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フランス映画「地下室のメロデイー」主題曲
地下室のメロデイー
Musique MELODIE EN SOUS-SOL (Michel Magne)
札東(ぜに)のシンフォニー
Musique duf ilm HYMNE A L'ARGENT (Michel Magne)
ユベール・ビアンコ楽団
Hubert Bianco and His Orchestra
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アンリ・ヴェルヌイユの監督した作品は、いずれもその印象深いテーマ音楽によって忘れられません。「ヘッド・ライト」の、胸の奥底にしみこんでくる.ような、悲しく切ない旋律。「過去を持つ愛情」の、暗いパッショネイトな主題歌、アマリァ・ロドリゲスの歌うその「暗いはしけ」は、映画音楽の名作として今日rもしばしば歌われたり、演奏されたりしています。ヴェルヌイユという監督、映画におけるテーマ音楽の効果とその壼を心得た使い方に関しては、まず右に出る者のない手練者と見えました。「地下室のメロディー」は、そのヴェルヌイユが、アラン・ドロン、ジャン・ギャバンという欧州映画界の新旧を代表する二大スターの顔合せを実現させて、フランス映函がかって多くの傑作を生んだ暗黒映画に取り組んだ最新作です。十億フランが横たわるカジノの地下金庫を狙って、二人のギャングが企んだ完全犯罪の物語ですが、ここでも映画の雰囲気とサスペンスをいやが応にも盛り上げる見事な音楽処理を見せているのです。冒頭、刑務所帰りのギャバンが、自分の家のある一街を訪ねて歩いています。しかし、あたりの様子は五年の問にすっかり変ってしまっている。「ゴーチェ街は何処かね」「ゴーチェ街?」尋ねられた露店商の女は首を振る。レインコートのポケットに両手をつっこんだまま、再び歩き出すギャバン、その姿をロングのゆるやかな移動で捉えた画面に、シャープなタイトルがかぶり、それと同時に、ファンキーなモダンジャズのフィーりングを充分きかせたテーマ音楽が・始めてせきを切った様に爆発します。
見事なイントロです。
バリトン・サックスとりズム楽器の重く沈んだ旋律の中から、トランペットとサックスが鋭く、激しいメロディを歌いあげるこのダイナミックなテーマ曲は、暗黒映画の持つ期待と興奮の入りまじったカタルシス、とも云うべきものを、それだけであますところなく表現しでいます。このメイン・テーマの旋律は、映画の中でときと場合に応じてたくみに変奏され、あるときは汚れた世界に生きる男たちの悲しいすすり泣きのように、あるときはハード・ボイルドな非情と強烈さを誇示するように、あるときは緊迫したサスペンスと完全犯罪の崩壊の予感を囁く不安のように、「地下室のメロディー」のドラマの中で一貫してくりかえされています。フランス映画の暗黒映画は、「現金に手を出すな」にその典型が見られるように、スリりングでショッキングなアクションも基調とした画面に、フランス人特有のキメこまかい人間味と生活の味が加味されているところにその魅力の秘密があるのですが、それは、モダンな感覚のなかにメロディックな美しさを秘めた音楽についても云えることでしよう。
「礼束のシンフォニー」は、この映画の大詰で演奏されるメロディーです。この派手なピアノ・ソロと荘重な女声コーラスのハミングが歌う現金への讃歌に込められた皮肉と空しい絶望感は、とりわけ画面と音楽の見事にとけあったシーンを思い浮かべて印象深いものがあります。音楽を担当したミッシェル・マーニュは、映画音楽家というよりも、ポピュラー音楽の作曲家として有名ですが、ここで見せた手腕はなみなみならぬ物があると思われます。
(蒼井一郎)
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