SVA東京市民ネットワークNEWS LETTER準備号第3号

中年パワー爆発!

 カラワンバンドがやってきた

 少し古いニュースとなってしまったが、昨秋11月にタイから社会派ミュージシャンのカラワン・バンドが来日し、全国各地でコンサートを行った。カラワンは1970年代前半のタイにおける民主化運動の中から生まれたグループで、タイを代表するミュージシャンのひとつだ。しかし、1989年にバンコクで行われた15周年コンサートを最後に解散し、以降は個々に音楽活動を続けるもの、作家や経営者となるものなどに分散していった。ところが、結成から20年たった1994年に記念のコンサートを開きたいとのことで、一時的に再結成したのである。
 日本でのコンサートは福岡、関西、東京の7か所で行われ、東京では11月11日にお茶の水の日仏会館ホール、14日に西武池袋線江古田のライブハウス「バディ」の2回で、両会場とも満員、立ち見の熱気溢れるコンサートだった。なお、来日メンバーはスラチャイ、モンコン、トングラン、ウィラサクのオリジナルメンバーに加え、若手のサマーン、ティックの6人だった。
 さて、東京のコンサートを始めるにあたって、カラワンに縁のある日本人を中心に実行委員会「カラワンを聞く会」をつくり、準備に入った。これにはわが市民ネットワークのメンバー有志も参加してもらうとともに、SVAに後援団体となってもらった。さらに、聞く会にはタイ留学生協会も参加し、日タイ合同の実行委員会ができあがった。その結果、コンサートそのものも成功したが、相互の交流という面でも大いに成果があがったと思われるし、これから文化交流を進めていこうという方向にもなっている。  
 ところで、カラワンの歌はどんな内容で、また、タイではどう受けとめられているのだろうか。1970年代はタイで反日運動が盛り上がり、カラワンの歌もかなりメッセージ性の強いもので、民衆から熱狂的に支持されていた。しかし、時代の変遷とともにタイでも欧米風のポップスやロックの人気が出て、社会問題を歌う音楽は後退していった。だから、タイ人に「カラワンを知っているか」と聞けば「知っている、だけど余り聞かない」との答えがかえってくる。また、リーダーのスラチャイが作る歌は地方の歌や言葉などもたくさん使われ、とても難しいという。ある日本人のタイ音楽評論家などはこれを指して、カラワンはインテリ好みであり、音楽的にはつまらないなどと言っている。 しかし、10月にバンコクのタマサート大学で行われた3回のコンサートにはそれぞれ2千人以上の聴衆が詰めかけ、それも10〜20代の若者が多数を占めるという盛り上がりようで、その人気と実力を証明した。カラワンの歌は確かに難しい歌詞があり、そしてメッセージ性の強いものだが、だからといって一部の人間だけにしか支持されていないというのは、余りにも主観的過ぎる見方ではないだろうか。
 東京でのコンサートに際し、私たちは可能な限り訳詞を集め、無料のプログラムにして配布した。そうすることでカラワンのメッセージをタイ語のわからない聴衆にも理解してもらおうとしたわけである。概ねこの試みは成功したように思うが、一部には「タイであれば何でもいい、楽しければそれで十分」という聴衆もいて、少し残念だった。
 今回のコンサートは、日タイの文化交流という面で成功したと思うし、カラワンが常にその時々の問題点や矛盾を歌に表現しているという一種の革新性を持ち続けていることが理解されたという面でもよかったと思う。 

(白石 孝)


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