あれぁイイ日だった-オキナワノコギリクワガタ編-/ 標本修理工T



 

 オキナワノコギリといえば、リュウキュウノコギリの別称。でも、リュウキュウノコギリというと、一般にはアマミノコギリのことを指す。うーん、微妙微妙。まぁ、そんなことはどーでもいいか。

 私がオキナワノコギリのことを知ったのは、えーと、いつだったかな? たぶん、小学3年生の時に見た図鑑じゃなかったかな? いやいや、亜種としてオキナワノコギリのことを知ったのは小学五年の時だな。うん、そうだ。確か双葉社のクワガタムシ最新図鑑で知ったんだった。

 分布は結構広いですな。沖縄に近接する離島にはあらかたいるみたい。ちょっと離れた所だと、伊平屋島に分布。座間味諸島からは見つかってないけど、いてもおかしくない。伊平屋島のオキナワノコギリは珍品といってもおかしくないほど採れないので、座間味も同じような感じなんじゃないかと予想している。

 ちなみに、伊平屋のノコギリはかなり変わっている。クメノコに似ているのだ。しかし、個体数が少なく、大型個体は今までに1〜2頭しか採集されていないかもしれない。ちんぴんだよぅ(某FW店主のマネ……って言っても誰もわからんか)。
 

沖縄本島編

 生きたオキナワノコギリと初対面したのは、1995年10月。オキナワマルバネを採集に行った時、宿泊していた辺土名の宿にある自動販売機の灯りに来ていたオニ擦れ♀が、私が初めて手にしたオキナワノコギリだった。ただし、この♀はあまりに擦れがヒドかったので、その場で捨ててしまったけれど……。

 時は流れ、1997年夏。私はなかなか連休なるものが取れない仕事についていたため、採集に行けない日々にモンモンとしていた。禁断症状が出ていたと言っても過言ではないかもしれない。そんな中、なんとかスケジュールを調整して、3泊4日の沖縄旅行を実現することができた。

とは言っても、出発当日は昼までギリギリ仕事をして、帰ってきた日は午後から出社するという、強行すぎるスケジュールではあったのだが……(この沖縄行きの飛行機チケットを入手する際、車で買いに行ったんだけど、右折禁止で右折してしまい、たまたま目の前にいた白バイにつかまったアホは私です)。

 7月初旬。沖縄にいる知人に連絡をとって、現地で待ち合わせ。今回の旅行は、この知人に案内をしてもらう予定なので、ポイントを改めて探すとかはない分、時間的にキツイ私には楽だ。しかし、それより問題なのは天気。

通常、7月頭の沖縄というのは、梅雨明けして晴天続きとなるはずなのだが、この年の沖縄の梅雨明けは遅れに遅れ、7月に入ってもまだぐずついていた。正確には、沖縄本島が気圧の“ヘリ”とやらにいるらしくて、雲が多いようだ。ここでも私の雨男ぶりが発揮されるとは思ってもいなかった。天候さえも変えてしまう男であった。

 今回の採集の目的は、オキナワノコギリの68mmオーバーと、オキナワコクワの31mmオーバーだ。オキナワヒラタはマルバネの時期の方が大型が採れる可能性が高いので、今回は狙いからはずす。がんばれば採れるかもしれないけど、時間もないしね。

ちなみに、オキナワノコギリの68mmオーバーというのは、1994年までのギネスサイズ。オキナワコクワの31mmオーバーというのは、おそらく30♂♂に1頭くらいじゃないかなーと思う。オキナワコクワを30♂♂採るのって、けっこう時間かかるよー。

 小雨降る中、ポイントの沖縄北部へ車を走らせる。数日前にバナナトラップの汁をこぼしたという車内は強烈な臭いが充満していたが、これはガマンするしかあるまい(笑)。

 ポイントへ着いたものの、雨がけっこう降っている。とりあえず事前に仕掛けてもらっていたバナトラを見に行ってみるが、すこーしだけノコギリがついていた。大きくても50mm台前半。これでは話になりませんなー。

 採集を終えて、沖縄南部に戻ってきたのは朝方4時頃。沖縄がこんな調子ではマズイなーと思った私は、急遽久米島行きを決定! 2〜3時間の睡眠をとって、久米島行きの船着き場まで送ってもらった(今回の「あれイイ」はオキナワノコギリなので、久米島の話は割愛しますね)。

 久米島から帰ってきた当日。久米島で徹夜採集をした私は、心身ともに疲れがピークに達していた。気持ち悪い。しかし、今夜が最後の晩。ここでムリをしなければどこでムリをするというのだ。一路沖縄北部へ向けて車は出発する。

 午後8時、ポイント到着。今日のポイントは初日とは違い、ミカン畑である。初日は来た時間が遅かったため、ミカン畑の持ち主に許可を得ることができなかったのだ。今回は早めなので、ちゃんと許可を得て採集を開始する。

同行の知人は車の中で寝ているというので、私一人でミカン畑の中へ潜りこむ。「潜りこむ」といった表現を使ったが、これはまさにそのまんま。ここのミカンは低い位置からも枝が水平に出ているので、四つんばいにならないと幹の部分までたどり着けない。実は、これはかなり危険なことなのだ。毎日雨が降っているような状況で、場所は畑。ハブが出る条件ぴったりだ。こんな所で四つんばいの状態でハブに出会ったら……。

 しかし、ハブのことなんか頭から吹っ飛ぶような現状が目に飛び込んでくる。どの木を見ても、ノコギリがベタベタついているのだ。これは寿命が延びそうだ! ミカンの樹液にクワガタが来るというのは小学生の時から知ってはいたが、奄美でミカンから採集した時は、こんなについていなかった。 

 ここのノコギリはすごい! これが噂に聞く「クワガタウハウハ鬼採り」ってヤツだろうか? ほとんどすべての木にノコギリがついていると言っても過言じゃないだろう。不思議なことにほとんどがノコギリで、ヒラタはほんの3〜4匹だった。

 わずか1時間ほどで毒ビンが真っ黒になった。おそらく100頭以上入っていると思うが、全然満足できない。なぜかというと、大型個体が極端に少ないのだ。1匹だけ計るのが楽しみな個体がいるが、他はほとんど小歯型。オキナワノコギリの大歯型は、やはり難しいのである。

 ミカン畑での大量採集に気をよくした私は、とりあえず水分補給。しかし、これがいけなかった。体調が悪いのはそのままなので、ジュースを飲んだらまた気持ち悪くなってしまった。そのまま車の中で1時間ほど休憩。体調がちょっと悪いからって、このまま帰るわけにはいくまい。何しにきたんだオマエは!

 休憩終了後、前日行ったポイントへ行く。ここのポイント直前に、なんかの基地(米軍基地ではない)があるんだけど、ここの外灯がまたイイ感じで、地面にいきなりオキナワカブトが鎮座していて、金網にオキナワトゲウスバカミキリまでついていた。オキナワトゲウスバはかなりな珍品で、こいつはその後、70mmオーバーの「タダヒラタ」と交換と相成った。

 さて、ここに仕掛けてあるバナナトラップでは、大量のオキナワコクワを採集することができたものの、ノコギリの方はというとさっぱりで、今回のノコギリ特大は諦めざるを得ない状況となってきた。ミカン畑で採集した一番デカイのが何oかわからぬが、もうひとつ、抜けたヤツが採りたかった。

 夜中12時をまわり、日付が変わった。知人が「他にも良い水銀灯がある」というので、淡い期待をしつつそちらへ向かう。そこは某大学の施設のひとつで、どまんなかに煌々(こうこう)と水銀灯が点いていた。

 その周辺を見てみるが、クワガタと名の付くものはなにも落ちておらず、「これはダメか……」と思いながら、近くにあるソテツの上の方に目を向けた瞬間、目がくぎ付けになった。

 「……いた」

 ソテツの皮に隠れてはいるが、かなりデカイ大腮が見えている。「尻隠してあご隠さず」だ。ジャンプすれば届くか……よっと、よっしゃ、ゲット!

 こいつはかなりデカイ。しかも、大腮が太めのタイプで、昔の松島氏のギネスと同じ形をしている。オキナワノコギリって、大腮が太いのと細いのと、曲がりが強いのがいる。曲がりが強いのは現ギネスになっているヤツで、前ギネスが大腮細めのオキナワノコギリ通常タイプ。その前のギネスが松島氏ので、これが大腮太めタイプだね。大腮太めは迫力があってかっこいい! 体も太い場合が多いから、余計にかっこいい(と私は思っているぞな)。

この個体を見た時、ここを案内してくれた知人は「もしかしていっちゃってる(ギネス超えてる)かも……」と思ったそうである(この時のギネスは70mm)。そのくらい迫力のある個体だったのだ。

 知人宅へ帰り、さっそく計ってみる。ミカン畑で採った最大は64mmで、琉大施設で採集したのが67.5mmの特大だった。ミカン畑の個体はもっとデカイかと思っていたのでちょっと拍子抜け。琉大で採った67.5mmも、実はギネスクラスかと期待していたので、かなーり残念(←またバカが出現!)。しかしデカイ。こんなサイズ、採集した人はそうそういないでしょ。

採集目標である68mmにはわずかに届かなかったものの、これで不満を漏らしたら神様に怒られそうだ。かなり満足のいく形をしているので、文句はないッス。

 結局その日もほとんど眠らず、朝の飛行機に飛び乗った。飛行機の中でちょっと眠ったが、飛行機の中って安眠できる空間じゃないんだよね。イスが窮屈だし。

そんなこんなで午後から仕事に戻り、そこから休みなしで7日連続出社。さすがの私も心身ともにボロボロになりつつ、採ってきたノコギリで心を癒す日々が続いたとさ。メデタシメデタシ。
 

終劇

(上写真左が67.5mm、右が64mm。60mmオーバーは100♂♂採ってもそれほど採れるものではなく、ほとんどは小歯型と思った方が良いですな)

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