心血管異常を有する選手の運動
  1. 競技の適性に関する勧告

    (第16回Bethesdaカンファレンスより抜粋

    各論

  2. 先天性心疾患
    1. 心房中隔欠損症(非手術例)
      1. 肺高血圧症を合併していなければ、すべての競技運動が可能。僧帽弁逸脱症の有無は問わない。
      2. 肺高血圧症を合併している場合(平均肺動脈圧20mmHg以上)は低強度の運動(class1.B.)ならば可能。
      3. 僧帽弁逸脱症と僧帽弁閉鎖不全もしくは心室性不整脈を伴う場合は、僧帽弁逸脱症のみを伴う心房中隔欠損症と同様。(→心筋心外膜疾患、僧帽弁逸脱症を参照)
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    2. 心房中隔欠損症(手術例)
      1. 術後6ヶ月経過していて胸骨切開術後の状態が良好なもので下記項目に該当しなければ、すべての競技運動が可能。
        1. 平均肺動脈圧>20mmHg
        2. 洞結節機能低下(症状のある徐脈症候群)
        3. 完全房室ブロック
        4. 胸部X線上、心拡大(CTR>55%)
      2. 上記の項目を有する物は低強度の運動(class1.B.)までは可能。
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    3. 心室中隔欠損症(非手術例)
      1. 小さい心室欠損ではすべての競技運動が可能。
      2. 中等度の心室中隔欠損症(肺血管抵抗が小さくて、肺体血流比が1.5〜2の場合)では、低強度の運動(class1.B.)までは可能。
      3. 大きい心室中隔欠損(肺血管抵抗が小さくて、肺体血流比が2以上の場合)では、低強度の運動(class1.B.)の中でも軽いものなら可能。
      4. 肺血管抵抗が大きい場合は(→M.肺血管抵抗上昇、アイゼンメンジャー症候群を参照)
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    4. 心室中隔欠損症(手術例)
      1. 術後6ヶ月以内で心室欠損症が消失し、下記の項目を満たす物ではすべての競技運動が可能。
        1. 肺動脈圧が正常
        2. 24時間ホルター心電図にてLown0〜2
        3. 運動負荷テストが正常(心室性不整脈が無く、運動能力が年齢相応)
      2. 術後も中等度〜高度の心室中隔欠損が残っている場合、低強度の運動(class1.B.)までは可能。
      3. 術後も肺高血圧が持続する場合、競技運動は禁止。(→M.肺血管抵抗上昇、アイゼンメンジャー症候群を参照)
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    5. 動脈管開存症(非手術例)
      1. 小さい動脈管開存(無症状で、胸部X線による心拡大や心電図異常を認めないもの)では、すべての競技運動が可能。
      2. 中等度〜高度の動脈管開存(胸部X線による心拡大や心電図異常にて左室あるいは両室肥大を認めるもの。肺高血圧の有無は問わない。)では、低強度の運動(class1.B.)ならば可能。
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    6. 動脈管開存症(手術例)
      1. 術後6ヶ月で無症状、胸部X線に異常がない場合は、すべての競技運動が可能。
      2. 術前に肺高血圧を認め、術後も肺高血圧が持続している場合は、運動を制限すべきである。(→M.肺血管抵抗上昇、アイゼンメンジャー症候群を参照)
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    7. 心室中隔に異常のない肺動脈弁狭窄症(非手術例)
      1. 収縮期最大圧較差が50mmHg未満で、右心機能が正常な場合はすべての競技運動が可能。
      2. 収縮期最大圧較差が50mmHg以上または右心機能が異常な場合は、低強度の運動(class1.B.)なら可能。(この場合バルーンによる弁形成術か開胸的弁切開術をした方がよい。(→H.肺動脈弁狭窄症(手術例)を参照)
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    8. 肺動脈弁狭窄症(手術例)
      1. 術後6ヶ月で狭窄が解除され、心機能が正常な場合は、すべての競技運動が可能。
      2. 術後も中等度〜高度の肺動脈弁狭窄が持続する場合は、非手術例に準ずる。
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    9. 大動脈縮窄症(非手術例)
      1. 大きな側副血行や大動脈径の拡張のない軽症例で、運動負荷テストが正常な場合は、低強度の運動(class1.B.)なら可能。一部の人は、中〜高強度の動的および低強度の静的運動(class1.A.2)は可能だが、衝撃を伴う運動(class2)は禁止。
      2. 安静時あるいは運動にて高血圧を認める場合は、競技運動をしないこと。
      3. 心室中隔欠損や大動脈弁狭窄症などの他の奇形を伴っている場合はそれぞれの合併奇形に準ずる。
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    10. 大動脈縮窄症(手術例)
      1. 修復後6ヶ月以上で、安静時の上肢と下肢の圧較差が無く、最大運動中の血圧が正常で、心拡大が無く、左室肥大をほとんど認めず、左心機能も正常の場合では、競技運動は可能。しかし、術後は衝撃で大動脈破裂の可能性が有るため、一般に術後1年以上は、class2の運動は避けた方がよい。
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    11. 大動脈弁狭窄症(非手術例)
      1. 軽症の大動脈弁狭窄症(安静時圧較差20mmHg未満)で下記の項目を満たす場合、すべての競技運動が可能。
        1. 安静時心電図が正常(左室肥大や不整脈がない)
        2. 運動負荷テストが正常
        3. 心拡大がない
        4. 左室機能が正常
        5. 安静時に不整脈が無く、しかも24時間ホルター心電図にてLown0〜2まで
      2. 中等度の大動脈弁狭窄(安静時圧較差40mmHg未満)で下記の項目を満たす場合、低強度の運動(class1.B.)までは可能。一部の人では、中〜高強度の静的および低強度の動的運動(class1.A.3)も可能。
        1. 心電図にて左室肥大があっても軽度で、strain patternを認めない。
        2. 運動負荷テストが正常
        3. 24時間ホルター心電図にてLown0〜2まで
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    12. 大動脈弁狭窄症(手術例)
      1. 術後の安静時圧較差が20mmHg未満の場合、すべての競技運動が可能。
      2. 術後も軽症の大動脈弁狭窄を残す場合、低強度の運動(class1.B.)までは可能。もし次の条件を満たせば中〜高強度の静的および低強度の動的運動(class1.A.3)も可能。
        1. 心拡大の程度が軽い
        2. 左室機能が正常
        3. 大動脈弁閉鎖不全がないか、有っても軽い
        4. 運動負荷テストが正常
        5. 24時間ホルター心電図にてLown2未満
      3. 術後に次の条件があれば、低強度の運動(class1.B.)に制限すべきである。
        1. 右室拡大が軽度以上
        2. 大動脈弁閉鎖不全が軽度以上
        3. 心電図上、安静時あるいは運動時にST・T変化を認める
        4. 重症不整脈が安静時や運動時に認められる
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    13. 肺血管抵抗上昇、アイゼンメンジャー症候群
      1. 競技運動はすべきでない。というのは、生理的活動以外では突然死の可能性が大きいからである。
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    14. チアノーゼ性心疾患(非手術例)
      1. チアノーゼ性の心疾患で非手術例では、低強度の運動(class1.B.)なら可能。
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    15. 姑息的手術後
      1. 低強度の運動(class1.B.)は可能。ただし、下記の条件を満たせばclass1.A.2class1.A.3の運動の中でも、比較的低強度のものなら可能。
        1. 動脈血酸素飽和度が運動中でも80%以上
        2. 安静時や運動負荷テスト、24時間ホルター心電図にて不整脈がみられない
        3. 胸部X線や超音波心エコーにて心腔の拡大がないか、あっても軽度
        4. 運動負荷テストでの身体活動能力がほぼ正常
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    16. ファロー四徴症術後
      ファロー四徴の修復後は、多くは高強度の運動が可能。しかし、一般的には、全身状態が良好の時でも制限される。
      1. 下記の条件を満たせばすべての競技運動が可能
        1. 右室圧がほぼ正常(右室収縮期圧≦40mmHg、拡張期圧≦8mmHg)で、臥位運動にて心拍数が120/分以上に増加しても、右室圧が70mmHgを越えない
        2. 右マ左シャントがない
        3. 肺体血流比が1.5:1未満である
        4. 安静時や最大運動負荷時に心室性不整脈がみられず、24時間ホルター心電図でLown0〜1
        5. 胸部X線上 CTR<55%
        6. 左室機能が正常
      2. 右心機能の軽度低下あるいは軽度の心拡大を認める場合は、低強度の運動(class1.B.)なら可能。ただし次の条件を満たせばclass1.A.2class1.A.3の運動の中でも、比較的低強度のものなら可能。
        1. 運動負荷テストでの運動耐容時間がほぼ正常
        2. 安静時や運動中、あるいは24時間ホルター心電図にて心室性期外収縮がみられない
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    17. 大血管転位(Mustard手術やSenningの手術の術後)
      MustardあるいはSenningの手術をうけたものは、低強度の運動(class1.B.)なら可能。
      なお下記の条件を満たせば中〜高強度の動的および低強度の静的運動(class1.A.2)のいくつかは可能。
      1. 胸部X線上、心拡大がない
      2. 心電図上、P波の低電位と右室肥大の他には異常がない
      3. 24時間ホルター心電図にて上室性頻拍や高度の洞性徐脈がみられない
      4. 運動負荷テスト中に心室性や上室性の不整脈が出現せず、運動後に徐脈もみられない
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    18. Fontanの手術後
      Fontanの手術後で心拡大がそれほどでなく、不整脈がない場合には、低強度の運動(class1.B.)なら可能。
      なお下記の条件を満たせばclass1.A.2class1.A.3の運動の中でも、比較的低強度のものなら可能。
      1. 標準プロトコールによる運動負荷テストにおいてほぼ正常の身体活動能力がある
      2. 安静時あるいは運動負荷テストにおいて心室性や上室性の不整脈がみられない
      3. 24時間ホルター心電図にて、Lown1以上の心室性不整脈がなく、また上室性頻拍や高度の洞性徐脈もみられない
      4. 心不全の徴候がない
      5. 運動負荷テストにて酸素飽和度が80%未満にはならない
      6. 左室機能が正常かほぼ正常である
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    19. 右バルサルバ洞からの左冠動脈起始異常
      1. 死亡前にこれを同定することは難しいが、こうした異常が発見されればスポーツに参加させないようにすべきである。外科治療によって突然死の危険性は低下するであろう。
      2. 外科治療後6ヶ月たっても吻合が開存しており、最大運動負荷テスト中にも虚血が認められない場合は、スポーツへの参加は許される。
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    20. マルファン症候群
      1. 衝撃を伴う運動(class2)は禁止
      2. 大動脈拡張や僧帽弁閉鎖不全症がなければ、低強度の運動(class1.B.)は可能。一部の人では中〜高強度の動的および低強度の静的運動(class1.A.2)も可能。
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