スーパー耐久シリーズ2003 第6戦

TI 400km Race


9月6日(土)〜7日(日) TIサーキット英田(岡山県)


(画像提供:にゃおにゃおさん)


 
お盆過ぎになってから本格的な暑さが到来した感のある2003年。今年もスーパー耐久シリーズ・TIラウンドの季節がやって来ました。
 毎年、残暑厳しい9月初旬に開催されるこの400kmレースでは、シーズン終盤戦に向けての熾烈なポイント戦いが繰り広げられるは当然のこと、ドライバー、マシン、そしてPITクルー達が、強烈な暑さとのバトルを強いられるのが恒例となっています。

 そんな例年通りの風景の中で、昨年とは違った勢力争いを演じているクラスがあります。
 そのひとつが最速の
1クラス。今年からポルシェ(911GT3)の参入が認められたことで、王者スカイラインGT−Rは開幕から4連勝を飾ったものの、昨年までのGT−R同士での身内バトルから一変、大挙してやってきた市販レーシングマシンの脅威にさらされる展開となっています。速さと脆さが同居するGT−Rは、ついに第5戦・十勝で911の1−2−3フィニッシュを許し、シーズンの流れはもはやポルシェ勢に傾きつつあるという情勢です。
 そしてもうひとつが
3クラス。ここ数年にわたってチャンピオン争いの中心的存在はRX−7でしたが、今年は開幕以来BMW
M3の優勢が続き、7月の十勝までの計5戦で4勝を挙げる強さを発揮。他の1勝はNSXが鈴鹿で挙げたもので、ディフェンディングチャンピオンのRX−7は未だに勝利がありません。M3は従来から定評のあった好燃費に加え、速さと信頼性にも磨きをかけており、最速マシンながらも綱渡りのレース展開を強いられるRX−7勢を尻目に、初のシリーズ優勝に早くも王手をかけています。
 ここTIでも、RX−7がM3を圧倒する予選グリッドを獲得していますが、PIT回数の多いハンデを速さでリカバーし、シーズンの初勝利をGetできるかが、今回のレースの最大のポイントといえるでしょう。


 そしてもうひとつ、今回のTI戦では見逃せないポイントがありました。シーズン6戦目にして新たに4クラスに参戦してきた「マツダRX−8の存在です。
4月に発売されたばかりのMAZDA期待のスポーツカー・RX−8が、新世代REのRENESISと卓越したハンドリング性能を武器に、S2000の牙城にどんな戦いを挑むかにも注目が集まります。
 

 



<スタート進行>
 12:40〜13:00


 土曜日にはTIサーキットの上空を雲が覆い、やや秋の到来を意識させる予選日となりましたが、一夜明けて決勝を迎えると、そこには真夏のような暑さがしっかりと戻っていました。
 全8戦のスーパー耐久シリーズの6戦目となるTI400kmレース。5つのクラス、全46台のマシン達によって、ドライ路面での激しい戦いが展開されることになりそうです。

◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 チームテスタスポーツは、2001年、2002年に続けて3度目のTI戦出場を果たしました。#78・WW2ダンロップRX−7は、総合31位のグリッドから決勝レースへ臨みます。
 既に見慣れた感もある新しいDIREZZAカラーも、TIサーキットへ詰め掛けたS耐ファンには今回が初のお披露目となります。いかにも手作りマシンという外観から完全脱皮した78号車ですが、その戦い振りにおいても確かな成長の跡を見せられるか、に期待がかかります。




ダミーグリッド上の78号車とチームスタッフ


 幸いなことに、この週末を通じてマシンに大きなトラブルは発生せず、チームはここまでほぼ予定通りにセッションを消化してきました。
 今回もチームの方針で、エンジンに関しては絶対パワーよりも信頼性を重視した安全策をとっています。コース上で直接ライバルと争うドライバーにとっては辛いところですが、現在のチーム総合力から判断すれば、攻めのレースをするよりもステディな戦略を採った方が得策であり、不必要なリスクは避けた方が賢明なのです。こうしてエンジンのパフォーマンスを安定させてやることで、足廻りの煮詰めに大半の時間を割き、遅れ気味だったマシンセッティングを前進させることが可能になったのです。
 そのひとつの成果が、過去最高の予選タイムで獲得した31番グリッドとなって表われたカタチですが、レースウィークを通じての78号車のパフォーマンスの良さから、チームはその予選結果以上のポテンシャルを確信していました。


真後ろにペースカーがいたりはしませんぜ!(笑)
31番グリッドからの後方視界・・・ 


 そんな確かな手応えが後押ししたのか、ダミーグリッドを囲むチームメンバーの表情はとても明るく、チーム全体が良い雰囲気で決勝レースのスタートを迎えようとしていました。そう、あのMINE戦のような暗く重苦しい空気はどこにもありません・・・。どうやら今回は楽しくレースを戦うことができそうです。




 大勢のチームスタッフやゲスト達がマシンを取り囲むダミーグリッド。コースにはマシン紹介のアナウンスが響き渡り、メインスタンドの観客に向けて恒例のミサイルボンバーが盛大に行なわれました。
 やがて、オフィシャルの笛が一斉に鳴り響き、スタート3分前のボードが掲げられると、あれほど華やかだったダミーグリッド上にも静寂の時が訪れ、俄かに緊張感が漂い始めました。いよいよ決勝レースのフォーメーションラップが開始されます。
 ポールシッターの#1・エンドレスアドバンGT−Rを先頭に、46台のマシンは隊列をなして陽炎の立ち昇るコースをゆっくりと周回していきます。シリーズ終盤戦を前に熾烈なポイント争いを展開している各クラス、約3時間半後のゴールの瞬間まで、厳しい暑さの中で激しい戦いが繰り広げられることは必至です。

 そして13時05分、スーパー耐久シリーズ第6戦・TI400kmレースがついにスタート。109周先のゴールを目指して、全46台が一斉に1コーナーへ突入していきました。複数のクラスでのチャンピオン決定がかかる、真剣バトルの始まりです。





<決勝>

<レース開始直後>
 〜13:15〜

 最初の数周、有利なポジションからのスタートを利して総合TOPの座を死守した#1・エンドレスアドバンGT−Rでしたが、ほどなく#25・ADVAN PORSCHEの執拗なチャージを受け、早々と2位に後退。純粋な速さで勝っているはずの重戦車・GT−Rが、序盤にあっさりとオーバーテイクされたのは意外なシーンであり、やはり序盤から暑さの影響が見え隠れしているようでした。エンジン、ブレーキ、タイヤ、ドライバー・・・全てに対して、真夏並みの暑さが容赦なく襲い掛かっていることは想像に難くありません。一方、もう1台の#19・JMCダンロップGT−R EDは早くもトラブルで緊急PITインしており、GT−R勢にとって苦しい序盤の展開となりました。
 序盤の混乱の中で、#13・KS−AUTO LANCERにスタート違反のドライブスルーペナルティが課されるなど、PITの方でも若干の動きが見られました。




 総合31番手からスタートした78号車は、他車との接触等に巻き込
まれることなくオープニングLAPを終え、メインストレートへ帰ってきました。ただし順位は35番手と、ややポジションダウンしています。
 じつは32番手以降には4クラス勢の3番手から10番手までのマシンがコンマ数秒差でひしめいており、決勝日の朝のフリー走行の様子を見ても、タイミングモニター上でこれらのマシンが一塊で連なる展開となっており、かなり激しい先陣争いが予想されていました。
 従って、新宅選手も集団の中で無理にポジションを守ることはせず、迫り来る後続車の息遣いを感じ取りながら、巧みに自らのポジション取りをしたわけでした。


3クラス順位
(経過時間 0h 10min. / TOP 周回 6LAPS)
      
総合10位 #15・ORCアドバンRX−7 6LAPS
総合12位 #77・TRUST ADVAN RX7 6LAPS
総合15位 #27・FINA BMW M3 6LAPS
総合16位 #23・C−WEST アドバン Z33 6LAPS
     
総合24位 #39・DELPHI ADVAN NSX 6LAPS
総合25位 #14・REDLINEダイトウRX−7 6LAPS
       
総合39位 #78・WW2 ダンロップRX−7 6LAPS




クムホ・エクスタ号を従えてストレートへ




<30分経過時点>
 〜12:35〜

 注目の3クラスの序盤の戦いに目を転じると、予想通り#15・ORCアドバンRX−7がクラスTOPを守り、やや抜け出して総合10位で周回を続けています。その6秒後方には、クラス2番手の#77・TRUST ADVAN RX7が続いていますが、こちらはすぐ背後に#83・BP ADVAN NSXを従えての走行です。上位2台のRX−7は、他の3クラス上位勢を1秒ほど上回る、1分44秒台での周回ですが、従来のレースのように圧倒的な速さを見せつけるには至っていません。どうやら日曜午後の容赦ない暑さが、序盤から逃げを打ちたいRX−7勢にとって、重い足枷となっている感じです。

 初のチャンピオン獲得がかかる
#27・FINA BMW M3は、約7秒後を総合15位で単独走行。最大のライバル、#15を視界内にとらえての余裕の展開です。
 M3の3秒後方に総合16位の
#23・C−WEST アドバン Z33がつけ、ここまではMINEでの接近戦を思い起こさせる隊列となっています。

 その後ろ、クラス6位の
#39・DELPHI ADVAN NSXまでは約25秒もの大差があり、さらに10秒遅れて#14・REDLINEダイトウRX−7が走行しています。#14は予選での不調を引き摺っているのか、ラップタイムも1分47秒台と苦しく、グリッドで先行された4クラス勢をパスして総合順位は上げたものの、さらに上位に喰い込む勢いはありません。

 その#14と横並びでスタートした
#78・WW2 ダンロップRX−7は、対照的に序盤は順位を下げ、総合37位を走行。ラップタイムは1分48秒台から49秒台で、#14とは50秒もの差がついています。


3クラス順位
(経過時間 0h 31min. / TOP 周回 19LAPS)
    
総合10位 #15・ORCアドバンRX−7 19LAPS
総合13位 #77・TRUST ADVAN RX7 19LAPS
総合14位 #83・BP ADVAN NSX 19LAPS
総合15位 #27・FINA BMW M3 18LAPS
総合16位 #23・C−WEST アドバン Z33 18LAPS
      
総合21位 #39・DELPHI ADVAN NSX 18LAPS
総合22位 #14・REDLINEダイトウRX−7 18LAPS
      
総合37位 #78・WW2 ダンロップRX−7 18LAPS




<SCコースイン>
 〜13:55〜


 チームテスタスポーツの今回のTI戦のPITスケジュールは、他のRX−7勢と同様、2PITをベースにして組み立てられていました。

 その周回数の振り分けは、スターティングドライバーの新宅選手が
38LAP、次に新人の有木選手が同じく38LAP、そして最後に伊藤選手が残り24LAP前後を走り切るというもので、トータルの周回数は、総合TOPの車両から9LAP遅れとなる100周付近を想定していました。
 ただし、これは明らかに控えめな計算結果であり、マシンがトラブルなく順調に走行し、ミスのないPIT作業をこなしさえすれば、最終スティント分は数周分をプラスできるのでは、という密かな期待がありました。


今回のPIT計画

 レース開始から50分が経過し、78号車が30周目の周回を終えた辺りから、チームは1回目のPITインに向けて準備を開始しました。給油や消火器の担当クルーはヘルメットとグローブを装着して持ち場へ移動し、クールスーツ用の新しい氷がクーラーBOXから取り出されます。そして、2番手ドライバーの有木選手も、いよいよ臨戦態勢に入っていきます。

◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


 109周のレースはスタートからほぼ1時間が経過し、全体の約3分の1の地点に差し掛かろうとしていました。
 そして、2回PITストップ予定のチームが給油やドライバー交代の動きを見せ始めた頃、コース上でアクシデントが発生しました。2コーナー出口で、他車と接触したS2000が激しいクラッシュを演じ、この事故処理のため、突如セーフティーカーがコースインしたのです。

 これは絶好のPITインのタイミング!! 
・・・レースに精通した人間なら誰しもそう思うはずです。
 事実、この予期せぬSCランへのチームの対応は、それぞれのPIT事情により様々でしたが、中にはPITインスケジュールをうまく合わせ込んで巧みにポジションを上げることに成功したチームや、逆に、この機会を利用できずにライバルの接近や先行を許したチームがあり、随所で明暗が分かれる結果となりました。

◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 チームテスタスポーツでは、タイミングよくPITインの準備に入っていたのですが、残念ながら、この千載一遇のチャンスを十分に生かすことはできませんでした。

 その大きなポイントは、PITイン準備にかかっていたPITメンバーが、慌ただしい動きの中で、コース上の動きに気付くのが遅れてしまったことでしょう。このことがチームの運命をほぼ決定付けたようなものでした。
 つまり、突如SCランという状況変化が生じ、
PITインタイミングを予定より早めるか否かの即断が求められる瞬間に、PIT側が十分に状況を把握できていなかったのでした(-_-;)。

 事実、私も直前までモニターに張り付いて戦況を把握してたものの、消化器準備のためPITレーン付近へ移動し、ヘルメットを装着した状態では、視界は極端に狭く、場内アナウンスも全く聞こえませんでした。しばらくして、目の前を通過してPITへ急ぐマシン達と、メインストレート上をスロー走行する隊列の存在にやっと気付き、初めてSCランであることを理解したくらいでした。ましてや、直接に給油等のPIT作業に携わるメンバーは、準備が佳境に入った状態で、周囲の状況を俯瞰する余裕などありません・・・。

 この時、本コースに最も近いサインガードのメンバーは、いち早くこのコース上の「異変」を察知できる立場にいましたが、彼らも、PIT側の準備状況は正確に把握できないため、PITイン指示を出す否かの判断を下す材料に乏しく、結局はPIT側の指示を待つしか術がなかったのです。

 この結果、運悪くセーフティーカーの数台後ろの位置でスロー走行の隊列に加わっていた78号車は、ドライバーの新宅選手が明確なPIT指示を受けることができないまま、無情にも
1回目のストレート通過をしてしまいました。

情報不足が混乱を招いて・・・

 無論、サインボードが唯一のコミュニケーション手段である我がチームのドライバーに、PITの状況を的確に予測して、自らPITイン判断を下すことを期待するのは酷というものです。


 やや遅れてレースの状況を掴んだPITは、即座にPITインの決定を下したわけですが、時既に遅し。今となっては、周回途中の新宅選手にこの指示を伝える手段はなく、78号車が再びメインストレートに姿を現す時をひたすら待つしかなかったのです・・・。
 そして、数分もの長い時間が過ぎ、ようやくメインストレートで新宅選手にPITインサインが掲示されたものの、実際にPITロードに辿り着くまでには、さらに1周のスローラップを重ねる必要がありました。SCランがいつまで続くか予測できない中では、一刻も早くPIT作業に着手したいところですが、無情にも時間は経過していきます。「こんなときマシンとの交信手段が備わっていれば・・・」と、この時ほど痛感したことはありませんでした。


 実際にはこのLAPでPITインしたマシンも多く、私達は常連チームのレース巧者ぶりに感心するとともに、タイムリーな情報が持つ意味・その重要性を強く思い知らされたのでした。
 結局、78号車はセーフティーカー先導のスロー走行に根気よく計3周も付き合い、34周を周回したところでやっと隊列を離脱し、当初予定より3周早いPITインを敢行することになりました。


給油作業の様子(写真提供:Kojiさん)


 78号車が帰還したPITでは、すぐに給油作業とドライバー交代が始められました。今回から新たにクーラーBOXの氷の入替え作業が追加されたため、マシンの左サイドには、システム担当のながつ氏がスタンバイし、給油の完了をじっと待ち受けます。
 しかし、悪いことは重なるもので、いざ給油を開始しようとしても、
給油リグの具合が悪く、燃料がなかなかマシンへ流れ込みません。給油口の周りからすぐにガソリンが溢れ出し、そのたびにPITクルーがボディに垂れた燃料をウエスで拭き取らざるを得ず、何度も何度も給油リグの抜き差しが繰り返されました。後方から消化器を構える私も、かなり緊張しながらノズルを向けていました。

 結局、いつもの数倍もの時間をかけて、ようやく70Lのガソリンがタンクへと流れ込みました。両サイドの給油担当の手がマシンから離れるや否や、すぐに氷の入替え作業が開始され、ながつ氏とヘルパーさんの2名により、初めてとは思えないほど息の合った作業が行なわれました。

 こうして、78号車は予定外の長い長いPITストップを強いられましたが、14時15分、クールスーツを着込んだ有木選手は、灼熱のPITロードを跡にしていきました。
 今回の有木選手のパートは全37周の予定です。デビュー2戦目にして初のロングラン担当となりますが、抜群に冷えた氷水が彼をサポートしてくれています(^^)

クールスーツ装着中の図



 3クラスでは、
#27・FINA BMW M3がこのタイミングを利用してPITインを敢行したことが注目に値します。好燃費を利して、レース中盤に1回だけPITインするはずだったM3にとっては、かなりリスキーなPITタイミング変更ですが、レースの残り2/3を走り切るだけの燃費とドライバーの体力があってこその決断といえるでしょう。
 この結果、M3は先行する3クラスのライバル勢と同LAPでコース復帰することに成功しました。しかもSCランのためライバルとの差も通常ほどは開かず、3クラスTOPから30秒ほど後方に下がっただけでした。当然ながら、あとはライバル勢のPITインを待つのみ、という展開です。

 これとは逆に、レース序盤に必死に稼いだマージンを、SCランで一気にフイにされた
#15・ORCアドバンRX−7には、またも苦しい展開となりました。この先、2回目のPITイン時に、同LAPで背後に控えるM3に大きく先を越されるのは確実であり、暑さの影響で思うようにライバル勢にLAPタイム差が付けられない今回の走りっぷりを考慮すると、ポジションの挽回はかなり難しくなったと言わざるを得ない状況でした。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 
 PITからの指示が遅れて効果的なPITインタイミングを逃したこと、給油装置のトラブルで余計な時間を消費したことで、78号車は節約できたはずの時間を逆に失い、ポジションUPはできませんでした。しかも、PITアウト時にはSCランが解除されていたため、アウトラップの1周でスロー走行の隊列の最後方に追いつくという皮算用も夢と消えました。
 速さよりもステディさをとった私達のレース戦略の中で、この種のタイムロスはあまりにも痛手であり、致命的ともいえるものでした。さらに・・・

 再スタートした78号車を見届け、PIT内がようやく落ち着きを取り戻し始めたとき、パドックのテントに戻ったメンバーが、場内アナウンスを聞きつけ、思わず声をあげました。

 「78号車にペナルティが!?」
 ・・・私達は一瞬耳を疑いましたが、ほどなく私達のPITには書類へのサインを求めるオフィシャルが姿を見せ、ペナルティの内容がチーム代表へ告げられました。
 
「PITレーン出口の信号無視、10秒のペナルティストップ」でした。

 メインストレートにはブラックフラッグが掲示され、14時30分、有木選手は訝しがりつつもペナルティストップエリアへとマシンを滑り込ませます。
 要は78号車のPITアウトが、SCランの隊列がメインストレートに差し掛かるタイミングと重なってしまったために、PIT出口がクローズになっていた(らしい)のですが、有木選手はこの信号を見落としてコースインしてしまったのでした。折りしもその周はSCが外れ一斉にマシンが再スタートを切るという重要なタイミングだったので、余計に78号車の動きが目立ってしまったのでした(笑)。

 ドライバーのミスによって駄目押しのタイムロスを加算した78号車・・・。
 PIT出口の信号が微妙なタイミングで赤になったことも考えられますが、耐久レース経験の少ない有木選手にとって、PITクローズというケースは想定外だったかもしれません。PITクルーが出掛けに一言注意を促す配慮があれば・・・などと後悔してもあとの祭り。そもそも、そんな最悪のタイミングでのPITアウトを招くことになった数々のタイムロス要因の方が、より重大な問題であると言わざるを得ません。



3クラス順位
(経過時間 1h 30min. / TOP 周回 51LAPS)
    
総合9位 #15・ORCアドバンRX−7 50LAPS
総合11位 #77・TRUST ADVAN RX7 50LAPS
総合12位 #83・BP ADVAN NSX 50LAPS
総合14位 #23・C−WEST アドバン Z33 50LAPS
      
総合16位 #27・FINA BMW M3 50LAPS
総合17位 #39・DELPHI ADVAN NSX 50LAPS
     
総合24位 #14・REDLINEダイトウRX−7 49LAPS
      
総合39位 #78・WW2 ダンロップRX−7 46LAPS

 

 

<2時間経過時点>
 〜15:05〜

 スタートから2時間が経過した頃には、TOPは68周を消化し、400kmのレースはすでに折り返し地点を過ぎていました。
 総合のTOP争いに目をやると、序盤をリードした
#25・ADVAN PORSCHEがトラブルで後退し、代わって#33・FALKEN PORSCHEがTOPに浮上していました。直接にポイント争いを繰り広げている#1・エンドレスアドバンGT−Rを3位に従えてのTOPランです。

 4クラスで初戦に挑んだ
#81・FORTUNE ADVAN RX8は、ほぼ中間地点にあたる14時40分に1回目のPITインを済ませていました。LAPタイムはコンスタントに1分55秒前後を刻んでいますが、ライバル勢に比べると劣勢は否めず、ポジションアップは難しい状況です。しかし、このまま1PITでレースディスタンスを走り切れれば、初戦としてはまずまずの収穫といえそうです。何よりも、乾いた音色のREサウンドはとても新鮮で、S耐の新しい呼び物となりそうです。

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 レース中盤の最も長いパートを担当することになった有木選手。「ミラーが気になって仕方なかった」というデビュー戦MINEよりも、気温や路面温度は遥かに厳しい悪条件下ながらも、予選日の自己ベストタイムを僅かに下回る程度の1分49秒前後のLAPで、コンスタントな周回を重ねていました。
 MINE戦ではマシンが終始不調だったことも災いし、後続車に気を遣うあまり、道を譲る度に大きくタイムロスしていた有木選手でしたが、今回はそのロス幅も2〜3秒レベルにまで減ってきており、着実な進歩の跡がうかがえました。やっと正常なパフォーマンスのマシンを得たことで、徐々にS耐のコースの泳ぎ方を体得できてきた感じです。


(画像提供:にゃおにゃおさん)


 そんな有木選手の堅実な走りの甲斐もあり、やがて78号車はコース上でストップした
#14・REDLINEダイトウRX−7をパスして、クラス7位に浮上しました。有木選手はすでに交代してから約30周を消化。いよいよ、アンカー伊藤選手へのバトンタッチが迫ってきました。

 
3クラス順位
(経過時間 2h 00min. / TOP 周回 68LAPS)
    
総合7位 #27・FINA BMW M3 67LAPS
総合12位 #83・BP ADVAN NSX 66LAPS
総合13位 #15・ORCアドバンRX−7 66LAPS
総合15位 #77・TRUST ADVAN RX7 66LAPS
     
総合23位 #39・DELPHI ADVAN NSX 66LAPS
総合24位 #23・C−WEST アドバン Z33 66LAPS
     
総合35位 #78・WW2 ダンロップRX−7 62LAPS
総合37位 #14・REDLINEダイトウRX−7 61LAPS
      


 

 

<2時間半経過時点>
 〜15:35〜

 15時25分、有木選手は予定通り37周を走り切って、PITロードへとマシンを進入させてきます。今回はPITクルーも落ち着いて最後のルーチンPITストップを待ち受けます。
 この時点で、トラブル発生のためPITで長く足止めを喰らった
#23・C−WEST アドバン Z33をかわして、78号車は3クラスの6位にまでポジションを上げていました。


有木選手を待ち受けるPITクルー
(画像提供:Kojiさん)


 
レースの残り周回が約30周となったこの時点で、3クラスのTOPの座は予想通り、
#27・FINA BMW M3の手に渡っていました。ライバルのRX−7勢に対して僅かに劣っている「速さ」という部分を、SCランを利用した巧みなPIT戦略で完璧に穴埋めされては、もはや敵も手の施しようがありません。
 クラス2位には
#83・BP ADVAN NSXがつけていますが、こちらは同じ1PIT作戦を採ったものの、レース中盤のグリーン状況下でのPITインとなったためにM3ほどの大量マージンを築くことができず、背後の#15・ORCアドバンRX−7から猛チャージを受けています。
 その#15は、
1分45秒台のLAPを並べて必死の追撃を行なっていますが、50秒先を行くM3は1分46秒台で周回を重ねており、再びアクシデントでも起こらない限りは、コース上でそのギャップを削り取るのは難しい状況です。以下、クラス4位の#77・TRUST ADVAN RX7、クラス5位の#39・DELPHI ADVAN NSXはそれぞれ数十秒の間隔で単独走行中であり、順位に関してはひとまず降着状態のようです。


3クラス順位
(経過時間 2h 30min. / TOP 周回 85LAPS)
    
総合9位 #27・FINA BMW M3 84LAPS
総合11位 #83・BP ADVAN NSX 84LAPS
総合12位 #15・ORCアドバンRX−7 84LAPS
     
総合14位 #77・TRUST ADVAN RX7 83LAPS
     
総合22位 #39・DELPHI ADVAN NSX 82LAPS
     
総合33位 #78・WW2 ダンロップRX−7 78LAPS
     
総合37位 #23・C−WEST アドバン Z33 69LAPS
     
リタイヤ #14・REDLINEダイトウRX−7 61LAPS

 

 ほんの1時間前に突然発生した給油リグの不調。この予期せぬトラブルが短時間で解消するはずもなく、チームは2回目の給油作業にもかなり手を焼く結果となりました。ただし1回目と比べると、給油量が少なかった分、タイムロスも少なく済んだのですが・・・。
 コクピットには伊藤選手が乗り込み、あとはチェッカーまでの最終パートを走り切るだけとなりました。
 この時点で同クラスの前後ライバルとはそれぞれ4周以上もの大差がついており、とくにPushする必要はない状況でしたが、待望の新兵器・クールスーツを得た伊藤選手が、最後にどんな走りを見せてくれるかに注目が集まりました。





<3時間経過時点>
 〜16:05〜

 3クラスの6位・総合33位で再びコースに戻った78号車。総合TOPを走る#33・FALKEN PORSCHEからは7周遅れで、ゴールまでの残り周回は27LAP前後になる見込みです。

 伊藤選手は最初から1分47秒台のLAPで周回を重ね、4周目には
1分46秒864のベストタイムをマークします。この時点で3クラスのライバル勢のタイムを見ると、#15、#77の上位2台のRX−7が45秒台で周回する他は、概ね46秒台から47秒台での周回でした。78号車は、スタートから無交換のタイヤながら、レース終盤の荒れたコース上でライバルと遜色ないタイムを叩き出しています。やはり惜しむべきは序盤の大きなタイムロスで、もっと上位のポジションがキープできていれば、クラス5位のNSXあたりにプレッシャーをかける展開になったかもしれません・・・。

 ゴールまで残り10周を切り、いよいよサーキット全体がフィナーレを迎える雰囲気になり始めても、伊藤選手はキッチリ1分47秒台の好タイムをキープしていました。インフィールドで応援していた方が、「ジアラランサーをぶち抜いたよ!」と興奮気味に報告してくれたのがとても印象的でした。レース終盤を迎えても伊藤選手の闘争心は益々健在のようです。きっとクールスーツの効きもバッチリなんでしょうね(^^)。
 

3クラス順位
(経過時間 3h 00min. / TOP 周回 103LAPS)
    
総合8位 #27・FINA BMW M3 100LAPS
総合10位 #15・ORCアドバンRX−7 100LAPS
総合12位 #83・BP ADVAN NSX 100LAPS
総合13位 #77・TRUST ADVAN RX7 100LAPS
     
総合21位 #39・DELPHI ADVAN NSX  99LAPS
     
総合31位 #78・WW2 ダンロップRX−7  95LAPS
     
総合35位 #23・C−WEST アドバン Z33  86LAPS
     
リタイヤ #14・REDLINEダイトウRX−7  61LAPS

 

 


<ゴール>
 〜16:27〜

 今年もまた厳しい暑さとの戦いになったTI戦。400kmのレースもいよいよゴールの時を迎え、いつものようにプラットフォームにはその瞬間を待ちわびるチーム関係者が押し寄せています。・・・ところが、優勝に向けてひた走る#33・FALKEN PORSCHEがファイナルLAPに突入した直後、レースは予想外のアクシデントで幕を閉じることになりました。

 メインストレートを通過していった
#92・アート・テイスト S2000のマシンから煙が上がり、そのままコースアウト。1コーナーのサンドトラップで激しく炎上し始めたのです。


激しく炎上するS2000

 このアクシデントのため、赤旗が提示されてレースは中断。そのままレース終了となり、PITウォールに身を乗り出してゴールの瞬間を待ち受けていたチーム関係者にとっては、あっけない幕切れとなりました。私達も感動のチェッカーシーンを味わえなかったのはとても残念でしたが、激しいアクシデントながらもドライバーに大きな怪我がなかったのは不幸中の幸いでした。


 赤旗の提示により、ファイナルLAPを走り終えたマシン達は、一旦メインストレート入口で停止させられることに。
 襲い掛かる暑さに耐えながら何とかゴールまで辿り着いたドライバー達はさすがに疲労困憊といった様子です。数名のドライバーは暑さに耐え兼ね、マシンを置き去りにしてPITへと歩き始めていたのですが、程なくマシンはストレート脇を通り、車両保管場所となるメインスタンド前への移動を開始。件のドライバー達もオフィシャルに促されて慌ててマシンへ戻ります。

 レースは赤旗終了により周回数が2周ほど減算され、107周時点での順位でリザルトが確定しました。


メインスタンド前に向かう78号車

 78号車も暫くその集団の中にいましたが、すぐに移動を開始し、チームテスタスポーツのメンバーが見守るPITウォール前を颯爽と通り過ぎていきました。レース終盤に立て続けに好タイムを連発していたわりに、伊藤選手は余裕綽々の表情で、まさに「涼しい顔」という形容がピッタリでした(^^)。
 78号車は総合TOPから9周遅れでトータル98周を走破。3クラスで6位に入賞し6ポイントを加算、今シーズンの獲得ポイントを14としました。


 注目のRX−8は見事に初レースを完走し、4クラスの10位に滑り込んで幸先良く1ポイントを獲得。ここTIではストレートスピード不足は否めず、終始単独走行に徹した感がありましたが、今後マシンの熟成が進んでいけば、4クラス勢の激しいバトルにも加わってくることでしょう。




3クラス 最終結果(含ベストラップ)
(レース時間 3h 08min. /
107LAPS
      
総合8位 #27・FINA BMW M3 104LAPS 1'44.378
総合10位 #15・ORCアドバンRX−7 104LAPS 1'43.524
総合11位 #83・BP ADVAN NSX 103LAPS 1'44.029
総合13位 #77・TRUST ADVAN RX7 103LAPS 1'43.711
総合19位 #39・DELPHI ADVAN NSX 102LAPS 1'45.765
総合30位 #78・WW2 ダンロップRX−7  98LAPS 1'46.864
総合35位 #23・C−WEST アドバン Z33  90LAPS 1'44.406
      
リタイヤ #14・REDLINEダイトウRX−7   61LAPS 1'45.516


TI 400km Race
決勝正式結果は→
こちら

 


 3度目のTI戦を無事に戦い終え、またひとつ完走記録を加えたチームテスタスポーツ。
 今回は序盤にPITタイミングの混乱で数LAPを失ったことが悔やまれますが、それでも予定周回数の100周に相当する距離を走破することができました。これは過去3回で間違いなくベストのリザルトであり、チームが持てる力を精一杯発揮した結果といえます。少なくとも、ストレスだらけの前戦MINEの雪辱は果たせた感じです。

予 選 決 勝
2001年 1’45.876
(総合30位)
85LAPS
総合35位(完走35台)
2002年 1’47.078
(総合36位)
98LAPS
総合25位(完走29台)
2003年 1’43.647
(総合31位)
98LAPS ※1
総合30位(完走40台)
※1…2003年のみ全107(109−2)周

◆チームテスタスポーツのTI戦績ヒストリー◆


 その一方で、今回はマシンが終始快調で、チーム全体が順調なレースウィークを過ごせたことで、これまで気付かなかった様々な問題点を発見できたことも事実です。マシンづくり、レース戦略、PIT体制、そしてそれ以外の領域にも改善の余地が多く残されており、これらがうまく機能すれば、現在のチーム戦力でも、もっとエキサイティングなレース展開が可能となるはずです。

 次戦ではさらなる上位進出を目指し、過去のレースとは一味も二味も違った戦い方に挑戦してみたいものですね。
 もちろん、「みんなで楽しくレースを戦う」というチームのモットーは忘れずに(^^)。


(おわり)