SVA東京市民ネットワークNEWS LETTER「里程標」第7号

アジア 熱き希望の大地〜国際ボランティアからのメッセージ

八木沢克昌著


 大学生の頃から、海外で福祉の仕事に就くことを考えていたという八木沢さんの自伝ともいえる本書は、ボランティアの経験を語るなかで、この時代にどう生きるかということを考えさせる強いメッセージを送っている。

 高校生の時何気なく入った山岳部の経験と、冒険家・植村直巳さんの影響もあって、海外の登山を夢見て、勉強にバイトに勘む様子は、当時から好奇心旺盛だった青年を思いおこさせる。そんな彼が社会福祉に対して真剣に考えるようになったのは、念願のヒマラヤ、後にかかわりをもつことになるアジア各地をめぐり帰国してから、一ヶ月と経たないうちにおこった肉親の死がきっかけであったという。

 SVA(曹洞宗国際ボランティア会)の一員として難民キャンプに赴き、まさに死と隣り合わせで、カンボジア語の図書の復刻のための印刷所、図書館をつくっていくまでの苦労は、たいへんなものであっただろう。NGO(非政府接関)としての活動のむずかしさと、奥の深さを知ることができた。そこには、かわいそうという気持ちで物やお金を援助するだけでは解決できない、国際ボランティアの在り方が示されていると思う。

〜自らのアイデンティティというルーツなくしては、人間は生きていけないからである。花は根があって初めて美しい花を咲かせることができる。〜

という言葉が印象的だった。

 その後、タイの農村やスラムでの活動を通じ、子供たちの教育問題に関わる小学校の校長先生や、スラムの天使として知られるプラティープ先生と出会って感じたこと。タイ人の女性と結婚し、スラムで生活を始めたときのとまどい。これらはボランティアを一生の仕事として選んだ彼の、飾りのない心境であると思う。国内外のさまざまな分野で活動するボランティアにとって、共感し、励まされる場面が多くあることだろう。

 東京に赴任しているときにおこった、タイの民主化の流血事件や、阪神大震災の救援などに奔走しながら、アジア全体のいたみを感じているように思われるのも、国境を越えて共に生きるということを実践してこられた経緯があってのことだろう。こうした視点から日本をみつめて、

〜現在の日本のように、自分の存在すら確認することが雛しい社会ではボランティアとは結局のところ、自分の生きる楽しみや生き甲斐の発見ではないだろうか。〜

 人や社会のために役に立つということ、そのために相手の気持ち、文化を理解することは現在の日本人が抱えている問題にも光を与えるのではないかと述べている。

 経験に基づくこれらのメッセージに、表題にある「アジア熱き希望の大地」をかけめぐる涼しく、強い風を感じた。この風がやがて恵みの南をもたらすのだろう。

(大西佳子)


里程標内容SVA東京市民ネットワーク