仮想座談会

聴診器の選択

(この仮想座談会の内容はすべて実在の人物の証言にもとずくもので、虚偽、仮定、誇張などは一切ありません)

出席者

A 先生 研修医(男性)

B 先生 研修医(男性)

C 先生 研修医(女性)

H 先生 医学部教官(心臓循環器専門)

R 先生 医学部教官(呼吸器専門)

S 先生 国立病院医師(心臓外科医)

K 先生 ステレオ聴診器発明者

M 氏 聴診器メーカー技術者

目次

1. よい聴診器の条件

2. オープンベル型とダイアフラム型の差異

3. チューブとイアピース

4. 聴診器の種類

5. ステレオ聴診器

6. 聴診器の歴史

7. ステレオ聴診器の効果

8. ステレオ聴診器の海外の評価

9. ステレオ聴診器の種類と使い方

1. よい聴診器の条件

A先生 いよいよ医師としての研修が始まります。学生の時には手ごろな値段の聴診器を使っていたのですが、あらためてよい聴診器を購入しようと思います。聴診器につ いて教えていただきたいと思います。

B先生 先輩の先生の中には、聴診器は慎重に選ばなければならないという先生と、どれでも大した違いはないという先生がいますが。

H先生 確かに過去にはいろいろな種類の聴診器があっても、性能にはあまり違いがないという時代 がありました。しかし、現在は種々の聴診器が開発されていて、その性能や使い方にはっきりと違いがあります。ですから聴診器は買う前によく検討すべきでしょう。

C先生 聴診器のどういう部分で違いが出てくるのですか。

M氏 聴診器は音をピックアップするという目的のためには、大きく、かつ重い方がよく、使いやすさという点からは小さめで軽い方がよいという事実があります。この相反する二つの目的のかねあいでいろいろな聴診器が発売されているわけです。

A先生 大きくて重いとどうして聴診器の性能が良くなるのですか。

R先生 体の中の音をピックアップするために聴診器のヘッドの部分−チェストピースといいます−を体表面にあてるわけですが、体と接触するチェストピースの面積が大きいほど音が聴きやすくなります。これはそれだけ音の通り道が広くなるからです。しかし、チェストピースを大きくするといっても、体表面は湾曲していますから、あまり大きいとチェストピースは体に密着しなくなります。そうなると音の伝送はよくならないばかりか、隙間から音が逃 げてしまうロスが生じます。

M氏 現在当社を含めまして各社からいろいろ聴診器が出ていますが、成人用ではチェストピースの最大径は45ないし50 mmでほぼ統一されています。

H先生 チェストピースの材質も性能に関係します。音は発生したあと空気や物体の中を伝播し、吸収され、最終的に熱エネルギーに変換されて消失するわけですが、重い金属には吸収されにくく、軽い金属やプラスチックには吸収されやすいのです。

M氏 メーカーでは高性能聴診器にはチェストピースとしてステンレスやチタンを採用し、そうでない聴診器にはアルミやプラスチックを採用しています。ほかに亜鉛も使われます。製造工程やコストも材質の選択に関係します。

H先生 チェストピースとイアピースとを接続するチューブも使いやすさと拮抗する形で聴診器の性能に影響します。つまりチューブは内径が大きいほど、短いほど、壁が厚いほど伝音性能がよいのですが、これは実用上ほどほどにしないといけません。

2. オープンベル型とダイアフラム型の差異

B先生 チェストピースのオープンベル型とダイアフラム型とではどう違うのですか。

R先生 オープンベル型が聴診器の原点で、1816年にランネック(Laennec, フランス)が最初に発明した聴診器はオープンベル型です。これは全周波数域の体音をピックアップします。使用するときにはベルの縁を皮膚にソフトに密着させて使用します。ベルの直径が大きいと湾曲する体表面と縁が密着しなくなりますから、あまり大きくできません。 これに対しダイアフラム型はベルの開口部をプラスチックでカバーしたもので、こうすることによって200ヘルツ以 下の低周波数帯域がカットされ、相対的にそれ以上の高周波帯域が聴きやすくなります。使う時には比較的強く皮膚に密着させます。皮膚に密着させることができる面積はオープンベル型よりも大きくすることができますから、ベル型よりも直径が大きく、ピックアップされる音量も大きくなります。ダイアフラム型を使った時にベル型よりもよく聞こえると感じる のはこのためです。

H先生 心臓の聴診ではI音、II音と心雑音の多くは高周波帯域に属する音ですからダイアフラム型でよく聴かれますが、III音、IV音と僧房弁狭窄症の拡張期雑音などは低周波数帯域に属する音で、ベル型を用いる必要があります。

R先生 呼吸器の聴診では正常音、異常音ともに高周波帯域に属しますから、通常ダイアフラム型が適しています。

C先生 そうするとオープンベル型、ダイアフラム型のチェストピースを必要に応じて使うわけですね。

H,R先生 その通りです。

3. チューブとイアピース

A先生 チューブが1本のものと2本のものがありますが、これはどう違うのですか。

M氏 聴診器のチューブには3種類あります。一つは1本のチューブがチェストピースに接続されているもの、2番目は左右2本のチューブが接続されているのもの、3番目は2本のチューブを一体として外観上は1本のチューブとなっているものです。

H先生 理論上は1本チューブよりも2本チューブの方が伝音性能はよいのですが、従来の聴診器についてだけいえば、1本チューブでも2本チューブでも実際上の違いはほとんどありません。

R先生 チューブについてむしろ大切なのは、チューブが耳に挿入される部分であるイアピースを耳にぴたりとフィットさせるということです。フィットしないと聴診音のリークが起き、また外来のノイズが遮断されないので聴診がしにくくなります。

H先生 イアピースと耳(外耳道)のフィットには、イアピースの大きさ、材質 、 バネの強さが関係します。 イアピースの大きさは使う各個人が選択しなければなりません。外耳道の大きさには個人差がありますから。材質としては、柔らかいものは音を吸収しますから堅めのものがよいのです。

M氏 当社の聴診器には2,3種類のイアピースを添付していますので、使用する方に合うものをお選びいただけます。

H先生 バネはもちろん強い方が耳によくフィットしますが、あまり強いバネでは耳が痛くなることがありますから注意が必要です。

R先生 耳に挿入する時のイアピースの方向にも注意が必要です。外耳道の開口部は真横ではなくやや後方に向いていますから、イアピースは少し前方に向ける必要があります。たいていの聴診器ではイアピースの方向を自在に変えることができるようになっています。

4. 聴診器の種類

B先生 聴診器について注意事項がだいたいわかりました。いろいろな聴診器が発売されているようですが、どれがよいのでしょうか。

H先生 従来販売されてきた聴診器を写真(1), 写真(2)に示します。他にもありますが、この8種の聴診器はそれぞれ形が異なるように、聴診性能にも違いまたは特徴があります。しかし選択上のポイントとして今までお話したことをふまえてもらえばよいと思います。

R先生 写真4のものはチェストピースが3個あります。特性を変えた2種のダイアフラム型チェストピースを備えたものです。写真5の聴診器ではチューブの1本を長くして渦巻き状に巻いています。2本のチューブの長さを異なるものにすることにより、聴診性能が向上すると説明されています。また写真6の聴診器ではチェストピースは基本的にはダイアフラム型なのですが、中央に突起があり、ダイアフラムそのものは皮膚に接触せず、 円周の縁と突起だけが接触します。これも聴診性能を向上させるための構造であるということです。

H先生 写真7の聴診器は基本的にはダイアフラム型チェストピースだけの聴診器ですが、ダイアフラムを皮膚に対して押しつける強さを変えることによっ て、周波数特性を変えるというコンセプトです。

R先生 聴診器の性能、つまり感度がよいかどうかを判定するときには大きな音が良く聞こえるかどうかで判定してはなりません。心音のI音、II音や正常の呼吸音は大きな音ですからどんな聴診器でもきこえます。しかし、ごく小さい音−初期の弁膜症の収縮期雑音や拡張期雑音、ある種の呼吸音など−はよい聴診器でないと聴くことはできません。聴診器の性能の判定は微弱な異常音が聞こえるかどうかで判定すべきです。

5. ステレオ聴診器

M氏 ここで当社の新しい聴診器である ステレオ聴診器を紹介させていただきたいと思います。

C先生 ステレオ聴診器とはどういうものですか。

M氏 写真と図にお示ししますが、全体的な形、大きさは従来の聴診器とかわりはありません。しかし、チェストピースを中央で2分割し、ベル型もダイアフラム型も左右独立した2個のチェストピースから成っています。そして2個のチェストピースにはそれぞれ独立したイアチューブが接続され、 完全2チャンネル聴診器となっています。従来の聴診器はチェストピースは1個ですから両耳で聴いてはいるものの、モノラル聴診器なのです。ですから聴診音としては音の強弱と音質しか聴くことができません。
 この新しい聴診器では左右独立した2チャンネルがあるため、 左右の音の時間差、位相差、音量の差が伝えられ、ステレオ音を聴くことができま す。つまり、 音の強弱、音質だけでなく、広がり、動き、音源の方向を聴くことができるのです。 ベル型とダイアフラム型チェストピースの切り替えも従来型聴診器とかわりなく行なうことができます。

H先生 ステレオ聴診器は私も使ってみましたが、これは本当に画期的なすばらしい聴診器だと思います。

6. 聴診器の歴史

R先生 聴診器は先ほども言いましたように、1816年にフランスの医師ランネックが発明し、stethoscope(胸部を探る器具の意味)と名ずけました。はじめは呼吸音の聴診に応用され、ついで心音の聴診用として応用が拡大されて行きました。 ランネックの発明以前は医師が患者の胸部に直接耳をあてて聴診をしていたのです。
 ランネックが発明した最初の聴診器は筒状のものでしたが、その後聴診性能を向上させるためにさまざまな工夫、改良がなされました。まず種々のラッパ型のものが登場し、約100年間広く使われました。今でも産科の胎児心音の聴診器として使われることがあります。1851年、アメリカのリアド (Leard) がY型チューブを接続した両耳型聴診器 (binaural stethoscope)を発明しました。これは単耳ラッパ型よりはるかに使いやすく、また聴きやすく、北米ではすぐに広く普及したということです。
 そして先述のように1894年、バウエルズが低域をカットし、中高域の感度を上げた膜型聴診器 (diaphragm stethoscope) を発明し、聴診器は大きな進歩を遂げました。さらに1926年、アメリカのスプラーグ (Sprague) がオープンベルとダイアフラムの両チェストピースを切り替えて使用できる聴診器(スプラーグ型聴診器)を発表し、今日の聴診器の原形となりました。

H先生 聴診器はその後も改良は続けられましたが、スプラーグ型を基本としたデザインや材質の改良にとどまり、聴診器としての本質的な改良というのはありませんでした。 ところが1991年に日本でステレオ聴診器が登場しました。これには私は本当にびっくりしました。潜在意識的に聴診器にはもう改良に余地はないものと思い込んでいたからです。

R先生 私も同感です。ここにステレオ聴診器の発明者であるK先生がおられますから、 K先生からステオ聴診器を考えた動機などをうかがいたいと思います。

K先生 私はもともと聴診器が好きで、よく聞こえる聴診器はどれだろうと、国産製品、外国製品をいろいろ試したのですが、結論として大きな違いはないと感じていました。それで、聴診器の性能を今よりも向上させるにはどうしたらよいだろうとロ いつも考えるようになったのです。ある時、可能性は聴診器を2チャンネル化、ステレオ化することにあるに違いないと思いついたのです。
 従来の聴診器は両耳で聴くようにはなっていますが、2本のチューブは1個のチェストピースに接続されているため、実質的には1チャンネルしかなく、したがってモノラル音を聴いているわけです。そこでチェストピースを2個としてそれぞれに1本のチューブを接続し完全独立2チャンネル聴診器とすれば、ステレオの聴診音を聴くことができるのではないかと考えました。レコードやFM放送も初めはモノラルだったのですが、録音、集音と再生を2チャンネルとすることでステレオとなったのです。 呼吸音や心雑音をステレオで聴いたらどんな風に聞えるのだろうか? また、聞えるか聞こえないかの 微弱な音がステレオ聴診では聞こえやすくなるのではないか? こういったことが私の疑問であり、期待でした。
 そこでまず2個の聴診器を分解し、2個のチェストピースにそれぞれ1本のイアチューブを接続して2チャンネル聴診器を作ってみました(独立分離型2チャンネル聴診器)。この聴診器で聴診をしてみると、まったく奇妙な聴診音しか聞こえないことがわかりました。左右の耳に別々の異なる音がはいってきて、ごちゃごちゃするだけなのです。2個のチェストピースを離せば離すほど違和感が強 く、最接近させても(2個のチェストピースを互いにくっつけても)だめでした。私はこの型の聴診器は2チャンネル聴診器ではあるが、ステレオ聴診器ではな く、実用性はないと結論しました。しかも調べてみて分かったのですが、この独立分離型2チャンネル聴診器はすでに1858年にアイルランドのアリソン (Alison) によって鑑別聴診器 (differential stethoscope) という名称で発表されていたのでした。 その後ほとんど忘れ去られたのはやはり実用性がなかったからでしょう。しかし、現在でも呼吸器専門家の中に、この型の聴診器を胸部の異なる部位の聴診音の比較のために使っている人がいますから、まったく実用性がないわけではありません。
 私は独立分離型2チャンネル聴診器ですっきりしたステレオ音が聴かれないのは、2個のチェストピース間の距離が大きすぎるからだと考えました。2個のチェストピースをもっと接近させれば、つまり1個のチェストピースを中央で2分割した形にすれば、2チャンネルで、かつステレオ聴診器となるのだと想像ました。
 この形の聴診器は工作が難しく、思いついてから結局10年以上もたってからようやく作ってもらうことができました。テストの結果は私の期待通りか、あるいは期待以上でした。音の広がり、方向、動きといったステレオ効果がはっきり聴かれるのです。もちろん分離型2チャンネル聴診器のような違和感はありません。微弱な心雑音や人工弁の開閉音も聞えやすくなりました。これは本当に新しい聴診器といってよいのではないかと思いました。そして今のメーカーさんが製造開発にとりかかってくれました。アメリカ特許、ドイツ特許、日本実用新案も順次成立しました。

M氏 市販製品とすることにもいろいろ難しさがあり、1988年に開発に着手し、1991年に発売にこぎつけました。

K先生 商品名をStereophonetteとフランス語風にしましたが、これは聴診器を発明したランネックに敬意を表したものです。

7. ステレオ聴診器の効果

H先生 私はこのステレオ聴診器を最初に手にした時の 驚きを今も鮮明に思い出します。心臓の聴診音がこんなにもちがうのかという驚きです。これは言葉であれこれ説明するより、実際に聴いてみるのが早いと思います。一番いいのが大動脈弁疾患です。教科書に to and fro と記述されている大動脈弁閉鎖不全の音がまるでサラウンドステレオを聴いているように右に左に、 左に右にと動きを伴った迫力ある生々しい音で聞えます。聴診器の位置を少しず ずらせるinching という方法を用いなくても、心雑音の音源方向が分かりますから、その方向へ聴診器を動かせば最強点を容易に知ることができます。肺動脈弁疾患や三尖弁疾患も格段に聴診しやすくなりました。僧房弁疾患も時相・音の性質・方向性が明瞭に判別できます。 ステレオ聴診器を使ったあとで従来型聴診器を使ってみるとまるで耳栓をしているように感じます。

R先生 呼吸器の診療で使ってみますと、まず驚くほど音がリアルに聞えます。特に肺線維症のfine crackle(捻髪音)などでは、クラックルがあちらこちらから出ているのが分かります。一つ一つのクラックルの発生源が違った場所にあることを理屈ではなく実感できることは驚異です。聴きなれてくると音の出ている深さが感じ取れるような気もしてきます。

S先生 私もステレオ聴診器を入手以来、聴診が楽しくなり毎日使っています。ファロー四徴症の患児など、同じ収縮期雑音でも肺動脈狭窄の音の広がりと心室中隔欠損の音の広がりやがこんなに異なるものかと実感しています。今まで使っていた古い聴診器とくらべると、何か違った世界を聴いているようで す。人工弁置換術後の患者の聴診にもに威力があり、聴診上の鑑別診断で大きな力を発揮することを実感しています。

8. ステレオ聴診器の海外での評価

M氏 ステレオ聴診器は海外のドクターにも使ってもらいましたが、次のようなコメントをいただきました。

ーステレオ聴診器という考え方に驚き,感心しました。私の同僚も同様です。  ペンシルバニア州立大学心臓胸部外科教授 W.S.ピアス先生

−この聴診器は非常に印象的です。心音は私が使っているLittman Cardiology II よりよくきこえま す。
 陸軍病院(メリ−ランド州)医師 S.C.ボ−ン先生

−心臓の収縮期雑音,拡張期雑音の多様な性状よく分かります。もし学生が診断学学習の最初からこの聴診器を使うなら,従来型の聴診器を使う気にはならないでしょう。私のレジデント,学生も皆この聴診器を使いたいといっています。
 オクラホマ大学心臓研究所内科部長 A.C.ド・レオン先生

−これは非常に優れた聴診器で,届けられてからずっと使っています。とりわけダイアフラムの音響特性がよく,呼吸音に対する感度がよいことを印象深く思います。アメリカで発売される時には喜んで同僚に推薦します。
 テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンタ−内科教授(副学部長)J.W.バ−ンサイド先生

−この聴診器は従来のものより絶対に優れていると断言します。
 カリフォルニア大学サンフランシスコ校内科教授 L.M.ティアニ−先生

−の聴診器は間違いなく心音,心雑音,血管音の聴診における聴診器の価値を高めるものです。
 ベイラ−医科大学小児心臓科名誉主任 D.G.マクナマラ先生

−この聴診器を使うことができることは大きな喜びです。音が非常にクリアに聴かれ,従来の聴診器より優れていると思います。
 テキサス・メディカルセンタ−心臓科主任 D.J.ホ−ル先生

−この聴診器を使うことができるのは私の喜びとするところです。私が編集者である診断学教科書の新版に掲載することにしました。
 ジョンズホプキンズ大学小児科教授 H.M.サイデル先生

−この聴診器は胸部の聴診において全く新しい次元を展開するものです。ハーバ ードの診断学主任ス−ザン・フレッチャー教授も同意見です。
 ハ−バ−ド医科大学内科教授 R.H.フレッチャ−先生

−ステレオ聴診器は他の高級聴診器と比較して心臓、肺の聴診において最高の聴診性能を有しています。したがいまして私はすべての心臓、呼吸器の専門家にステレオ聴診器を推薦します。
 ハイデルベルグ大学内科 M. ボルスト先生

−ステレオ聴診器を多数の患者で使ってみましたが、とりわけ弁膜症患者ですばらしい効果があります。
 ケンブリッジ大学心臓胸部外科 F. C. ウエルズ先生)

A先生 ステレオ聴診器はずいぶん高い評価を受けているよですが、今までどのくらい普及したのですか。

M氏 1991年に発売になりましてから国内で約12,000人、外国では北米、ヨーロッパ、アジアなど21ヶ国で約2,000人の医師に使っていただいています(2003年末現在)。

9. ステレオ聴診器の種類と使い方

B先生 使う上で何か難しいことはないのですか。

H先生 使い方で難しい点はまったくありません。従来からある聴診器と同じ使い方でよいのです。また、従来の聴診器にはなかった効果的な使い方を自分なりに発見する楽しさもあります。

C先生 研修医に向いていますか。

R先生 研修医に最適というべきです。聴診音を聴き、それを発生させる呼吸動態、循環動態を理解するには、ステレオ聴診によって音の大きさや質的特徴だけけでなく、広がり、動き、方向を把握することが非常に役立つと思いま す。

A先生 でも値段がちょっと高いようですが。

M氏 当社のステレオ聴診器は初め高級品からスタートしましたので高価でしたが、その後コストダウンした製品もラインアップしています。

H先生 医師という職業は最も高度のプロフェッションの一つですから、自分の職業に必要な器具は少しくらい高価でも良いものを持つべきだと思います。私の友人にプロカメラマンがいますが、かれのカメラ機材は今日もっとも高性能 の、したがってもっとも高価な機材で占められています。写真家という仕事を厳しい競争のなかでまっとうして行くためにはそれだけの投資が必要であるというわけです。同様に、バイオリニストが「安い」バイオリンで演奏することはな く、車レーサーが「安い」マシンを運転することはなく、プロゴルファーが「安い」クラブで競技することはなく、競馬の騎手が「安い」馬に乗ることはありません。

B先生 耳の痛いお説教をいただきましたが、それでは現在もっとも高性能の聴診器はステレオ聴診器なのでしょうか。

R先生 間違いありません。モノラル聴診器は過去の聴診器だと思います。これからはステレオ聴診器がスタンダードといってよいでしょう。

C先生 ステレオ聴診器にもいくつか種類があるようですが。

M氏 はい、まず Stereophonette Model 171 ですが、これは当社のステレオ聴診器の第1号モデルで、チェストピースには超高度のステンレスを使っています。このため製造工程上の難しさがあり、値段も高くなりました。 Stereophonette Model 171 Gold はそれに金メッキを施したものです。 StereophonetteModel 172 はチェストピースに亜鉛を使って、コストダウンしたものです。
 Stereophonette Model 753 は小児用、 Stereophonette Model 333 は血圧測定や呼吸音聴診用のシングル・ダイアフラム・チェストピースのモデルです。

A先生 どれを選んだらよいのでしょうか。

S先生 医師が持つ聴診器は1個でなくてはならないということはありません。いくつかの聴診器を持って、TPOで使い分けるのが自然だと思います。私も成人用と小児用と少なくと2個を常時使っています。

H先生 私も大学では 171 を使っていますが、他病院へ診療に行くときには 172 を持ってゆきます。172はコンパクトですから。しかし、もちろん研修医は初め1個持っていれば十分です。

R先生 初めに1個を選ぶとすると、Stereophonette Model 171 がもっとも聴診性能が優れているので、薦められます。聴診器は10年は問題なく使えますから、研修医でも将来内科や、外科でも心臓、呼吸器方面へ進ことを考えているなら Model 171 が最適です。けっして無駄になることはないでしょう。

H先生 先ほどはちょっと厳しいことをいいましたが、現実には予算というものがあるわけですからすこし妥協することが必要になることもあります。 Stereophonette Model 171 と Model 172 を比較するとやはり171 がよいと思いますが、172 が格段に悪いというわけではありません。とくに従来のモノラル聴診器と比較した場合には 172 は極めて優れた聴診器です。研修医としてModel 172 を選択することは賢明です。

C先生 特に女性医師用モデルというのはありますか。

M氏 Model 333 は女性の看護師さんが使うことを想定してピンクやライトブルーの製品を用意しましたが、その他は特に女性用というのはございません。しかし、ご要望があれば検討させていただきます。

A、B、C先生 今日はランネックの発明から最新のステレオ聴診器まで詳しいお話をありがとうございました。聴診器について何を基準にどの聴診器を選んだらよいのかよくわかりました。今日のお話をよくふまえて、私達に適した聴診器を選びたいと思います。

(Laennec の読み方は「ラエネック」または「レネック」が正しく、「ランネック」、 「ライネック」は誤りであるようです。)