SVA東京市民ネットワークNEWS LETTER「里程標」第3号

図書紹介

河口尚子

売春社会日本へ、タイ人女性からの手紙(明石書店)

下館事件タイ3女性を支える会=編

 1991年9月に起きた「下館事件」(下館市で3人のタイ人女性が同じタイ人女性を殺して逃げた事件)で逮捕された3人のタイ人女性は、1994年5月に「強盗殺人罪」として懲役10年の実刑判決を受けた。この本は、彼女たちが拘置所暮らしの中で弁護士や支援者宛に書いた手紙の他に、裁判の経過と判決、人身売買のシステムの実態についても書かれています。

 彼女たちの生い立ち、どうやって日本に連れてこられたのか、日本でどんな生活をさせられていたのか・・読み進めていくうちに3人の痛みや苦しみが、叫び声として聞こえてくるような気がしました。“商品”として扱われ、人間としての自由を奪われ、強制売春をさせられることの恐怖・・・。

 検察は、彼女たちが働いていたスナックのオーナーの証言を元に「金品目当ての殺人」として「無期懲役」を求刑し、裁判でも人身売買の存在を認めながらも「強盗殺人」との判決。売春、人身売買を禁じているはずの日本なのに、実際に罰せられたのは彼女たちだけでした。もし、同じ事件を日本人女性が起こしたとしたら、絶対に違った判決が出ていたでしょう。

 売春、買春を容認する社会、人身売買組織が存在すること、警察がその被害者を保護できないこと、外国人に対する差別、偏見など日本社会の影の部分が写し出された事件だとつくづく感じました。


市民と援助(岩波新書)

松井やより著

 西欧のNGOというと、組織はしっかりしていても、相手国の考えを受け入れず、自分たちの国の価値観や西欧的合理主義を押しつけるといったイメージがあり、でもその実態はあまりよくは知らずにいた。しかし、この本を読んで「うーん、西欧のNGOは、単に合理主義や押しつけの援助ばかりではないな」と感じた。

 NGOの活動=「海外での援助活動」と考えがちだが、西欧のNGOは、自国内での活動も、海外と同じくらいに活発である。ただ単に海外での援助活動を紹介して、賛同者から寄付を集めるというのではなく、「どうして貧しい国が存在するのか」、「自分たちとの生活がその国にどんな影響を与えているのか」、そして「国と国との格差をなくすためには私たちはどうすればよいのか」などを考えていく、いわゆる『開発教育』といわれる分野にもNGOが、かなり力を入れていることを知った。また、自国の多国籍企業について進出先での活動をチェックしたり、ODA監視活動を行ったりと、自国に対しても実際に行動を起こしている。

 残念ながら、日本において、NGOがこのような活動を充分に行っているとはいえない。活動の成果や内容が目に見えないため資金を集めにくい(例えばどこどこの国に学校を建てたとか、人を何人派遣したとかの方がわかりやすいし、成果もはやく現れる)、NGO自身にもまだそこまでの意識、力がないというのが現実だと思う。

 この本は、さまざまなNGOの活動の事例を取り上げて説明しているので比較的わかりやすいと思う。(新書判なので持ち運びにも便利です)

 NGOというと、海外の活動ばかりで自分たちの国の問題や自分たちの生活にはあまり結びつかないと思っていたが、海外と関わることで、結局は自分の生活を見直して行くことになったり、また最近では、今まで国内での活動をしてきた人たちが、その目を海外に向けたりと、全てがどこかでつながっているような気がします。


里程標内容SVA東京市民ネットワーク