武夷山旅行記

ドラゴン



武夷山は中国福建省にあるクワガタいや昆虫その他野生動物類のメッカ的ポイントとして有名です。 私もこの地がずっと以前から気になっていたのですが、1998年12月に現地を訪れる機会がありましたのでご紹介致します。

採集旅行に限らず、旅行は計画段階が非常に楽しいものです、武夷山とはいったいどんな秘境なのだろう、 観光案内の写真を見るといかにも仙人が住んでいそうな深山幽谷のようなところなのか。 そして採集目的となるとどこへ行けば何が採れそうか、下調べが必要になってくる、 しかし、武夷山に関する事前情報はほとんど集まらなかった、観光案内の写真数点、博物館があること、 図鑑の採集データもあまり参考になるものはなく、詳細な地図もない。ないないづくしで、 また時期的にはシーズンオフでもあることから今回の目的は採集ではなく、 来るべきリベンジの日に備えた下見旅行と早々に決め込んでしまった。

武夷山へのアクセス
まず、最初にお断りしておきますが、 「武夷山」というのはこの地方の地名(武夷山市)であってどこにも武夷山という名前の山はありません。 数年前に武夷山市に国際空港がオープンしていますが、日本からの便はここに乗り入れていませんので、 おそらく日本で発行されているどの旅行ガイドブックにも紹介されていないのではないのでしょうか。 かくゆう私は今回は香港からの激安ツアーに参加したのでありました。 では日本からのアクセスはというと、まず上海にて入境してあとは国内線に乗り継ぐか、 福州まで行ってそこから汽車(火車)又はバスということになり、移動だけでまる一日を要します。 因みに香港からは約1時間半のフライトです。

武夷山国際空港

武夷山国際空港は武夷山市内にあって、上空から見渡した景色はどこにでもある中国的田舎の風景で、 田圃と畑とハゲ山ですが目を凝らしてよく見ると斜面は茶畑になっているのがわかります。 国際空港といっても実にこじんまりとしており、大型機は発着できないただのローカル空港です、 おそらくここも軍民共用のようでエプロンや援タイ壕にはアントノフやスホーイといった軍用機が駐機していました。

武夷山は中国でも屈指の景勝地で国内からの観光客も多いらしく宿泊施設も数多くあります。

武夷山

といっても外国人受け入れとなると、個人では受け入れ単位(組織とか団体とか会社といった集合体)がない限りは、 中国国際旅行社、中国青年旅行社等のお世話にならなければなりません。

景勝地として有名な「武夷山」は武夷山市の郊外にあってと言うより 武夷山市がこの「武夷山」の渓流の河口にあると言ったほうが正確です。 いかにも中国人が好きそうな山水画の世界でちょっと見は桂林のような、奇岩の間を渓流が流れ、 そこに竹の筏に観光客を乗せて遊覧川下りをさせています。

遊覧川下り

奇岩、奇山には階段や鎖場があって頂上や見晴らしにはこれまた極彩色の中国風あずまやがあります。 私が妻な人と参加したのは3泊4日のツアーで2日間はこの退屈な老人ツアーに同行したのですが、 この山(岩)登りが意外ときつくて日頃の運動不足から、案の定筋肉痛になり往生しました。 実際に登ってみると地形と気流の関係からか朝夕には渓谷にもやが立ち込めあたかも深山幽谷のような雰囲気になりますが、 実際にはこのあたりの標高は300メートルほどで一番高い岩の上でも500メートル程度です。 植生は暖帯性照葉樹林でアラカシやヤブニッケイが多くナラ類はみられません。 またこの辺一帯は茶の産地として超有名です。当然ながらお茶の加工場(土産品売り場付き)の参観もツアーに含まれてます。

さて、観光地武夷山の紹介はこれくらいにして、妻な人と二人でツアーを離れ自由行動をとり、 いよいよ昆虫の産地へと出掛けました。

まず、ホテルで車の手配をいろいろしましたがラチがあかず、結局中国旅行社の車隊の隊長という人に直接お願いしたところ、 なんと隊長さんみずからクラウンを運転して我々に付き合ってくれることになりました。 五十絡みのこの隊長さんは筋金入りの共産党教育を受けているようで、彼の口からは「愛人」 (配偶者のことだが、「同志」と同様にとっくに死語の世界入りしている)という言葉が何度もでてきたり、 外国や日本の状況、特に経済状況についてかなり熱心に質問をしてきました (彼はかなりの話好きで運転中ほとんど一人で話していた)。

武夷山市の郊外を西北に向って走ること1時間半、50kmほどのところに自然保護区があります。

武夷山国家級自然保護区

途中のどかな田舎風景から道はだんだんと山道に入って行きます。 山には原生林が残っており一見したところ台湾の山地に非常に良く似た風景というかそのものです。 いよいよ谷が深くなって行く手前に検問所があり、兵隊が常駐しています。

検問所

ここで入山のチェックを受けます。ここはウチの隊長さんが対応してくれましたが、目的と行動予定、 人数と身分証明書をチェックします。(このへんは台湾の山地管制区に入るのと同じです) ここの検問所には若い兵隊が二人駐在していて、雑誌の切り抜きやカセットレコーダーなどが部屋にあり、 また壁にはなぜかアオスジアゲハやオニヤンマの標本が翅を半開にしたまま刺されて飾ってありました。

検問所を過ぎてしばらく行くと右手に突然大きな建物が現われます、 ここは招待所(宿泊施設のことでホテルより格下)ということで国際会議?や官僚の避暑地として利用されているそうな。 その招待所を過ぎると川を隔てて左手に大きな博物館が見えてきます。

武夷山自然博物館

今回の訪問の目的地はここです。館内は撮影禁止なので、 レポートしますとこの自然保護区一帯の動植物の標本や模型を展示しています。 このあたりの植生は所謂照葉樹林帯に属しますが、土壌によっては一面竹山があったり、 標高の高いところでは2500m以上あり、森林限界を超えているそうな、 また高層湿原も多く存在しまだまだ未調査で未知の生物が数多くいるそうな。

私の目を惹いたのは木本の標本で幹がブナにクリソツなやつとかモクセイ科の大木とか (ひょっとしたらタカラシジミがいるのかな)あるいは、「細辛」とかかれていた植物は肉厚のカンアオイの一種 (ホウライカンアオイ?)だったりして、結構あきずに想像の世界にひたることができ、 あと昆虫類の標本ではクベラツヤ、オニツヤ、シセンミヤマ、テナガコガネ(台湾産にクリソツ)、 等々が展示されているのですが、残念ながらせっかくの標本も保存状態が悪くボロボロで、 聞けば2〜3年毎に入れ替えているそーな。 まあ、展示用ということで仕方ないとしてもちゃんとした研究機関ではそれなりに保存されているのでしょうね。 それと蛇足ながら、この辺一帯はヘビの多産地だそうで、近くの山ではヘビの生息密度が世界一というところがあるそーな。

  この博物館から道が分かれていて一本はちょっとした街並みがあって、他は山に入る林道?になっていて、 登山をするには先は歩きになるそうで、日帰りではとても無理。 博物館のとなりには動物園があって、前足のない熊や負傷した動物が暮らしていました、 もともとここは動物園ではなく山で保護されたこれらの動物を飼育しているのだそうです。 自然保護区であり動植物の採集捕獲は厳しく取り締まっていますが、 原住民にはいまだに狩猟の習慣があり中央政府も半ば黙認しているのだそうです。

この動物園と道を挟んだところに別荘のような宿泊施設があり、政府の高級官僚の避暑地になっているそーな。 四方を原生林の山に囲まれたこのあたりには水銀灯があっておそらくここの水銀灯に多くの昆虫が飛来するのでしょう。 さらに川沿いに奥に向って市街地があり食堂や商店が数軒並んでいます。 訪れたのは12月だったのでその姿はみられませんでしたが家並みの軒下にはツバメの巣がいくつもありました。

我々が到着してからずっとつきまとっていた親切でおしゃべりなおばさん (と呼ぶには若いが色白でかなりの美人)は実は食堂の女将さんでそこで食事をすることになり、 たまのお客ということであれもこれも薦められ、むげに断りきれず隊長とあわせて3人で百元(日本円で1500円) も注文してしまい、女将さんは注文をとると急いで材料を仕入れに近所の商店へ走って行って材料を仕入れ、 昼食だけで1時間以上も費やしてしまった、ならば最初から今日ある材料はこれこれでと言ってくれればいいものを、 それとも最初っから何もなかったのか、それでも我が隊長は悠然と構え続けているのであった、 勿論我々の食事中もほとんど女将さんは付きっきりで料理がうまいか幾度も聞いていた、 もっともこの日の客は我々だけだから、、、。

因みにこのあたりの労働者の平均月収は30元ほどで百元の食事がどんなに豪勢なものかは想像に難くないが、 それにしても筆舌につくしがたい不味さだった。注文したのはおもにタケノコや山菜を中心に川魚の揚げたの、 鶏かブタかイノシシか鹿か不明の肉料理、それと豆腐料理、それにしても米がマズイ。

午後は隊長の案内で山頂の火の見櫓の監視人夫婦のところへ行った。 見晴らしが素晴らしくここでナイターやったらスゴイ成果が期待できそうな場所であった。 我々の目的を説明し、話しを伺ったところ、よく昆虫が飛んでくるとのこと。

武夷山防火眺望台

この火の見櫓に登ってみるとはぼ360度の視界があり、話のとおり一面竹薮の山もあったが、 ほとんどは照葉樹林の原生林で標高にして1000〜1500m程度なのだろう。

それと、この日は会う事ができなかったが地元のマタギで獣の剥製の業者だというオヤジと ホテルにもどってから電話で連絡することができ、話しによるとこのあたりではやはり昆虫も多いそうで、 オウゴンテングアゲハも手に入るとのことであった。

因みに、この日出会った人達に、虫の採り方と処理の仕方を教えて帰途に着いたがいまだに何の連絡もない。

  観光地として開けきった武夷山とまったく手付かず自然保護区、 自然保護区を一歩でも出るとそこは農耕民族四千年の歴史たる農地。多くの人間の食い扶持を生産するために、 平野、丘陵地等手の入れられるところはすべて耕されつくし、こうした自然保護区或いは、寺院の杜、 或いは辺境地以外では、自然の植生がまったく見られない。日本の里山が恋しくなった。

もし、読者諸氏で中国産ホペイなんぞを自らの手で採集したい、 武夷山に行ってみたいという方がいらっしゃったらご一報下さい。 現地の段取りのお手伝いくらいはさせて頂きますんで。




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