蛹を診る

by A.CHIBA



   

累代飼育において無事羽化した新成虫を手にするのは嬉しいものですが、初めて見た蛹化の瞬間も結構感動ものでした。特に変態完了直後の半透明な蛹はどれも精巧なガラス細工を思わせる繊細さが有り美しいものです。この完全変態の1ステージである蛹化の直後しばらくは、動く事も殆ど無く虫を感じさせない間でもあります。おそらく虫が嫌いな人でもこれらを見たならば、嫌悪感も無く綺麗だと感じるに違いないでしょう。
蛹化の前後は大事な時期であまり手を出すのも良くないのですが、美しい蛹を見る事は飼育において大きな楽しみになってしまいました。外から中の見えない蛹室も誘惑に勝てずついつい開いてしまうのです。どうしても蛹が見たくて飼育を始めた種も有りました。
いわゆる芋虫から劇的に体型が変わる場面は何度見ても飽きないのですが、中にはなんらかの原因で上手く蛹になれないものや、蛹化しても型が不完全になってしまうものが出てしまいます。大顎が変形していたり前胸背版が歪になっている場合などさまざまですが、正常な羽化が望めない蛹を見ているのはなかなか忍びないことで、何とかならないものかといつも考えてしまいます。
殆ど何とも出来ないわけですが・・・。



最初の写真は飼育を始めてから何とか蛹化までたどり着いたユダイクスミヤマの1頭です。
蛹室の殆どは飼育している容器の外側からは見えない位置に作られていました。当然、蛹化したての蛹を見たくて時期を見定め幾つかの蛹室を慎重に開いていったのです。
原因は分りませんが中に1頭、次の写真の様に背面から見て左側後脚のケイ節が曲がって蛹になった個体がありました。この蛹の場合飼育している瓶の外から中が多少見えた為、蛹化したのは確認出来ましたが、脚に異常があると分ったのは外に出してからです。こんな具合に脚が曲がって蛹化してしまう現象は今まで飼育して来た中でこの個体以外に他の種で1例有っただけです。
蛹化してから1週間程度は経過していたのですが、脚はブラブラしている状態で、辛うじて外皮は破れていませんでした。このままにしておけば、体を動かすたびに折れ曲がり外皮が破れて雑菌が入って最悪死亡という場合も考えられます。そこで瞬間接着剤で接着し固定してみる事にしました。



    

3番目の写真。脚が曲がった状態の写真も撮りたかったのですが例のごとく動く為、状態の悪い脚が心配ですぐに瞬間接着剤で固定しました。
その後撮影したものでも良く見ると外皮が透けているので中に異常が有るのが辛うじて分ると思います。

採集される個体にも脚に軽い異常が有るものは思ったより多く見られますが、他より短い場合がほとんどです。



    

最後の写真は、問題の蛹が羽化して1週間ほど経過したものです。脚の部分ですが、折り曲がっていたところ及びそこから先も外見には殆ど異常が見られずに羽化していました。実際これほど綺麗になるとは思っていなかったので意外でした。
その他にも大顎の先端の噛み合わせがずれている程度のものなら修正できる場合もあると思います。ただ蛹化直後は無理として外皮がしっかりしてからくれぐれも蛹の体を傷つけないように行なう事が必要でしょう。
この様な処置が蛹化後どの程度日数が経過してまで有効かは分らないのですが、今回のユダイクスミヤマの場合、蛹化してから約1週間くらいの時点での発見でした。扱いやすい大きさの種でもし同じ様な場面に出くわしたらそのままにしておくより試してみると良いかもしれません。
あまりこの例に類似する状況は多いとは思えず、たいして参考にもならないと思いますがとりあえず無事羽化させる事が出来た例として報告しました。
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