実験室の午後


drk.jpg (100350 バイト)もう1年も前の事だけど、レントゲン科医の友人と話していた時のこと。
飲みながら彼いわく、
”ドラマで’スーパー外科医・ドクターK’っていうのはあるかもしれへんけ ど、
’スーパーレントゲン科医・ドクターK’なんか、作りようがないね。
外科医なら、手術中で’おお、神技的なメスさばき!’とか、
患者の様態の急変とか予期せぬできごとに’こ、これは・・・’
とか、ドラマにめりはりもつくけどな、
レントゲン科医じゃあそんなんありえへんもん。
’おお、神技的な現像術!’とかいうんか?”
聞いてて思わず笑ってしまいました。

えてして人がなんかの職業にあこがれるというのは、
ドラマ的な派手さにあこがれるのが多いのかもしれないけれど、
まぁしかし、実際の所は現場ではみんな地味なもんだね。
レントゲン科医は黙々と写真とって現像して、”あーこのへんに影がちょっと でてますねー”とか言ったりして。
地味なもんです。

かくいう僕も科学者の末席に名を連ねようと努力しているんだけど、これまた 結構地味です。
”世界をゆり動かす大発見!”とか、
”先端技術をめぐる世界的陰謀にまきこまれた科学者の運命はいかに?”とか 、
そんな生活とはまったく無縁です。
他の人が”科学者”ってきいて何を連想するかは自由だけど(笑)

実験室の午後は静かです。
絶間なく流れる、せせらぎにも似た冷却水の音
ししおどしのような、液体クロマトグラフィーの定期的な分析音
あちらではこぽこぽと蒸留水製造器が音をたてています。
時折論文や報告書をめくるページの音
風鈴にも似た、ガラス器具のあたる音
そうした音に囲まれながら、
静かに静かに時間が過ぎて行きます。
そんななかで、ぼーっと取り止めもなく考える。
発想をメモして、実験の準備をして、解析して。
ときおり誰かのことを考えたりして。
全然ドラマにならないね(^-^;


でも、彼は今もレントゲン科医だし、
僕もずーっと科学者のはしくれです。
そして静かな午後の研究室の片隅で、
ときおり彼の話しを思い出してます。

彼の話しは忘れられないドラマです。

1997.1.9.


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