刀と首取り戦国合戦異説 鈴木眞哉:著(平凡社新書)


現存の美術品として、刀が他の武器武具と比べてはるかに多いところから説きはじめ、古い資料をひいて、戦場で刀が主役を果たしていた時期がないことを説き、刀の実際の使われ方について論じた本。
文章は非常に平易で読みやすい。
歴史小説を読んだりしてても、刀でのちゃんばらシーンは多いのだが、感状などに現れる負傷者の統計などのデータを上げて、古くは弓中心で、鉄砲伝来後は鉄砲と、職業軍人としての武士の遠戦指向・・・戦闘は概して遠距離からの攻撃を好む傾向がある事を論じている。さらに、接近戦も槍が中心(一番槍、槍合わせなどの言葉にあるように)であるとしており、これまでの漠然とした思い込みに、待ったをかけるという意味で、面白い一冊。

で、戦場における刀の意義と、なぜ刀が主武器であるかのような誤解が産まれたかというと、首が各個人(や各部隊の)戦果を論じる際のポイントの一つであったため。
部隊として矢・鉄砲や槍でダメージを与えるだけで、「戦争」としての目的は果たすことができるのにたいし、各個人レベルでは、戦果を主張するための首を取るためには取っ組み合いレベルの接近戦を演ぜねばならない。また、最後に首をかききる道具としても、主に脇差しクラスの小刀ではあるが、刀がその役割を果たす。

そういう首取り姿が刀による接近戦を行っていたかのような印象を与えていたところに、さらに世界でも希(らしい)ヨーロッパの接近戦重視思想(騎士がランス等の接戦武器を主武器としていた)が、明治以後に軍の思想として入ってきたために、さらに強化されたが故に、現在のような戦国時代の戦争観ができたんではないか、ということであった。

(2000.04.16)

Data:
平凡社新書036
2000.03.21初版第一刷
価格: 660円
ISBN:4-582-85036-7


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