「フェモラリス達の沈黙」byサイコ

 

ここに報告されている情報は、かなりの部分、事実に忠実に再現されている。

しかしながら、ここで忠実に再現された事実が他の場所においてそうなるかどうかは

「神のみぞ知る」ことである…

 

サイキック・ブリーディングファイルvol.1 「フェモラリスの怪」

2000年3月、かねてよりその大きさに着目していた、本事件被害者の追跡捜査を開始。

まずは被害者のプロフィールを紹介しよう。

 

名前・「O・フェモラリス」

性別・女性

出身・マレー

身体的な特徴・ツヤツヤとした褐色の胸元、上部はブロンド、逞しい足は朱に染まっている。

小刻みに震える触角、がっしりとした顎。

 

横浜の某所にてあたりを付けていた、私、サイコ・スターリング捜査官は被害者に特定の男性がいない事を確認するとともに、身柄を確保、その挙動を観察するため捜査官の自宅へ任意同行させた。当初、被害者は実に協力的であったが、ちょっと気を許すとがっしりした顎で捜査官の主に指を狙って跳びかかろうとしてくる。空路による長旅でのストレスが彼女に心的外傷(トラウマ)を与えてしまったようだ。(が、ただの習性かもしれない)

居住スペースを確保するとともに、食事を充分与える事にする。居住スペースには過去の例を元に(非常に高い成果を見た例であるが、対象が密入国者であるので名前は伏せる事にする)PC○ァーブルのオーガニック黒くぬぎマットを使用。湿度はやや高め。

彼女の出身地での生活習慣から、マットのみで硬い木の床は使用せず、3月とは言えまだ肌寒い日本の気候を考慮して23℃前後に室温を調整した。

よほど空腹であったのか、むさぼるように食事を平らげ、適度な運動を繰り返す様子を見た時には期待と安堵の気持ちが広がったものである。

なるべく刺激を与えないよう、1週間に1度ほど様子を観察。マットの中に潜って食事に口を

付けない状態が続いているのを確認した時には、思わず小躍りしてしまったのはここだけの秘密にしておきたい。

観察しつづける事1ヶ月、事件は突然起こったのである。

そろそろ良い頃だろうとひっくり返したマットの中から現れたのは、すでに死後硬直の状態の

彼女の死体だったのだ。速やかに状況の把握と、検死に取り掛かることにした。

実況検分

死亡推定時刻:不明(死後硬直の状態から死後およそ1週間以内と推定される)

遺体の状況:仰向けの状態、全ての足は宙を掴むような形で硬直。フセツの欠損は認められず。

発見現場の状況:湿度が高く、かなり蒸れた状況。ドアを開けた瞬間「牛糞」の匂いを含む

臭気が鼻を突く。(これは使用されたマット特有の成分によるものと思わる)

食事は頻繁に摂っていたと見られカラの容器が散乱していた。

 

私は状況を逐一記憶の中にとどめながら現場の探索を続けた。ある、ひとつの期待をもって…

鼻を突く臭気と線虫に辟易としながらも、しっとりと水分を含むマットを掘り返して行く。

遺留品を傷つけないように、細心の注意を払いながら作業を続けると…出た!容器の底が…

気を取り直して再び作業を続行する。いつしか額の汗が紅潮した頬を伝い、眼下のマットへと落ちて行く。その時、再び捜査官に戦慄が走った「な、なんだこれは?」乳白色の太さ1mmほどの触手のようなものが目に飛び込んできたのだ。目的の遺留品は球形、もしくはイモムシ型であるはずで、このような奇怪なものはあるはずがないのだ。緊張に震える手を押さえつつその触手のような物の先をたどって行く。そして現れたものは…瑞々しい緑色の双葉!そう、

堆肥に混ざった植物の種が発芽して「もやし」となっていたのだ!全身の力が抜けていくのを感じながらも捜索を続けたが、結局発見できた物は「もやし」1本であった。

「そんなバカな…。以前爆発的な成果を収めた状況と全て同じにしたはずなのに…」(但し、重ねて言っておくが被験者は密入国者であったため名前は割愛させていただく)軽い目眩をおぼえながらも、今後の対策をすでに考え始めるていた。

そして、犯罪行動科学課主任の助言により犯人像のプロファイリングのため、お祭り好きにして天才的犯罪者である「カーニバル・ネクター博士」と接見することになったのである。以下はその時の会話である。

 

(ネ):やぁ〜サイコ、待っていたよ。ふむ、変わったローションをつけているな…

牛糞の香がかすかにしている…

(サ):えっ?…(確かに黒くぬぎマットを触ったが、事前にシャワーを浴びたばかりなのに…)

早速本題に入ろうか。まずは…

(ネ):焦るんじゃない、サイコ。私から情報が欲しいのなら、まず、私の質問に答えることだ。

時に、奥さんは元気かね?サイコ。

(サ):いや〜最近御無沙汰で…って、関係ないだろう!

(ネ):クックック。自分の内面を省みるということを学ばなければいかんな。何事もな。

(サ):…。フェモラリスの件なんだが…

(ネ):ヒントは以上だ。帰りたまえ。

(サ):なんだって?まだなにも…

これ以降、ネクター博士はひとことも言葉を発する事はなかった。

明解なヒントを得られないまま博士のいる特別房を後にした私だが、ふと、博士の質問を思い返してみた。「奥さんは元気かね?」この言葉に一体どんな秘密が隠されているというのか?

それとも…。事件は混迷を極めつつあったが、またしても第2の事件が発生したのである。

 

サイキック・ブリーディングファイルvol2「フェモラリス・猟奇殺人事件」

2000年6月、私、サイコ捜査官はネクター博士の言葉の謎が解けぬまま、性懲りもなく

第2の犠牲者となるフェモラリスに目を付けた。前回と違うのは被害者には情夫がいる、ということだ。では、プロフィールをご覧いただこう。

 

名前・「O・フェモラリス」

性別・女性

出身・マレー

身体的な特徴・ツヤツヤとした褐色の胸元、上部はブロンド、逞しい足は朱に染まっている。

小刻みに震える触角、がっしりとした顎。

 

まあ、ほとんど全く前回と同じではある。しかし今回は前回と違う環境をセッティングする事にした。マットを換えたのだ。より醗酵が進んで、土に近い状態になっている使用済みマットにしてみたのである。そしてもう一つ、食事をより栄養価の高いもの(高タンパク質)に換えてみた。またもや貪るように食事を摂っている様を見て期待に胸を膨らませる私であった。

1ヶ月後、そろそろ何か動きがあるだろうと予想した私、サイコ捜査官はマットをひっくり返してみた。幸いにして彼女の健康状態は良好ではあったが…またしても現場に踏み込んだ私が目にしたものは、湿ったマットだけであった。この時、稲妻のように私の脳裏に走った事があったのだ。そう、ネクター博士との会話である。

 

(ネ):奥さんは元気かね?サイコ

(サ):いや〜最近御無沙汰で…って、関係ないだろ!

(ネ):クックック。自分の内面を省みるということを学ばなければいかんな。何事もな。

 

自分の内面を省みる…。最近御無沙汰…。そうか!ヒントは博士の言葉というより、自分の言葉の中にあったのだ!

「最近御無沙汰」

これだ!さっそく私はマットを再セットするとともに今度は情夫を一緒に住まわせる事にしたのである。当然、一緒にすればやる事は一つしかない!大いなる期待に股間を…いや、胸を膨らませる私であった。

そしてさらに1ヶ月後、私は予想もしなかった光景を目の当たりにする事になったのである。

高い湿度によって結露した窓越しに生きている事を確認しつつ扉を開けた瞬間、凄惨な光景が目に飛び込んできた!そこには鋭利な刃物で切断され、バラバラにされた彼女の亡骸が散乱していたのである。

「散乱していても産卵していれば、なんの問題はないさ…」などとくだらない事を考えながら

バラバラ実行犯である情夫を逮捕、拘禁するとともに現場検証を始めた。

が、しかし…今回もまたマットと線虫以外に遺留品は残されておらず、事件はますます混迷を深めていくのであった。一体何が間違っているというのだ…(賢明な読者諸君にはすでに分かっているのかもしれないが…)

 

サイキック・ブリーディングファイルvol.3「そして捜査は続く…」

こうなりゃもうほとんど意地である。久し振りの休暇を家族と過ごすために(ホントかぁ?)

大手町のフェアへと足を運んだ私、サイコ捜査官は子供たちと数々の虫を見て歩いていた。

「どの虫がいい?」という私の質問に

「これ、欲しい」と答える長男。指差す先には「ニジイロクワガタ」

(私):「…だめ」

(長男):「じゃあ、これ!これがいい!」

(私):「タ、タランドス〜!ツヤツヤでカッコイイね〜…駄目」

(長男):「じゃあね〜、絶対これ!」

(私):「90オーバーのフェモラリス!」

さすがに我が息子、捜査官としてのカンの良さを受け継いでいるようだ!などと感心しつつ

(私):「いいけど、こっちにしよーねー。75mmペア」

半べそかいている長男を尻目に捜査官としてのカンを働かせた私は、狙いを付けた一組のペアを任意同行させたのである。(単に安かったからだろ?という穿った見方はしないように!)

早速、今回対象となるフェモラリスの調書をとる。

 

名前・「O・フェモラリス」

性別・女性

出身・ボルネオ

身体的な特徴・ツヤツヤとした褐色の胸元、上部はブロンド、逞しい足は朱に染まっている。

小刻みに震える触角、がっしりとした顎。

 

今回初めて「ボルネオ島」出身のフェモラリスである。全く根拠の無い期待を抱かずにはいられないほど、私は精神的に追いつめられていた。このままでは事件が迷宮入りしてしまう…

言いようのない焦燥に駆られながらも現状を冷静に分析する。そして出た結論は…

「マットに黒土を混ぜてみよう」だったのである。ノコギリ系やミヤマ系で良く行われている方法だが、ツヤ系幼虫が好む環境(どろどろべたべたの土化したマットを食す)から推理するとあながち間違ってはいないと推理したのである。食いかすマット2:黒土1の割合で良く混ぜて、加水(前回蒸れ気味だったので若干少な目にした)、足場用に割り出した木片を埋め込んだ。勿論、情夫とは別居をさせて充分な高タンパクの食事を与えつづけている。温度は23度、

なるべく覗かないようにして万全を期しているのは言うまでもない。

9月末のセッティングからかれこれ2ヶ月弱経過しているが、部屋の外から見てみる限りマットの表面でぼ〜っとしている事が多く、部屋の壁面には何の痕跡も残してはいない。

果たしてこのまま事件は迷宮入りとなってしまうのか…

それとも劇的な展開を見る事になるのか…

この結末は誰にもわからない…

 

わかっている事は、天才的犯罪者「カーニバル・ネクター博士」が特別房の脱出に成功し、浅草三社祭で御輿を見ながら好物の不○家ネクターを飲んでいる姿が目撃されたということだ…

 

この続きを読みたい方は次号のクワ馬鹿で!期待しないでお待ちください。

 

しかし、こんなに役に立たない記事でホントにいいのだろうか… 知〜らないっと…

 

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