2004年 ミニ駄ピドの旅

ふじもり@えりー(ピドニ屋)


■前の晩は,久しぶりに職場の”BLACK"メンバーと呑み会であった.
いわゆる,毒ガス抜き,体にたまった日頃のウサと毒を抜くためのシュンポシオン(宴)である.
周囲の人間は,あまりの毒舌毒ガス攻撃にあって,しびれていたに違いない.
いずれにせよ,年をとるにつれて酒が弱くなったなあ・・・と思う.
夜中の2時すぎにはなんとか車までたどり着いたが,部屋のドアまでたどり着く元気はなかったようだ.

第ニ日目(7月3日),奈良県M

■自分の置かれている状況を認識するところから始まった.
車の中だ.
ドアは開いたまま・・・(おかげで蚊に食われまくっている).
時間は・・・朝5時.
「やばい,行かなきゃ・・・.道が混む」
うっすらと朝もやの掛かった頭のまま,とりあえず車を南へと走らせた.
高速を走りながら,昨晩のことを思い出す.

■ほとんど自動運転だったのは,これまで何度となく通っている山だからだろう.
M登山口にたどりついたのは7時半.
まあ,晴天の土曜日とはいえ,かつてみたことのない風景を目の当たりにする.
遠路はるばるやってきたバス,車の数たるや,これまで見たことの無いもので,道という道に車が溢れかえっておりこの時間でも駐車するにはかなりくだらなければならなかった.
こいつらみんなオオヤマレンゲを目当てに来てる登山客だ.
その瞬間,モチベーションは最低レベルまでダウン.
虫を採るということをすっかりわすれてしまいました.
しかし,満開のオオヤマレンゲを見るには絶好のコンディションである.
ここまでくるとほとんど病気といってもいいだろう.
身支度を整えて,いざ出発と思ったが・・・毒ビンがない,カメラもない・・・.
いったい,私は何をしに来たのかと,まだ薄もやの掛かったままの頭で考えてみるが,答えが見つからないままとりあえず オオヤマレンゲを見るだけ見とこうと思って重たい足を一歩,一歩持ち上げていった.
標高差はたかだか1000m・・・こんなにつらい1000mも久しぶりだ.
山頂の保護地区までたどり着くのにゆうに3時間はかかってしまった.

■オオヤマレンゲはほぼピークの状態,まだつぼみもあったが,すでに枯れているものも多かった.
2年前は台風の嵐の中だったため,ほとんど人が居なかったので独り占めできたのだが・・・.
一生の間に5回も天然のオオヤマレンゲを見ることができたのだからもう十分だ.
おそらく,オオヤマレンゲを見るために登ることもないだろう.
満開のオオヤマレンゲに囲まれながらちょっとメランコリックな感傷に浸っていると,オオヤマレンゲの花にはオオミネヒメハナが歩いているのが目に入った.
世の中捨てたもんじゃない(笑).
不思議なことに,山頂部のオオヤマレンゲには前胸の黒色化が著しい典型的な紀伊半島産マツシタヒメハナと,ツマグロヒメハナが異様に多い.
ツマグロヒメハナはかなり標高の低い(700m以下)でも採れているのに,なぜかこんな山頂部にも居る.
その途中にはミセンヒメハナが間を割ってはいるかのように分布しており,山頂部ではミセンはほとんど見たことが無い.
花の好みにもよるのかもしれない.

■・・・どこがピドニアの旅なんだろうと思うが,帰り道いつもポイントにしている場所があってカマツカの花やナナカマドを探してみるが,みな枯れているのでネットを出す気力すら沸かないのである.
日当たりの悪い場所にあるゴトウヅルがかろうじて咲いている程度であった.
それでも,フタオビノミ,チャイロ,オオ,ツマグロ,ミセン,マツシタ,イヨ,ニセヨコモン,ヨコモン,ムネアカヨコモン(紀伊半島産の本種は要注意である),それに怪しいミヤマが採れた.
まさに駄ピドの旅たる所以の虫たちである.
状態が悪くても駄ピドであれば3桁は採れるのがピドニアのよいところである.
今回は毒ビンをもっていなかったため,少数の個体を8連ピルケースに生かして持ち帰ったのみであった.
下のミヤマヒメハナは紀伊半島では黒化が著しく,中部山岳帯の本種と見比べてもずいぶんと違った印象を受ける.
決して少ない種ではないのであるが,私はあまり多数の個体を採集していないせいもあって,野外で本種を見かけると頭の中に???が沸き起こり,1の個体などはまだ見ぬマホロバヒメハナではないかとぬか喜びをしたりするのである.
参考のために,北アルプスのミヤマヒメハナを並べて示しておく.
紀伊半島のミヤマヒメハナは,基本的に4の個体のように北アルプスの♀に似ているが,中には3のように明らかに細長く,後方に向かって絞り込まれる個体がある.
3の個体はもしかしたら別種なんではないかと思いたくなるが,だとしても名前を付けることができないので今の時点では暫定的にミヤマヒメハナの♀ということにしておく.


■オオヤマレンゲの上を歩いていたオオミネヒメハナ

■最後に・・・.
昨年7月末には駄ピドの旅と称して,南北アルプスをさまよっていたのであるが,今年は時間的な都合によりあのようなつらくも楽しい採集登山はできそうにない.
オオミネヒメハナは確かに希少種ではあるが,紀伊半島におけるニセコルリの分布と近いものがある.
もちろん,オオミネの採集には紀伊半島のニセコルリを採るために修験道の大峰奥駆道を歩いてきたことが大いに参考になっていることは言うまでも無い.
なんでこんなに時間が無いのだろうと自分を責めてみても仕方が無いのであるが,それにしても忙しすぎる.
もっと,のんびりと山を歩き,虫を採り,花を愛で,温泉を堪能する時間が欲しいものである.
さて,来年の駄ピドの旅はありやなしや・・・.


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