山形出撃ノ巻

2002年 7月12日〜13日

 

 立夏を過ぎて夏至に近づくにつれ、日増しに腰が落ち着かなくなってくる。言うまでも無く、採集シーズンの到来だからだ。もっとも、コルリなどをやる人はもう少し早い のかも知れぬが、メインがまだオオクワの私のシーズン・インは6月からとなる。仲間の中では下見に出たことを除いても、既に6月上旬から本格的に採集にでている者もいた、それも毎週のように。一シーズンで採集に行ける回数が自ずと限られてしまう自分の場合、好機を逃すことは心臓に負担がかかり、また精神にも悪く影響する。繁殖環境に影響の大きい、冬季の材割りをしない私は、なにせ8ヶ月余り、ひたすら飼育個体を眺めてこの時期が来るのを首をなが〜くして待っている。

 にも関わらず、出張やらなんやらで仕事が忙しく、採集地へポンポンと飛び出して行く仲間を横目に、悶々とした日を送っていた。そうこうしている内に、7月中旬にまた海外出張の下・・・・・・。これで意を決した。

 「何が何でも行ってやるう!」

 こうなったら、梃でも意思を変えないのが私の性格。妻にも有無を言わせない迫力(?)だったに違いないだろう。(^_^;) ちょうど7月最初の週末にタカさん、KBさん、佐渡2号さんらが山形へ出撃し、見事な成果を挙げた翌週末、本来福島のとある新ポイントへ、見つけたKBさんと一緒に、佐渡2号さんも誘ってその場所へ出撃しようということになったが、

 「うーん、あそこまで足を伸ばすなら、いっそのこと山形へ行きたいですねー」

KBさんの電話口の言葉は、自分も等しく思っていたことだった故、

 「じゃあ〜」

ということで舵の向きを変えた。佐渡2号さんも、否やはないとのこと。さあ、こうなるともう気持ちは山形。金曜を有給にあて、頭の中は山形への採集一色に彩られるのは、当然というか、必然というか、致し方ないというか、はたまた馬鹿というか・・・。(^_^;) 昨年一度行って、見事に坊主を食らっていたので、闘志も否応なしに膨らんでくる。

 そして金曜は一瞬の如くやってきた。

 KBさんが昼過ぎに我が家の前へ到着。荷物を後部席へ投げ入れ、助手席へ飛び乗るようにしてシートベルトを締めた。

 台風一過の夏空の下、ああ我らKB号は北へ北へと、喜びと期待に満ち溢れながら針路をとったのでーあった。べベン!

 

 予定よりも早くついた私達は、まずは腹ごしらえに件の旨い蕎麦屋へと。この地では、採集の他にこの旨い蕎麦をたぐるのも楽しみのひとつにしている。ここの蕎麦を食べるのも1年ぶりだあ。と、車を店先に止める・・・・・・。なにー!まだ開いてない?!5時を過ぎているのにどういうことだ。うーむと唸ったものの、やってないのはしょうがない。気持ちを採集だけに焦点を当て、コンビニへと踵を返した。それにしても、うーむ、無念。来年はきっと食べてやる。

 コンビニで、日本全国のどこでも手に入ると思われる、代わり映えのしないおにぎりや飲み物を買い込み、採集地を明るいうちに見ることにした。

 山の彼方に夕陽を望み、それとともに空はゆっくりと暗さを増してくる。

 そうこうしている内に、佐渡2号さんが現地入りする時間となり携帯で連絡すると、ちょうど街に入ったところで、合流するのもあとわずかの距離にいたようだ。しかし考えてみれば、埼玉に住んでいる人間と新潟に住んでいる人間が、山形で待ち合わせでするなんて、ちょっと洒落ているではないか。明日はもっと洒落てて、埼玉と新潟の人間に加え、群馬、東京、宮城、それともう一人埼玉からの人間と、ここ山形で待ち合わせている。これが洒落てなくて、なにが洒落ているというのか。まあ、これが女性との待ち合わせだったら洒落てるとともに艶っぽくなるのだが、生憎来るのは野郎、しかもおっちゃんがほとんど。むさ苦しさはあっても、艶なんてある筈もなし。(^_^;) いやいや、それだからいいのだ。(笑)

 

 さて、無事に佐渡2号さんとも合流を果たし、太陽の残光が空を照らすのみとなったころ、一向はまずは灯火ポイントへ。空が闇に覆われる前にセット完了した。その後街灯周りに出撃。そういえば、KBさんと佐渡2号さんは、1週間前にもここに来ている。好きなんだなーと、人のことを言えない私は感心してしまった。

 ゴールデンタイムに入ると・・・・・・はい、まずミヤマ1頭。ちなみに私は短い距離の街灯間を、KBさん持参の自転車で周っていた。はたから見たら、さぞ怪しい。幸い、道路には地元の人もいないし、みな夕餉の後のテレビでも楽しんでいる時間に違いない。会ったらこっちから挨拶しなくちゃ、と思いながら、できるだけブレーキの音を殺しながら街灯の間を行き来した。

 それにしても獲物が来ない。そして、だんだん風が強くなってきて、街灯の蛾までも姿を消してしまった。しばらく静観していたが、状況は悪くなれども良くはならない。

 (まいったなあ・・・・・・)

 勢い込んで来ていた気持ちが不安に変わりつつある。むむ、自然は手強し。少し離れた街灯へ、懐中電灯を自転車のヘッドライト代わりにして急ぐ。向かい風となり、びゅう〜と風が耳元を切っていくのが恨めしい。

 (また強くなりやがったな)

 期待とネガティブな予想が入り混じった気持ちで、街灯の下あたりをくまなく探すが、虫のむの字も見当たらない。

 風はますます、その勢いを増していい気になって吹いている。

 もとの場所に戻って、やまない風にゆれる木々の葉を感じていると、むこうから車がやってきた。・・・KBさんだ。

 「どうですか」

 「だめだねえ。ちょっと風が強くなってきて、ほら、蛾までもいなくなっちゃったよ」

 「そうですね。来る途中までは風がないんですけど、この近くに来てから強く吹いてますよ。どうします、一回灯火に戻って、撤収して移動しますか」

 ということで、3人で灯火セットを片付け移動することになった。灯火を見ると、ミヤマが1頭来ていて、これはこれでまあ良し。

 3人で1台に乗り込み、移動して標高を下げていくと、

 「あれ、あの車。もしかしたらあの人じゃないかなあ・・・・・・地元の人で・・・・・・あ、そうだそうだ。ちょっと話してきます」

 こんなところで知り合いを見つける佐渡2号さん。通ってるのね。(^_^;)

 KBさんと私も車から降りて、話し込んでる二人の男に近づいていって、Tさんと呼ばれる人へ挨拶した。この御仁、過去数年間で、120頭くらい採集している兵らしい。なにせ、仕事が終わってから風呂に入り、目を閉じても周れるくらいに通いなれた道を一通り周って帰宅して、所要時間が1時間だというから、思いっきり地の利が違う。

 「う〜ん今日はねえ、こういう日は採れないよ。今日みたいな日は気温が下がるからね。こんな日は涼しいから、夕涼みにいいから、それで来たんだよ」

  屈託なく言われて、さすが地元人、この地の天気にまで精通しているのか、と思わせるようで妙に説得力があった。そして、4人でたちまちクワ談義。そのうち、1台の他県ナンバーの車。挨拶をしてちょっと話をした後、

 「そういえば、ネットとかやりますか」

というと、明日タカさん達と待ち合わせているという。なーんだ、こんな時間のこんな場所にくる彼らの県のナンバーだから、たぶんそうだろうと思ったが案の定、BAJAさんと爆発栄螺さんだった。彼らとは、この時が初面識。話をきくと、明日が待ちきれなくなって出てきてしまったとのこと。一同、納得の笑い。で唸ったのが、彼らは専らミヤマ狙いなのだが、驚くことに途中しっかりオオクワ♀を1頭街灯下で見つけていた。

 「うちらはミヤマが狙いできたのにミヤマはさっぱりだめ」

とBAJAさん。

 「ノコは結構いましたでしょ」

 「うん、そこそこね〜。で来る途中何か歩いてるから、どうせまたノコの♀だろうと思って拾ったらオオクワだった」

 「へえ〜」

 「こんなのより、ミヤマがいてくれたほうがうちらは嬉しいんだけどね」

 さすが、オオクワ♀を、「こんなの」と言い捨てるBAJAさん。余裕がある。言うまでもなく、爆発栄螺さんも同じ思いらしく、後ろで静かににっこりと笑っていた。

 クワ好きが6人になり、深夜の路上会議はさらに弾んだ。しかし時がたつにつれ、風はさらに強くなり、半袖一枚では寒くなるほどに気温が下がってきた。こうなると、さすがに諦めるしかあるまい。しきりに自宅へ招待するTさんに従って、KBさん、佐渡2号さん、それと私で深夜の訪問と相成った。BAJAさんと爆発栄螺さんは、また明日と言って、何処かへ旅立っていった。

 Tさんは単身でかの地へ赴任しているため、部屋で待っていたのは、彼が丹精込めて飼育した山形産オオクワだった。みなWF1で、すべてマット飼育でしかも軒並み75mm。やるじゃん!という感嘆。そして、彼が見せてくれた地元採集のミヤマクワガタ数頭の標本。これが実は、今年の自分に与えた影響というのは大きかった。

 Tさん宅を辞して、佐渡2号さんは一度自宅へ帰ることに。え?これから帰って、また明日こっちへ?安全運転で、また明日会いましょうー!そして、KBさんと私は、山中で眠るのに適当な場所を見つけ、長く、オオクワ採集とはならなかったが実り多い1日を終えて、眠りについた。空には、新しい一日の光が満ち初めていた。

 

 耳栓とアイマスクのお陰で、5時間程度だがそれなりに眠れた。天気は暑いくらいに晴れている。まずは、腹ごしらえをしなくてはならない。蕎麦だ。昨日のリベンジとはいかないが、旨い蕎麦に飢えていたKBさんと私は、見た目が良さそうな蕎麦屋へ入った。見た目といっても、小奇麗だとか、そういった意味合いではなく、蕎麦屋として心意気を感じる店構えのことである。蕎麦屋なのに食堂と映るような蕎麦屋は、たいてい味も悪い。ちなみに、これまで採集しに行って食べた蕎麦屋で一番気に入ってるのは、南会津の「おり田」という、これはもうここの主の心意気があふれた店構えと、その期待に反しない蕎麦を食べさせてくれるところだ。付け出しも、 細長く切った大根の漬物に海苔を巻いた、まるで鶴を想わせるようでいて、しかも旨いものだった。

 KBさんと入った蕎麦屋も、まずまず舌を満たしてくれた。空腹感を払拭できた私たちは、次は当然、これも採集でのお楽しみ、温泉へと向かった。朝方までの夜遊びで疲れた体を休め疲れを取るにはこれが一番で、それはその日の夜への準備となる。

 たっぷりとお湯の張った湯船に入り全身を伸ばして筋肉をほぐし、頭と体を洗ってでると、さっぱりとした良い気分となった。鋭気が五体にみなぎっていく。・・・と、どこかで見た顔。BAJAさんと爆発栄螺さんだった。先に上がっていたKBさんは話をしたらしい。温泉なんて、そこそこあるのに、奇遇といえば奇遇。

 さて、ちょっと寄り道して再び採集エリアへ。KBさんと、今夜はどこに灯火を張ろうかとの作戦会議。一通り見て候補をいくつか頭に入れ、夜食などを買いにコンビニへ。今日はタカさんを初めとする面々も山形入りなので、まるでオフミのようで、それだけで楽しくなってしまう。コンビニで、また代わり映えのしないおにぎりを選んでると、

 「あ、そうか。ラーメンに使う水もってけばいいのか」

と聞き覚えのある声。なんと、スズリさんだった。その横に、なべさんもいて笑いかけてくれた。おー、群馬隊も到着かあ、などと思っていると、右肩をポーンと誰かが叩いた。

 「ども!」

namihiroさんだ。

 「あー、どうも、どうもー。早かったですね」

などと再会を楽しむ。お店でカップラーメンにお湯を入れてもらい、外へ出るとKBさんもカップラーメンをすすっていた。

 腹ごしらえの終わった私たちは、先にコンビニを離れた群馬隊の後を追った。ふと見上げると、KBさんと今夜灯火を張ろうと話していた方角の雲行きがあやしい。二人で相談した結果、とりあえず集合場所へ急いだ。

 待ち合わせの場所へ着くと、いたいた。タカさんとエンダーさんが何か食べながら談笑している。車から降りて歩いていくと、こちらを認めて手をあげた。しばらくすると、群馬隊も到着。なんと、もう灯火を張る場所を選定してきたらしい。素早い!完全、オフミ状態と化して、みなで談笑を始めた。楽しくってしょうがない。結局、灯火力の強い群馬隊だけ違う場所で張り、後のみんなはKBさんが見つけた、前夜と同じ場所で、「灯火まつり」を行うこととなった。佐渡2号さんへ、場所の変更を伝えようと連絡すると、ちょうどこちらに向かっていて、街の方は雨だという。おいおい、大丈夫かいな。もう今夜しかなくて、明日は帰るんだぞ。天気に喧嘩を売っても始まらないので、灯火ポイントへ。到着すると、BAJAさん、爆発栄螺さんと再会し、しばしミヤマのことで話が盛り上がり、70mmのオス1頭とだったら、オオクワ♀1頭と交換してもよいという勢いの良い話まででて、みな自然と盛り上がってきていた。

 みなが灯火をセットし、スイッチオン!し暫くすると、夕闇の空がぱあーっと明るくなった。縁日ができそうなくらいで、やっぱりおまつり。採集オフと相成った。(^_^)

 かなり暗くなってきて、あと少しで漆黒の空と化すとき佐渡2号さん到着。急いで灯火を張る。これでこの場所には、KBセット、エンダーセット、BAJAセット、爆発栄螺セット、そして佐渡2号セットの、計5灯火セットが花開いたのであった。

 こう暗くなってくると、一番最初に我慢できなくなってくるのは、タカさんで、

 「じゃあ、そろそろ、私は街灯めぐりに出てきます」

と、単独出撃。さすが、街灯の申し子だ。(^_^;) KBさんと私は、それから30分くらいしてから、こちらも我慢できなくなって、

 「じゃあ、私たちも行って来ます」

と出撃。

 「いってらっしゃーい」

の声を聞き終わらないうちに、KBさんが車を出した。

 「きょうの方が、気温がかなり高いね」

 「そうですね。風もないですし、期待できますよ!」

 「そうだね。タカさんもう拾ってるかもよ」

などという会話をしながら、ひとつひとつポイントを見て行く。昨日自転車で一人で周っていたところも、車だとなんと速いことか。ポイントをチェックするたびに、ミヤマ、ノコは、ルアーケースを埋めていくのだが、肝心の本命種がいない。しばらくいくと、タカさんが自販機の前で屈んでいた。

 「採れましたかあ」

ひょいと顔を上げたタカさんは、

 「うん、一般種は結構拾ったよ。でも肝心なのがまだ」

タカさんもまだ採集していないと言うことは、これからか。

 「こっち行きましたか」

 「ううん。今下行ってもどってきて、これから行こうと思ってたところ」

 「そうですか」

 「こっち、先に行かせてもらってもいいかな」

 「あ、いいですよ。僕たち下をもう一度見てきますから」

 何気ない会話だが、これがこの日の結果を大きく左右することになる。

 車を走らせながら、二人は路面を睨むように見る。街灯の一つで車を降り、あたりをくまなく探しにはいる。黒いものが地面を歩いている。一瞬、おっ!っと思ったが、顎の形や体つきからノコのオスかなっと思って近寄ると、やっぱり。KBさんも。ノコのオスを1頭拾ったようだった。

 さらに車を進める。ここまで降りてくると、ミヤマはまったく見えず、ノコがほとんど。標高が気になるKBさんは、

 「ちょっとこの辺、標高低い気がするんですよねえ、ノコばっかで。いないとは思わないけど、確立下がるんじゃないかなあ」

 「まあ、確立は悪くなるだろうけど、実際採ってる人もいるし、行くだけいってみようよ」

 「そうですね」

というわけで、地元名人Tさんによる採集できる最下点の街灯付近に車を止めて、あたりを探す。いない。蛾は良く飛んでるが、オオクワの姿はない。探す場所を入れ替えて、お互いが見たところをもう一度みる。

 「いた!・・・・・・あ、伊賀さん、オオクワ!」

なんと、いまさっき自分が見たところで、KBさんが昨日からずっと聞きたかったことを言っている。

 「え、ほんと?」

 「点刻線がありますから、間違いないですよ」

 「やったなあー」

喜びが溢れてくる。

 「で、あるってたの?」

 「いえ、ひっくり返ってました」

 この時、二人の頭に浮かんだのは、

 (飛び始めた)

このことであった。

 「KBさん、飛び始めたんだよ。もどろう!」

 「そうですね、急ぎましょう!」

走るように車に飛び乗り、今来た道を引き返した。

 車内では、当然、興奮の嵐。1頭採ると浅ましいもので、もう1頭採れるような気がしてくる。人とは実にお気楽で勝手なものだ。

 「今日は行けますよ」

とKBさん。

 「そうだね。良い感じだよ」

 車は緩やかなカーブを曲がり、そこに街灯がある。(ん?)と思った瞬間、

 「あ、なんかあるってる・・・・・・絶対オオクワ!絶対オオクワー!!」

KBさんの絶叫がほとばしった。(ん?)と思ったところをみると、明らかに真っ黒いクワガタが歩いている。オオクワだと思いながら、どこか信じられない私は、凝っと黒いものを見つめたまま車を降りた。そして足元を、暗闇に逃げるようにしているのを、しっかりと掴んでみると、紛れも無いオオクワガタのオスであった。

 「KBさん、オスだよオス!!」

 「やったあー!いま、絶対オオクワだって、すぐに思いましたよー」

 「やったねえ。結構大きいよ。・・・んー、60はあるな」

 「そうですね。結構立派なオスですよね」

 「いいねえ」

 「いいですねえ」

 そうはしゃいで、お互いにっこり笑いあって、ガッチリと握手した。

 こうなると、ぐずぐずしてはいられない。柳の下に泥鰌。急げ!となる。

 オスの採集によって興奮は最高潮に達し、もう行け行けムードとなった。

 (まだ、今日はいける)

KBさんもそう思っていたことだろう。何せ、その日はついている気がした。そうこうしている内に、またポイントの街灯。行きでは、ミヤマの♂1頭しかいなかった場所だ。さっと車から降りて、私たちは街灯に近づいていった。灯りのある壁の上に、黒いものを見つけた私は歩きながら、

 「KBさん。あの上になんかいるよ」

 「そうですね。ミヤマのメスかな」

 「・・・・・・いや、あの黒光りはオオクワだよ!絶対オオクワ!!」

こんどは、私がこの台詞の主となった。そして採ってみると、これも紛れも無いオオクワのメスだった。

 「やりましたねー」

 「そうだねー、これで今日3頭目だよ〜」

さすがに3頭目となると、少し落ち着いたものだが、ここで再度ガッチリ握手した。

 街灯周りで3頭も採れれば、上出来も上出来。それ以上は、特別望まない謙虚なKBさんと私。(^_^;) が、その後も街灯を通るたびチェック。(^_^;;;) まあそうそう泥鰌は何匹もいるわけなし。そうこうしていると、前方から車がやってくた。車からしてタカさんのようだ。

 「KBさん、なんにも無かった顔しよう。採れなかったって顔してようよ」

 「そうですね、そうしましょう」

二人でニヤっと笑った。

 「あーどうも」

 「タカさんどうも。どうでした」

とKBさん。

 「私はだめ。普通種はたくさん採ったけどね。でも上の灯火で、4メス来たよ。KBさんのトラップにも飛んで来たって」

 「えー、凄いですね〜」

 「うん。それと、群馬が1オス」

 そろそろいいだろう。ちょんと、KBさんの肩を突っついた。

 「そうですかあ。それは良かったですねえ」

といって握手を求めるKBさん。結構役者である。

 「え、私じゃないよ」

なおも微笑みながら握手を求めるKBさんに、

 「いやぁ、だから私じゃないって。上の連中と握手してくださいよ」

 「いえ、そうじゃなくて、我々の分ですよ」

 「へ?」

何がなんだかわからないようなタカさんの表情に、助手席で私は満面の笑みを浮かべていた。(^_^)v

 「1♂2♀採りましたよ。私が1♂1♀、伊賀さんが1♀。合計で3頭」

 「え!ほんと?!どこで?」

 「さっきタカさんと別れたあと、下で」

 「ああ〜、時間差かあ〜」

 ハンドルを握ったまま、無念そうに天を仰ぐタカさん。

 「そうかあ・・・・・・。じゃあ私、もう一度周ってきます」

そういって、タカさんは走り去っていった。

 灯火を張った場所に戻り、戦果を報告してみなと握手。BAJAさんと爆発栄螺さんたちも、ミヤマをたんと採れて満足気だった。

 興奮の疲れと、充実感から、話をしながらタバコを吸った。発電機の音を聞きながらタバコをくゆらす。旨いなあ。これだから採集はいい。余裕をかまして話をしていたら、爆発栄螺さんがおっ!っと行ってKB灯火に近寄っていく。何気なく拾って、

 「オオクワ♀」

おおー!っと一同。40mmくらいの、なかなか良い型の♀だった。

 そのうちにとうとう雨が降り出し、みな撤収。2回目の街灯周りに出ていたKBさんと私は、すれ違ったBAJA号からみな撤収した旨を聞き、急いでセットの回収へ向かった。途中、佐渡2号さん車とすれ違うが、ハンドルを握る佐渡2号さんの表情と、車のスピードから、

 (街灯周りに出たみたいだなあ)

と感じた。なんという根性だ!凄い。

 無事KBさんの灯火セットを撤収し、集合場所でみんなと合流。しばし、談笑。そろそろ帰るか、となり、途中群馬隊に寄る事に。防雨仕様の群馬隊の灯火には、まだ明るく火が灯っていた。

 先に着いていたタカさんから、エンダーさんがミヤマの大型をもらったお礼にと、オオクワ♀1頭を群馬隊にあげたことを聞いたKBさんは、

 「えー、いいなあ。僕も交換してもらうかなあ」

ちょっと驚き気味のタカさん。横で聞いてた私も内心、(もったいないなあ)と思ったが、まあ、KBさんは既に2♀先週採っているので、そう何頭もオオクワ♀がいても仕方がないっていう気持ちは分かる。ましてや、ここのミヤマはエゾ型なので、関東ではお目にかかれない。

 エンダーさんからのオオクワ提出で驚いていたnamihironさんへ、今度はKBさんがオオクワ♀を持って、

 「ミヤマと交換してもらっていいですかあ」

とやってきたので、

 「えー!またですかー、本当にいいんですかー」

信じられないといった感の、namihironさんの声が聞こえてきた。

 

*****エピローグ*******************************

 

 それにしても楽しい採集だった。複数の場所から仲間が集まっての採集は、まさにオフミ状態で、それだけでも実り多きことだった。KBさんが見つけたオオクワ♂個体は62mmで、なかなか立派は個体であった。彼のご好意で、そのオスは我が家で宿を取ることとなり、結果この採集で得たオオクワガタはペアとなった。それも去ることながら、Tさんに見せてもらったミヤマの標本は、子供のころ初めてミヤマを採集したときの感動をヴィヴィッドに思い出させてくれ、またその格好良さを再認識させ、私をすっかりミヤマへ惚れさせた、いや惚れ直させたきっかけとなった。今私の部屋には、タカさんやKBさんから戴いたものや、自分で採集した ミヤマの個体が、自作展足版の上で固まるのを待っている。来年は、間違いなく、ミヤマの標本は増えることだろう。それを見込んで、既に標本箱は余分に買ってある。(^_^)v

 しかし思えば思うほど、みなで集まって共通した趣味で楽しめるのは、なんとすばらしいことか。集まってワイワイやるだけで、オオクワなど採れなくても楽しいものなのである。採れればなお楽しいが、採れるのが絶対条件ではない。仲間に会うことを楽しみ、採集にでること自体を楽しむ。

 これぞ良き哉。

 




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