ジャパンクワップ2001連動企画 灯火採集データ解析

r.matsuda



はじめに

 日本国内における発電機を用いたクワガタムシの灯火採集は、近年一般的になってきており、ジャパンクワップ参加者の中でもその経験者は多い。 ただ採集しているだけでも楽しいのだが、せっかくなので採集データを集めて、解析してみることにした。



参加者

近畿グループ:えりー、しゃあげん、旧まちかね近畿支部
東北グループ:tubasa 、るどるふ、r.matsuda


目的

 灯火に飛来するクワガタムシの条件(時間帯、気象条件)による数の変動、雌雄比率、発生時期の解明。

方法

 一時間おきに飛来したクワガタの種類、数と気候条件(気温、湿度、天気、風)を記録する。今回は条件の大きく異なる近畿地方、東北地方を便宜上2グループに分けて解析した。


近畿グループ

場所(回数):兵庫県(1)、福井県(2)、和歌山県(1)
期間:2001年7月14日〜7月28日 延べ4回
標高:900〜1250m
照明:水銀灯400W〜水銀灯800W+500Wハロゲン+20W蛍光灯+20Wブラックライト×3


結果

総飛来数 62

1位 ミヤマ  47 (♂15:♀32)
2位 アカアシ 13 (♂1:♀12)
3位 コクワ   1 (♀1)
   ヒメオオ  1 (♀1)


時間帯別飛来数-最頻値-

ミヤマ  21時台
アカアシ 20時台

近畿グラフ
図1



考察

 全体のデータ数が少ないため、解析できる項目数は少ない。その中でも特徴的なのはアカアシとミヤマの時間帯別飛来数である(図1)。アカアシは日没直後の時間帯である20時台に集中して飛来しているのに対し、ミヤマは21時台を中心に比較的長い時間飛来しているのがわかる。

 雌雄比では上述のとおり、ミヤマ以外はほとんど雄の飛来はない。 コクワ、ヒメオオは飛来数が少なく、解析の対象とはしなかった。



東北グループ

場所(回数):
福島県(14)、宮城県(3)、青森県(2)、秋田県(1)、栃木県(1)、群馬県(1)、新潟県(1)
期間:2001年6月16日〜9月15日 延べ23回
標高:300〜980m
照明:水銀灯1000〜1800W


結果

総飛来数 529

1位 ミヤマ  244 (♂86:♀158)
2位 アカアシ 147 (♂44:♀103)
3位 ノコギリ  61 (♂17:♀44)
4位 コクワ   40 (♂15:♀25)
5位 オニ    25 (♂20:♀5)
6位 オオ     7 (♂2:♀5)
7位 ヒメオオ   5 (♀5)


時間帯別飛来数-最頻値-

ミヤマ     20時台
アカアシ    19時台
ノコギリ    20時台
コクワ  20、21時台
オニ    21、0時台
オオ      20時台
ヒメオオ    20時台



考察

飛来時間帯について

東北グラフ
図2


 グラフを見てわかるとおり(図2)、クワガタの飛来数は日没の1〜2時間後にピークをむかえる。その後急激に減少し、深夜以降はあまり飛来しない(オニクワガタを除く)。

 種ごとの特徴としては、アカアシは日没直後に鋭いピークがあり、22時以降はほとんど飛来しなくなる。

 ミヤマ、ノコギリ、コクワでは日没後しばらくしてから飛来し始める。また、グラフはアカアシに比べ緩やかなカーブを描いている。

 オニクワガタは比較的遅い時間に飛来し、深夜までペースが落ちない。

 オオクワ、ヒメオオについてはサンプル数が少なく、今回の調査のみでは分析困難である。

 また、ミヤマ、アカアシではいったん飛来数が減った後、23〜0時台に再び増加に転じているように見えるが、個体数が少なく明らかな特徴とは言いがたい。来期以降の検討課題としたい。



発生時期について

発生グラフ
図3



 ミヤマの観察時期は6/16〜8/25と初夏から飛来が確認され、9月を前にみられなくなる。ピークは7月下旬。

 アカアシ、ノコギリはそれぞれ7/20〜9/15、7/21〜9/15と盛夏から初秋にかけて飛来する。ピークは7月下旬。

 オニクワガタは8/16〜9/15まで見られたが、ピークは8月中旬のごく一時期である。

 コクワ、オオクワは調査期間全体にわたり、はっきりしたピークを示さずに観察された。ヒメオオクワガタは数が少なく、分析困難である(図3)

 コクワ、オオクワ、ヒメオオに関しては越冬個体が飛来することも少なくないと思われ、初夏に飛来した個体に関しては、新成虫の野外活動開始時期と一致しない可能性に留意する必要がある。


雌雄比について

ミヤマグラフ
図4


アカアシグラフ
図5


 経験則どおりメスの飛来数が多く、およそ2対1の割合であった。 例外はオニクワガタで4対1の割合でオスが多く飛来した。これに関しては発生時期の短いクワガタであり、調査時期によるバイアスの可能性がある。しかし、今までの経験からいうとオスばかり採れるクワガタという印象がある。

 次に、時期による雌雄比の変化を見るため、ミヤマ、アカアシを別図にしてみた(図4,5)。 当初の目論見としては、発生初期にオスが多く、縄張りが確定した後メスが発生するというような、何らかのストーリーが見えればいいと考えていたのだが、今回の調査では雌雄比率の変化ははっきりしなかった。



気象状況による影響

温度グラフ
図6


 温度は全ての観察地点において大きな差が見られなかったため、全調査の平均値をグラフ化してみた。湿度についても同様である(図6)。従って温度、湿度による飛来数の変化については評価不可能であった。

 また、温度はほぼ正確な値が得られていると思われるが、湿度は屋内用の湿度計のため誤差が大きく、実際とは異なった測定値となっている可能性がある(結露、降雨のため)。

 風が強いときは確実に飛来数が少なくなると思われたが、これもデータ数が少なく統計処理は行わなかった。




まとめ

 クワガタは日没後早い時間に多く飛来し、深夜以降はあまり見られなくなることは以前から書籍で得た情報や経験上からわかっていた。しかし今回の結果は、自分の想像以上にその傾向が強いことを示していた。特にアカアシに関しては、まだ明るさの残るうちから飛び始め、日没1時間以内に集中して飛んでくる。

 唯一異なる傾向を示したのはオニクワガタである。観察数が少ないので断定することはできないが、雌雄比でもオスが圧倒的に多く、他の種とは行動パターンが異なることが予想される。

アカアシミヤマグラフ
図7

 飛翔パターンの違いについて、個体数の多かったミヤマ、アカアシについて別グラフにして(図7)、このような差異が生じる理由について考察してみた。

 今回観察を行った地点は、ブナ、ミズナラ帯が植生の主体となる山地である。アカアシクワガタはこのような環境下において、日中ヤナギの樹上で活動していることが知られている。もし、夜間には活動をせず休眠していると仮定すると、日没直後の飛翔というのは昼間の活動を終えた個体が、休眠の前に起こす移動と考えることができる。

 一方ミヤマクワガタは日中に樹上で観察できるものの、その個体数は少なく、基本的にはどこかで休眠していることが予想される。従って、日没後の飛翔は行動開始、または行動継続の結果と考えることができる。

 このような行動の違いが、飛翔パターンの差に表れているのではないだろうか。今後も引き続き調査を行い、明らかにしていきたい。



最後に

 本調査に参加してくださった、えりーさん、しゃあげんさん、旧まちかね近畿支部の皆さん、tubasaさん、るどるふ先輩に感謝の意を表します。データの取りまとめが遅れたことをお詫びします。来期以降もご協力いただければ幸いです。

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