●「となりの山田くん」公開初日レポート
The First Day of "My Neighbors The Yamadas"

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●上映開始まで 



●舞台挨拶風景 



●上映終了後 




記録的に大ヒットした「もののけ姫」を手掛けたスタジオジブリの次回作として、前年よりマスコミに注目されてきた「となりの山田くん」。果たして、その初日はどのようなものであったのだろうか。「もののけ姫」のような社会現象は再現されたのだろうか。

舞台挨拶が行われた劇場を中心に、「となりの山田くん」の公開初日の模様をドキュメントで追ってみた。


 
●上映開始まで
 1999/07/17, 6:42-9:35


6:42, マリオン前 行列は約100名



6:55, 係の案内 7:00より入口前へ誘導



8:20, 列の最後尾 約200名



8:30, 行列の先頭を撮影する取材陣



9:10, 入場開始



9:15, 取材陣の間をくぐっての入場



9:25, 売店前の様子


9:30, 場内の取材陣 目立つ空席
スクリーン前にいるのも取材陣



9:35, 上映直前 なお両端に
空席が残る 2F席は15名ほど



 
●舞台挨拶風景
 1999/07/17, 11:45-11:53


11:45, 舞台挨拶 高畑勲監督



11:48, 舞台挨拶風景



11:49, 満員になった場内



11:50, 取材陣 カメラマンに笑みが



11:53, マスコミ向け写真撮影



 
●上映終了後
 1999/07/17, 12:00-14:10


11:58, ロビーの様子



11:58, 退場する観客



12:00, 取材風景



12:05, 出入り口付近



12:10, 取材を受ける徳間社長



14:10, 入場口 「座れます」看板


「もののけ」現象の再現ならず! それでも、「山田くん」は「山田くん」だ

「まさか、こんなはずでは?」
というのが、関係者・取材陣・観客の共通した偽らざる本音の感想ではなかっただろうか。
初日の初回、しかも舞台挨拶がある劇場で、上映開始時間になっても空席が埋まらなかったのだから。

「となりの山田くん」は、その製作段階から大いに注目されていた作品であった。あの記録的ヒットを飛ばした「もののけ姫」を制作したスタジオジブリの次回作という、生まれながらの話題性があった。フルデジタル処理をはじめとする新技術は世間の耳目を集め、配給先の松竹決定は業界を仰天させた。ディズニーが出資したことは経済専門紙の関心をも呼んだ。1998年7月の制作記者会見では、1300人の取材陣が詰めかけて立ち見が出るほどであった。"制作は順調に遅れています"の中間報告では人々をやきもきさせ、完成してみると作画枚数・制作費とも「もののけ姫」を上回る規模に達したことが分かって、再び人々を驚かせた。その注目度も相まって、初日・舞台挨拶の会場となった東京・有楽町の丸の内ピカデリ1には、大量の取材陣が駆けつけた。

しかし、当日の場内は、皮肉にもその取材陣ばかりが目立つ格好になってしまった。観客は適当に入ったものの、盛況にはほど遠い状況であった。動員の不振は、翌日の新聞報道に端的に現れる。マスコミ向け写真撮影の時間まで割いたのに、実際にはわずかしか報道されなかった。1年前から最も熱心に「となりの山田くん」情報を連載してきた報知新聞でさえ小さな写真1枚を掲載しただけで、早くも次々回作の監督構想をトップの見出しに据えるというありさまであった。

作品自体は素晴らしい出来映えであった。先駆的な試みである水彩調の画面は、ほのぼのとした山田家の日常とよくマッチし、節目で詠みあげられる俳句は絶妙の味を出していた。原作の4コマ漫画が持つリズム・テンポを生かし切ったストーリー展開は小気味よく、場内は何度も笑いの渦に包まれた。全般的に好感度も高く、「ぴあ」のアンケートを実施していたスタッフに聞いてみても、観客は概ね満足している傾向にあるという。「となりの山田くん」は、作品の内容としては高い評価を受けたと見て良いのではないかと思う。

しかし、それらはロードショーでの観客動員に結びつかなかった。舞台挨拶のある初回でさえ満員御礼にはならなかった。2回目は5〜7割の入りで、3回目はさらに減少した。その傾向は新宿地区にある劇場でも同様であった。地方の劇場に至っては一段と少なく、ほとんど無人に近いところまであったそうだ。作品の質はともかくとしても、興行的には明らかにつまづいた形になってしまった。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「となりの山田くん」の初日・舞台挨拶は、東京・有楽町の丸の内ピカデリ1(座席数802 1F席580 2F席222)で行われた。私は舞台挨拶というより「もののけ現象」的状況が再現されるかどうかに関心があったので行ってみることした。当日は、やや遅れ気味に行ったのであるが、あまりの行列の少なさは目を疑うほどで逆に驚かされた。行列の1番乗りは前日の午前10:00に駆けつけ、2番目は夕方頃で、徹夜組は約40名ほどであったという。数百人の徹夜組が殺到した「もののけ姫」と比べるべくもない。当日の朝になっても行列の伸びは低調であり、混雑を覚悟してかけつけた人は一様に拍子抜けしていた。

5:30  行列は約50名。
6:45  100名突破。
7:00  劇場入場口前へ誘導開始。開始時点での行列は約120名が並ぶ。
8:30  行列は約220名。念のため二人で数えたが、数えているほうが信じられないくらい少ない。
8:50  ようやく300名強に達する。

9:10  劇場内入場開始。観客は取材陣によるカメラの放列をくぐって入場。ポチとトホホ鳥の着ぐるみが歓迎してくれる。しかし、10分ほどで行列は途絶えてしまい、エレベーターから上がってきた客がパラパラと入ってくるだけになる。そのためか、着ぐるみは上映開始を待たずに奥へ引き上げてしまう。

9:35  580席ある1Fフロアは約7割ほどが埋まる。2Fフロアは222席に15名しかいなかった。
9:40  上映が開始されるが、1Fフロア両端には空席がなお残った。その後、随時観客が入場し、開始1時間め頃までには座席はほぼ埋まる。しかし、2〜3列め端の空席は最後まで埋まらなかった。

11:40  上映終了。新たに観客が入ってきて劇場の通路と両端を埋め、場内は超満員になる。舞台挨拶開始。最後にマスコミ向けの写真撮影。
12:00  2回目上映開始。観客数、5〜7割。
14:00  2回目上映終了。3回目の観客はさらに減少。

1回目の上映が終了した直後に入場してきたのは、2回目を見るために並んでいた観客であった。すなわち、初日の初回から入れ替え制(上映ごとに観客を全員入れ替えること)は行われなかったことになる。あとで劇場のチーフと思われる人に質問すると「ここは、もともと優待上映の劇場ではございませんので入れ替え制はとっていません」という回答であった。しかし、取材スタッフに見せてもらった取材案内の紙には、当日の入れ替え制が明記されていたから、舞台挨拶・マスコミ向け写真撮影を盛り上げる演出のため、やむなく2回目の観客を"動員"したような印象である。しかも、入れ替え制をとらなかったにも関わらず、1回目の観客はほとんどが退場してしまったので、2回目の上映は大量の空席が残った。そのため、出入り口には「満員御礼」ならぬ「座れます」の看板を掲げなければならない事態となった。この事態を一体何人の人が事前に予想しえたであろうか。下のチケット売場にも「空席あり」の表示が出されたものの、チケットの購入客はまばらであった。いっぽう、反対側にある「スター・ウォーズ」のチケット売場には終始行列が出来ていた 。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「となりの山田くん」の初日となった7月17日は、何とも中途半端な日程であった。一週間前の10日ならば学校の土曜休みだったし、一週間後の24日ならば夏休みに入っていた。しかし、17日はまだ学校があるので、子供達や家族連れでの来場を期待することが難しかったという側面はある。

けれども、向かいの日劇東宝(2年前、「もののけ姫」が上映された会場である)では、「ポケットモンスター」が幸先の良いスタートを切っていた。2フロア上の日本劇場でも「スター・ウォーズ」が終日立ち見の盛況であった。徳間社長は報道陣に対し、「今後『山田くん』はリピーターがたくさん出て、配収60億はいくと思う」と語ったという。まさに、「となりの山田くん」の浮沈は、このリピーターをどれだけ獲得できるかにかかっているといっても過言ではない。中年層をはじめ、普段映画に行かない層がどのくらい映画館へ足を運ぶかも重要なカギになるだろう。

しかし、私は思う。「となりの山田くん」のテーマは"適当"であった。そもそも、肩肘を張って見るような映画ではないのだし、観客動員や配給収入に一喜一憂しても仕方ないのかもしれない。気が向いた時、ふらりと劇場へ足を運んで気楽に楽しめれば、それでいいのではないかと。
オールスター・キャストが ♪ケ・セラ・セラ〜なるようになる〜♪と歌っているように。(1999/7/18 Y.Mohri)





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