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頭の中が混乱してしまう。 ここは、パリの西の外れ近くといっても、16区の純然たる街の中、しかも人の集まる繁華街の裏通りだ。 そこの歩道の端に、極めて唐突に、ミヤマが引っくり返っていたのである。 拾い上げると、だいぶ弱ってはいたものの、まだしっかりと生きている。 時は、6月29日の20時を少し過ぎた頃。パリではまだ昼間のように明るい時間帯である。 この日は3日続けてきたパラレリ探索を一休みしようと思いながら、飛び込みで予約した安いホテルへ 職場から徒歩で帰るところであった。泊まり慣れたホテルが予約切れとなり、泊まったことのない そのホテルへ移らなければ、その道を通ることもけっしてなかったであろう。 パリはそもそも犬の落し物が多いため、普段から足元に注意しながら歩くことを心掛けているのだが、 未だかつて甲虫が落ちているのを見たことがない。それが、よりによって、憧れのユーロミヤマが視界の中で 落ちていたのである。 何故、そんな場所に落ちていたのか? @ 1km近く離れているブローニュの森から飛翔してきて、その場所の近くにある常設マルシェ(市場)の匂いに 惹かれて落ちた。 A ブローニュの森から夜間に飛翔してきて、その場所の真上にある白色灯に惹かれて落ち、昆虫に無関心の フランス人が行き交う中、夕方までそのまま引っくり返っていた。 B 地方からのトラックなどの荷物に紛れ込んでいたのが、そこから脱出してその辺りに迷い込んで落ちた。 C 近辺にミヤマを飼育している物好きな人がいて、そこから脱出してその辺りに迷い込んで落ちた。 このように可能性はいろいろとあるのだろうが、Cはちょっと考えにくい。 一方、さんざん歩き回っても生息の証しの手掛かりすら見つかっていないブローニュの森から、 ミヤマが勇躍飛んできたとすれば、それも奇跡に近い話のような気がする。 とにかく、恋焦がれていたユーロミヤマをパリの街中で採集(拾得ともいう)したことは、紛れもない事実である。 この個体は残念ながらルアーケースの中で数日後に死んでしまったが、 上記@またはAの可能性を信じて、パリ産として大事に標本として取っておこうと思っている。 それにしても、パリに着いてからまだ正味3日少々過ぎたところで、こんな僥倖に恵まれていいものなのか。 これがどの程度の出来事なのか、いずれ、昆虫を趣味とするフランス人でも見つけて尋ねてみなければならない。
その彼は果たして、"C'est incroyable!" と驚くのであろうか、それとも「まあ、そういうことは、たまにはあるよ」と落ち着いた声で答える
のであろうか。
・ ・ (後日談) 7月14日は、パリジャン・パリジェンヌが浮かれる革命記念日。その街中の祭り気分をよそに、自分はブローニュの森へ。 ナラの樹液ポイントの根元周辺で、昼間(Bポイント:拙稿「パリでパラレリ」参照)は♀のものと思われる鞘羽が、夜(Cポイント)は ♂の頭部が落ちているのが見つかった。ブローニュの森にも、数は少ないのだろうが、ミヤマが棲息していることがわかった。
Special thanks to 子連れ狸氏(フランス情報) & 夕凪氏(チェコ情報) |