彼の曲は非常に独特な雰囲気を持っている。ユニコーンの当時から見られていた特徴と、それは言える。
彼の作るメロディには、一言で言って、「うねり」のあるメロディだと言える。演歌のこぶしにちょっと似ているが、歌唱上のテクニックでなく、すでにメロディ自体に同じような色が含まれているのだ。これは、他の人にはそれほど見られない傾向と思われる。従って、彼の曲はインパクトがあり、すぐ彼の曲だと認識できる。例として、Puffyのデビュー曲などは、彼が歌っているのではないが、いかにも奥田民生的なメロディを持つ。サビの部分を聴いていただくとそれを感じていただけよう。キリンのジュースのCMで聴くことができる。
もう一つ挙げると、彼のコード感覚が絶妙だと言える。型にはまらないと言うか、コード進行の考え方が上手いというか、いかにも、というパターンに陥らないところがある。例を挙げると、ユニコーンの「素晴らしい日々」では、Aメロは「E-Am」という進行の繰り返しから始まる。このコード進行は理論的にも問題はないが、Eのコードから始まるところにポイントがある。メジャーコードで始まるが、実はマイナーのキーであるという、アクセントが効いてくる。これが、彼の絶妙なコード感と私は思っている。
さらに、別の面を考えると、彼の歌詞は日本語ばかりで構成される。これが、また、彼らしい気怠さを演出してくれる。これは、多く言われているが、日本語の音節構造は英語と違って、ひとつの音符にひとつの日本語の音しかのらない。つまり、ひとつの「ド」という音符には「あ」というひとつの音節しか対応しないのが原則である、ということだ。よって、日本語のラップが間抜けに聞こえるのも、理解していただける。ところが、奥田民生のメロディは逆に上手く調和してしまう。ラップではないからとも言えるが、ことばとメロディの合わせ方が上手いのだと考えられる。ある面では、井上陽水に通じる感覚である。奥田メロディと陽水の歌詞という組み合わせは最近よく見られるが、かなりよくマッチングしていることからも、推察できる。
奥田民生というメロディメーカーは、独創性に優れた人だと思う。彼のメロディを愛するひとりとして、釣りばかりしてないで、もっと仕事してくれ!という声援を贈り、本稿を終わりたいと思う。