金魚すくい まあ、夏なので金魚すくいの話題なんてのはどーだろうか。 あたしの生家の近くに神社があって、そこに接した家の、なんだか様子のいい奥さんが夏になると、その神社の境内に接した庭に金魚すくいの店を出すのである。 まあ、様子のいい奥さんといってもあたしがなにしろ小学生であるので、あたしにとっては様子のいいおばさんであるのであるが、子供心にもなんとなくよろしい雰囲気であったわけである。 これが縁日なんかの金魚すくいの店の水槽と同じやつで、長方形のえーとなんてったっけ、ああそうだ、ヨーヨーつりだ、そのヨーヨーつりなんかもやる、四角いあの水槽である。 それで、あたしは夏休みになると、自転車で朝いちでかけつけて、10時ごろおばさんが水槽に金魚をあけるのを待って、1人でこれでもかと金魚すくいを始めるのである。 神社の鬱蒼とした木々に囲まれた深閑とした夏の風の中で、様子のいいおばさんと2人だけという状況で、ひんやりとした水槽に屈(かが)んで金魚すくいをするわけである。 子供心になんだかわからんが、これがものすごく気持ちがいいということを感じていたのかどうなのか判然とはしないのであるが、とにかく夏休みの間中、ほとんど毎日、朝いちで金魚すくいをしていたのである。 この奥さんがなんで金魚すくいなんて商売を始めたのかわからないし、まあ、あたしは朝いちで誰も他に子供がいない時間にやってたので儲かっていたのかどうなのかも定かではないのであるが、記憶では数年間にわたって毎年夏はこのおばさんと金魚すくいをやってたような気がするので、利益は出ていたわけである。 それで、その金魚すくいでもらった赤い和金や黒い出目金といった金魚は家の水槽で買っていたのであるが、多くなりすぎて近所の川に捨てたりしてたのである。 現在でいえば生態系を壊す環境破壊である。 まあ、和金や出目金が環境を破壊するとも思えないのであるが、その川で釣りをするとよく金魚が釣れたりしてたので、やっぱり、破壊していたのかもしれないのである。 それで、それは夏休みの間だけであるので、学校が始まるとすっかりそのこと忘れてしまうのであるが、あるとき秋になって、その気持ちよさを思い出して、その神社に行ってみると、金魚すくいの水槽も無くなって、様子のいいおばさんも居なくて、ものすごく寂しい感じがした記憶があるのである。 |