じめに
「またまた懲りずにサメハダクワガタ?」とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、まぁまぁブラウザの「戻る」ボタンは押さずに落ち着いて・・・(^^;
インターネットはWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)とも言うだけあって、パスワードなどで保護しない限り、世界中の人が閲覧できる便利なメディアである。しかも検索という便利なサービスが使え、興味ある分野の情報を瞬時にして手に入れられる(事もある)。前回「サメハダクワガタノススメ」を書いてからしばらくして、記載内容の間違いについてのご指摘Eメールをいただいた。
ご指摘をいただいたと言っても、「ここ、まちがってますよ」というやさしいものではない。アメリカのネブラスカ大学の方からご丁寧に、あちこちまちがい(同定について)を解説つきでいただいたのである。先方がサメハダクワガタ属、Pycnosiphorusを検索していたところ、小生のページが引っかかってきたらしい。幸い小生は英語は出来るので、お礼のメールなど交わしているうちに、「ぜひ英語版を」という話になり、修正していくうちになんと英語版の「サメハダクワガタノススメ」というか、共同のモノグラフができてしまったのである。
というわけで、今回は「サメハダクワガタノススメ」を修正したもの(英語版)をご紹介するとともに、その内容について少々解説したい。

英語版「サメハダクワガタノススメ」→ The Samehadas
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解説
今回記載した写真は「サメハダクワガタノススメ」で使用した写真で、新しい写真はPycnosiphorus germainiの標本を入手したので、アップした。
今回共同作業の相手となったマット・ポールセン氏はネブラスカ大学でサメハダクワガタ属の研究をしており、混乱している本属の整理を試みている。さすが大学で研究していると言うことだけあって、とにかく種が記載されたときの原文を探し出して確認したり、タイプ標本を世界各地の博物館から借りたり、現地で本属の採集を試みるなど、本属に対して(小生と違い)かなり気合が入っている。
今回の修正で分かったのは、現在判明している時点で、サメハダクワガタは21種類となっていることである。このうち写真があるのが18種で、そのほとんどがカバーされている。残り3種はある意味「確認中」であり、今後種類数が減る可能性も否定できない。
「Synonym(シノニム)」同種異名
シノニムについては、過去のくわ馬鹿の記事に解説がいくつもあったと思うので、それらも参照していただきたいが、簡単に言うと、ひとつの種に対して違う名前がついていると言うことである。この場合、先にその種を発表した方の学名が採用される。よって、学名の最後についている記載者名と発表年は、その文献を確認するための大切な情報なのである。これら文献に基づきまとめたところ、14種の学名はシノニムであることが判明した。
「Nomen nudum(ノーメン・ヌーダム?)」無効名
1911年のGermain氏の発表が良い例だが、G氏は種を発表するにあたって、種名をリストするだけで実際に種の「記載」をしていない。新種を命名するときはタイプ標本を指定したり、その種の特徴などについての「記載」が必要になる。よってG氏がただ発表した種名は無効名となり、その後記載した研究者らの学名が有効名となっている。ちょっとシノニムに似ているが、この微妙な違いに注意。例えばP. costatusはG氏が1911年に紹介しているが、実際に「記載」したのは40年後の1951年に発表したBenesh氏である。よって細かい話ではあるが、学名を書くときは、「Pycnosiphorus castatus Germain, 1911」ではなく、「Pycnosiphorus castatus Benesh, 1951」というなんともメンドウなことになっているのである。記載の際、新たに違う種名を記載してもいいのだが、無効名と同じ種名を利用していることも多く、さらに本属整理に混乱を生じさせている。
ひと
このモノグラフを作成するにあたって、気づいたことを少し。
まず、この属に関してはやたらシノニムが多い。これは、おびただしいシノニムの量を見ていただければ納得していただけると思う。更に、あまり耳にしない「Nomen nudum」まで出てくる始末である。ただでさえ良く分からないグループであるのに、更にややこしくしているのである。
標本商も標本の価値を上げるためか、やたら「未記載種」と言ってくるケースが多い。この辺は実際に確かめたわけではないのだが、小生の経験からすると、期待はあまり出来ない。もし購入などされるのであれば、あまり期待しないで買うのが無難。
今回、地理的変異や個体変異についてはまとめてはいないが、今後、この種が更に詳しく研究されることがあるのであれば、今回紹介している種類数はさらに減る可能性もある。特にリストの最後にある3種については、まだ標本も確認できていない状況にあるので、その存在自体が怪しい。逆に現地での研究が進めば、新種が見つかる可能性もまだまだあるものと思われる。
さいご
今後もこの英語版「サメハダクワガタノススメ」は、新たな発見があり次第、更新していく予定である。今回の記載内容について、疑問や納得のいかないところがあれば、ぜひ、ご連絡いただきたい。間違いをどんどん訂正して、最新情報を載せていけるのがWWWのいいところでもある。また、手元にあるサメハダクワガタを、どうしても正確に同定したい、という奇特な方はご連絡いただければ、ポールセン氏を紹介できるので、遠慮なくEメールいただきたい。この場合、標本をアメリカ・ネブラスカ州に送るという手間が発生することをお忘れなく。
(by 虫キチコージ

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