11.夏色
夕食の後、部屋から適当にMDをつかんで車に乗った。
音楽は高校の頃よく聴いていた。
なんでんかんでんMDに録音しては、
流しっぱなしにしていたので
部屋にはたくさんのMDがあった。
小さな箱に一応詰めたが、
重くなったのでやっぱり置いていくことにした。
その中から持ってきた何枚かのMDは、
全部違う色をしていた。
なんとなく黄緑色をしたMDをかけることにした。
基本的に何も書いてないので、
何が入ってるのか全く分からない。
MDをセットして発進し、
ギアチェンジをした後に窓を開けた。
ウィーンという機会音を出しながら、
窓が全開になった。
微かに残る夏の風を髪と頬に受けた。
流れてきたのは、
ゆずの「夏色」だった。
このながいながいくだりざかを
きみをじてんしゃのうしろにのせて
秋なのに。
秋なのに、
こんな歌。
秋なのに、
こんな空気。
あたしは高校時代ばっかりを思い出す。
§ § §
「ちょっと、研!
こわい!こわい!!」
すっかり遅くなった駅までの帰り道で、
徒歩のあたしを
研は自分の自転車の後ろに無理やり乗せた。
さっきの夕焼けがあったとは思えないほどの暗い空だった。
前も言った通りここは山の中なので、
当たり前のように坂ばっかりの道が続く。
外灯も木でできていて、
それについてる蛍光灯も古く、
切れかけてちかちかしたのが多いので
あまり役に立っていないし、
恐い。
それを分かってて研は自転車をこぐ。
絶叫系がほとんどだめなあたしを前で楽しそうに笑いながら。
「降りる!!降ろしてっ!!」
真っ暗な山道、
その上ハイスピードの自転車。
目をぎゅっとつむりながら必死に研の背中をたたいた。
「いてっ。
痛いって。」
キキっとブレーキを使う音が聞こえたので、
降ろしてくれるのかと目を開けたら
研は、急にゆっくりと坂を下りはじめた。
何メートルかおきにある外灯が
ゆっくりゆっくり過ぎていく。
早くなっていた鼓動がしだいにおさまる。
ふと切なくなった。
このままずっとこうしてられたらどんなに楽しいだろう。
どんなに幸せだろう。
研の背中でそんな風に思った。
ブレーキいっぱいにぎりしめて
ゆっくりゆっくりくだってく
ゆっくりゆっくりくだってく
04/08/26