<旧車シリーズ 823>


FUJI CABIN (5A)


 
昭和30年頃の日本には空前のミニカーブームが到来しており、家内工業的にごく少量を製造する個性豊かな軽自動車が数多く存在した。静岡の富士自動車鰍ゥら1955年に発表されたフジ・キャビンスクーターは、その名の通りスクーター発展形のミニカーだが、工業デザイナー・富谷龍一氏の発案による商品で、当時としては画期的なフレームレスFRPモノコックを採用、前2輪・後1輪という奇抜なレイアウトを持つユニークな三輪自動車だった。
 パワーユニットは、1953年に吸収した東京瓦斯電気工業製のガスデンエンジンをリアに搭載。2サイクル空冷単気筒121ccエンジンは5.5psの最高出力を発生した。乗車定員は2名だが、当初は運転席側にドアがなく、人の乗降は助手席側ドアで行なわれた。これは生産の効率化とFRPボディの剛性確保の理由からだったが、1957年からの後期型では利便性を考慮して運転席側ドアが追加された。このため車両重量は140kgから150kgに増加したが、依然として超軽量級であることに変わりはない。フジキャビンは1956年8月から本格販売が開始されたが、FRPボディの量産性が極端に低かったことが災いし、1957年12月に生産終了するまで、総生産台数は僅か85台に止まった。


 
1年余りの命であっという間に姿を消したわりに、現在も複数の自動車博物館で見ることができるフジキャビンには、一度見たら忘れない強烈な個性が宿っています。
 実をいうと運転席側ドアについては、前期型で存在していたものが後期型から生産性向上のために省略された、という全く逆の説もあるようです。当時の開発資料はどこにも残っておらず、真相の解明はなかなか難しいようですが、こんなミステリーもこのクルマらしい話ですね。あなたはどう推理されますか?


推定年式:1957
撮影時期:1989年5月
撮影場所:愛知県長久手町 トヨタ博物館にて