ギラファノコギリクワガタ

ギラファノコギリクワガタ

お手軽簡単な超大型 Prosopocoilus giraffa

by coelacanth


「求めよ、さらば(解禁への道が)開かれん」

毎年9月23日に東京大手町でインセクトフェアなる怪しい宗教団体の集会、、、ではなかった、怪しい虫屋の祭典が行われる事を知って以来数年、毎年必ず訪れるようになり今年は出展までしてしまった私であるが、ほんの数年前、まだ外産クワガタなどは生体輸入も許可されておらず、あこがれの外産昆虫はカチカチに干されてセロハンに包まれて山積みで安売りされている標本(通称干物)か、きれいに標本箱に展足されたものを見て「おお!これはすごい!こんなのが飼えたらすごいなぁ!」と妄想に耽るのが精一杯であった。
初めて入手したギラファの干物 よく見ると右翅に針の穴が

そうした中でも巨大なヘラクレスやオオヒラタ、オバケウスバカミキリなどに混じって私がとりわけ惹かれていた種にこのギラファノコギリクワガタがあった事は意外と知られていない、、、って誰にも言ってなかったから当然だが。最大体長が120mmに達するものもあると言われるギラファノコの標本は、100mm前後のものがざらに売られていたが、当時は大抵数千円〜数万円と高く、1500円で90mm程のものを見つけた時には小躍りして即買ったものである。もちろんこれは実はカンピンではなく口ひげ(L字の触角の方ではない)が片方欠けている為に激安だったのだが見てもほとんど判らない程度の欠損だ。現在でも自宅の玄関に魔除けのように飾ってある標本箱に収まっている。
とりあえずこれまでの最高96mm でかく写ってるが40mm位の小さい雌

月日は流れ、今や動くギラファノコ成虫のでかいのが1万前後で買えるというすごい時代になっている。私はなんとなくDorcusは飽きが来てしまったのだが、世の中は何故かまだまだDorcusが人気らしく、お陰さんでこんなノコなど小さいものや幼虫なら1000円、2000円の叩き売り状態である。もちろん仲間内では「沸いたー、もらってくれー」状態である事も言うまでもない。しかし解禁1年で何故かF1、F2が既に沢山出まわっている。きっと台風の多い年に沢山の成虫や幼虫が風で飛ばされて来ていたのだろう。
挟まれても案外平気なので気が楽だ 短命だった極小60mm程の雄、アゴの形状も違う

「G、またはなぜ私は心配するのを止め、高級ゲンジを愛するようになったか」

(ごく一部のふるーいPCマニアにしか通じないってば、、、)

さて、なぜ私がこいつを特に好きかというと、とにかくやたら無駄に長いアゴのフォルム、そして闘争心溢れる性質、その割りに挟まれても長過ぎるアゴが逆テコとなって案外痛くないので安全、そしてそしてなんといっても超ズボラに簡単お手軽に増やしてそこそこでかくできるからである。キクロマトスの大アゴも繊細にすらっと伸び、本体より長いというバカバカしさがなかなか気に入っているが、このギラファのアゴは両手で前へ習えをし、手先を丸く内側に曲げ、親指を内側に直角に突き出すと完成する。しかし横から眺めるとまた、上部からの平面写真で見てはわからない微妙なうねりもなんとも素晴らしいのである。
前へー習えっ!ホラ、できたでしょ? 日本のノコにも通づるうねり

飼育であるが、実にお手軽簡単高利回りである。最初は例のカッパギエノキの材に入れ小ケースに放っておいたところ約1年で87mm程で羽化した。眉の太い嫌なおじさんによると「ギラで90以下はゴミだな」だそうである(笑)。同時にミニプラケでフスマ添加マット、餌替えは確か1回、もしかしたら2回(ズボラなので忘れた)で93mmという感じだった。更に数頭、92mm、78mm、80mmみたいな感じで羽化している。幼虫時の最大体重も大きいものは40g位にはなってしまうし、雌でも15gとかかなりとんでもなく、どれもこれも40−60mm位で羽化する。雄幼虫の頭幅も17mmにもなり、かなりお化けだ。
よく見えないがとにかく頭も馬鹿でっかい幼虫 当然コバエシャッター小にむげん菌床ブロック!

さすがにそろそろ100mmオーバーが欲しいな、と思ってこうなりゃ「菌糸ビンに頼るのはそのメーカーの力量みたいだからなんかやだ」というプライドもかなぐり捨て、小ケースにむげん菌床ブロックをそのままずぶずぶとはめ込み、そこへ幼虫1を放す、という方式で放っておいたところ、今度は96mmというのが無事羽化した。これも実は、「ああ、そろそろ菌糸食い尽くしてるな、替えなきゃ、、、」と思いつづけて三ヶ月もズボラっている間に気がつくと蛹になってしまったという体たらくだったので、実はここでちゃんと替えていれば今度こそ100mmオーバーだったのかも知れない。まぁ今後はむげんさんのようなちゃんとした人に幼虫を押し付けてきちんと菌糸で管理してもらえば、超大型が出てきて拝める事だろう。ズボラ人間はカッコウ飼育に限る。


コバエシャッター小に産卵木とペアをセット、、、がこんなゼリーじゃ食えないぞ!

更に嬉しいのはもう結構羽化させているのに羽化不全がこれまでのところ皆無という点である。100mmオーバーはまた違うのかも知れないが、かなり羽化するのがうまいのではないかという印象を受ける。しかし90mmオーバーがミニプラケの短手方向に蛹室を作った時にはさすがにちょっと心配になって掘りだし、土で作った人工蛹室にしてしまったが本当は必要なかったのかも?こいつらは壁が固くなりやすくて落ち着くのか、何故か容器の短手方向に蛹室を作る傾向があるように思われた。
羽化後90mm以上だった蛹。デカい! どう見てもエイリアン

「産めよ増やせよ地に満ちよ」


本文と無関係にストリップショー開始! まずきれいに翅を伸ばし、問題の馬鹿長いアゴ伸ばしだ

さて、私はズボラすぎてあまり超大型を狙うには適していないが、なんせ大型の羽化よりも無闇に沸いた時が楽しいので、とりあえず安定繁殖を目指したい。大型種の繁殖というと場所がすごく大変でしょうとよく心配されるのだが、実はうちではこんな大型種でも言語道断な事に全て小ケースまでで飼い、交尾産卵を行い、割り出した幼虫も最大でも小ケースに1、ひどい時はミニプラケに1とか、ネスビンなどで育ててしまうというから自分で呆れる。より大型を狙うにはやはり大きなケースを使って育てるのがより望ましいのだろうし、繁殖も落ち着いてできるかも知れない。しかしこれまでの所ペアでずーっとほったらかしても小ケース内で雌や雄がバラバラにされた事もない。気性はまぁまぁ喧嘩っぱやいようなのだが異性には優しいのか?あるいは前述の通り、あの役立たずな程長いアゴが逆テコで切断には不向きなのか?とにかく飼い易いのだ。

アゴの付けねだけがまだ白く柔らかいので伸ばせる ほぼ伸びた、本当によくできている

産地は熱帯であり、インドからジャワ、タイなどにひろがり、フローレス島のものが最もでかくなるらしいと聞いている。家にいるのはタイ産(らしい)とフローレス島産の2系統である。現在どちらも10少々の幼虫を飼い、余りはあちこち撒いてしまった(誰にだったかすぐ忘れてしまう、、、)。当然冬場は温室が必要だが、たまに15度位までなら全く影響はないように思われる。尤も幼虫はそうすると成長が止まって羽化までが徒に長くなってしまうだろうが。繁殖には小ケースに少々マットを敷き、できるだけ柔らかいクヌギ、コナラ、等の産卵木を加湿して置いておくだけでよい。ペアをつっこんで放っておけばそのうち産卵痕だらけになり、その後バラせば20−30の幼虫は楽に出て来る。むろん余裕があれば中ケース以上により贅沢に何本も産卵木を置いたりしても良いだろう。最近は割り出した幼虫も、小ケースに菌糸ブロックを詰めてそこに4〜5頭初令から突っ込んでしまい、あらかた食い尽くした頃にばらしてでかい幼虫だけ取り出して改めて、今度は小ケースに新しい菌糸ブロックに1幼虫だけ、というので100オーバーを目指している。

羽化はどれも感動的だが、巨大なだけに迫力万点 裏返すとまだ色も薄く、ちょっと不気味

飼育上の注意点はあまりないが、唯一、あのバカバカしい長いアゴのために餌ゼリーは大型のものでないとほとんど食えない。別に高蛋白だなんだというのはどうでもいいような気がするので、安いので構わないが大型ゼリーが好ましいだろう。小ゼリーではイソップ物語の狐と鶴の壺のスープみたいな状態である。成虫の寿命はまぁ半年以上はあり、羽化後三ヶ月もすれば繁殖に使える感じである。大きいものなら1年位は元気で活動している事が多いようだ。


丸1日でこんな感じになるがまだしばらく柔らかいので慎重に扱う


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