Q1.夜間のスプリントはソフトタイプかハードタイプか?
夜間にソフトタイプを推奨する根拠は、「口腔内に入れて違和感が少ない」ということに加え、「就寝中に筋をリラックスさせ、顎位を安定させる」というものです。
噛みしめや歯ぎしりなどの異常習癖および様々な顎関節症状の原因としては、「就寝中に下顎が後退することによって生じる咬頭干渉」という考え方があります。つまり、通常では(立位では)起こりえない部位に咬頭干渉が起こり、それが引き金になって口腔周囲筋および顎関節周辺に強いストレスが生じ、そのストレスを発散しようとして歯ぎしりや噛みしめをしてしまうという考え方です。したがってこの場合、咬頭干渉を取り除くためのスプリントはソフトタイプで十分であり、ハードタイプはかえって噛みしめを助長する恐れすらあるとされています。
もう一つの考え方は、噛みしめなどのブラキシズムはあくまで悪習癖(bad habit)であり、治療の原則は「日中意識のある時にそれを行わないように強く意識する」というものです。この場合には、夜間のスプリントはあくまで無意識下での異常な咬合力から歯を守るための装置(ナイトガード)という位置づけになります。歯のガードが目的ですから、材質はハードタイプ(スタビライゼーションタイプ)でなければいけません。これを使って噛みしめを是正しようというものでもありません。患者さんには、昼間に奥歯が接触しないように気長に取り組んでもらいます。習癖が改善した時点でナイトガードの使用は中止します。
なお、いわゆる顎関節症の原因のかなり部分が、「いつも奥歯が接触した状態」(歯列接触癖:TCH)にあるという報告もあります。この場合には、日中の機能訓練が主体となり、ナイトガードは推奨されません。
ブラキシズムには、タッピング、クレンチング、グラインディングの3種類があります。夜間のスプリントデザインを決めるに当たっては、どれがその患者さんの主症状なのか見きわめることが大切です。
例えば、開咬気味で側方のガイドが十分ではなかったり、中心滑走時に8番が著しい咬頭干渉を起こしていたりして、それが歯ぎしりの原因になっている場合には、ソフトタイプのスプリントか、積極的に側方のガイドを付与したオクルーザルタイプのハードスプリントが有効でしょう。一方、強い噛みしめで歯や歯周組織に損傷が懸念される場合には、全歯が均等に当たるタイプのスタビライゼーション型のハードスプリントでなければなりません。
なお、その患者さんの習癖が噛みしめタイプなのか、歯ぎしりタイプなのかを見きわめるためには、試みにハードタイプのスプリントをしばらく使っていただき、そこにできたファセット(圧痕、シャイニースポット、擦過痕)を注意深く観察することでほぼ判別が可能です。
Q2.ナイトガードを作っても違和感が強くて使って頂けないことがあります。その様な人や嘔吐反射がある人などには、前歯のみのナイトガードでも使用しないよりは就寝時の噛みしめ等を緩和できますか?メインテナンスを継続する秘訣についてもお教えください。
前歯のみのナイトガードは短期間の使用でしたらOKです。(長期に継続して使うと臼歯部の咬合が変化する可能性があります)
ナイトガードを継続して使っていただくためには、まずその患者さんがその気にならないといけません。一方的にこちらが有効と力説しても、その効果を患者さん自身が実感してくれないと、ちょっとした不具合や違和感で使用しなくなります。まずはさりげなく、メインテナンスのたびにお話してみましょう。急いではいけません。
「きっと効果があると思います。私の予想ではこんな効果・・・こんな効果・・・。何とかお使いいただけると良いのですけどね…」そのような口調で十分です。熱く語らないこと。熱意が空回りして、来院が滞ることすらありますので、くれぐれも気をつけてください。(さりげない情報提供には、テキストで紹介したちょっとしたリーフレットも役立ちます)
大切なことは患者さんが継続して来院してくださることです。押し付けにならないように、こちらの想いを静かに伝えましょう。今はご理解頂けなくても、予想がひとつ二つと当たってきたりすると、そのうちに更なる信頼を得られるはずです。
患者さんに継続して通っていただく手段としても、PMTCはおおいに役に立ちます。そっと、痛くしないように、歯を傷つけないようにして、気持ちよくお帰りいただいてください。もしPのリスクがあれば、しっかりした歯周治療ももちろん大切です。
総合的に、長期的に、患者さんをお世話していくシステムが何よりも優先されます。「想う心、伝える言葉、確かな技術」・・・頑張ってください。
Q3.スタビライゼーション型スプリントとはどのようなものですか?
全歯列を覆うハードタイプのスプリントで、咬合面がフラットなものを「スタビライゼーションタイプスプリント」、咬合面に歯冠形態が付与されているものを「オクルーザルタイプスプリント」といいます。
歯と歯がロックするような形でしっかりと噛み合っているようなタイプの患者さんには、その窮屈さを開放してあげる目的で「スタビライゼーション型」を勧めます。夜間の噛みしめから歯をガードする場合もこのタイプのスプリントを用います。
まれに、臼歯部の過度な咬耗などによって顎位(咬頭嵌合位)が決まらず、本来のグラインディングタイプの咀嚼運動路よりも、前後、左右的に大きく広い運動路に変化してしまった患者さんには「オクルーザルタイプスプリント」を用います。この場合は患者さん固有の顎位を模索しなければならないので、より慎重な配慮が必要です。
これらの使い分けに関しては、歯界展望2009年5月号の特集記事で筒井照子先生が解説しておられますのでご参照下さい。この中で、筒井先生は「この使い分けを間違えると、効果が得られないばかりか、一段と病態を悪化させてしまうことにもなりかねません」と解説されています。
Q4.ナイトガードの使用にあたり、本院の患者様は数年にもあたり(長い方は7年になります)毎晩使用されているのですが、長期間使用する事についてのデメリットはありますか?また使用の中止時期のタイミングが分からず悩んでいます。
ナイトガードを長期間使うことに対するデメリットですが、特にないと思います。ただ、噛みしめ予防の原則は、昼間に意識して奥歯が接触しないようにする訓練ですから、これがうまくいき、噛みしめの兆候が認められなくなった時には一時ナイトガードの使用を中止して様子を見ます。
歯の数が少ないというハンディを持つ方が長期間義歯を入れるのと同様、噛みしめも一種のハンディですから、原則は義歯と同じ発想でいいのではないかと考えます。材料の耐久性なども考慮して、私は約2?3年ごとに作り替えをおすすめしています。
(これが一般的な答えになりますが、実はナイトガードについてはちょっと複雑で、上記はあくまで「夜間の異常な咬合力から歯を守る目的」でナイトガードを使っていただく場合のお答えです。例えば歯ぎしり予防、顎関節症治療など、ナイトガードの咬合面形態に工夫をしなければならない場合、長期間ナイトガードを入れることで咬合が変化する可能性のある場合などはまた別の発想が必要となります。これも指導医の先生と相談して、個別に対応しましょう)
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