ。
 
 加持リョウジ、最後の仕事
 
 シンジにバイクを届けること。
 決して自分のアイディアではなかった。
 司令の頼みを副指令から聞いた。
 司令がユイさんと何回かタンデムしたバイクだったと聞いた。
 年式は1999年製と聞くと古さを感じるが、ずっと京都のガレージで大切に保管してあったために見た目も走りも古さを感じさせず、むしろ新鮮さを覚えた。
 
 『ZX−11』カワサキが制作した大型ツアラーモデル、『ZZ−R1100』の北米輸出モデルだった。ボディは銀色、カウルの両側に黒で『Ninja』と描かれていた。
 
 『きっと忍者なんて知らないだろうな・・・シンジ君は?』
 
 Ninjaの文字に苦笑し、車体を見回した。
 ガソリンエンジンであることに最初は珍しさを感じたが、乗ってみれば随分乗りやすいマシンだと痛感した。メーターを見るとまだ1000マイル(1600q)しか走ってなかった。
 
 
 『これが終われば俺のすることもなくなる・・・・。』
 
 もう死んでも良い
 
 誰が決めたかは他人に分かるはずがない
 自分で勝手に決めたことだった。
 この世に対しては、特に未練もなかった。
 
 
 頼まれたことをやっりとげてしまえば後は自由だから
 俺を引き留めるモノは何もない・・・・
 
 
 勝手にそう考えていた.
 
 『じゃぁ、あの二人は・・・・・』
 
 二人の子供の顔が浮かんだ。
 片方は黒い髪の少年
 もう片方はブロンドの少女
 
 『この二人はどうするのか?』
 
 
 自問自答
 
 
 終わりのない思考のループに入っていった。
 
 
 『自分は、俺はこのまま死ぬべきか,否か?』
 『きっとあの二人に話せば引き留められるだろう・・・・。』
 
 けっして思い上がりではない、加持の本心。
 それでも加持は死のうと思っていた。
 
 『向こうにはミサトがいるから・・・・・』
 
 逝けば逢えるかもしれない・・・・逢えないかもしれない
 
 正に神のみぞ知る確率
 
 
 考えながら走行しているうちにマンションの前に到着してしまった。
 結構、走りやすいバイクだな,と感じる。
 
 スロットルの調子も、ブレーキも、クラッチも全部良かった。
 問題点は特にない。
 
 バイクを駐車場に停めて、シンジとアスカと自分の部屋の前まで来る。
 いつも空けてばかりで、滅多にいない自宅だが、ここが自分の自宅だと考えると少し寂しさを感じた。
 
 
 時計は6/17 21:10を表示していた
 
 インターホンを無視し、カードキーを差し込むと扉はいとも簡単に開いた。
 まだ眠っていないと思うが・・・・
 
 部屋の明かりは点いていなかった。
 
 しょうがないな、と思い明かりを付ける、が点かない。
 
 暗闇に目がが馴れると、何か沢山の紙がぶら下がっているのが見えた。
 
 『誕生日おめでとう♪って誰の?』
 ちょっと考え込む。
 
 「俺のだっ!」
 ついつい叫んでしまった。
 自分の誕生日を忘れているのは、らしいといえばらしい。
 
 途端に明かりが点いた。
 
 「「誕生日、おめでとうございますっ!」」
 後ろから、二人の声が重なって聞こえた。
 
 
 振り返ると、同居人の二人がそこにいた。
 
 「加持さ〜ん、遅〜い♪」
 アスカがぶーたれるが、怒ってはいないようだ。
 「事故にでも遭ったかと思いましたよ・・・・。」
 シンジ君は本当に心配してくれていた様だ。
 
 
 こうやって、『家族』をやってると離れたくなくなる。
 
 3人だけのパーティーを終え、シンジにバイクのキーを渡すとフラッと出かけた。
 
 あてはない。気ままに外へ出た。
 
 死に場所を求めて・・・・・
 
 
 
 一時間以上立っても加持さんは戻ってこなかった。
 『いくら何でも遅すぎだ。』
 
 嫌な予感がした。
 バイクのキーを持つと、シンジは駐車場へ急いだ。
 その予感を振り払うかのようにスロットルを捻った。
 
 シンジ達チルドレンに制約はなかった。
 免許のような物は一枚のIDカードで済んだ。全て講習を受けていたからだ。
 
 
 部屋のソファーでは、アスカが眠っていた。
 
 
 加持はタクシーを拾った。
 行き先を芦ノ湖にした。
 今は何もない場所で、何かが出ると評判だった。
 
 運ちゃんは嫌がったが、問答無用。
 有無を言わせず、銃口を向けて走らせた。
 
 シンジは嫌な予感が拭えなかった。
 加持の携帯電話のIDを携帯端末に打ち込み、現在位置を照合する。
 加持は芦ノ湖に向かっていた。
 
 
 
 加持は運ちゃんに法外な札束を渡すと、タクシーを降り、ある程度歩いた。
 何もない芦ノ湖。
 
 湖とは名ばかりの空間が目の前に広がっていた。
 
 時刻を見た
 時計は『23:18』を表示していた。
 
 加持は持っていたバックをその場に置くと、躊躇することなく広大な空間へ飛び込んだ。
 
 下には何もない、あるのは随分先の地面。
 
 『もうこれで終わりだ・・・・・』
 そう感じて目を閉じた。
 加持の目は、もう開かれることはない・・・・・・・
 
 
 シンジが現場に着いた頃、時計は『23:48』を表示していた。
 
 道路から一番近い湖岸、淵と言うべきか、その場所でバックを見つけた。
 見たことのある、ハンティング・ワールドの使い古されたバックだった。
 
 中を見たシンジはすぐに理解した。
 
 これは遺書だと・・・・・・
 
 
 それを悟ったシンジは涙を流した。
 「どうして、加持さんが死んじゃうんだよぉ・・・・・」
 
 力のない呟きは、芦ノ湖の中に響いていった。
 
 
 中に入っていたテープレコーダーが再生を始めた。
 
 
 
 
 「シンジ君とアスカへ
 
 この手紙を読んでる頃には、今度こそ俺はもういないだろう。
 俺は、自分から死を選んだ。
 
 何故死んだのかは想像がつくと思う。
 だからあえて書かない。
 
 君たちの成人式と結婚式が見れないのが残念だが、上で葛城と呑みながら見てるよ。
 
 黙って勝手なことをして済まない。
 だが、これが俺の最後の望みだ。
 だから、怒らないで受け止めて欲しい。
 
 二人とも頑張って欲しい。
 そして、俺達の分までも幸せに生きて欲しい。
 
 いつかまた、何処かで逢えるかもしれない。
 輪廻転生ってヤツだ。
 
 その時をお楽しみに・・・・
 
 
 加持リョウジ  プツッ
 
 
 何処か嬉しそうな加持の声がスピーカーから聞こえてきた。
 涙は止まらなかった。
 
 
 2017年 夏
 一人の男が愛した女を追いかけてこの世から去った
 
 彼の誕生日に彼はこの世を去った。

 真実を二人のチルドレンの心の中だけに残して・・・・・・

   
 
 終劇 



お久しぶりな緒方です。
書いてるうちに訳が分からなくなってしまいました。
今回はキャラの中で3番目ぐらいに好きな加持さんネタです。
「加持にしては」って反感を買うかもしれません。
でも、加持はミサトに対しては本当に「愛してた」と言い切れた筈です。
だからこそとった行動。
そう考えています。

今回の投稿は No Fear ! の40万hit達成記念なのですが、私事も入ってます。

自分のZZ−R400売ってしまった記念(核爆)でもあるのです。
やっぱり高校生の僕にはまだ早かった。(痛感)
感想としては、大柄な割には扱いやすいバイクでした。
タンデムもしやすかった。

それでは。
緒方 紳一


takeoのコメント

緒方さんの投稿第五弾です!オマケに40万hit記念投稿です!!

前作までと違って、なかなかハードですね。
けれどもそれが、何とも言えない雰囲気を醸し出しています。

加持は最後にああ言った選択をするわけですが……。
それもまた、ひとつの結末なのでしょう。
緒方さんの加持像、と言ったところなのでしょうか?


緒方さん、ありがとうございました!!



皆さん、緒方紳一さんへ、是非感想メールを!


緒方さんのページは RIDE on AIR  [http://plaza.across.or.jp/~takesima/]
緒方さんへのメールは 緒方紳一さん   [takesima@po2.across.or.jp]







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