菌糸ビン飼育あれこれ


 これまでクワ馬鹿やまちかねBBSにおいて、菌糸ビン飼育のノウハウは尽きることなく語られてきました。菌糸ビン自体も改良が進み、以前のように菌糸ビン飼育は難しいものではなくなってきております。
 
 しかし、夢の80mmオーバも夢ではなくなりつつある反面、75mmの壁にあと一歩で手が届かない方も多いのではないでしょうか?

 そこで、編集部ではブリードシーズンインに併せ、最新の情報を求めて平山貴也氏に独占インタビューを試みました。普段電話では聞き辛いような初歩的な質問も、厚かましくもズケズケと聞いて参りましたので、皆様の菌糸ビン飼育の参考にしていただければ幸いです。

Reporter K.Oishi

(記者)

 今日は平山さんの菌糸ビン飼育ノウハウをお伺い致したく、訪問させていただきました。ご経験によるもの、勘やひらめきなど何でも結構ですのでアドバイスをいただけますでしょうか。

 まず親虫の選び方からお願いします。大型の個体を出すためには、大きさ・形・産地・累代数他、何か要素はあるのでしょうか?

(平山さん)

 大きな親から生まれた子供は大きくなると言えないのがわかっていても、つい大きな親を使ってしまいますね。大きな親から大きいのが出れば苦労はないのですが...(笑)

 親虫の形ですが、例えば顎が太い細いとかは飼育方法で変わるようですが、親虫の輪郭は遺伝する部分もあると思います。頭が大きいとか小さいとか、全体のプロポーションとかです。

 遠い産地のものをかけ合わせると大きくなるという話しもありますが、山形と佐賀をかけ合わせても違いは出ませんでした。尤も数ペアでの結果ですので何とも言えませんが。

 累代が進むと大きくなるのは確かです。菌糸ビンで何代か育てたものの方が大きくなります。天然物やF1は大きくなる可能性が低いです。75mmを越えるものは出ないとは言いませんが出にくいでしょう。F3あたりが大きくなるようですが、累代が進むとまたサイズが落ちてくるので、ピークがあるようです。
 産卵に関していえば、産卵前に与える餌の種類で卵の数は変わりますが、大型個体への影響はわかりません。

(記者)

 では、菌糸ビンの選び方ですが、瓶の材質による差、すなわちガラスビンとポリボトルですが違いがありますか?

(平山さん)

 ポリは夏に温度管理しないと良く死ぬと言われています。ポリは持つと暖かいですがガラスは冷たいですね。
 また、ポリビンは固く詰められません。詰める時に圧をかけると膨らむので限界があります。中には固く感じるのもありますが、それは添加物が多くて固まっているからです。
 しかし、ポリビンにも優れている部分もあります。虫の大きさにばらつきがでるというか、最大がでるのはポリビンかもしれません。それでも平均して大きくなるのはガラスビンだと思います。

(記者)

 直接植菌して作った瓶と、菌床を詰め替えたものでは何か違いがあるのでしょうか?

(平山さん)
 昨シーズンは、詰め替えたビンは植菌したビンより結果が悪かったです。詰め替えると雑菌に触れるので良いかと思ったのですが...(笑) これはヒラヤマビンでの結果であり、植菌したビンは900cc、詰め替えたビンは1500ccと条件は異なります。
 あるいは、原因がビンの大きさによるものかもしれません。知人に「小さいビン(900cc)の方が虫がコントロールし易いから大型が出る。」と言う人もいます。

(記者)

 菌やオガの種類はいかがですか?

(平山さん)

 オオヒラタケが良いと思っています。オガの種類ではブナは早く分解されますが、あまり相性が良すぎるのは駄目でしょう。茸にとって良いビンと虫にとって良いビンは異なると思います。茸屋さんは、クワガタ用の菌糸ビンでも、つい茸のことを考えてしまうみたいですね。(笑)

(記者)

 飼育温度はどうされていますか?

(平山さん)

 以前は飼育温度はあまり高すぎては駄目だと思っていましたが、最近はある程度は高温で飼育し、短期間で親にしてしまうのが良いと思っています。
 12月頃に、あまり温度を高くして早く羽化させると拙いと思い、(20℃以上ですが)温度を下げた年は小さかったです。確かに大きな虫は早い時期に羽化しています。78mmなどは2月や3月に羽化しています。あの80mmは2月7日です。

(記者)

 なるほど。ということは、温度管理されていても、ペアリング時期や割り出し時期は毎年決まっている訳ですね。

(平山さん)

 以前は2月や3月頃から温度を上げてペアリングさせたりしていましたが、それでは早すぎる気がしましたので、今年は4月から始めました。4月は加温が必要ですが、5月から6月は常温です。
 割り出しは6月から8月に行います。これだと早いので来年2月には羽化します。繰り返しになりますが、幼虫の期間が長いからといって大きくなるとは限りません。

 夏はエアコンで温度管理をします。20℃台には抑えますが、家庭用エアコンでは外気温の影響を受けてしまいますので昼と夜で温度差は出ますし、具体的に常時何度という厳密な温度管理はできません。

 秋(10月から11月)に加温(20℃台後半)した方が大きくなっています。蛹化から羽化までは、より加温する方が良いでしょう。

(記者)

 では次に、菌糸ビンの交換タイミングについて教えてください。特に終齢後期だと替えるべきかどうか迷ってしまうのですが。

(平山さん)

 去年までは蛹化前に交換すると縮むので、交換しない方が良いと思っていました。餌がなくなってベタベタにならない限り替えませんでした。
 ところが蛹になるのにビンの中を動き回って蛹室を作るのより、ビンを交換後ぱっと蛹室を作る方が大きくなるようです。
 一回交換が理想かなと思ったりします。6月から7月に初齢で菌糸ビンに入れます。そうすると二本目への入替えは10月から11月になります。あとは加温して羽化までもっていきます。

(記者)

 蛹化不全や羽化不全防止方法があれば教えていただけませんか?

(平山さん)

 ヒラヤマビンに関していえば、蛹化前にビンを交換し、白いビンで羽化させれば羽化不全になりにくいです。これは縮むからかもしれません。
 それから羽化後の取り出し時期ですが、自分で出てくるまで待つのが理想ですが、売る虫はそんなに待っていられません。(笑) 外から見て赤みが消えたら取り出します。赤い状態で取り出して乾燥させたりすると、フセツが落ちたりします。
 可能であればサイズを測ってから蛹室に戻します。蛹室では裏返ったり表返ったりしていますので、取り出してマットに埋めてしまうとそれができません。

(記者)

 最後に全体を通して何かございますでしょうか?

(平山さん)

 菌糸ビンでギネスサイズを狙うには、自作でいろいろ試してみるのが良いかもしれませんね。つまり市販のものは車に例えるとF1カーではないということです。F1カーを販売すると燃費は悪いし危険だし一般の人からはクレームも多くなります。菌糸ビンも同じで、100本買っても50本は死んでしまい30本は羽化不全で、超大型が数頭出れば喜んでもらえるかというと、お小遣いで楽しんでいる方々にはそうはいきません。
 とはいえ、昔は死なないビン=良いビンだったのが、最近では安定して大型が出るビンが私の知る限りでも数種類あります。あるものは大きくなるけど不細工な虫になりますが...(笑)

(記者)

 本日は、お忙しいところ貴重なお時間をいただきましてありがとうございました。
 

  
 
 
 


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