SVA東京市民ネットワークNEWS LETTER「里程標」第6号

SVA主催

昨年のスタディー・ツァー報告集

29名の熱い夏、そしていま日本では


スタディー・ツァー報告記から伝わる息吹

 私の手もとに何冊かのスタディー・ツァー報告集がある。SVA以外のものでは国学院大学の里見実先生らが主宰する同大学生を対象とした夏季研修が長く続いているようだ。里見先生とは、1989年に三度目のタイ訪問時、バンコクの下町「プラトゥーナム」にあったATTゲストハウスで初めて出会った。このATTは、タイの民主化運動を進める学生たちが、買春目的の観光旅行でなく、本当のタイを知ってもらうために独自で設立した「オールタナティブ・ツァー」の経営するゲストハウスで、日本や欧州からの旅行客がよく利用していた。私も数年間はここの常連だったが、今はゲストハウスでなくタイのNGOのオフィスとなっている。もし、私が最初にここに泊まらず、ふつうのホテルに泊まっていたら、今のようなタイとの出会いはなかったと思う。そんな意味では個人旅行者がスタディー・ツァーをミニ体験出来る貴重な場だった。

 さて、里見先生とそのツァーのメンバーとの出会いは楽しいものであった。その後、カラワンやキタンチャリーのコンサート、ソンクラーン祭などでその時のメンバーに行き合うことが出来、細く長く付き合いが続いている。そのツァー報告が1989年に『サワディー!タイランド』として作成されている。若い学生たちの心の鼓動が敏感に伝わってくる内容のある報告集だ。20人の若者たち全員が今どうしているのか、本当に知ってみたい思いにかられる。

 その他に「幼い難民を考える会」(CYR)が3年前に実施した「タイプロジェクト体験ツァー」報告『私たちが出逢ったタイの田舎のくらし』は、CYRのタイ東部アランヤプラテート周辺の保育所プロジェクトを訪問した10名の体験記である。この報告書は個人体験記というよりは、CYRのプロジェクトがよくわかるような内容となっていて、NGOの活動紹介用冊子の側面が強く、読みでがある。なお、当会は今年の6月にタイから保母さん一人を日本に招き、長期研修の受け入れ準備をしており、協力者を求めている。

ツァーが運動に発展した

 ものすごいパワーを発揮して、疾風怒涛のごとくラオスを駆けめぐったのが「タイ、ラオスの児童図書館活動を訪ねるプアンプアンツァー」だった。SVAのラオスでの図書館プロジェクトを訪問しようということで、図書館、出版社、書店などの関係者、それも大半が女性のツァーを組んだのである。報告書、それも個人の感想文は感想そのものだが、帰国後の活躍がめざましく、「プアンプアン基金」を設立したり、絵本を贈る活動を進めている。日頃からのしっかりした活動ならではの取り組みで、若い世代の「体験ツァー」とは一味も二味も違っている。

SVAツァーの課題は?

 さて、SVA自体が主催するスタディー・ツァーの報告書にやっとたどりついた。私が持っているのは、92年、93年そして95年のものである。どれもがツァーから半年以上が経過して出されたもので、時間をかけているだけに内容は充実している。しかし、報告書であればもう少し早く出した方がよいのではないか。

 SVAツァーの特徴は、参加者の年代、層の多様さにある。その多様さがツァーに活気を与え、内容の充実を引き出している。曹洞宗の僧侶、教師、公務員、記者、民間企業社員、海外援助機関、学生などである。SVAのプロジェクトへの評価も的確であり、体験談もそれぞれに優れている。そんな内容だから、この報告書そのものがSVAのプロジェクト紹介書として十分通用するわけだ。月刊の『シャンティ』がどちらかというとSVA各事務所の日常活動報告兼記録(レポート)としての役割を果たしているのに対して、この報告書の方がプロジェクトを生き生きと伝える媒体としてはふさわしいように思う。だから、参加者にとっての記録集にとどめるのではなく、もっともっと活用したらいいのではないか。

 しかし、この報告書から読み取れないものが「その後」である。参加者が多彩であり、それぞれが日常的に何らかの活動に関わっているのだから、私の意見はあてはまらないかもしれないが、ツァー参加者がもっとSVAの活動に参加したらいいのではないかと思う。プロジェクトを体感し、それへの適切なコメントを記すことからもう一歩踏み込んで、日本での日常的なSVAとの関わりを持ってもらいたい。何も首都圏に住んでいなくても、いくつかの地域ではSVAのボランティア組織があるし、さらに言えば自分の地域で新たにボランティア運動を始めてほしいものだ。
訪問する側は一度きりの貴重な体験で終わってしまっても、訪問される方はそのまま暮らしつづけている。スタディー・ツァーとはなかなか重いものなのだと思う。

(白石 孝)


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