平成10年度司法試験口述試験 刑法

●:試験委員、○:筆者


● 故意とはなんですか。

○ 構成要件の重要部分の認識です。

● 故意の成立のために必要となる認識の対象は?

○ 構成要件の重要部分、あと、違法性阻却事由の不存在・・。

● 構成要件の重要部分って?

○ はい。結果と実行行為性です。

● 因果関係の認識は必要ないの?

○ はい。必要ありません。

● じゃあ、人をのろい殺せると思って呪い殺そうとした人は故意はあるの?

○ 実行行為性の認識に欠けるので、故意はありません。

● 実行行為って何?

○ 法益侵害の危険性を有する行為です。

● 行為者は人を死なせる危険性があると思っているんじゃないの?

○ そ、そうですね・・・。当該行為から結果が生じることの認識が必要と考えます。

● それって因果関係の認識ってことじゃない?

○ ・・・・。あ、行為者の認識を基礎とした場合に、一般人が法益侵害の結果を意識できるようなときに故意があると考えます。

● 次へいきます。警官Aが犯人Bを追走中、犯人Bの足を目がけてピストルを撃ちました。弾は犯人Bの足に当たりBは負傷しました。弾は更に、偶然道の脇から飛び出てきたCにも当たり、Cは死亡しました。Aの罪責は。

○ はい。Bに対する関係では傷害罪が成立しますが、正当業務行為として違法性が阻却されます。Cに対する関係では傷害致死罪の構成要件に該当しますが、正当業務行為として違法性が阻却されるものとして行為しているので故意が阻却され、過失致死罪がせいぜい成立するにとどまります。

● Aは警官だけど、過失致死?

○ あ、業務上過失致死です。

● 業務上過失致死って、どれくらいの刑か知っている?

○ 5年以下の懲役・・。

● そう、軽くないよね。それでいい?

○ う・・・。Cが飛び出してきたのが本当に予測外であれば業務上過失もないと考えます。

● 過失は予見可能性を中心に考えるの?

○ はい。

● では、警官が追走していたら犯人Bが突然ナイフを持って襲いかかってきたので、AはBを狙って撃ちました。Bは負傷し、さらに弾はCに当たってCは死亡。Aの罪責は。

○ Bに対しては傷害罪の構成要件に該当しますが、正当防衛として違法性が阻却されます。Cに対しては傷害致死罪の構成要件に該当しますが、正当防衛と思って撃っているので故意責任が阻却され、せいぜい業務上過失致死罪が成立するか無罪になります。

● 同じ職務中なのになぜさっきのは正当業務行為で今のは正当防衛?

○ 36条は、規定の位置から見て35条の特別規定と考えられるからです。

● 一般法と特別法の関係?ホントに?

○ あっ、いえ。今の事例は、Bに対しては正当行為と正当防衛のいずれにも当たり、両方の面で違法性が阻却されます。Cに対しては、正当行為として撃っていること、正当防衛として撃っていることの両面で故意責任が阻却されます。

● ところで、君は構成要件段階では故意は成立するって言ったけど、故意犯の成立は認めるの?

○ はい。構成要件段階の故意は認められますが、違法性が阻却されると考えているので、責任段階で故意責任が阻却されます。

● ところで、Cに対する加害はいずれも業務行為としてなされた行為から生じた結果なんだけど、なぜ正当防衛や正当業務行為にならないの?

○ 正当防衛についてはCは「不正の侵害」をしていません。正当業務行為についても職務上認められた範囲でのみ違法性が阻却されると考えます。

● 君は違法性阻却を個別の法益ごとに考える立場かね。

○ そうです。

(終わり)


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