StagBeetlingークワガタと双眼鏡

WASHI







<StagBeetling>バードウォッチングのことを英語でBirdingというらしい。バードウォッチャーはBirderだ。そして、チョウチョやトンボを観察するという高尚な趣味があり、それを指す単語はButterflyingであり、Dragonflyingなのだ。Beetlingという言葉もちゃんとあるが、「突き出た」という意味の形容詞と、フォルクスワーゲン趣味のことになってしまう。ButterflyingのようにStagBeetlingがあってもいいじゃないか。魚釣りのことをFishingというのだから、クワガタ採集もStagBeetlingでいいじゃないか。ってことは、StagBeetlingはクワガタを観察したり採集することだ。つまり、採集派も飼育派もこれを読んでるあなたはStagBeetlerなのです。

<双眼鏡>ということで、双眼鏡のことを書きたかったのだ。Birdingに双眼鏡は定番のようにStagBeetlingにも双眼鏡は定番となりうるのだろうか?あったら便利に違いない。木の高い場所の樹液についている虫が見えるし、木の枝につくアカアシクワガタやヒメオオクワガタの発見に威力があるかもしれない。採集地を探すとき樹木の確認に使える。近づかないで見えるってなんてすばらしいんだ。しかし、双眼鏡は、ただ単に物を大きく見せるというだけではない。双眼鏡を手にすることによって、立体的に迫力のあるクワガタの生態を間近にすることができるのだ。また、森の中や夜間採集の薄暗い状況下でも双眼鏡の集光力で見えてくるのだ。実際に近づいて見るよりも双眼鏡で見た方がよく見えるのです。

色々な双眼鏡

<立体視>双眼鏡の特徴の一つは立体視ができることだ。そして肉眼でみるよりも立体感を強調できる。ここでちょっと実験をしてみた。裸眼で立体視ができる人はちょっと試してみて下さい。できない人はすいません、説明します。オウゴンオニクワガタとミヤマクワガタが闘って、コーカサスオオカブトが眺めているオブジェなのですが、上は1センチずらして撮った写真で、下は5センチずらして撮った写真です。実はミヤマクワガタの上にタケトラカミキリが乗っているんですけど、わかんないですね。で、どうでしょう、下の写真の方が立体感が強調されているのがわかるでしょうか。両眼は離れているほど立体感(浮き上がり度)が強くなります。この立体感によって、肉眼では見過ごしていたクワガタが発見できたりするのです。そして、裸眼で見るよりクワガタの動きがくっきりと浮かび上がってくるのです。部屋の中で飼っているクワガタでさえ、双眼鏡で見ると違った美しさが見えてきます。

1センチメートル
5センチメートル




<明るさ>また、双眼鏡が有利な点は、肉眼より明るく見ることができることだ。ただし、これは口径と倍率に依存する。双眼鏡のスペックは8x30と書いてあれば、倍率が8倍で口径が30ミリということになる。双眼鏡の場合、倍率8倍というのは100メートル離れている対象物が8分の1の距離の12.5メートル離れている位置からの大きさに見えることで、口径30ミリというのは対物レンズの直径が30ミリということだ。(口径/倍率)の値を「瞳径」と呼び、これが肉眼の瞳の直径より小さいと暗く感じ、大きいとオーバースペックになる。人間の瞳の直径は明るさによって2〜7ミリに変化するから、使用する状況によって定番のスペックが存在する。たとえば、昼間の明るいときしか使わないのなら8x20とか10x25、夕方や森の中など薄暗いところでも使うBirdingでは8x32とか10x40、夜に星を見る定番は7x50だ。ただし、レンズ面での反射などもあるため、同じスペックでも高価な双眼鏡ほど明るく感じる。つまりは適切な双眼鏡を使えば、懐中電灯を当てた先や、薄暗い森の中でもクワガタを確認できるのだ。下の画像は、左が明るい双眼鏡、右が暗い双眼鏡で見たイメージ図です。

明るさ




<選ぶポイント>双眼鏡を選ぶポイントは口径と倍率の他に、重さ、大きさ、視界の広さ、最短合焦距離、防水性能、眼鏡をかけたまま使えるか、などがある。口径が大きいと一般に重くて大きくなる。倍率は低いほど手ブレの影響も少なくなるし、同口径では明るくなる。あとの要素は値段も含めてトレードオフの関係になるので使用状況によって選ぶことになる。では、StagBeetlingにはどのようなスペックがよいのだろうか。採集のお供にするのだから、小さくて軽い方がよい。森の中や夜間にも使うから瞳径は大きく明るい方がよい。夜間採集では左手に懐中電灯、右手に双眼鏡なんて状況があるから片手で扱え、手ぶれしづらいように倍率は低い方がよい。藪に分け入ったり、夜露にあたることもあるから丈夫で防水性があった方がよい。樹上の樹液を確認したり、迫力のある昆虫の生態を間近に見るためには近距離まで使える方がよい。なかなかそんな都合のよいものはありません。

<StagBeetling用双眼鏡>StagBeetling用双眼鏡に求められるスペックがBirding用と異なるのは、低倍率でよいことと近接能力が必要なことだ。ほとんどの双眼鏡は鳥見と星見と観劇を対象にしている。星ははるか彼方の物だし、鳥だってそんなに近づけないから4メートルぐらいの近接能力で十分だ。しかし、昆虫なら1メートルぐらいまで近寄れる。アメリカ市場にはButterflying用を謳った双眼鏡がEagleOpticsのPlatinumシリーズなどいくつかあるのだが、そういったものは(おそらく)日本製なのに国内では販売していない。そんな中、不肖WASHIがStagBeetling用に投入した機種はVixenのApex7x36だ。明るさは十分だし、上に挙げた条件をすべて満たしている。カタログスペック以上に近寄れ、自分の目では1.2メートルまで接近できる。この近接能力は貴重だ。木漏れ日越しの逆光にも強いので現状ではベストに近い。

上に挙げた機種以外では、体力がある人はもう少し大きいものでもよいかもしれません。一般的には、コンパクトな口径20ミリクラスの双眼鏡が候補に挙がってよいはずです。しかし、Pentax、Minolta、Nikonなど各社のこのクラスの双眼鏡は8倍以上の高倍率製品しかないのが残念です。ただ、最近はこれら小型の双眼鏡も2メートルほどの近距離に対応するようになっているので明るさ以外は十分な性能があると言っていいと思います。

<おわりに>「Butterflying」を検索してみるとけっこうな数が検出されます。最初は、こういう虫屋のありかたがあるのを知ってちょっと驚きました。でも、よく考えてみると自分も似たようなことはしていました。ただ、双眼鏡で見るという発想はなかったのです。試しに双眼鏡で虫を見ると活き活きとした虫の活動が見えてきて新鮮な感覚でした。それ以来、かなりの出費をしましたが、StagBeetlingのために必要な双眼鏡という点で今のところ納得している結論をこの記事では書いています。


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