荒川区職労で実践交流ツアー

SVA「カンボジアに日本の絵本を送る運動」を通じて


昨年12月17日〜23日、荒川区職労のメンバーが組合結成50周年を機に、絵本を届けにタイ経由でカンボジアを訪問した。

カンボジア・タイのスタディー・ツァーを企画して

荒川区職労文化情報宣伝部長 白石 孝

 はじめてタイへ行ったのが1988年の2月、その時も総勢22人のスタディー・ツァーだった。はじめてのタイでいきなりツァーの事務局となり、企画・実務を担当したが、今度のツァーはまったく異なる体験をした。同じツァーでも特徴がある。
 でも共通するのは「ボクはアジア、特に東南アジアがとっても好き」ということだし、これがツァーを企画し、引っ張る原動力なのかと思っている。
 タイへは10年間で15回ほど行っているし、SVAの事業についても大体頭の中に入っている。しかし、カンボジアには一度も行ったことがなく、イメージがまったくわかないまま小学生から年配者、そのうえ海外旅行初めて組も混じったツァーの一行14人を引率する自信はなかった。というわけで、思い切って11月に短期間だが、下見に出掛けることにした。結果としては、この事前調査がツァー全体の構成を大きく変えることになった。
 絵本は何とか目標の最低値をクリアし、多くの協力者の登場によって貼り込み作業もほぼ完成した。あとは、ツァーの中身をどうするのかという課題が残っていた。最初のプランでは、絵本を届けて贈呈式を行い、SVAスタッフの移動図書館活動を見学して事業の説明を聞き、記念写真を撮って帰国するというものであった。
 しかし、プノンペンに着き、雨季末期の豪雨に溺れかかりながら、加藤栄君の案内でいくつかの事業を見て回るうちに、実践交流型のツァーに挑戦してみようと無性に思い始め、出発までの1か月半はその組み立てに没頭することとなった。
 結果は、予想以上の成果があがったと思う。そのポイントは、何といっても「見る」だけでなく「実践する」ということであろう。「また日本人が来たけど、遊んでもくれないし、写真ばっかり撮ってつまらない」と現地事務所のどなたかの言葉が妙に頭の中でひっかかり、そこにこだわったのが、「何でもいい、とにかく何かやってみよう」ということだった。ほとんど言葉も通じないのだから、多少とんちんかんな遊びでもいい、と腹をくくって提案をした。
 もちろん、ツァー参加者の個性、特性の幅広さも大きな要素だった。パネル・シアターやエプロン・シアターに精通している参加者がいなかったら「無芸大食」の集団止まりだったかもしれない。「なぜ休ませてまで小学生を連れていくのか」と言われたかもしれない子どもたちが、その存在感そのものでタイでもカンボジアでも子ども同士の交流に弾みをつけた。バンコクの八木沢所長が「三世代のツァーは極めて稀だし、好感をもって受け入れられる」と語られたが、事実そのとおりの交流ができた。
 さて、もうひとつの大きな要因はツァーを受け入れる体制の確かさである。参加者に大きな感動を呼び起こした各プロジェクトは、SVA=JSRCの活動の成果によるところ大である。欲を言えばきりがないかもしれないが、私はバンコクのクロントイもスアンプルーも、そしてカンボジアのアジア子どもの家もダイアット村もその「レベルの高さ」、事業に関わる日本人、タイ人、カンボジア人の「パーソンパワー」に圧倒された。
 日本でも近年かなりな数のNGOが誕生し、世界各地で活動している。また、日本人のまだ少数かもしれないが善意と熱意ある人々による現地への援助も進められている。しかし、援助や協力をする相手側が必ずしもうまくいっているわけではない。そんななかで、SVAの活動には確かさを強く感じることができた。
 このことは、参加者の多くが感想文のなかでも触れているから、はじめて現場に立ち会えた皆さんも直感的に感じ取ったようだ。SVAの努力を高く評価したい。
 さて、問題はこれからである。組合としては50周年事業として特別予算を付けて取り組んだものであり、経常的な活動という位置付けではない。だから、今回と同様、あるいはそれ以上の規模で取り組むことはほぼ不可能であろう。しかし、ツァー参加者の共通した思いは「このまま終わってしまってはいけない」ということだと思う。
 「継続は力」という言葉を実感し、それを例え細々とでもいいから実現させていきたい。感動は一時で終わらせるのでなく、相手との交流、相互理解へと続けていくことをこのツァーでは訪れた場所場所で感じさせられた。
 私としては「アジア子どもの家」(ACC)への継続した関わりと絵本活動に取り組むのがいいと考えている。ACCは自治労中央本部や自治労加盟の単組との横のつながりも必要となるだろうが、その労は惜しまないつもりだ。
 最後に、参加者に寄せていただいた感想文は素晴らしかった。何度も何度も読み返し、その度に目頭が熱くなった。こんな感動はタイ15回の私にして初めてのことだ。このようなツァーは二度と体験できないかもしれない。でもまた違う素晴らしい体験は次の人たちが創りだすし人間にはその力がある。

園児の前に立った時、頭の中が真っ白だった
子供たちの力が私に感動を与えてくれました

荒川区西日暮里二丁目ひろば館 ・ 児童担当 松橋富美子

 私がこのツァーに参加した一番の動機は「一度は海外に行きたい」という、ごく単純なものでした。ボランティア活動や施設見学に興味はありましたがNGOの活動に何の知識もありませんでした。海外旅行の経験もなく、一緒に行くのも知らない人ばかりでついていけるのだろうか?皆それぞれ交流出来るような内容と案を持ち寄るということで、私はパネルシアターを提案しましたが、言葉がわからない国ではたして出来るものなのか、カンボジア語の単語リストをいただいて構成を考えましたが、正直いってイメージが浮かばず、たいへん不安を感じていました。
 最初の日、バンコクのSVA事務所でお話を聞いてから、初めて実際のスラムに入った時は、湿地の上のわたり板のような迷路を歩き、まるで違う世界に入ったようで、少々恐ろしく、顔がこわばってしまいました。
 スアンプルースラムの保育園でパネルシアターを実演した時のことは、おそらく一生忘れないと思います。園児の前に立ったとき、頭の中が真っ白になりましたが、最初のクイズパネルで「動物は何?」と話しかけ、子ども達が返事をしてくれた時は、本当にうれしく思いました。大きな声で名前を言う子、恥かしそうに答える子、指さす子、次に演じたカレーライス(タイではゲーン)でも、野菜や材料をみんな大きな声で教えてくれました。こんな風に知らない外国人を暖かくむかえ、反応を返してくれたスラムの子ども達に私は感激してしまいました。ストーリーものも演じましたが、ここの園長先生が子どもの気をそらさない迫力ある語りをつけて下さいました。(これはカンボジアではSVAのダヴィさんが素晴らしい訳の語りをして下さいました。)
 けん玉やエプロンシアターも演じられましたが、子ども達はどんどんのってきて、ここの園児達の集中力と聞く力にはまったくびっくり。帰りにはこのスラムの迷路が暖かく親しんで感じられました。
 このスアンプルースラムで最初に受けた印象と感動は、カンボジアでも、また、このツァー全体を通してみても基本的に同じものだったと思います。
 カンボジアのダイアット村は美しいところでした。 SVAのスタッフ男性の子ども達への読み聞かせを見ることが出来、導入の話し方も力強く、動きがあって、全身で表現していて新鮮でした。聞いている子ども達も目を輝かせていました。この村の図書館では、大きな子も小さな子も目をくっつけるように絵本を読んでいて、その熱心な様子に、この絵本を贈る活動の大きな意味を感じました。このSVAの活動を通し、学校に来るようになったり、学校をやめる子どもが大変減ったということが解る気がしました。校舎の裏で女の子をスケッチしたら、たちまち子どもが人だかり。モデルの子の紹介や゜次はこの子を描いて」(だと思う)と仲間を押し出したり、立候補したり、大さわぎ。好奇心いっぱいの大きなキラキラした目がとても印象的でした。村の人たちもとても暖かく迎えてくれました。家を訪問した時も、いろいろな人々が言葉がわからないながら暖かく声をかけ、話をしてくれ、帰りぎわにたくさんの子ども達が黒山のように集まってきて、みんなで送ってくれたことも忘れられないことでした。
 プノンペンの幼稚園教師養成所では、学生達といろいろな遊びで交流しました。こま、けん玉、どんぐり工作、エプロンシアター、レクダンス等、何にでも興味を持ち、どんどん覚えていくやわらかな頭と若さ、のりの良さ。ツァー全員で一緒に踊ったり遊んだり、ゲームをしたりしたここでの交流は本当に楽しい時間でした。
 ここで特に感じたことのひとつに、団体チームとして交流したことの大切さ、楽しさを味わうことが出来たことがあります。一緒に行った人達がそれぞれ持っている力と持味を発揮して、支えあい、協力しあって、様々な場面での交流に取り組んでいきました。個人的にもパネルを一緒にやってくれた花ちゃん、体調が悪いのに頑張った桃ちゃん、風に飛ぶボードを一生懸命おさえてくれたり、重いイーゼル運んでくれた男性方、楽しいエプロンシアターとパネルを後側で支えてくれた中山さん、本当にありがたいと思いました。大変な努力とパワーでこのすさまじいツァーを引率したリーダー、楽しい植物の生き字引、年配の方々の気配りと頑張り、それぞれの専門分野からの視点。SVAの藤松さん、ダヴィさんはじめ現地の方々もいい方ばかりで、大変お世話になりました。こちら側の愉快な区職労一座の仲間の間にも、とても暖かい感じが生まれ、そのことが短期間ではあっても集団と集団のかかわる、より深い交流を生んだと思います。
 私がこのツァーで体験したこと、感じたことはたくさんありすぎて、自分の中でうまく消化することが出来ません。決して明るい部分だけでなく、カンボジアの虐殺現場の学校では、殺される直前に写された大量の顔写真の前で言葉が出ませんでした。SVAや村の人達も、たくさんの家族が死んでいました。物ごいの人達や売春女性をつれた人達、麻薬にはしる子ども達や貧しさから先生をやめていく話も聞きました。でも、ここで出会った人々や子ども達はほんの一部なのですが、みんなすごく生き生きしている。明るくて、率直で、暖かい。問題が山のようにある貧しい国のはずなのに、どうしてこんなに生き生きしているんだろう。日本の方が逆に生きる喜びを実感出来ず、素直な表現ができる状況が少なく、前にむかって生きる力が落ちているような気がしました。
 私はタイ、カンボジアで出会った人々、子ども達が思いっきり向けてくれた笑顔に、本当に心がゆさぶられました。海外の観光ツァーでこういう体験と感動を持つことはなかったと思い、最高にぜいたくな旅をしたと思います。私にできる何らかの形で、この体験がちょっとでも生きるような活動をしていきたいと感じています。

※この感想文は、荒川区職労の「カンボジアの子どもたちにクメール語の絵本を贈る運動のスタディー・ツァー」報告書からの転載です。報告書をご希望される方は、荒川区職労の白石さん(SVA東京市民ネットワーク会員)にご連絡ください。
電話 03−3802−3111内線2773

スタディーツアーに参加して

里程標 編集担当・野村修一

 白石さんの誘いで荒川区職労のスタディツアーに同行させてもらった。
 事前の会合で、ただ視察に行くだけではなく、何かこちらからも出し物をということで、パネルシアターやエプロンシアターの上演等をすることに。私も一枚噛むこととなった。これは一大事。エプロンシアターはみんなで集まって1回練習したが、うまくできるか不安である。
 さて、12月17日に成田を出発、バンコクへ。翌日早速バンコク事務所で八木沢さんの説明を受けた後、スアンプルースラムへと向かう。幼稚園では日暮里の児童館勤務の松橋さんが演じるパネルシアターに子供たちの目が吸い付けられる。驚いたのは園長先生の統率力である。パネルシアターのあらすじを訳して子供たちに伝えているのだが、声の迫力、演出力が素晴らしい。聞くところによれば、この園長先生がここでの活動の中心となっているとか。現地の人の力強さを感じさせられた。
 3日目にカンボジアに入り、4日目にプノンペン近郊のダイアット村へ。SVAが支援している小学校を訪れる。着くと、SVAの現地スタッフの人が読み聞かせをしているところだった。明朗かつ感情のこもった語り口で、非常に上手いなと、クメール語の分からない私でも感じるものがあった。
 さて、いよいよエプロンシアターを演じる時がやってきた。日本語で説明して通じるのか?反応はどうか?と不安は尽きない。子供たちは100人を優に超えていただろう。感じが伝わるように無我夢中でやったがどれほど子供たちに伝わったことやら・・・。
 その翌日はプノンペンのアジア子供の家へ。やはりエプロンシアターを上演することとなった。緊張しまくりであったことには変わりがない。ただ、こちらの問いかけに対して子供から反応らしきものが感じられたのは、嬉しかった。
 ツアー全体を通じて感じたのは、現地の人たちの活動の真摯さだ。タイのスアンプルー・スラムの幼稚園の園長先生、プノンペン事務所のカンボジア人男性スタッフ、識字学級を自宅で開いているダイアット村の先生・・・。彼らをこんなに駆り立てるものは何なんだろうか。逆に、日本で安穏と暮らしている私は何?生活態度を改めねば・・と思わざるを得なかった。
 また、今回は多くの子供たちと間近に接し、彼らが生き生きと動き回っているのを見て「すごい」と感じてしまった。剣玉や独楽の習得も本当に早い!彼らをとりまく環境には厳しいものがあるのだろうが、彼らの将来は明るいのではないかと思った。また、彼らの将来を不当に閉ざすようなことに我々も手を貸していないかどうかチェックする必要があると感じた。
 今回のツアーは交流という面ではかなり成功したものだと思う。アジア子供の家でエプロンシアターのセット一式を渡したときに相手方が本当に感動したのを見た時は、本当に嬉しかった。また、事前に作業があったことで、参加者の一体感や参加することに対する意識を育むことができたと思う。
 今後はツアーの経験をどのように伝え、また生かしていくかが課題だが、その問に対する答はまだ出せていない。私自身が人にこうした話を聞いてもらえるほど信頼される人間になることが第一かな、という気がしており、そのためにはやはり日々を真摯に暮らすしかない、当座の目標(資格の取得の社会復帰)に向けて頑張るしかないと考えている。


里程標内容SVA東京市民ネットワーク