また、インジェクターの交換は、熱を持ったエンジンルーム内で燃料ラインを外すという危険な作業を伴うため、PITには別の意味での緊張感も張り詰めていました。すぐに消火器担当の私は監督に促され、エンジンルームを覗き込むようにノズルの先を向け、息を飲んでその作業を見守りました。
幸い、経験豊富なメカニックの慎重な作業で危険なトラブルは完全回避。不具合のあったインジェクターとその周辺部品が手際良く次々と交換されていきました。その間わずか10分という早業でした。
13時08分過ぎ、TOPから7周遅れで78号車はコースへ復帰、チームテスタスポーツにとって2度目のレーススタートが切られました。
クラス3順位
(経過時間 0h 17min. / 10LAPS) |
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総合13位 |
#15・ORCアドバンRX−7 |
10LAPS |
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総合17位 |
#83・BP
ADVAN NSX |
10LAPS |
総合18位 |
#77・TRUST
ADVAN RX7 |
10LAPS |
総合19位 |
#27・FINA
BMW M3 |
10LAPS |
総合20位 |
#39・DELPHI
ADVAN NSX |
10LAPS |
総合22位 |
#23・C−WEST
アドバン Z33 |
10LAPS |
総合23位 |
#14・REDLINEダイトウRX−7 |
10LAPS |
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総合37位 |
#78・WW2
ダンロップRX−7 |
2LAPS |
序盤のクラス3に目を向けると、ただ1台#15・ORCアドバンRX−7が1分39秒台のラップタイムで「逃げ」に入ったと思わせる他は、稀に見る大混戦の様相を呈し始めていました。#83・BP
ADVAN NSXから、#14・REDLINEダイトウRX−7までの6台のクラス3のマシンが、まるで一筋の帯をなすように連なり、概ね1分40秒〜41秒台のペースで周回を重ねています。
時折り雲の切れ間から太陽が顔を覗かせるものの、MINEサーキットはここまでのところ急激な気温上昇もなく、マシンやドライバーへの暑さの影響はまだ心配するレベルではないようです。
スタートから1時間が経過する頃になっても、依然としてクラス3は超のつく混戦模様。#83・BP
ADVAN NSX、#39・DELPHI
ADVAN NSXの2台のNSXがそれぞれ少し順位を落とす一幕はあったものの、なんと総合18位から総合23位まで同クラスの6台のマシンがひしめいている異様な展開が続いています。
ラップタイムは各車1分41秒〜42秒で拮抗した状態ですが、総合13位でクラス3のTOPをひた走る#15・ORCアドバンRX−7のみ、1分40秒台での走行を続けています。
クラス3順位
(経過時間 0h 50min. / 32LAPS) |
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総合13位 |
#15・ORCアドバンRX−7 |
30LAPS |
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総合18位 |
#77・TRUST
ADVAN RX7 |
30LAPS |
総合19位 |
#27・FINA
BMW M3 |
30LAPS |
総合20位 |
#83・BP
ADVAN NSX |
30LAPS |
総合21位 |
#23・C−WEST
アドバン Z33 |
30LAPS |
総合22位 |
#14・REDLINEダイトウRX−7 |
30LAPS |
総合23位 |
#39・DELPHI
ADVAN NSX |
30LAPS |
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総合35位 |
#78・WW2
ダンロップRX−7 |
22LAPS |
いきなり7周のビハインドを背負って戦線復帰した#78・WW2
ダンロップRX−7は、その後は新宅選手がコンスタントに周回を重ねつつベストラップの更新を連発し、20周を消化する時点でなんと1分44秒906のタイムを記録。このタイムは、朝のフリー走行での自車のタイムを1秒2も上回っており、マシンは突如復調の兆しを見せていることが判明しました。
スタート直後から重苦しい雰囲気だった私達のPITにも、次第に生気が戻ってくるのがハッキリと感じとれました。

決勝で突然ペースの上がった78号車
(写真提供;にゃおにゃおさん)
<1時間20分時点>
(1/3経過)
〜14:15〜 |
一進一退の攻防が続くクラス3の戦いに最初の変化が訪れたのは、14時前のことでした。
これまでクラス3の2番手を走行していた#77・TRUST
ADVAN RX7が、急にラップタイムを1分49秒〜50秒まで落とします。6台の隊列の先頭からズルズルと後退していった#77は、ついに14時08分、スタートから40周目を走り終えたところで緊急PITイン。どうやらトランスミッションに深刻な問題を抱えてしまったようで、チームはミッション交換を決断。PITで懸命の交換作業が始まりました。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
スタート直後のPITインで突如速さを取り戻した78号車は、新宅選手がすでに30周以上のラップを重ねていますが、コンスタントに1分46秒前後のラップタイムをキープ。総合順位こそ最下位付近に沈んだままですが、この時点で総合30位以降のマシンのラップタイムは1分44秒〜46秒付近まで落ちてきており、ようやくレースに「参加」している雰囲気になってきました。
チームは予選でのラップタイム状況から、78号車の最終周回数を総合TOPから22周遅れの133周付近に想定していました。トータル500kmのレースで440km程度しか走破できない計算ですが、手負いのマシンで淡々と走り続けるというストーリーでは、これが精一杯の数字でした。
この133周に対し、新宅選手と伊藤選手が50周ずつを担当し、残りの33周を新人の有木選手に託す2ストップ作戦が立てられました。
実際にはスタート直後のPITインで10分以上をロスしており、前提は大きく崩れましたが、突如復調したマシンは当初の想定ペースより3秒程速いラップタイムを刻んでおり、少なくともタイムロス分の穴埋めはできそうな状況でした。
クラス3順位
(経過時間 1h 20min. / 50LAPS) |
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総合13位 |
#15・ORCアドバンRX−7 |
48LAPS |
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総合18位 |
#27・FINA
BMW M3 |
47LAPS |
総合19位 |
#83・BP
ADVAN NSX |
47LAPS |
総合20位 |
#23・C−WEST
アドバン Z33 |
47LAPS |
総合21位 |
#14・REDLINEダイトウRX−7 |
47LAPS |
総合22位 |
#39・DELPHI
ADVAN NSX |
47LAPS |
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総合31位 |
#77・TRUST
ADVAN RX7 |
41LAPS |
総合35位 |
#78・WW2
ダンロップRX−7 |
38LAPS |
次に、クラス3の戦いに大きな変化が訪れたのは、レースの折り返し地点が見えてきた14時30分前後でした。
まず、14時29分にクラス3のTOPをひた走る#15・ORCアドバンRX−7が1回目の給油のためにPITイン。燃費に勝り、給油回数の少ないNAエンジンのライバル勢からRX−7が勝利を奪うためには、出来る限り速いペースで周回して、PITイン1回分に相当するタイムマージンをコース上で稼ぎ出すしか方法はありません。いわば定石通りの戦略をとった#15は、常にクラス2位以下を1〜2秒上回る、1分40秒台のタイムでコンスタントな周回を続けていました。
PITを後にした#15は、クラス3番手へ浮上した#39・DELPHI
ADVAN NSXの後方、総合18位でコース復帰すると、すぐさま1分39秒台で追撃体勢に入り#39のNSXを攻略、クラス2位まで順位を戻しました。
ところが、同じように1回目のPITインを終えてコース復帰した#83・BP
ADVAN NSXには、大変不運な結末が待っていました。アウトラップの2ヘアピン前で、抜きにかかったスロー走行中のマシンが突如体勢を乱して両車は激しく接触、#83はそのままサンドトラップへ弾き飛ばされ、そこでストップしてしまったのです。
14時22分、コンスタントに周回を重ねる#78・WW2
ダンロップRX−7は、PITでミッション交換作業中の#77・TRUST
ADVAN RX7をパスし、ついにクラス7位へ浮上しました。スタート直後から続いた孤独な戦いにも、僅かながら成果が現れたカタチです。
そして14時30分、新宅選手が47周を終えたところでルーチンのPITストップ。給油と同時にドライバー交代を行ない、新人・有木選手へステアリングが委ねられました。
初めてS耐の決勝に臨む有木選手は、交代時間の40分以上も前から、ヘルメットを手にして一人緊張の面持ちで、見かねたスタッフがリラックスするように声をかける一幕もありました(笑)。そして、いざコースへ復帰した先がいきなり7〜8台の車群のど真ん中。見守る側も思わず冷や汗をかきましたが、僅か数周で自分のペースを掴み、1分47秒〜48秒の安定した走行を見せ始め、周囲の不安を見事に吹き飛ばしてくれました。

78号車を駆る有木選手
(写真提供:にゃおにゃおさん)
有木選手に課せられたパートは30周。複数クラスの混走レースは初体験ということで、終始ミラーを気にしながらの1時間は相当キツいと思いますが、若さと体力で何とか乗り切ってもらいたいものです。
クラス3順位
(経過時間 1h 55min. / 70LAPS) |
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総合13位 |
#27・FINA
BMW M3 |
67LAPS |
総合15位 |
#15・ORCアドバンRX−7 |
66LAPS |
総合16位 |
#39・DELPHI
ADVAN NSX |
66LAPS |
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総合23位 |
#83・BP
ADVAN NSX |
65LAPS |
総合25位 |
#23・C−WEST
アドバン Z33 |
65LAPS |
総合27位 |
#14・REDLINEダイトウRX−7 |
65LAPS |
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総合34位 |
#78・WW2
ダンロップRX−7 |
55LAPS |
総合35位 |
#77・TRUST
ADVAN RX7 |
44LAPS |
<2時間45分時点>
(2/3経過)
〜15:40〜 |
総合TOPの#33・FALKEN☆PORSCHEが、2位の#1・エンドレス
アドバン
GT−Rを10秒後方に従えて100周目をクリア。500kmという長丁場のレースも2/3を消化し、残りは1/3となりました。クラス2は#11・ジアラランサーEVO[、クラス4は#21・クムホ・エクスタ・S2000、そしてNプラスは#5・5ZIGEN
INTEGRAと、各クラスのリーダーには新鮮な顔ぶれが揃っています。
この時点でコース上には33台のマシンが残っていました。
クラス3では、驚異の好燃費で84周目までPITインタイミングを遅らせた#27・FINA
BMW M3に代わり、再び#15・ORCアドバンRX−7がTOPに立ちました。
すでに他のマシンも1回目のPITインを済ませており、このまま最後まで無給油でいけそうなNSXとM3に対し、RX−7勢は総じてあと1回のPITインが必要という戦況でした。#15・ORCアドバンRX−7は、2回目のPITイン前にできるだけ差を広げようと、山田選手が1分38秒台のベストラップを叩き出しながら激走を続けています。
一方で、序盤から激しい順位争いに喰い込んでいた#23・C−WEST
アドバン Z33は、1回目のPITイン前後でトラブルに見舞われた模様で、その後ズルズルと順位を下げていきました。
15時27分、有木選手は予定通りの30周を消化し、PITロードにマシンを滑り込ませます。#78・WW2
ダンロップRX−7は2度目の再給油を行ない、ドライバーは伊藤選手に交代しました。
クラス3順位
(経過時間 2h 45min. / 100LAPS) |
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総合11位 |
#15・ORCアドバンRX−7 |
95LAPS |
総合16位 |
#27・FINA
BMW M3 |
95LAPS |
総合17位 |
#14・REDLINEダイトウRX−7 |
94LAPS |
総合19位 |
#39・DELPHI
ADVAN NSX |
94LAPS |
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総合29位 |
#23・C−WEST
アドバン Z33 |
83LAPS |
総合30位 |
#78・WW2
ダンロップRX−7 |
81LAPS |
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総合33位 |
#77・TRUST
ADVAN RX7 |
72LAPS |
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リタイヤ |
#83・BP
ADVAN NSX |
65LAPS |
ここまで計77周を走り終えた78号車。
最終パートを任された伊藤選手は、コースイン直後から、いきなりそれまでのベストタイムを更新する1分43秒台のタイムを叩き出し、ハイペースを維持しながら周回を始めました。その瞬間、タイミングモニターを見つめる46番PITでは、思わず歓喜の声が上がりました。何しろ、ブースト不調のために一度も満足のいく全開アタックができなかった今週末。そんなチーム全員のストレスを一気に発散させてくれるような伊藤選手の快走劇でした。
そして6周目には、決勝でのベストラップとなる1分42秒597の好タイムをマーク。このタイムは今週末サーキットに乗り込んでからの最高タイムとなりましたが、この時点でのクラス3のライバル勢の周回タイムと比較しても、全く遜色のない立派なものでした。
レースも残り1/3となり、78号車にはコース上で直接順位を争う相手はいませんが、決勝レース中にここまでタイムを縮めることができたという事実は、私達に78号車の潜在ポテンシャルを再認識させ、トラブル続きの渦中で失いかけていた自信を取り戻させるものでした。
78号車が快走を見せ始めた裏で、チームテスタスポーツには悩ましい問題が急浮上していました。マシンの残燃料と、ドライバーの疲労の懸念でした。
元々最終スティントは50周という想定でしたが、現在の速いタイムペースで計算すると、ゴール迄の残り周回は55周を裕に超えるという状況でした。当然ながら、消費燃料もペースアップ分と周回数のプラス分とで着実に増加し、ゴール目前でのガス欠発生の懸念をも生じさせていました。さらに、雲が日差しを遮ってはいるものの気温はかなり高く、熱のこもりやすいRX−7のコクピットで、伊藤選手が残り50周以上も現在のペースで走り続けることは困難な状況でした。
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