東京ディズニーランドで昆虫(甲虫)採集

by tsuu3@田中

・プロローグ

 古い話で恐縮なのだが、2001年の夏に東京ディズニーランドに行った時の話をしたいと思う。実は2001年に書いていたのだが、タイミングを逸してしまい書くのを辞めてしまっていたのだ。しかしこれから夏本番、夏休みに入り、そして東京ディズニーランドに行かれる方も多いだろうと思われ、行かれる方の参考になればと思い、再びペンを取った次第である。また、数年経過しているため、状況が変わっている可能性もあるので、ご了承頂きたい。この時以来行っていないのである。

 

 東京ディズニーランド(TDL)は日本初の巨大テーマパークとして1983年の4月に開園した。このTDLの成功に習い90年代はテーマパークブームがおこり各地に巨大なテーマパークが立ち並んだことは記憶に新しい。ところが現在も残っているテーマパークがどれほどあるだろうか?一度も行かずに、さらには名前さえも忘れてしまったテーマパークがいかに多いことか。そんなテーマパーク業界にあって、今でも他を全く寄せ付けずTDLは巨人として君臨しているのである。近年はディズニーシーと合わせ、東京ディズニーリゾートとも言うようだ。本来リゾートとは、避暑、避寒、保養のための土地を言うのであるが、この場合何をもってリゾートと言っているのか知るよしもない。単純に考えると、千葉県浦安市に有るわけだし、さしずめ東京のリゾート地、千葉県浦安市に居るディズニーとなるのだろうか(笑)

 好きかと聞かれたら、「どちらかと言えば嫌いかもしれない。昔は嫌いではなかったが、年と共に人の多さと行列に耐えられなくなった。そしてなによりアトラクションに飽きた。」と答えるだろう。学生服を着た集団がお土産をぶら下げてうろうろしているのもいただけない。開演後しばらくはいなかったと思う。若いカップルもそうだ、ベビーカーに疲れてぐったりした子供がいるのに平気で行列に並んでいる。ま、最近はジェットコースターに乗るのも怖いおっさんに成り下がってしまっているのだから嫌いでもしょうがないのかもしれない。あれは姫路セントラルパークのディアブロに乗ってからかもしれない・・・浮いた足で乗るジェットコースターなのだが・・・死ぬかと思った。やはり人間は地に足をつけて踏ん張って生きて行く動物なんじゃないだろうか。よっこらしょっと。

 

 TDLの人気の源泉は何処にあるのだろう?
 例えば、よほど特殊な性格をしていなければ、子供達は皆大好きだろう。我が子でさえ、何度も何度も連れて行けと言うのだから、何かしら引きつける物があるのだ。映画やぬいぐるみ、文房具などに登場するキャラクターに会える点が大きく影響しているのかもしれない。子供の世界のブランド、いや聖地と言っても良いかもしれない。そのような小さな時からのキャラクター、いや宗教的な洗脳戦略をメディアと遊園地を用いて、ウォルト・ディズニーは世界で初めて実現したのだろう。そしてそれは我々日本人にマッチしていたのかもしれない。テーマパークとして比較した場合でも、ゴミが少ない点やアルバイトが活き活きと働いている点など、マナーも十分考えられており、かなり好感が持てる。そして何より、行けば必ず四方八方に笑顔を振りまき、あたかもこの世に辛い事なんて何もないんだよ、安心して生きていきなさいと言っている、プーさんに会える。これがTDLの源泉ではなかろうか。ぷぅ〜(笑)

 

・行くための理由

 さて、2001年の夏も実家に帰ると例年と同じように私の母よりチケットが妻に渡された。私に渡さない点がポイント高い。普通のチケットとはちょっと違う、でも意外にあっさりとした株主用のチケットだ。今回はディズニーシーの開園前の招待チケットも有るとのことであったが、こちらは妹夫婦に渡ってしまった。相変わらず子供達は既に行く事が決まってしまったようにはしゃいで騒いでいる。絶対にシンデレラ城のミステリーツアーでメダルをゲットすると言っている。妻は今回は○×ショーを見ると言って楽しそうだ。おいおい・・・私は乗り気ではないのだ。行くと決めていないのだぞ・・・と心の中で叫んだ。

 「暑いしさ、人も多いと思うし、次回にしてはどうかな?」なるべく遠回しに行きたくないことを伝えようとしているのだが、私の言葉を聞く耳は持っていないようだ。「アトラクションも殆ど乗った事あるわけだし、次回ディズニーシーに行こうよ。」と、もういちどトライしてみるが・・・「ぱぱは無理にアトラクションに乗らなくて良いのよ、一緒に行ってくれるだけで良くてね、私達がアトラクションに乗っている時は、虫採りでもしていたら良いんじゃないの。」そっけない発言の妻な人である。要するに運輸省と大蔵省を兼ね備えただけの私が必要なのだ。

 「えっ、待てよ、虫採りだって・・・?????!!!!」何を言っているのだ妻な人よ・・・が、よく考えると、なるほどそれは有りかもしれん・・・そして本当にいるかもしれん。
そのような発想をしたことがなかった。虫イコール森、林、河川敷・・・の発想しかなくなってしまっていたのだ。マンションネブトを思い出せ、常識を覆せ、パラダイムシフトである。

 よし、クワガタを探そう。甲虫を探そう。

 時は2001年8月15日。天気は快晴である。
 マグライトにピンセット、クラフトナイフと毒瓶を持って出発だ!
流石に竿にネットを持つ勇気はなかった。お散歩ネットを自宅に忘れて来た事を少々後悔したが、甲虫狙いなので大丈夫だろう。

 もしかしたら、入り口ゲートでライフルや機関銃、手榴弾やナイフなどの武器をチェックしているのではないか、クラフトナイフはチェックされるのではないか、と一瞬心配したが何事も無く通り過ぎた。ここはテロ対策がなっていない。みんなプーさんに会いに来たのだな。ワシは虫採りに来たのだ、ガハ(^^;;;

 

・いざ採集

 早速家族そっちのけで、と言っても移動方向は同じだが、木を探す。良く見てみると結構広葉樹は多いようだ。今までに10回程度来ているが、「こんな所にこんな木があったとは知らなかった。」という場合が多い。意識をしていなければ、そこにそれが有ってとても大きな存在感を示していたとしても、全く見えないのだ。意識を集中しているとコルリの材がわかるのだが、ひとたび他の虫を意識してしまうと、コルリ材が見えなくなってしまう感覚に近いかもしれない。と、書いては見たが何を言っているのかわからん人が多いかも(笑)。さてここは南方系の知らない種類の木が多いように感じられる。このように木を通してTDLと言うテーマパークを見てみると、各エリアのテーマとのリンクはどうなっているのだろう、何処の何をイメージして作ったのかと、不思議に思う場合が多い。

 

 プラタナスを発見した。ゴマダラカミキリが採れるかもしれない・・・丹念に見たが、とても健康な木で、気配さえも感じられなかった。きっと100年も経てば、フランスの街路樹のように太く、健康に成長する事だろう。

 クスノキの上方にアオスジアゲハを発見した。虫がいる事がわかった。近年クスノキは街路樹として至る所に植えられていると思う。街路樹のなかの優占種と言ってもおかしくないだろう。そのおかげでアオスジアゲハを良くみかける。ここTDLではクスノキは必ずしも多くないが、アオスジアゲハはいるようだ。やっと虫を発見し、ほっとした自分であった。

 

 人工池の畔で柳を発見した。枝振りも良く、かなり大きな立派な柳の木である。枝の一部に枯れている部分も有りかなり期待が持てる。このように大きな柳を見ると、ミヤマクワガタが、あらゆる枝に、なぜそんなにいるのかと不思議になってしまうほど、ぺたぺたと張り付いているイメージが浮かぶ。また同時に、こぶしを握った程度の樹皮に囲まれたウロが出来ていて、その一部から黒くだらだらとした樹液が流れ出ており、そこにはカナブンが張り付き、マグライトを照らすと樹皮の中にヒラタがいるイメージが浮かぶ。が、冷静に考えれば、ここでのミヤマは全く期待出来ないだろう。しかしながら期待を胸にふくらませ、流行る気持ちを抑えきれずに、行列を作る人をかきわけ、小走りで木に近づき、樹液やウロを探しまわった。しかし、ウロの影さえも見つける事は出来なかった。ふと木の根元の、土と木の隙間に木の方に足を向けじっとしているコクワのイメージが湧いた。はっとして早速探るが、何もいなかった。やはりTDLで甲虫を期待するのは甘かったのではないか、これほどの柳に何もついていないのだからきっとここには甲虫はいないのではないかとの、暗い気持ちが心の中を支配しつつあるのがわかった。じわじわと・・・

 ゴーカートの近くでカシの防風林のような垣根のような、オブジェのような場所を発見した。人の手により、綺麗に長方形に刈り取られている。若葉は少なく、かなり定期的に刈り取られているように思われる。あまり期待は出来ないが、そこはカシである、丹念に見回したが、案の定甲虫を発見する事は出来なかった。しかし、上方の長方形から飛び出た細い枝先に、トンボがとまっているのを発見した。人工の池はいくつか有るが、トンボが発生しているのだと思った。そしてその後、トンボは他の垣根などでも何度か出会う事になった。

 チョウがいた。トンボもいた。
もう少し頑張って甲虫を探してみようと、心のバロメータがマイナスからプラスにちょっともどった。

 そろそろ入り口から最も遠い所である。乗り物に乗らないと見る事が出来ない場所を除けば、ほぼ終わりに近い。家族が乗ったり見たりするアトラクションとほぼ同じように観察してまわったが、今のところ結果は出ていない。家族はスプラッシュマウンテンに乗るため並んでいる。このアトラクションは私の友人が設計し、建設したものだ。我々が大学1年の時にTDLは出来たのだが、友人は出来た当初から大学を卒業するまでここでアルバイトをし、遊園地の乗り物を作る会社に就職したのだ。そしてここに戻って来て、スプラッシュマウンテンを造った。時が経つのは何と早い事か。山頂の立ち枯れがちょっと悲しくも思える。そして、甲虫もいない。

 

 家族を待つ間近くのベンチに座りぼっとする。花壇の花を見ると、小さな名も知らない蜂が来ていた。横を通り過ぎる何百もの人達はここに花が咲いている事も、蜂がいる事も気づきはしないだろう。蜂も人を気にせず蜜を吸っているようだ。さらに地面にはアリがいた。ここTDLで見る3種目、4種目の昆虫である。兎に角、目的の甲虫ではないが、昆虫はいるのだ。

 

・奇跡

 採集に、家族を待つ事に疲れぼっとしていた。通り過ぎる人も、行列の人も楽しそうだ。そりゃそうだろう、皆楽しむために来ているのだ。きっと何万人も来ているのだと思う、が、落ち込んでいるのは私一人なんだと思った。ちょっと寂しい。一般公開前のディズニーシー特別招待に行っている妹より電話が入る。「楽しぃよ〜、こっちは大人向け、子供はそっち(TDL)の方が楽しいと思うよ。」だそうな。「そっちはどう?」、「えっと、まだ採れてないよ。」、「はぁっ???」、「じゃあ、旦那に宜しく。」プツッ。今はちょっとマイナス方向に傾いた冷たい兄なのだ、許せ!

 電話がかかって来た時に、ベンチから立上がったが、なんとなく気になる木が視界に入って来た。なんだろう。周りの植え込みとははっきりと区別出来る、歩道からちょっと高くなった植え込みにその木は植えられているようだ。先ほどの柳やプラタナスに比べると、ずいぶんずいぶん小さく、周囲3m程度の木である。遠くではっきりと見えないが、明らかに広葉樹で、葉がでかい事がわかる。木の大きさから見て、最近、少なくとも5年ほどの間に植えられたのではないだろうか。

 どれどれ、近づいて行き、ぐるっと木の枝振りを見渡す。次に葉を丹念に見てみる。ややぁ・・・これはカシワじゃないのか。クヌギよりも大きめの葉で、葉の側壁の波打ちが緩やかで、切れ込みが大きいのである。

 いや待てよ、カシワよりもちょっと葉が小さくないか。よっしゃあ、これはコナラだ。まだ緑色で小さな実が堅い殻斗(かくと)にすっぽり収まっている。カシワなら、もっとごつごつした殻斗のはずだし、葉の側壁の切れ込みがもっと大きいはずである。しかし、まるでミズナラのようにでかい葉のコナラだ。側壁の波打ちもコナラより大きく見える。そもそもコナラとは小さな葉のナラの木の意味なのだが・・・この木はオナラか(笑)

 冗談を考えている場合ではない。早速虫を探す。木の根本から順になめるように見てゆく。木の根元に隠れている虫はいないようだ。樹液も出ていないようだ・・・注意深く探していると、「ぶぅ〜ん」と言う何かが飛んだ音がした。間違いない甲虫の羽音だ。音の方を目で追いかける。うひょぉーカナブンや。やっと見付けたぞ。追いかけたが、捕まえる事は出来なかった。まだいるはずだ、探そう。気合いが入る。

 それは、これから芽吹き花が咲くと思われる、上方の枝の先端部分に張り付いていた。カナブンではなかったようだ。2匹いる。その先端のぼこぼこと芽が出たような部分をぐるぐる、ぐるぐると二匹で回っている。ネットを持ってこなかった事を悔やんだ。どうやって採ろうか。一か八か・・・植え込みに上り、その枝の元の部分をゆっくりとたぐり寄せ、捕まえるしかない。が、あまり大きく揺らすと飛んでいってしまうだろう。ゆっくり実行しなければならない。しかしその前に注意しなければならないのは人間だ、人気アトラクションの近くではないので、人はさほど多くはないが、アルバイトや、それらしき人がいる。しばし、じっとして時を待つ。が、私の目は人と虫をいったりきたりして監視している。

 片足を植え込みの上にかける。数人の人はいるが、注意しそうな人はいなくなった。よし・・・植え込みに上り、頭でイメージした採集を慎重に、しかし素早く遂行する。ちらっと人も見てみる。不思議そうに、おばはんと女の子がこちらを見ているが、見なかった事にする。よし、もう少しだ。まだ逃げていない。手が届く所まで来たぞ。右手で木の枝をしっかりと持ち、左手を一気に素早く伸ばし、片手で二匹をわしづかみする。やった、捕まえたぞ。しかし、二匹はあばれて手のなかから逃げようとする。くすぐったい。さらに、人の目が気になって来た。木の枝を右手から話し、植え込みからジャンプして降りながら、右手で左手を押さえた。よっしゃ〜。何と見物人は5人に増えていた。同年代の親父がほほえましく笑ってくれているのが、唯一の救いだ。こんな時に息子がそばに居てくれたら、皆納得してくれただろう。しばらくして、私にはそう感じたが実際にはもっと短い時間だったのかもしれない、見物人は何事も無かったかのように、人混み中に消えていった。

 

・エピローグ

 虫はシロテンハナムグリであった。ラベルが良いぞ・・・「千葉県浦安市東京ディズニーランド」なのだから。ラベルがなければただのシロテン。だけど。こいつはディズニーなシロテンなのだ(^^)

 出会えた虫はアリ以外は皆、飛翔能力の高い虫ばかりであった。よそから飛んできて、ここに住み着いたのだと思う。TDLが出来て20年弱である。虫の数としてはとても少ないように感じた。住める環境は有ると思うのだが。隔離されているため、飛翔能力の高い虫でないとなかなかやってこられないのかもしれない。また、地面(土)がほとんど無いため、かなり乾燥している点も虫を住みにくくしている原因ではないかと思われる。

 次に、どうしてコナラが植えられたのだろうか?どう見ても開園当時に植えられたとは思えない。そこだけしか植えられていない点も気になる。人為的に有る目的を持って植えられたと考えるのが普通であろう。何故だろう。虫を呼び寄せるために植えたのだろうか。まさかね・・・もしこの件に関し、ご存じの方がいたら教えて下さい。今度はクヌギの実を持って行ってみようかな・・・

 以上のように、TDLではシロテンハナムグリが採集出来る。皆さんもTDLで甲虫採集に挑戦してみて下さい。今ではクワガタも採れるかもしれない。あるいは、昔から採れていたよ、ポイントが有るんだよって方がいましたら、メール下さいね。また、こんなテーマパークでこんな虫が採れるんだよって採集記を是非くわ馬鹿に投稿して下さい。

 テーマパーク採集はつらい部分も有るが結構面白いです。
 それでは皆さん、お元気よう(^^)

 

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