日本産Lucanus属の分類
Lucanus属の分布に関してです。「Lucanus属
の起源はヒマラヤ〜ベトナムを中心とした地域」と書きましたが、それはなぜなんでしょうか? 理由は簡単です。もっとも種類数が多いからです。起源が古い
地域ほど種分化が激しくなっていると見て間違いないでしょう。さらに言うならば、ヒマラヤのグラキリスミヤマやミャンマーのデンテクラトゥスミヤマなど
は、かなり祖先的な形質を保った種類だと思います。デンテクラトゥスのような種類が生き残っていること自体が不思議でたまりません。♀の形態は確かにLucanus属に近いものですが、そのままLucanus属に当てはめるのもなんだかなぁという気持ちでいっぱいです。ぜひとも、クワガタ科にも『亜属』という概念を導入して欲しいと思います。
「亜属ってなにー?」という方もいらっしゃるかもしれませんので、ちょっと補足説明をしておきましょう。たとえばミヤマクワガタを分類体系的に見ると、
昆虫類甲虫目クワガタムシ科ミヤマクワガタ族ミヤマクワガタ属ミヤマクワガタという記述になります。しかし、分類体系はこれだけではおさまらないのです。
同じ仲間の中であっても、また細かい分類をすることが可能なのです。その細かい分類を導入すると、昆虫類甲虫目カブトムシ亜目コガネムシ上科クワガタムシ
科クワガタムシ亜科ミヤマクワガタ族ミヤマクワガタ属ミヤマクワガタとなります。亜目、上科、亜科といったものが入ってきました。
昆虫類は誰でもわかるかと思います。甲虫目とは……と、こんな解説は読んでいる方もつまらないと思うので省きましょう。ここでミヤマクワガタの話です。ミヤマクワガタ族Lucaniniの中にどんな属が含まれるのかというと、Lucanus、Eolucanus、Pseudlucanus、Noseolucanusなどですね(Neolucanusは似た属名ですが、これはツヤクワガタ族Odontlabiniです)。これも研究者によって扱いが変わるのですが、日本ではこれらをすべてLucanus属として扱っています。
しかし、「そう簡単に全部一緒の属にしちゃっていいんか?」という研究者もいるわけで、そういう人達のために亜属という分類単位を設けている昆虫もいま
す。カミキリなどはこれらが盛んですね。日本のクワガタ研究者で亜属を使っている人はまだ少ないですね。筆者は全開で使いたいと思っている1人なのです
が、これまたそう簡単なものでもないのです。まだあまり、どれとどれが同じ亜属に含めたら良いのか? という、根本的問題が山積みだからです。それらが整
理されれば、Lucanus亜属、Eolucanus亜属、Pseudlucanus亜属、Noseolucanus亜属などが創設されて、さらに細かい分類がなされていくでしょう。
さて、ここまで読んで理解してくれている人がどの程度いるのか検討もつきませんが、付いてきてくれている人はさらに読み進んでください。「なにが書いて
あるのかアッチョンブリケです」という人は、これ以上読まないのが得策です。ってゆーか、ホントに何人読んでくれているのだろうか?
じゃ、自己満足で続けていきますね。筆者的には、この亜属を日本のミヤマクワガタに適用したらどうなるのか分類してみたいのですね。で、勝手に考えてみました。世界のミヤマクワガタと日本のミヤマクワガタの関係を、です。
日本のミヤマを勝手に分類する前に、世界のミヤマはどんなところで分けるべきなのか、ちょこっと考えて見ましょう。
1.前脚剄節外棘が鋸歯状になる群
2.前脚剄節外棘が鋸歯状にならない群
3.体上面に毛がある群
4.体上面に毛がない、もしくはほとんどない群
5.大腮形状が似通った群
6.頭盾が二又に分かれる群
7.頭盾が二又に分かれない群
8.大腮、体型がその他すべてのミヤマと違う群
上記に挙げた分類をミヤマクワガタに適用したらどうなるんでしょう。もちろん、すべてがきれいに分類分けできるはずもなく、「これってどの群に入るのか
わからん!」という種類も多数います。しかし、わかりやすい群もいるので、どんなものがいるか勝手に抜き出してみましょう。
ミヤマクワガタ群(説明は後ほど)
タイワンミヤマクワガタ群(説明は後ほど)
ミクラミヤマクワガタ群(説明は後ほど)
ヨーロッパミヤマクワガタ群(ヨーロッパミヤマ、イベリクス、テトラオドンなど)
ヒメミヤマクワガタ群(“ヒメ”って付いているミヤマ一般)
ハヤシミヤマクワガタ群(ハヤシミヤマ、ノセミヤマ、マナミヤマなど)
フライミヤマクワガタ群(ビロススミヤマ、チベットミヤマ、フライミヤマなど)
ルニフェルミヤマクワガタ群
グラキリスミヤマクワガタ群(グラキリスミヤマ、レスネミヤマなど)
デンテクラトゥスミヤマクワガタ群(デンテクラトゥスミヤマ1種のみ)
とりあえず、わかりやすいところを抜き出してみました。実物の標本を見てみれば、さらにいろいろと抜き出すことができるでしょうが、残念ながら、筆者は
世界のミヤマをぜーんぜん持っていないので、これらは大図鑑やその後の資料を見たかぎりで考えたものです。個人的に、ホントにわけわかめな種類は以下のと
おり。
●メアレーミヤマ
体表面の光沢具合なんかは、グラキリスミヤマやレスネミヤマなんかに
通じるところがあるんだけど、前脛節外縁は鋸歯状じゃないしなぁ……。
●カンターミヤマ
ヒメミヤマの親分みたいなイメージを持ってるけど、どこに入るんだろか?
●セリケウスとフライの関係
ビロスス、チベット、フライは同じ種群で良いと思うんだけど、セリケウスが入ってくる
となんだかわからん。
頭楯形状って、どこまで祖先種の形質を継承するもんなんだろ?
●エラフスミヤマ
なんでこんなのが北アメリカにいるんじゃー!
とゆーか、北アメリカに分布してるミヤマって、どういう位置づけなのかぜんぜん
わからん。それぞれが近縁なのかっていうと、そうでもないみたいな感じですな。
まずミヤマクワガタです。こいつは世界のミヤマクワガタの中では、どういう分類的位置にいるのでしょうか? ミヤマクワガタに近縁と思われる種を独断と偏見で挙げてみましょう。
ミヤマクワガタLucanus maculifemoratus Motschulsky,1861
クリイロミヤマクワガタLucanus kanoi Y. Kurosawa, 1966(台湾)
クロアシミヤマクワガタLucanus ogakii Imanishi, 1990(台湾)
「なんでこいつらは近縁なの?」という、ストレートなご質問にはお答えしかねます。だって、独断と偏見だもん。分類考証がしっかりできているならば、
ちゃんとした紙面に発表しても遜色ないほどの内容なんですが、なぜそれをしないかというと、分類考証がしっかりなされていないからです。ネット上で「独断
と偏見です」とはっきり書いてあれば、誰も“参考文献”にゃ使えまい(笑)。
次に、アマミミヤマに近縁な種類を挙げてみましょう。同じく独断と偏見です。
アマミミヤマクワガタLucanus ferriei Planet, 1898
タイワンミヤマクワガタLucanus formosanus Planet, 1899
ヘルマンミヤマクワガタLucanus hermani DeLisle, 1973
プラネットミヤマクワガタLucanus planeti Planet, 1899
筆者の中では、タイワン、ヘルマン、プラネットは別種ではなく亜種関係くらいが妥当だと思っています。別種にするほどの形態的な違いはないでしょう。アマミミヤマだけはだいぶ違うので、別種でいいと思います。
最後にミクラミヤマに近縁な種類です。これはけっこう有名なので、知っている人もいるんじゃないでしょうか。
ミクラミヤマクワガタLucanus gamunus Sawada et Watanabe,
1960
パリーミヤマクワガタLucanus parryi Boileau, 1899
ラエトゥスミヤマクワガタLucanus laetus Arrow, 1943
この3種類をひとくくりとして、ミクラミヤマ群というグループに分けたのは、かの有名な黒澤博士です。しかし、ホントにこの3種類でひとつのグループに
なるんでしょうか? ラエトゥスミヤマをミクラミヤマ群に含めるならば、ラエトゥスミヤマに似ているグループもここに含めなければなりません。外形態から
似た種を探してみると、ヒメミヤマクワガタのグループにラエトゥスミヤマは含まれるんじゃないかなーなんて思ったりして……。
とまぁ、こんなわけわっかんねーなことをよく考えているのです。支離滅裂な部分もいっぱいあるかもしれないけど、筆者はミヤマ属はあんまり知らないので、これでカンベン!
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