アメリカ虫事情
− PART I −

by 虫キチコージ

はじめに
アメリカ・サンディエゴに転勤して早2年。思ったほど虫活動は出来ていないが、なんとなくアメリカな虫事情が見えてきたよ〜な気がするので、ここらでちょっとまとめてみることにした。独断と偏見に満ちた内容なので、お取扱いにはご注意を・・・
これから2回に分けて、次のトピックを解説していこうと思う。アメリカで昆虫採集をしようとしている人などの参考になれば幸いである。ちなみに自分は主に蝶屋であるので、蝶の話題が多いことを先にお詫びしておく。
■ パート I ■
アメリカ?
アメリカ人と虫
アメリカ虫本事情
アメリカに昆虫少年が少ない理由
アメリカの虫屋
アメリカの昆虫相
■ パート II ■
アメリカでの昆虫採集
危険動物・植物とその対応方法
おわりに
アメリカ?


アメリカのイメージ???
出典不明。面白いので勝手に掲載(^^;

アメリカというと色々なイメージがあると思うが、残念ながら良くないイメージもあるのも確か。なんといってもBSEに対する対応やイラク情勢など、ちょっと反感を抱かせるような行動ばかりが最近目立つ。まず最初に言いたいのは、この様な政治や国家は虫とはぜ〜んぜん関係ないということ。つまり、アメリカ人とアメリカの虫を重ねて見てはいけない、ということを言いたい。色々な人と話していると、どうもアメリカの虫たちは差別されているような気がする。「文化が浅い」とか、「チューインガムをかんでいるGIを見ているようだ」などなど、頭の上に「?」が沢山出てきそうなご発言もしばしば。「200年ほど前に出来たばかりの移民による国とは違うんですぞ」ということで、何はともあれ、アメリカ人とアメリカの虫は別物と言うことを頭において、アメリカな虫の話をしよう。
アメリカ人と虫
アメリカに来て思うことは、まず、アメリカ人たちは、あまり虫には興味がないと言うことである。いや、むしろ世界的に見れば、この方が普通なのかもしれない。よく考えてみると、日本はどちらかと言うと異常だ。夏にはどこでも捕虫網や虫かごが売りに出され、カブトムシ、クワガタ、鈴虫などが店頭に並ぶ。専門店も増え、海外のクワカブも売られ、インターネットでは数知れないほどの通信販売のホームページが乱立し、新聞では、海外の昆虫が与える国内の昆虫への影響などが取り上げられる。ここまで虫と接している文化は日本だけではなかろうか。
では、アメリカ人がまったく昆虫類に興味を持っていないかと言うと、そうでもない。ただし、住んでいる地域によってそのレベルは違うようである。以前オレゴン州(合衆国北西部)に住んでいたことがあるが、ここは北海道のようなところであり、あまり派手な虫などがいない。当然網は売っていないし、虫関連の商品・書籍にお目にかかれることもまずない。虫を採るには、自分で網を作ったり、標本商の通販などで用具をそろえたりしなければならない。つまり、昆虫採集は子供が興味半分ですぐに始められるものではないし、住んでいる人たちもムシの話なぞ全然しないのである。
 
ちょっと便利?折りたたみ式虫かご
一方現在住んでいるサンディエゴ(合衆国南西部、メキシコとの国境)では、限られてはいるものの、夏、子供用の虫取り網や虫かごが売られている(日本のものと比べると、大分品質が落ちるが)。学校でも5月くらいになると昆虫について勉強し、クラスではヒメアカタテハが飼育され、「変態」について勉強をする。一度次男(幼稚園)のクラスを見に行ったことがあるが、卵・幼虫・蛹などの写真が教室内に飾ってあり、ホワイト・ボードには蛹から出てくる蝶について説明をした跡が残っていた。といってもMeconium(メコニウム=蛹便)などと言う専門用語が書かれており、果たして園児にこの様な単語を教える意味でもあるのだろうか?と思ってしまう。いずれにせよオレゴンに比べれば、虫とかかわる機会も多く、比較的昆虫類に興味を持っている地域ではある。
ちょっと話がそれてしまうが、このヒメアカタテハの飼育セットは良く出来ている。ご覧になられた方もいると思うが、このセットはヒメアカタテハの卵と一緒に、カップが入っている(実際には、箱の中に入っているハガキを送ると、郵送されてくる)。カップの中には食草をゼリー状に固めたものが下に1cmくらいに敷いてあり、幼虫たちはこのゼリーを食べて育ち、最後はカップの蓋のところで蛹になる。エサ換えもしなければ、糞の掃除もしない、大変便利なものである。この食草ゼリー、ほかの蝶とかにも応用できないものであろうか。クワカブと違い、蝶の飼育はエサの確保が中々面倒だから、こういった技術は今後色々な蝶に試すべきと思うのである。
スアンゼルス自然史博物館で開催される
BUG FAIR(インセクト・フェア)
さて、話を戻すこととして、南カリフォルニアは独特の珍しい昆虫相がそろっていることも手伝って、虫屋が全米でも多い地域と思われる。ロスアンゼルスでは、毎年5月に自然史博物館でなんとインセクト・フェアが開催されるのである。日本のインセクト・フェアとは少し違った雰囲気がある(右写真)。例えば出展者の中には、害虫駆除の会社がいるし、展示されている虫もヤスデ、クモ、ダニなど昆虫外の「虫」が多い。ペットとして売られているのは、15cmもありそうなヤスデ、タランチュラ、7cmくらいのオオゴキブリなどである。正統派では蝶の幼虫が主で、一度だけティティウスカブトの幼虫が売られていたのを見たことがある。いずれにせよ、ヤスデやオオゴキブリを買ってもらって喜んでいるアメリカ人の子供を見ると、なんとも複雑な気持ちになるのである。
アメリカ虫本事情
アメリカに来てまず最初に探すのに苦労したのが、昆虫関連の本である。蝶に関してはそこそこ人気もあり、幾つかの本を見つけることが出来たが、甲虫については皆無に等しい。
幼児向けの蝶の本などは、内容が非常にいいかげんで、イラストも胸部と腹部が一体となっていたり、裏と表が間違っていたりと、蝶屋にとってはとても我慢できない間違いがいくつも見受けられる。極めつけはオオカバマダラの一生を解説している本で、表紙にオオカバマダラに擬態しているカバイロイチモンジが大きく載っていた。人間がだまされてどうするんだ?


オオカバマダラ(左)とそれに擬態するカバイロイチモンジ(右)

仕方なくアマゾン・コムなどで甲虫の本を探してみると、あることにはあるのだが中身が確認できないうえに、高価なため中々手を出せない。良さそうな本を見つけたとしても、内容は専門用語(当たり前だが英語で)で埋め尽くされ、研究者を対象としたもので、とても一般向けとは言えない内容のものばかりなのである。
こんなわけで、やはり日本はつくづく虫屋にとって恵まれた国なんだと思うのである。
アメリカに昆虫少年が少ない理由
なぜ日本と比べるとアメリカには昆虫少年が少ないのであろう。アメリカ人と話をしていると、子供の頃に昆虫に興味を持った人は、結構いるようだ。それなのに、長続きすることはほとんどないのである。自分が思うに、これは本を含む、情報の少なさがひとつの要因としてあげられると思う。とにかく採集した昆虫は、いったい何なのかが、さ〜っぱり分からないのである。日本では全国に生息する昆虫をかなり網羅した、いわゆる廉価な子供用昆虫図鑑がある。アメリカも子供用の図鑑が存在するが、無理に広大なアメリカ全土をカバーしている上に、クモなどもひっくるめて扱うため、各科(コガネムシ科とかクワガタムシ科など)で紹介される種類が極端に少ないのである。よってこの様な図鑑は種類を同定をするのにほとんどといって良いほど、役に立たないのである。
さらに昆虫少年の興味を殺いでしまうのが、分類の複雑さにある。アメリカの昆虫は日本の昆虫と比べて、似通った種類が多数存在し、中には2種を区別するのが非常に困難なものが多い。サンディエゴに生息する次の2種の蝶を見てもらいたい。



左側が表、右側が裏

サンディエゴの昆虫少年は、上の2種は違う種と教えられ「???」な状態になってしまうのである。ちなみに上がアメリカキアゲハ(別名ロッキーキアゲハ)でアメリカ西部に広く分布する普通種、下はサバクキアゲハでアメリカ南西部の限られた地域にしか分布しない種である。子供にこの2種を区別しろというのは、少々酷な話ではある。
更に昆虫少年を「?」状態にしてしまうのが、種と亜種の混乱である。サバクキアゲハは一時独立した種(Papilio rudkini)として知られていたが、最近は東部に生息するメスクロキアゲハ(Papilio polyxenes)の亜種であることになっている(Papilio polyxenes coloro)。しかも、同じ親蝶から、上にある黄色い型と、下にある黒い型の、両方の型が産まれることが分かっているのだ。学者によってはいまだ別種扱いすることもあるため、昆虫少年は、違う人に聞くたびにこの種に関する意見が変わり、混乱するのである。ところで、上記アメリカキアゲハとサバクキアゲハは一応住み分けをしているものの、場所によっては両種とも見られるところがある。彼らがどのようにお互いの種を判別しているのか、今後研究すべきではないだろうか。
余談だが、日本でキアゲハは、セリ科の植物を食草とし、アゲハチョウはミカン科の植物を食草としているのが常となっている。アメリカキアゲハも日本のキアゲハ同様に、幼虫はセリ科の植物を食すのだが、サバクキアゲハは、なんとミカン科の植物を食す(飼育下では、セリ科も食す)。日本では、とても考えられないことがアメリカではありうるのだ。


メスクロキアゲハ

そして昆虫少年達をもっと困らせるのは、虫の名前である。日本は和名がほとんどの種につけられており、親しみやすい名前が利用されている。アメリカでは統一した英名がほとんどなく、場所によって英名が変わる。蝶は最近これを統一する動きがあるが、まだまだといった感じがするのである。渡りで有名なオオカバマダラなどは「Monarch(モナーク)」という統一された英名が定着しているが、マイナーな種となると地域によって20〜30ほど違う名前がつけられていることがあるのだ。
また、亜種についても細かく英名がつけられていることが多い。同じモルモンシジミタテハ(Apodemia mormo)でも、亜種によってBehr's Metalmark, Desert Metalmark, Peninsular Metalmark, Sonoran Metalmark, Palmer's Metalmarkなどがあるのである。ちなみにこれらの亜種は全てサンディエゴで見られる亜種で、どれも良く似ている。
こうなると、虫屋同士などで話をするときは、学名を覚えることが必須となってくる。つまり、「カブトムシ」は「アロミリナ・ディコトマ」と覚えなければならない。日本で子供達が「この間木を蹴飛ばしたらアロミリナ・ディコトマが落ちてきてさ〜」なんて話しているところを想像していただければ、不便さが分かっていただけると思う。学名は小さな子供などが簡単に覚えられるものではない。こうやって、アメリカの駆け出し昆虫少年達は、興味を失っていくのである。
アメリカの虫屋
あまり虫に興味のないアメリカ人の中でも、やはり虫屋は存在する。これは特に蝶・蛾が多く、甲虫屋はどれほどなのか掴みきれていないが、多くはないのは確か。蝶屋が多いのは、やはりそれなりに種類の全体像がつかめていて、書籍も多く出ているからと思われる。メールリストもいくつかあり、活発に情報が交換されている。蝶屋はアマチュアもそれなりに多く、とっつきやすい趣味ではある。バードウォッチングから蝶に移ってきた人も多くいるようだ。一方甲虫は大学の研究から入った、専門家が多くいるように見受けられる。甲虫専門の書籍はほとんどが高価な専門誌で、とても趣味で始められる環境にはない。
一応、小さなセミがいる(クサゼミ?)。
背の低い草について、かぼそく「シシシシシ」と鳴いている。
採り方はコオロギを採る要領で。(サンディエゴ)
ところで、弁論会など大好きなアメリカ人は、昆虫採集についても議論を常に白熱させている。特に多く見るのが、「採集派」と「非採集派」との対立である。この議論は互いの価値観などの違いによるもので、結論がある議論でもなく、エンドレスに議論が続くのである。メールリストの多くもこの議題が取り上げられ、最後には互いに傷つけあう、醜い議論になることが多い。よって、アメリカで自分が採集家であるかどうかは、相手がどう考えているか知るまで、ふせておくのが無難である。中にはこの議論をしない事を前提とするメールリストなどもあるので、いろいろと探して見てみるといい。採集家が非採集家を責める事はまずないが、究極の非採集家は採集家を「悪魔の化身」とまで呼び罵るので、始末が悪い。これはある意味捕鯨反対やイルカ保護に対する自然環境団体を髣髴させるものがある。採集家である方は、この様な議論に入っても、不愉快な思いしかしないので無視すべきである。もし議論するのは大好きと言うことであれば、ぜひ参加を。
アメリカの昆虫相
何といっても北アメリカ大陸は「大陸」だけあって、広い!東と西で時差は4時間もあるし、北と南では同じ時期に夏と冬のような温度差がある。ロッキー山脈は万年雪をかぶった山々が連なり、年中雨ばかり降る森もあれば、全然雨が降らない砂漠があったりする。こんな様々な地域がある大陸だが、昆虫類は主に「東」と「西」のグループに分けることが出来ると思う。もっと細かく分けるとすると、フロリダやテキサスなどは中南米系の昆虫が入り込んできているので、「南」も特別の地域として分けてみることが出来るかもしれない。もっと細かく分けることも可能だが、あまり細かく分けるとかなり専門的になってくるので、ここでは割愛させていただく。
さて、アメリカ西部だけを見ても、下の写真のように、
こんなとことか、こんなとことか、
こんなとことか、こんなとことか、
こんなとこがある。
上の写真をみてピンとこられる方もいるかもしれないが、西海岸にはあまり目だったクワ・カブはいない。暖かく、水が豊富な広葉樹林が少ないのである。同じような温帯にあるのにクワ・カブが豊富な日本は、本当にラッキーな国だと思う。
では、アメリカの昆虫相の特徴を見てみよう。
アメリカ西部
ヒラタムシの一種(オレゴン州)
アメリカ西部はどちらかと言うと、日本と同じような昆虫たちが生息している。これはアラスカなどを経由して、新大陸にアジア系の昆虫達が渡ってきたせいであろうか。生息している昆虫達も、寒いところから来ました、という感じがする種が多い。西海岸は湿度も低く、夏は太平洋にアラスカからの寒流が流れているため、涼しい。
蝶を見てみるとクモマツマキチョウの一種、キベリタテハ、ウスバアゲハの一種、ヒメヒカゲの一種、カバイロシジミの一種、モンキチョウの仲間、エゾスジグロシロチョウ、ヒョウモンチョウの仲間などが多い。蝶屋の方はこれでピンとくるが、これらは日本の高山蝶や北海道の蝶なのである。
甲虫類も目立って大きい種が少なく、自分もあまり甲虫類を採集した経験がない。南カリフォルニアはまだ大きめな甲虫が生息している方であろう。カブト類で生息しているのは、スリーパーヒメゾウカブト(Megasoma sleeperi)で、体長も3〜4cmという。ここまで小さいと、メガソマ属というよりは、ミニソマ属といったところか。まだ実物を見たことがないので、これはがんばって採集してみたいと思う。何でも砂丘の近くにある、マメ科の木(メスキート)についており、雨が降った翌日に、採れるそうである。
話がそれるが、このスリーパーヒメゾウカブトの情報をインターネットで探していたところ、幼虫の飼育について、サソリモドキやダニを食すなど、どう考えてもガセネタのような情報があった。こんな情報がでるほど、ここアメリカのアマチュア昆虫学は混乱しているのである。
上のヒラタムシを横から見たところ。
まさに、平たい虫。
南西部では東部に見られない砂漠が多くあり、今後調べれば更に色々と面白い種類が見つかるであろう。サンディエゴで興味ある甲虫群は、ツチハンミョウの仲間とゴミムシダマシの仲間がある。ツチハンミョウは幾つかの種を花の上で目撃しているが、残念ながら毒ビンを持っていないことが多く、あまり採集できていない(というか、意図的にしていない)。毒を持っているだけあって、派手な色をしているものがいる。


ツチハンミョウの一種
(サンディエゴ)

ゴミムシダマシは後翅を持たないため、オサムシのごとく、飛べない。つまりオサムシ同様、谷ごとに亜種に分けられるのではないかと思う。捕まえるとガスを噴射してあまりにも臭いので、正直まだ2匹しか標本を作っていないが、2年で6種はみている。いずれも黒光りしている互いに似たような種だが、一度毛むくじゃらの種も目撃したことがある。これはゴミムシダマシとしては珍しいと思うのだが、残念ながら採集することは出来なかった。Eleodes属のゴミムシダマシは、1年を通してサンディエゴで見られる。飼育記録で一番長生きした成虫は何と10年というから驚きだ。クワガタを越す長生き甲虫ということになるが、あまり信頼できない情報源でもあるので、そのうち本などで確認してみたい。


サンディエゴで年中よく見かけるEleodes属のゴミムシダマシ

アメリカ東部
緑色のハンミョウも悪くない。
多分Cicindela sexguttata
アメリカにハンミョウは約100種いるという。
(インディアナ州)
アメリカ東部は、アメリカ西部と比べるとユニークな種類が多いように見られる。主にミシシッピ川の東側は、日本のように寒い冬と蒸し暑い夏があり、広葉樹林が四季を彩る。この豊かな広葉樹林はミヤマクワガタの仲間のエラフスミヤマクワガタが生息し、カブトムシも生息する。セミもいれば、ホタルも意外と多い。
シカゴの様な都会でも少し自然が残っていれば、夏ホタルを見ることが出来る。なお、日本のホタルの幼虫は水生であることで有名だが、これは世界的に見ると珍しいホタルの部類に入る。アメリカのホタルは陸上性が主と思われるが、ホタル類を網羅した資料をまだ見つけることが出来ないので確かではない。確か、他のホタルの発光パターンを真似しておびき寄せ、そのホタルを食べてしまうホタルも生息していたと思う。高速道路を車で走っていると、時折ホタルの群飛にあたる時がある。車のフロントガラスにホタルが数匹ぶつかり、その中身がガラスにこびりつき、しばらく星のようにフロントガラスで点々と光っている様は、なんとも不思議な光景である。
セミでは今年発生した17年周期で発生するジュウシチネンゼミや、ジュウサンネンゼミが有名である。
蝶では中南米系の蝶の仲間である、アオジャコウアゲハ(Battus属)を中心とした擬態種たちが、東アメリカの蝶相をにぎわせている。渡りで有名なオオカバマダラも、東部に多く見られ、前述したこれに擬態するカバイロイチモンジも東部が主な分布となっている。


毒を持つアオジャコウアゲハ


アオジャコウアゲハに擬態する蝶たち
左からトラフアゲハ(メス:黒型)、クスノキアゲハ、メスクロキアゲハ(メス)、
ダイアナヒョウモン(メス)、アオイチモンジ

アメリカ南部(フロリダ・テキサス)
アメリカもフロリダやテキサスの南部まで来ると、中米の昆虫たちが現れ始める。残念ながらこれらの地域で採集をした経験はまだないが、派手な種類だけあって本などに紹介されていることが多い。甲虫類で、カブトではやはりヘルクレスオオカブトムシと同じDynastes属の仲間である、アリゾナ州に生息するグラントシロカブトが中米系の昆虫類に入るであろう。また、東部に広がる広葉樹林は、グラントシロカブトよりやや小型のティティウスカブト(同じくDynastes属)を、首都ワシントンDCなど北部まで住みかを与えている。西部の解説で触れたゾウカブトの仲間(Megasoma属)は、いずれもメキシコの国境の近くに小型種3種が確認されている。この他にはアルゼンチンなどのパンパス地方で発展するニジイロダイコク(Phanaeus属)の仲間が南に数種生息している。


南米色のニジイロダイコクコガネ
左がPhanaeus igneus(フロリダ)、右がPhanaeus vindex(フロリダ)

アメリカ南部まで進出している種も、大抵寒さには耐え切れず、北上には歯止めがかかっている状況だが、それでもさすが昆虫、適応する種は幾つか存在する。蝶で言えばヤドリギルリシジミがそうであるし、タスキアゲハの仲間も南米の蝶である。日本ではなじみのないシジミタテハの仲間も西部を中心に分布しているし、甲虫ではティティウスカブトが思いつくが、おそらくそれ以外にも色々と南米系の昆虫が進出しているはずである。


南米のアゲハチョウ、クレスフォンテスタスキアゲハは
オレンジの害虫となっている。(インディアナ州)

こうやって見てみると、北アメリカ大陸も中々おもしろい昆虫が生息していることが分かっていただけたであろうか。ここでは、昆虫相について簡単にまとめたが、更に生態などについて調べると、また色々と面白いことを発見することが出来る。生態などがかなり分かっている蝶だけでさえ、常識を覆すような昆虫たちがアメリカには存在するのである。自分がアメリカに来て驚いた例をあげてみよう。
・繭を作るベニシジミ
・真っ青なベニシジミ
・幼虫が針葉樹を食すシロチョウ
・幼虫がイトランの葉の中に坑道を作って住むセセリチョウ
・その坑道の中を、すばやく移動することが出来る蛹
・6年間雨が降るまで、蛹のままでいる砂漠のアゲハチョウ
・幼虫が多岐にわたる植物を食すアゲハチョウ
こう考えると、甲虫でもびっくりするような生態をもつ種が、ほかに沢山いてもおかしくない。たとえそのような奇怪な生態が知られていたとしても、専門誌で紹介されているだけで、おそらくあまり知られていないのではないだろうか。アメリカにくる機会がある方は、ぜひ甲虫類の生態解明やその情報整理、そしてそれらをまとめた図鑑作成などチャレンジしてみてはいかがであろうか。
(つづく)

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(c) Kojiro Shiraiwa 2004
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