SVA東京市民ネットワークNEWS LETTER「里程標」第4号

私とおはなしきゃらばん

青木教泰

 '92年のSVAのスタディーツアーでおはなしきゃらばんと出会い、「これをやるぞ。」と即決し、きゃらばんに入ってから、早2年半たちました。子供が特別好きだったわけでもなく、本が特別好きだったわけでもなく、ただチェンカーン・キャラヴァンの公演を見ていて、「演者と子供たち(観客)が対話を通じて、一体となって楽しんでいる、こりゃ楽しい。」と感じた、そのことだけに引きずられてこの道に入りました。今は子供が好きだと言えます。子供の本のことをもっと勉強して、いろんなおはなしを子供にしてあげられる、おはなしお兄さんになりたいと思っています。

 たった2年半ですが、出会った子供の数ほど様々な体験をしました。毎日が子供たちとの最初で最後の出会いであり、真剣勝負ですが、“なんの準備もなしにその時見たまま感じたままに反応してくるこどもたち”対“準備をし、1年1本の演目で通しマンネリに陥ることもある我々”では、戦わずして勝負はついています。それでも我々は勝負を挑み、子供たちをおはなしの世界に誘い込み、魅了して止まないよう努力しなければなりません。ここが我々の追求する対話劇の難しさであり、面白さなのです。

 子供たちの反応には当然地域差がありますが、本質的には変わりません。劇を見ているうちに、劇の世界に没入してしまいます。悪者がいれば口でやっつけようとするし(実力行使に出たこともありました。)、落ち込んでいるキャラクターがいれば励ましてくれるし、思案しているキャラクターには良い案を示してくれます。こちらが頼めば積極的に舞台に上がってきて一役担い、キャラクターと触れ合います。彼らをまた別の子供たちが応援してくれます。しかし、子供たちの本質が変わらなくとも、彼らは常に否応なしに大人たちの関係を反映しているように見えます。協力関係の全然ない地域では、子供たちは自己主張ばかりして、他者を顧みません。コミュニティが機能している地域では、子供たちは他者の頑張りを、「○○ちゃんよくやったよ」と誉めてあげられます。私も地元で公演があったときには、子供たちから地域の現実を見せつけられて考えさせられました。

 海外公演も体験しました。印象深いのはカンボジア公演でした。「としのたんぼに来た天狗」といって、米を作っている幼い姉弟を天狗が散々脅かすが、泥田にはまって死んでしまいそうになったところを姉弟の手で救われた天狗が改心して、姉弟を助け、様々な天災を食い止め、姉弟が無事米を収穫する、というおはなしを上演しました。天狗が泥田にはまって助けを乞うところで、天狗(私)は覚えたてのクメール語で「助けて!」を連発しましたが、姉の「助けてあげようか?」の問い掛けに子供たちは「だめ!」助ければまた悪さをするというのが見え見えだったのでしょう。そこで天狗は何度も何度も一生懸命謝りました。「もう悪さはしない。心を入れ替えてよい天狗になるから。」と、クメール語で。子供たちの反応が一転しました。「いいよ!許してやる!」言葉ではなく、気持ちが通じたんだ、一体になれたんだと思いました。嬉しかったです。

 昨年、一時期公演を降りていたときには、公園に来ている子供たちに声をかけて、絵本の読み聞かせに挑戦しました。子供たちの反応が目前で分かるので、私の力量をその場で示されてしまうという、公演とは一味違った緊張感を味わいました。

 おはなしを通して子供たちと向き合う毎日、本当にうまくいったなあなんて感じたことは一度もありません。うまくいったかなと思えたときも、よく思い返せば、結局は子供たちに助けられていたのだと気付くのでした。子供は凄いです。そんな子供たちといつかは対等に亙り合わんと勝負を挑んでいる毎日、刺激的でとても楽しいです。

 私の体験の羅列からおはなしきゃらばんの活動がよく分かっては戴けなかったでしょうから簡単に説明します。おはなしきゃらばんは、「読書指導及びおはなしの実演を主体として各地に巡回奉仕を行い、あわせて文庫を開設する等児童図書館活動を推進することにより、幼少年期の人間形成に重要な役割を担う児童図書事業の普及向上に寄与すること」を目的に設立された教育財団です。現在、東京電力との契約による年間約200日の巡回公演(人形劇)が活動の殆どを占めており、公演で子供たちを夢中にさせ、内面を引き出せるという点において、幼稚園、保育園、小学校の先生等教育関係者、及び親たちを常に刺激しています。また、きゃらばんが今まで実践研究を通して蓄積してきた様々な資料(絵本、16ミリフィルム、スライドストリップ等)の貸し出しを通じて、かつてきゃらばんの指導のもとに誕生した多くの文庫の活動をサポートしています。子供たちにおはなし会をしようとしている方のご相談に応じられると思いますし、資料が必要な方には貸し出しもできます。

 今年からは、本来業務の傍ら、1つのボランティア活動を始めました。ラオスの子供たちへのクレヨン寄贈です。SVAヴィエンチャンのスタッフから「ラオスの子たちの殆どは、クレヨンを持っていない。持っていても、油っぽくて紙に色がちゃんとのらないもの。だから色のある絵本なんて描けないんだ。」と聞かされて、日本では、子供たちは、ある時期を過ぎるとクレヨンを中途半端で使わなくなってしまうから、それを回収して役立てられるのではないかと思い立ち、様々な方面に呼びかけました。東京電力も一部の営業所で管内の学校に呼びかけてくれました。お陰で大量に集まり、第1次発送分として段ボール6箱が、10月半ばにヴィエンチャンに届きました。現在、ラオス国立図書館がSVAと協力して小学校、幼稚園に配布しています。クレヨンを手にした先生と生徒からは、色を使った絵が描けるようになって嬉しいとの声と共に絵が届きました。最終的にどこまで配布するかはまだ決めていないのですが、もうしばらくは継続しようという話になっています。そしてこれを契機に、日本とラオスの子供たちの相互交流、相互理解の活動に発展して行けばなあと考えているのです。手始めに子供たちの絵の交換をしようとしています。

 私の取り留めもない文章で、少しでもおはなしきゃらばんのことを分かって戴けたでしょうか。かつてやっていて私が入ってからはやっていない活動については、責任を持って語れないので割愛させて頂きました。もっとよく知りたいという方は、おはなしきゃらばんまで直接お問い合わせ下さい。

おはなしきゃらばん TEL.0424-75-4366


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