昆虫採集のススメ
「虫採りピープル」

September 30, 2002
by tsuu3@田中

 

・わくわく

 なかなか寝付かれない夜だった。
 缶ビールを5本も飲んだにもかかわらず眠くならなかった。大好きなエビスビールも5本目となると、味はどうでも良くなって来る。ビールを飲みながらPCのディスプレイにむかい、誰も相手のいないチャットで壁打ちを繰り返す。暇つぶしって奴だ・・・誰も来ない。当たり前だ、こんな時間に。チャットも、ビールも飽きてきた。布団に入ってみよう。眠くなるかもしれない。が、やはり眠くはならない。いつもより、持病の耳鳴りがひどいせいじゃないようだ。子供達も妻も、ぐっすりと寝ている。私が眠れない事なんて全然知らないと思う。理由はわかっている。寝とかなきゃいけないと思っているのに、眠れないのだ。

 誰よりも速く目がさめた。
 いつの間にか寝てしまっていたようだ。何時間寝たかな。せいぜい3時間くらいだ。でも頭はクリア。顔も洗っていない、歯も磨いていないのに。理由は簡単だ。顔を洗って歯も磨く。クリアな頭がさらにさえる。

 TVをつけた。
 天気予報を探し、チャンネルを回す。くだらない番組ばかりだ。天気予報もやっていない。しょうがない・・・FM-Vの電源を入れる。天気予報を見て安心する。急いで出発の準備をする。着替え、タオル、温泉セット(笑)。デジカメをチェックする。こいつを忘れてはいけない。Compact Flashに電池。電池は昨晩からちゃんと充電しておいた。ついで、毒瓶。最後がルアーケースにネットだ。まるで釣りやな(^^;

 出発だ。
 妻が布団の中から「いってらっしゃい、気をつけてね。」と言う。彼女と一緒になって良かったと思うささやかな瞬間だ。子供達はまだぐっすり寝ている。車のエンジンをかける。日曜の早朝は静かだ。私の住むマンションも、裏のマンションも静かに寝息をたてているようだ。NAVIに目的地をセットする。「よし!」と気合いを入れ、ハンドルを切る。車を目的地の山に向け走らせる。アクセルを踏む足が弾む。最初に聞くのはワーグナー。今日はジークフリート、演奏はもちろんフルトヴェングラー指揮のウィーン・フィルだ。

 こんなにも虫にはまるとは思ってもいなかった。採集にどっぷるはまるとは思いもしなかった。採集を想像し、前の日に眠れなくなるなんて。でも次の朝はすっきりと目がさめてしまう。会社に行くのとは違うのだ。週末の午前中ごろごろ寝ていたあの頃とは全然違うのだ。当初「変わったね。」と良く言われた。良い意味の方に受け止めていた(笑)

 今の自分を変えたかったら、クワライフを変えてみたかったら、採集に行ってみてはどうだろうか?お勧めである。採集って行く前からわくわく、どきどきする。行ってからもわくわく、どきどき。大の大人がである・・・でも、採集ってそんな感じなんだと思っている。

 

・ぶなりん

 国道を左にまがり、しばらく走ると林道の入り口だ。小さな集落を抜け標高をぐんぐん上げて行く。途中、開けたキャンプ場を通り過ぎ、くねくね曲がって登山道の入り口に到着する。なれきったコースだ。しかし、私を迎えるこの山の姿はいつも全く違う。一度も同じ姿を見たことはない。何度も何度も来ているのに。毎年同じ時期、春だけに来ているのになぜだろう?

 車を道路脇に止め、登山道入り口の階段を上り始めると、比較的大きな山毛欅達が待ち受けている。「また来たな。今年は例年より早いな。まだ厳しいと思うぞ〜。ま、頑張れや。山頂まで登る必要はないやろ。」と言っているようだ。山小屋の周りをしばし探すがコルリは全くいない。若い山毛欅達はまだ体を堅く閉ざしている。ベストはあと一週間程度後だろうか?

 しばらく人にも虫にも相手にされなくなり、性格の曲がりくねってしまった杉達の間を抜けて進む。かわいそうな奴らだ。京都の東山あたりに植えられていたら、さぞかし過保護に育てられただろうに。少なくとも真っ直ぐな性格にはなっていただろう・・・。

 さらに進む。急に視界が広がり、山毛欅林が一気に広がる。純山毛欅林だ。まだコルリ採集には時期が速いことはわかっていた。しかし今日を逃したら、今年はここに来ることは出来なかっただろう。来ることが出来て良かった。やっぱり来て良かった。

 大きく深呼吸をし、深く空気を吸い込む。安堵と、息吹が体中を包む。ここは年に一度、必ず春に来る場所なのだ。ここに来なきゃ1年間虫が採れないような気がする。採集が始まらないような気がするのだ。ただ、なんとなくなのだが・・・

 最初は虫を採るためだけに来ていた。ただ虫を採りたいだけだった。なのに、虫を採るためだけに来る事はなくなってきている。山に登りたいのだ。山毛欅林に行きたいのだ。山毛欅林に来ると安心する。来るたびに興味が増えてくる。来るたびに目的が変わっている。だから同じ姿には見えないのかもしれない。

 採集の楽しみは、虫を採るだけじゃないんじゃないだろうか。背景の雄大な森との会話、つまり自然を楽しみ遊ぶってことなんじゃないだろうか。採集ってそんな感じなんだと思っている。

  

・虫撮り

 あの新芽はどうかな?
 おったおった。でも駄目だ。また潜っている。潜った写真はもう沢山有る。どっかに良い被写体おらんかなぁ〜。こっちはどうかな?おった♂だ。動いているぞ。落ち着きないなぁ〜。シャッタースピードを最速にし、距離を固定し・・・よしよし撮れた。ついでにコルリも採れた。写真はどうかな?あちゃ〜端っこに写って若干ピンボケ。クソォ〜。旨くいったと思ったのに・・・次をまた狙うか。なかなか良い被写体がいないなぁ〜。今年も良い写真は撮れないのかな、駄目かな?

 まだ諦めるには早いぞ!
 あそこはどうかな?残雪の上の新芽だから寒くていないかもな?どれどれ・・・おや、おるじゃん。じっとしてるぞ。そうかそうか、飛んできたのは良いけど、残雪の上なので、寒いんだ。だからじっとしているのか。これは良いシャッターチャンス。シャッタースピード最速、距離固定、スポット測光・・・ピピッ。方向を変えたりして5枚は撮った。これは良い。綺麗、綺麗。満足、満足(^^)

 今日の採集は終わり?・・・じゃなくて、今度は採る方に専念しましょ。

 最初はひたすら虫を採る事を考えていた。数を稼ぐことに燃えていた。しかしそれは徐々に変わってきた。確かに数も稼ぎたいし、稼がなければいけない種類も沢山いる。でもどちらかと言うと、その虫の野外での生態を知りたいと思うようになってきた。生態を写真に収めたいと思うようになってきた。HPをやっているからかもしれない。簡単に言えば、生きた虫の一瞬を自分の物にしたいのだ。美しい瞬間を収めたいのだ。

 採集の楽しみは計り知れなくて、飼育とは比べ物にならない。そんな採集の目的も、楽しみ方も人それぞれだ。そしてそんな楽しみを見つけるのがまた楽しい。私のお勧めは虫撮りである。虫採りのついでに虫撮りをしてはどうだろうか。最近は良いデジカメが多く、私達素人でも簡単に綺麗に撮れる。虫を採ったり、撮ったりする。採集ってそんな感じなんだと思っている。

  


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