レースはクリーンなスタートを切り、オープニングLAPを終えたところで、ポールポジションからスタートした#25・ADVAN
ZENAG GT3が総合TOPの座をそのまま堅持。#1・FALKEN☆PORSCHEが背後に付け、この2台から少し離れて#3・エンドレスアドバンZが3位で続くという展開です。以下に各クラスのマシンが隊列を成すように連なっていきますが、幸いなことにスピンやコースアウトで脱落するマシンはありません。
ST3クラスでは、クラスポールからスタートした#29・PERSON’S
elf NSX YH FABを#15・岡部自動車
ハーツ RX−7が激しくチャージし、バックストレートで豪快にパス。早くも1周目でクラスTOPが入れ替わりました。今シーズン何度か見てきた、序盤でのRX−7のTOP快走が、ここ岡山国際でも見られることになりそうです。
クラス8番手からスタートした#83・BP
ADVAN NSXも大きなポジションアップを果たします。先行するZ33勢の3台をオープニングLAPで一気にかわし、クラス5番手でメインストレートに帰ってきたのです。・・・とはいえ、ST3クラスの中段はいつものように縦一列に僅差で連なるという激しい展開で、気の抜けない周回が続いていきます。
そんな中で、予選時のトラブルで最後列からのスタートとなったものの、徐々に順位を挽回しつつあった初参戦の#16・バウフェリス 速人7が、3周目に入るところで突如PITイン。どうやらマシントラブルが発生した模様で、そのままPITガレージの中へ直行する結果となりました。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
#78・WW2
ダンロップ RX−7は、スタート直後の混乱をうまく切り抜け、順調に周回を開始しました。伊藤選手は初めて任されることになったS耐のスタートを無事こなし、オープニングLAPでは、自らのポジションを失わなかっただけでなく、5グリッドも前からスタートしたST3クラスのライバル・#46・realstyle.jp
S2000を見事にパスし、#46を背後に従えたままメインストレートに戻ってきました。
78号車は早くも1台をコース上でパスし、総合28位へポジションアップしたのです。
このいきなりの展開に、私達チームテスタスポーツのPITは俄然活気づきました。超・接近戦の中、ただでさえ気が抜けないスタート直後ですが、PITから見守る私達の心配をよそに、78号車の力強いポジションアップが見られたわけですから、無理もありません。
ガレージ内でモニターを見ていたメンバー&ゲストは皆、PITレーン付近に押しかけ、身を乗り出すようにしてメインストレートを駆け抜けていくマシン達を必死に追い掛け始めました。独りPITガレージ前のモニター前に残った私からは、PITレーン越しの視界が殆んど遮られてしまったくらい、まさに「全員総立ち」の状態でした。
いつもであれば、78号車が順調に周回を始める姿を確認したチームメンバーが、ガレージ内やテント内でホッと一息ついている時間帯なのですが・・・(笑)。
■炎のオーバーテイク■
マシンはフルタンクの厳しい状態ながらも、伊藤選手は序盤から1分46秒台のLAPタイムペースをキープして快走を続けていました。これは私達が想像していた以上のハイペースであり、このまま50周近く、マシンとドライバーがもつのか心配になるくらいでした。
やはり、視界の中の前後関係がそのまま総合順位を表している序盤のバトル環境が、伊藤選手の闘争心に火をつけているものと思われます(^^)。
そして4周目に大きな見せ場が訪れます。
前を行く獲物達に狙いを定め、着実にその差を詰めていた78号車は、ST3クラスの最大勢力であるフェアレディZの一角、#48・フィールズT&GアドバンZをメインストレートで堂々とパス!!
#48のヒロミ選手は序盤のダンゴ状態の中で思うようにペースが上がらず、ST5クラス勢に次々とパスされてややペースを乱していたようですが、伊藤選手はこの流れに乗じて見事にパスし、クラス順位を8位まで上げたわけです。
とにかく、これまで後塵を拝する一方だったZ33をレーシングスピードで捉えた78号車の姿に、我々チームメンバーの興奮のボルテージが一段と上昇したことは言うまでもありません。
さらに伊藤選手の快進撃は続き、その周のバックストレートでは、スタート以来ずっとマークしていた#10・ADVANTAGE
ベルノ東海 YHを、狙いすましたように見事にオーバーテイクし、総合順位を25位に上げました。名手・渡辺選手のドライブでST4クラスのTOPを独走する#10も、この時ばかりは、勢い付いた#78と伊藤選手に黙って道を譲るしかありませんでした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
これまでの殻を破った積極的なレースを目指し、新しい戦略を提案した私にとって、眼前で展開される78号車の快進撃は、思い描いたストーリーの一部が早くも現実のものとなったことを意味しており、戦略担当として不安だらけのスタートを迎えた中で、大いに勇気を与えてくれるものでした。
もちろん、私達のチャレンジはまだ始まったばかりで、この先100周近くを消化していく中で次々に難関が待ち受けていますが、まずは幸先良く素晴らしい滑り出しを見せることができたといえるでしょう。
と同時に、PITウォークで私達を激励してくれたあの親父さん達をはじめとして、いつも78号車にアツい声援を送ってくれる方々に対しても、この序盤の走りをもって、まずはその期待に「見える形で」応えることができたと私は確信しました。
レース全体から見れば、後方集団の中での目立たない順位変動のひとつに過ぎませんが、「マシンのパフォーマンスでどうにか皆の応援に報いたい・・・」という私達の積年の思いが、伊藤選手のオーバーテイクシーンのおかげで、少しは解消できたような気がしました。
◆ST3クラス順位◆
経過時間:
0H 10M
(周回: 5LAPS)
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総合12位 |
#15
岡部自動車 ハーツ RX−7 |
5LAPS |
総合13位 |
#29
PERSON’S elf YH NSX FAB |
5LAPS |
総合16位 |
#27
FINA
BMW M3 |
5LAPS |
総合17位 |
#83
BP ADVAN NSX |
5LAPS |
総合18位 |
#23
C−WEST ORC
アドバンZ |
5LAPS |
総合19位 |
#7
メーカーズ ゼナドリン RX−7 |
5LAPS |
総合20位 |
#19
EBBRO☆Z☆TC−KOBE |
5LAPS |
総合25位 |
#78
WW2 ダンロップ RX−7 |
5LAPS |
総合27位 |
#48
フィールズT&GアドバンZ |
5LAPS |
総合28位 |
#46
realstyle.jp S2000 |
5LAPS |
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総合36位 |
#16
バウフェリス 速人7 |
3LAPS |
レースが10周を過ぎ、そろそろ各クラスのポジション争いが落ち着きを見せ始める頃になっても、ST3クラスの順位変動はなおも続いていました。
まずは、ペースが上がらずポジションを大きく落とした#48・フィールズT&GアドバンZが早くも6周目でPITイン。マシンチェックのためPITガレージ内に5分前後止まり、4周遅れの総合34位まで後退しました。
その#48のPITインとほぼ時を同じくして、ST3クラスのTOPを快走していた#15・岡部自動車 ハーツ RX−7が、最終コーナーでまさかのコースアウト。このシーンは私達のサインガードからもハッキリと見えましたが、マシンは後ろ向きにサンドトラップ中に深く埋まり、自力での脱出が不可能なことは一目瞭然でした。結局、#15はコース復帰まで3分近く要し、一気にクラス9位まで後退。
MAZDAの本拠地・広島に程近いここ岡山を舞台に、久々に展開されるかに思えたRX−7のTOP快走劇も、あっけなくその幕を下ろしてしまいました。クラスTOPには#29・PERSON’S
elf NSX YH FABが返り咲き、#27・FINA
BMW M3が僅差で追いすがります。
またこの間、予選ではやや鳴りを潜めていたZ33勢がじわじわと上位進出を始め、年間チャンピオン獲得に王手をかけている#23・C−WEST ORC
アドバンZが、ポイントリーダーの貫禄を見せクラス3位まで浮上。
その一方で、RX−7勢にはさらに災禍が降り掛かります。コースアウトした#15がようやく本コースに戻ったまさにその瞬間、あろうことか岡部自動車のもう1台、#7・メーカーズ ゼナドリン RX−7がパドック裏ストレートにつながるPIPERコーナー先でスピン! タイヤバリアにヒットしてリアバンパーを小破させてしまいます。
#7はオープニングLAPをクラス3位で終えた後、徐々にポジションを下げていましたが、このスピンによるタイムロスで、接近戦を続けるST3クラスの上位集団から完全に脱落。さらにその数周後に、リアバンパーの破損に対してオレンジボールが提示されたため、無念のPITイン。#15とともに、ST3クラスの上位集団から大きく水を開けられる残念な展開となってしまいました。
この結果、RX−7勢の最上位はスポット参戦の#78・WW2 ダンロップ RX−7となり、テールtoノーズでクラス4位争いを展開する#83・BP ADVAN NSXと#19・EBBRO☆Z☆TC−KOBEから30秒ほど遅れて、クラス6位で周回を重ねています。
◆ST3クラス順位◆
経過時間:
0H 35M
(周回: 21LAPS)
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総合14位 |
#29
PERSON’S elf YH NSX FAB |
21LAPS |
総合15位 |
#27
FINA
BMW M3 |
21LAPS |
総合16位 |
#23
C−WEST ORC
アドバンZ |
21LAPS |
総合17位 |
#83
BP ADVAN NSX |
20LAPS |
総合18位 |
#19
EBBRO☆Z☆TC−KOBE |
20LAPS |
総合22位 |
#78
WW2 ダンロップ RX−7 |
20LAPS |
総合29位 |
#7
メーカーズ ゼナドリン RX−7 |
20LAPS |
総合30位 |
#46
realstyle.jp S2000 |
20LAPS |
総合33位 |
#15
岡部自動車 ハーツ RX−7 |
20LAPS |
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総合34位 |
#48
フィールズT&GアドバンZ |
17LAPS |
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総合36位 |
#16
バウフェリス 速人7 |
10LAPS |
■快進撃は続く■
ST3クラス勢が慌しくポジションを入れ替えていく中、スタートドライバー伊藤選手のアグレッシブな走りで、序盤にしてST3クラス6位にまで登り詰めた78号車は、1分46秒台の安定したLAPペースで周回を続け、スタートから50分が経過した時点で、全36台中、総合20位のポジションまで浮上していました。
ST4クラスの全車を後ろに従えつつ、ST5クラスのTOP争いのやや後方という絶好のポジションは、序盤としては私達にはこれ以上望めないほどのものでした。
じつは一般には殆んど知られていませんが(笑)、私達チームテスタスポーツの78号車は、S耐参戦3戦目となった2002年の開幕戦・MINEで、数周にわたってクラスTOPを快走したことがあります。
この「春の珍事(?)」は、3クラスの上位陣が揃いも揃ってトラブルに見舞われ脱落したことで実現したわけですが(結果的には、78号車もハブボルト折れのトラブルで無念の後退・・・)、今回の78号車のここまでのポジションアップは、通常のレース展開の中での出来事であり、チームが事前に思い描いていた戦略通りの進展に、まさに胸のすく思いがしていました。
決勝レース中にこんな爽快感を得たのは、私の記憶では、参戦2戦目にして総合20位フィニッシュを果たした、2001年の富士戦以来のことでしょう。あれから4年、途中様々な紆余曲折を挟んで再び辿り着いた分、今回の78号車の快走によってもたらされたメンバーの胸中に去来する思いは、より大きく、重く、そして格別なものだったといえるでしょう。

2001年の富士戦 |

2002年の開幕戦・MINE |
また、伊藤選手の頑張りもあって、この時点で#78は総合TOPのポルシェ(30周消化)からようやく2LAPダウンとなったばかり。予定では3LAPダウンのはずだったので、このペースでいけば過去4年の実績を上回る、3桁の周回数走破も夢ではありません・・・。
◆ST3クラス順位◆
経過時間:
0H 55M
(周回: 30LAPS)
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総合12位 |
#29
PERSON’S elf YH NSX FAB |
29LAPS |
総合13位 |
#27
FINA
BMW M3 |
29LAPS |
総合14位 |
#23
C−WEST ORC
アドバンZ |
29LAPS |
総合15位 |
#83
BP ADVAN NSX |
29LAPS |
総合16位 |
#19
EBBRO☆Z☆TC−KOBE |
29LAPS |
総合20位 |
#78
WW2 ダンロップ RX−7 |
28LAPS |
総合27位 |
#7
メーカーズ ゼナドリン RX−7 |
28LAPS |
総合28位 |
#46
realstyle.jp S2000 |
28LAPS |
総合31位 |
#15
岡部自動車 ハーツ RX−7 |
28LAPS |
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総合32位 |
#48
フィールズT&GアドバンZ |
25LAPS |
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総合35位 |
#16
バウフェリス 速人7 |
18LAPS |
久々のExcitingなレース展開にPIT内が沸き返る中、戦略担当の私の心配は、この後48周目に予定しているPITストップの時まで、マシンコンディションとドライバーの体力が持ちこたえるかという点でした。
昼過ぎにレースがスタートして早1時間、天気はずっと曇りながら、時折り陽が差し、PITガレージ内にいても、涼しさよりも蒸し暑さが目立つという状況でした。コクピットの伊藤選手は、クールスーツを味方につけてはいても、序盤から続いた緊張感とアグレッシブな走りの連続の結果、もはや決して楽なドライブ環境でないことには違いありません。・・・本来ならば、スタートドライバーの負担を少しでも減らすために、第1スティントはできるだけ短めに設定したかったのですが、78号車の今回の想定燃費では1PIT作戦がギリギリ成立する計算となるため、総周回数99周をほぼ半々で割らざるを得ず、このことが今回の戦略上で最大の懸念ポイントとなっていたのです。
チームテスタスポーツは今回、この400kmレース参戦5回目にして初めて1PIT作戦を採ったわけですから、これから先に待ち受ける周回は、1スティントの連続周回としてはマシン&ドライバーともに未体験ゾーンとなり、PIT内の誰もが予測不可能な、未知の領域に足を踏み入れていくことになります。
私達はタイミングモニターに映し出される78号車のLAPタイムの推移に注目しつつ、トラブルが何も起こらないことを祈りながら、残りの周回数と所要時間を指折りカウントダウンする状態が続きます。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ST3クラスの順位争いも一旦は落ち着き、ようやく降着状態となりました。早々とPITインを強いられた#16・バウフェリス 速人7、#48・フィールズT&GアドバンZ、#7・メーカーズ ゼナドリン RX−7もすでに戦線に復帰し、後方からの追い上げを開始していました。
■好事魔多し…■
総合20位までの進出を喜んだのも束の間、ついに私達の心配が現実のものとなる時が来ました。
レースが1時間を経過した13時44分、コース上の伊藤選手から突然PITに連絡が入りました。
チームメンバー全員が顔を見合わせ、PITに不穏な空気が漂う中、伊藤選手からの報告を受けたながつ氏によると、マシンに燃欠症状が発生し始めているとのこと。どうやらコーナーの立ち上がりで頻発しているようです。
この時、78号車はようやく31周目に入ったところ。予定周回数の60%を消化したに過ぎず、燃料はまだ半分近く残っています。過去にも何度か経験のあるこの燃欠トラブル、おそらくは燃料系統全体の温度上昇によってパーコレーション等の熱害が発生して、燃料供給に支障が出ているものと思われます。
そのことを裏付けるかのように、追って詳細状況の報告を受けたチームオーナーから「あぁ〜〜っ!」と大きな嘆声がPIT内に響き渡りました。
じつはオーナー、昨年のここTI戦の決勝でも同様のトラブル兆候が見られたことを受けて、すぐにその対策案を固めていたのですが、悲しいことにその実施をついに1年後の今日まで完全に忘れてしまっていたらしいのです。まさにあとの祭りとはこのことですが、寄せ集めのチーム体制による年1回の参戦では計画的なマシンメンテナンスは容易ではなく、誰もオーナーを責めることはできません。加えて、この手のトラブルは決まって酷暑の条件下で発生していたため、昨夜から今朝方までの降雨によって、暑さ対策が無意識のうちに私達のチェック項目から落ち、そのまま決勝スタートの瞬間を迎えてしまっていたのでした。
チームは当初、予定周回数まで様子を見ながら走らせることも考えましたが、伊藤選手がドライビングを少々変えたところで症状は収まる気配がなく、むしろ悪化傾向にあることが判明しました。当然ながらエンジンへのダメージも懸念されます。気候条件は酷暑とは程遠いものでしたが、過去に経験のないペースでの連続周回が、図らずも酷暑の条件を再現させてしまったということでしょう。
ここでやむなく、チームは予定を早めて36周目で伊藤選手をPITインさせることを決定。給油作業とドライバー交代を行なうことにしました。
この瞬間、今回の新戦略の目玉だった「1PIT作戦へのチャレンジ」は呆気なく終わりを告げました。私にとっても苦渋の決断ではありましたが、主役のマシンを傷めてしまっては元も子もありません・・・。
こうして、伊藤選手がPITロードへ78号車を滑り込ませてきたのが14時47分。予定よりも12周、時間にして20分も早いタイミングでのPITストップとなりましたが、PITクルーはすでに準備万端で、予定通りに作業をこなしていきます。ガソリン給油量はあえてアジャストせず満タンまで給油。これは、大量のフレッシュガソリンの注入による燃料ラインのせめてもの冷却と、決勝レース燃費のデータ採りとを狙ったものでした。
新宅選手がコクピットに収まり、私のGoサインを合図に、まだあまり動きのない静かなPITレーンを独り進んでいきました。
すぐ後に計算したところでは、注目の1スティント目の平均燃費は2.11km/Lだったことが判明。私は戦略立案上1.85km/Lという辛目の燃費を設定しつつも、その裏では1.95km/L位の実力を期待していたのですが、それをも大幅に上回る好燃費でした。ここであらためて、当初の1PIT作戦の妥当性を証明するデータが得られたというのは、なんとも皮肉としか言いようがありません。
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