破産法 平成8年度第2問

問  題


 甲は、乙株式会社に対し、七,〇〇〇万円を貸し付け、乙会社代表取締役丙の所有する土地・建物(時価約四,〇〇〇万円)に抵当権の設定を受けていたところ、乙会社が破産宣告を受けたので、右七,〇〇〇万円の貸金債権について破産債権の届出をした。その後、甲は、丙所有の土地・建物について抵当権を実行して、一,〇〇〇万円の弁済を受けた。
 乙会社の破産手続における甲及び丙の地位を説明せよ。

答  案
(本試験再現、評価A)

一 甲の地位
1(1) 甲は乙に対して七、〇〇〇万円の貸金債権を有している。この貸金債権は乙の破産宣告前に行われた貸付けを原因とするものであるから、甲は七、〇〇〇万円を破産債権(一五条)として届け出(二二八条)、調査(二三一条)ならびに確定(二四〇条)という手続を経て配当を受けることができる(二六九条)。

(2) この点、甲は、丙の土地・建物に抵当権の設定を受けていることから、七、〇〇〇万円から土地・建物の時価四、〇〇〇万円を差し引いた三、〇〇〇万円についてのみ破産債権として届け出うると考えられなくもない(九六条)。
  しかし、別除権者につき残額責任主義(九六条)が採られているのは、一つの債権について別除権者と破産債権者という二つの形で権利行使を認めると、破産財団にとって重複した負担となるし、公平を失するという点にある。しかし物上保証人を有する者に破産債権者としての権利行使を認めても、破産財団に重ねて負担がくるわけではない。
  また、物上保証人を有する者は、「破産財団ニ属スル財産ノ上ニ存スル」権利を有する者(九二条)ではないので、別除権者とは異なる。
  したがって、残額責任主義(九六条)は適用されず、甲は七、〇〇〇万円全額を破産債権として行使できる。

2 ところがその後、甲は抵当権の実行によって一、〇〇〇万円の弁済を受けている。それでは甲は届出債権額を六、〇〇〇万円に変更しなければならないか。
  思うに、物上保証人は自ら債務を負担する者ではないが、他人の債務の担保に自らの財産を供するという点で「全部ノ履行ヲ為ス義務ヲ負フ」者(二四条)に類似する。また、破産手続は破産宣告時における破産者をめぐる法律関係の清算を目的とするものである。また、七、〇〇〇万円届け出たからといって全額弁済されるわけではない。
  したがって、一、〇〇〇万円弁済を受けても、甲は依然として七、〇〇〇万円を破産債権として権利行使できる(二四条類推適用)。

二 丙の地位
1 丙は物上保証人であり、抵当権が実行された場合には乙に対し求償権を有する(民法三七二条、三五一条)。
  そこで、求償権を破産債権として権利行使しようとすることが考えられる(二六条三項、二六条一項)。
  しかし本件では甲が七、〇〇〇万円全額につき破産債権として権利行使しているので、丙は権利行使できない(二六条三項、二六条一項但書)。

2 しかし抵当権が実行され一、〇〇〇万円が甲に弁済されている。とすれば「弁済ノ割合」即ち七分の一について、甲の破産債権を取得できそうである(二六条三項、二六条二項)。
  だが破産債権については全額満足を得られないのが通常であり、一部しか弁済したにすぎない丙に権利取得を認めることは甲の利益を著しく害する。
  思うに、物上保証人が他人の債務のために自己の財産を担保に供する者である点全部義務者と類似することから、甲は破産債権として七、〇〇〇万円を行使できると解する(二四条類推)。
  そして、二六条二項は数人が合わさって債務を完済した場合の規定と解する。
  よって丙は破産債権者としての権利行使はできない。

以 上


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