「ヒラタクワガタの材飼育の試み」
by SIGMA B
 

1. はじめに
   今回のクワ馬鹿は外産飼育特集号である。外国種の普及は著しく、かつて外産に反対していた私でさえ、数種を飼育する羽目になってしまった(笑、誰のせいでしょう?)。外国産のなかでも、比較的たやすく大型が得られるヒラタクワガタ(titanus)は広く普及しており、脱走したとみられる個体が発見されたりもしている状況にある。
 さて、(本土産)ヒラタクワガタは、ミヤマクワガタやノコギリクワガタと同じで、朽木の根部を食する、いわゆる「根食い」のムシであり、その習性を利用して根部から幼虫や成虫を採集することができる。しかし、ヒラタクワガタの累代飼育法は、発酵マットや菌糸瓶など、主として(立ち枯れ部を食する)オオクワガタの飼育法から転用されたもので、著者の知る限り、ヒラタクワガタの材飼育に関する報告はほとんどない。そこで、ヒラタクワガタの材飼育について検討してみることにした。本法ではその試みの概要とごくわずかではあるが、今までに得られている結果を紹介したい。

2. 方 法
   容器としては一般的なインスタントコーヒーの瓶(ネス瓶)を使用した。使用にあたってはふたに2箇所の穴を開けた。材は、産卵用として販売されているクヌギ材のホダ木を用いた。ホダ木の太さは瓶に入れるのに少し余裕のある太さ、すなわち(瓶の内径―1cm)程度とし、長さは瓶の深さの約3分の2とした。材は樹皮を剥いで、数日間水の中につけておいた。  埋め込むためのマットであるが、いわゆる発酵マットを使用した。発酵マットは、クヌギジャンボ(マルカン社製)に完粒粉薄力粉を添加して作製したオーソドックスなものであり、作製後約1月保存して使用した。このときの水分量も通常のマット飼育と同じレベルとした。  セットの方法であるが、まず瓶の底に4cmぐらいまで発酵マットをできるだけ堅くつめた。そして、水につけておいたホダ木を入れ、ホダ木と瓶の間、およびホダ木の上面を発酵マットで満たし、堅くつめた。この状態が写真の状態である。この後、数日間放置して、1令幼虫をホダ木の上の発酵マットの部分にいれた。この幼虫の親は大阪府内で1998年に採集した38mmのメスである。幼虫の♂♀は区別せず1999年の9月中旬にセットした。その後、冷暖房のない室内の冷暗所で瓶を立てた状態で保存した。

3. 結 果
   幼虫は約1月間の間は材には食い入らず、材の周囲の部分を徘徊するような挙動をしていた。その後材に食い入ったのか、いずれも瓶の外側からは行動が観察できなくなった。  2000年10月のある日、材を取り出して状態を確認した。取り出したときの状態を写真に示す。材を割るときは本当にワクワクするものである。今回は2頭の成虫が得られたが、残念ながらいずれも♀で、そのサイズは37mmと38mmと比較的大型であった。蛹室であるが、それぞれ材の上部と下部のいずれも表面に近い部分にずんぐりした回転楕円体状(まゆ型?)のものが水平に作られていた。また幼虫は瓶の底のマットと材の境界部分を主として食する傾向が見られ、もともと垂直に切断されていた断面が、幼虫にかじりとられた結果、いびつな形状となっていた。

4. おわりに
   現段階では飼育頭数が少なかったため、普遍性のある結論を導出することは、到底不可能である。しかし、このような方法で本土産ヒラタクワガタの材飼育が可能であることがわかった。また今回はあくまでも最初の試みであったものの、比較的大型の成虫が得られたので、今後の改良によって、さらなる大型化にも期待がもてる。そしてその際には材と埋め込むマットの選定が重要であるように思われる。材としては、ホダ木よりもさらに朽ちた状態がよいように思われ、またマットの代わりに、腐葉土等で埋め込むのが有効であるかもしれない。すなわち、腐葉土等でホダ木を数ヶ月朽ちさせてから、幼虫を投入するなどすれば、功を奏するかもしれない。幼虫が材とマットの境界部を好んで食することから、バクテリア等によって材が分解されつつある状態を好むのかもしれないと勝手に推測したりしている(みなさん、どうでしょう?)。関心があれば、外国産を含むヒラタ、ノコギリ、ミヤマクワガタなどに応用して頂ければ幸いに存じます。
 比較のために平行して行った菌糸瓶(Big Bang製)飼育では同じ大阪府産の親から体長70mmの♂が得られた。大型の成虫を得るには、ヒラタクワガタにおいても菌糸瓶は非常に有効であったことを付記する。

以上


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