渚にしやがれ

初めて関東に来た夏に僕が最初に行きたいと考えたのは湘南の海である。
Because、サザンオールスターズのファンだからである。鎌倉で江ノ電に乗って江ノ島に行ってエボシ岩を眺めながら涙を流して Long-hair の彼女とGood-byeしてみたかったのである。Baby Crying,no,no,no,である。
しかし、そんなに都合よく彼女なんていないし、唄のようにカッコよく湘南を舞台に恋愛などできるわけないのである。不幸にも、僕は片岡鶴太郎みたいに美女とめぐり逢う天才ではない。第一、千葉に住んでいるのである。地理的に不可能である。うう、なんで千葉勤務なんや、会社のバカ。と、トレンディドラマのロケ地に行きたがる女の子や、リバプールに行きたがるビートルマニアの気持ちのわかる俗物、であった。
まあでも湘南御母堂と海を背景に胸騒ぎの腰つきでNiceなLadyが浜辺を歩くのを鑑賞するのもいい考えだと思ったので、出かけることにした。女がいないから、野郎と。みなさん、なにか目的があれば別だけど普通は男ふたりで海にいくもんじゃありません。色気もなにもないったらありゃしない。そのようなむさ苦しさにもかかわらず、とにかく湘南に行ってみたいという、ミーハーのパッパラパーの僕につきあって休みを一日つぶしてつきあってくれたS君、ありがとう。You are my best friend.
そして7月のある日、我々はJR市川の駅のホームでおちあい、大船行きの快速に乗ったのである。せっかく海に行くのだから、せめて体をブロンズカラーに焼こうではないかとコパトーンを購入した。Tシャツに短パン、サングラス、といういでたちであった。朝の10時前だったので車内にはスーツ姿の男の乗客が多く、そのなかで僕らは思い切りうきあがっていた。そらそーだ。通勤電車の快速で海水浴に行く勘違い野郎は我らエロティカ.セブンしかいないのである。だが天候は夏の日らしく、どこまでも青く、そして空の彼方には入道雲がイヤミなほどに白く美しくたちのぼるのであった。ウォークマンでサザンを聞きながら、
「Oh〜yeah!〜♪」なんて足でリズムをとりつつ、満員電車のなか、心はすでに海へ!海へ!海へ!

「〜Hey,hey,hey,〜Hey,hey,Hey,hey〜♪」
「〜砂まじりの茅ヶ崎、ひとも波も消えて、夏の日の思いでは〜♪」っと。
大船に着いた。
強烈なSun Shin が大船駅のホームを焦がす。蜃気楼がぼんやりとゆらめくなか、東海道本線の各駅停車の電車を待った。我々はポタポタと汗をながしながら、煙草を吸いつつ待った。そして電車はやってきた。
茅ヶ崎に着いた。
改札口から海側の出口を下り、目的地は茅ヶ崎海水浴場。「歩くぞ。」Sが言った。

海までは約1キロ程度の距離だそうだ。そうだ、そうだ。男ふたりなんだから、甘えちゃイカン。歩くのだ。炎天下の中、Venus達の姿の良さと美型の放射線を期待しつつ海に向かってテクテクと歩いた。商店街を通りぬけ、でかい家が建ち並ぶ加山雄三通りを南へ。
Tシャツの背中が汗でベッタリとはり付いて気持ちが悪い。やがて、国道134号が目の前に開ける。浜辺に抜けるトンネルがあって、ハンカチで汗をフキフキ、こいつを出るとそこは雪国じゃなくて、Summer Beach なのだ。
おおっ!エボシ岩だっ!あれだっ!あれに違いない!チャコの海岸だっ!感動だっ!
これこそ、
ニッポンの夏。青春の夏。人間だらけの砂浜。ゴミ。ビーチパラソル。うるさいガキ共。タイコ腹のオヤジ。ウキワ。ウチワ。キレイな姐チャン。サーファー。灰色の海。マスト。蚊とり線香。FMヨコハマのBGM。みーんな、ごちゃまぜ。幕のうち弁当のようだ。
いいぞ、いいぞ。期待したとおりだ。
さて、我々は予定どおり体を焼くために適当な場所を探した。もちろん、Aクラスの姐チャンたちのそばを探した。花見のときの特等席は桜の木の近く。あれと同じ感覚である。間違っても、オヤジやガキ共の近くにはおちつきたくない。
海の家でゴザ(ニッポンですね)を借りて熱い砂浜を歩く。ビーチサンダルで千葉からやってきたせいか、足の裏が痛い。この履物は長距離を歩くのにむいていないのだ。疲れてきたから、はやく休みたい渚のオン.ザ.ビーチであった。それにしても混んでいる。なかなか適当な場所が見つからない。もうどこでもいいから、さっさと腰をおろしてしまおうという気になった。そして、ビーチパラソルの下、デッキチェアーに座ってサングラスをかけたまま耳にラジオのイアホンさして雑誌を読んでいるアンチャンの横に、良さそうなスペースが開いているのを見つけた。僕らはそこにゴザを拡げてビーチサンダルを脱ぎ、Tシャツと短パンも脱いだ。家を出るときに、下には海パンをはいていたのだった。ゴザにすわってあらためて、海を眺めた。
弱い風が沖から吹いてきて、なま暖かい空気が頬をなでる。
「喉が渇いた!」
「ビールだ!ビール!」
「アサヒ.スーパードライが飲みたい。」
と、はやくも僕らは男ふたりだという気やすさから、だらしなくも酒をくらうことを 思い付いたのである。
高気圧は関東上空でFull Power、太陽の下、フリフリのBeauty Girlsをサカナに飲む冷たいビールはたまらなくTasty なのであった。完全に中年オヤジのノリであるが、これでいいのだ。今日の我々は夏の海辺のトドと化すのだ。紫外線がサンサンと降りそそぐ茅ヶ崎の海水浴場付近にながれついたトドなのだ。わっはっは。
コキッ、プシュー、ンーー、グビ、グビ、グビ、グビーッ!ハーッ!(ビールを飲む音)ビールを2缶カラにして満足した僕とSは、コパトーンを体に塗って寝そべった。肌がジリジリと音をたてそうに熱い。

〜はっと見りゃ湘南御母堂

華やかな女が通る まぼろしの世界は

 陽に灼けた少女のように 身も心も溶ける

 Every night & day ひとりきり君待つRainy day

 Oh, my dear one 忘られぬ物語

 水色の天使が舞う あの虹の彼方に

 夢出ずる人魚のような想い出が住むという

 I can be your love この気持ちわかってるのに
 抱きしめたいほどに愛してた

Oh,Oh, いいことだよね You are the one

           You are the love

           You are the world  

 遥か遠くに女晴れ いいもんだよ To me 〜 (Bye Bye My Love)

3時間くらい浜辺にいただろうか?太陽が西に傾きはじめた頃には僕らの肌は真っ赤になっていたのである。アッチッチ。そろそろひきあげる時間だ。
体についた砂をはらって、Tシャツを着て短パンをはき、サングラスをかけて、あき缶をゴミ箱に捨てて、「山田屋」なんて書かれたゴザをたたんで脇に抱えて渚を歩く。
はやくゴザを山田屋さんに返さなきゃ。どーもありがとう。
僕らSexy なシンドバットふたりは美女たちのアツイ視線を感じながらも、「お嬢さんたち、俺にホレちゃーあかんで。」と、クールに浜辺を後にするのであった。
手のひらを額にかざして、太平洋の沖を眺める。エボシ岩が見える。波がくだけて白い水しぶきをあげている。ふっふ。ダンディだぜ。ダンモだぜ。僕とSはまたまた、トンネルをくぐって茅ヶ崎駅に向かってテクテク歩き出すのであった。
恥ずかしながら以上が関東に来て、二か月目。初めての夏のひと夏の経験である。それにしても、サザンみたいに自分の地元を音楽にできる才能が欲しいもんだ。僕が天才ミュージシャンだったら、大阪湾から和歌山にかけての紀伊半島を舞台に曲を書きまくっちゃる!ギターを左利きでかき鳴らしながら、
〜関空が遠くに見える、涙でにじんで、せつなくて、ジャンボジェットが舞い上がる、〜なんてやつを。でも、僕にはその才能がない。桑田佳祐、おそるべし。


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