News Clip of "My Neighbors The Yamadas" 10

June, 1999 Challenge of Studio Ghibli 3

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1999年6月18日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ:第3部 7



打倒「スター・ウオーズ」へ手応え十分

 今月下旬に初号試写が行われ完成する「となりの山田くん」。7月17日、全国263館での一斉公開を前に最も力が入っているのが初めてジブリ作品を配給する松竹の村居俊彦宣伝部長(44)だ。

 「配収目標は60億円以上。『家族が一番のドラマだ』をキーワードに高畑勲監督の集大成『山田くん』を絶対にヒットさせたい」松竹が過去、最も多い館数で公開したのが92年「遠き落日」の全国249館。最高配収が93年「REX恐竜物語」の22億5000万円。「山田くん」はすべての点でケタ違いだ。

 全国の映画館主たちの期待も高まっている。3月、村居部長はジブリの鈴木敏夫プロデューサー(50)とともに5大都市を回り「山田くん」を上映する劇場関係者300人以上に会った。

 「ジブリヘの期待感は、ものすごい。どの館主さんも"ジブリは日本映画界の4番バッターなんだから、絶対にホームランを打ってくれなきゃ困る。"と言うんです」と村居部長。宣伝費も5億円を用意。完成披露試写会が行われる7月1日から公開直前の15日まで、北海道から沖縄まで全国170か所を回る「10万人試写会」を行う。

 今回初めて「配給」も行うジブリも藩々と準備中。3月からジブリ配給担当の田中千義さん、荒井章吉さんの2人が全国260館をくまなく訪問。各館ごとに戦略を練っている。

 さらに映画関係者の多くが「あれこそジブリ作品ヒットの秘密」と言う"奥の手"がある。高畑監督と鈴木プロデューサーが7月1日から2週間かけて北海道から熊本まで完成フィルムとともに全国を回るのだ。89年「魔女の宅急便」以来続けているジブリの恒例行事だが「作り手が自分の口で作品を語る」(鈴木プロデューサー)ことで作品の魅力がすみずみまで伝わる戦略はジブリ独自のものだ。

 「『山田くん』が国民映画になる自信があります。敵はずばり1週間前に公開される『スター・ウォーズ』。今、ガイドラインだ、盗聴法だと日本が揺れ動いている中、映画までハリウッド大作に負けてしまったら、日本は笑い事でなく米の属国になってしまう。『山田くん』がヒットすれば、それこそ日本は自分の道を歩いていけるんじゃないかとまで思っています」と鈴木プロデューサー。

 97年「ロスト・ワールド」を破った「もののけ姫」などのジブリ作品は、過去4作にわたってハリウッド大作を撃破してきた。相手に不足なし。今、製作期間2年、ジブリ最大の野心作「山田くん」の"夏"がやって来た。=おわり= (中村健吾)(当該記事より)







1999年6月17日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ:第3部 6



見る人が見れば中身のすごさが分かる

 動画チェックという肩書で「となりの山田くん」動画スタッフ30人のまとめ役になった舘野仁美さんは、6月5日夜から徹夜でキャラクターの動きを最終チェック。翌6目の午前9時に全作業を終了した。

 2年間続いた作業が終わった瞬間を「放心していました。ふぬけた感じで」と振り返る。公開時期も同じ7月だった「もののけ姫」でも全作業終了は5月3目。1か月の作業の遅れ。98年末の時点で動画作業が全体の16%しか終了していない、まさに危機的な状況の時もあった。

 「『もののけ姫』は2年の間、だんだんきつくなっていった。『山田くん』は年を越してからの半年で全作業の8〜9割を"本当に終わるのかな、こんなに残っていて。"と思いながら、一気にやった感じ。いい作品を作ろうとメーンスタッフたちが練りに練りすぎた。スケジュールも考えて描かないと、というのが反省点ですね」

 「『山田くん』は絵柄がシンプルだったから間に合ったんです。そういう作品じゃなかったら(公開に)間に合わせるのは難しかったでしょう」厳しく続ける舘野さんだが、苦労しただけに出来には自信がある。

 「5月下旬に完成形に近いオールラッシュを見ました。"いい作品だな。と改めて再認識しました。安易な笑いを求めていない奥行きのある大人っぽい作品なんです」ジブリ初のフルデシタルでの作画。動画スタッフは「3枚の動画」という世界初の手法にも挑んだ。一見、水彩タッチのほのぼのした絵で、ジブリの挑戦のすごさが、どこまで伝えられるのかという疑問にも舘野さんは明快に答える。

 「分かる人には分かる。見る人が見たら、そのすごさ、魅力は伝わるんです。ちょっと閉鎖的な考え方かもしれないけど、例えば『もののけ姫』でも、どれだけの観客が、そのすごさを分かって見に行ったんでしょう。行列ができているから見に行ったら、心の琴線に触れたという感じではないでしょうか。『山田くん』も一見、軽そうだけど、中身のすごさは見れば、分かると思いますよ」

 「3枚の動画」導入のため、時にはキャラクターの線の内側に描く色指定のための線(内線動画)だけを描くこともあった舘野さん。「やっぱり色だけの仕事は寂しい。1枚の絵を全部、自分で描くことが一番です。でも、今回の作業は、とても新鮮でした。『山田くん』の優しいタッチも大好きだし、いい映画ができました」。88年「となりのトトロ」からジブリの中心メンバーとして活躍してきた10年選手は、そう言って笑った。(中村健吾)(当該記事より)







1999年6月16日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ:第3部 5



CGが目立たずに作品の中にとけ込んでいる

 「となりの山田くん」制作も最終段階。最も忙しい部署は仕上げと撮影に移り、19の原画スタッフ、30人の動画スタッフは、やっと一息ついた。制作終了後に許される制作休暇(10日間)をとるスタッフも増え、ジブリ2階の作画ルームは閑散とし始めた。

 92年「紅の豚」で作画監督も務めた原画のエース・賀川愛さんは5月9日、全部の仕事を終えた。「作品を見るのは、もったいないから(6月下旬の)初号試写まで待とうと思っています。ちょっと、ラッシュを見た中では『ボブ篇』の波の表現とかがすごいし"やってよかったな"と思います」とニッコリ。

 が、初体験のフル・デジタルによる制作については「『もののけ姫』の方が原画マンとしての仕事は多かった。前はカメラワークとか考えながら絵を描いていたのに、デジタルだと絵を描いた後の画面作りまで参加していなかった気がします。最終的にコンピューターが作る絵の素材作りをしている気も少しだけしたりして、ちょっと寂しかったですね」と正直だ。

 「自分の描いた部分に後で百瀬さんたちがCGで足してくれていたり−。実写映画みたいですよね。出演している俳優さんたちは演技をしているだけで素材でしかない。最後にSFXとか加えていくでしょ」とポツリ。「とにかく、今回は今までとまったく違ったアニメ。これまでのわたしの技術でやっていたら今までと同じアニメだったんでしょうけど」

 そう言う賀川さんは制作休暇でアメリカを旅行。「スター・ウォーズ/エピソード1」や「マトリックス」といった最端のSFX映画を見てきた。

 「ハリウッドの大作を見ると、CGばかりで、もう、すごいって気もしない。今、アニメ映画も、それに近い状態になっていると思うし"すごいだろう。のエスカレートより"面白い"の方が大事ですよ。だって、わたし『スター・ウォーズ』より(黒澤明監督の)『七人の侍』の騎馬戦の方がすごいと思いますから」

 だから「試行錯誤しながら、やったかいがある作品です」という「山田くん」の出来には自信がある。「以前のようなペタッとしたアニメじゃなくて、浮き立ってもなくて。CGが目立たないし、背景とキャラクターの違和感もない。面白い映画だと思いますよ」

 そして、「動画チェック」として動画部門を引っ張った舘野仁美さんも制作休暇前の今、同じ思いをしていた。(中村健吾)(当該記事より)







1999年6月15日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ:第3部 4



スピード感満点の自信作「ボブスレー篇」

「デジタル技術をフルに使うことで、まったく新しい表現ができました」と「となりの山田くん」で演出を手掛けるかたわら、CG部長として新技術導入の先導役となった百瀬義行さん(45)。ジブリが導入したイタリア製のソフト「トゥーンズ」は、従来のセルアニメ的なものを作ることを前提にしたソフトだった。「『山田くん』のような水彩タッチの作品を作るのには、かなり"裏技的な"使い方をしなければならなかった」と百瀬さん。そのために動画スタッフに要求されたのが「3枚の動画」だったのだ。

 「今回、初のフルデシタルで、それも水彩画風というかなり特別なタッチで作品を1本作り上げたことは大きい。"まだ、他のこともやれるんじゃないか"という期待が持てます」そう言う百瀬さんの自信作が「ボブスレー篇」。75のエピソードで出来上がった本編の間を貫く「移動、空撮なんでもあり。理屈抜きに楽しめる」(百瀬さん)波乱万丈の物語だ。完成の瞬間まで極秘扱いされてきた略称「ボブ篇」について百瀬さんは「今、作画が終わってCG処理段階で、残りは3割。映画の最初と中間、最後に挿入された"絵を見せること"を目的にしたもので、エンディングの部分なんてかなり面白くできてます」とニヤリ。

 ずばり「ボブ篇」の一端を明かすと「もののけ姫」でも使われ話題となったマッピング(2次元の絵を3次元のCGにはり込んで立体感を生む)、CGのシミュレーション使用(CGで元の絵を作成し、それに水彩画風の絵をのせていく)といった最先端の手法がふんだんに使われた7分強の番外物語と考えればいい。

 「キャラクターが意識的に常に空間移動している上、画面全体も常に移動している」と百瀬さんが明かすスピード感満点のアニメとなる。が、「デジタルで新しい表現ができたけど、絵としては、やっぱり水彩タッチで淡めに仕上げているから、ワオーツと驚くような押し出しはない。でも、見ると快感で何か居心地いいなと思ってもらえれば」

 「ボブ篇」の代表的シーンは、主人公のたかしとまつ子夫妻がこぎ出していく嵐の海の波の描き方。アニメ映画ではもちろん、実写映画でも見たことがない、まったく新しい表現だ。このすごさは、7月17日の全国公開で初めて明らかにされる。(中村健吾)(当該記事より)







1999年6月12日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ:第3部 3



音楽監督・矢野顕子が出した"にこやかさ"

「となりの山田くん」で初めて 音楽監督を務めた矢野顕子(44)は、4月中旬から自宅のある米ニューヨークのアヴァター・スタジオでレコーディングに入った。有名アーティストも使用するこの名門スタジオで、矢野は約1か月かけ30を超える楽曲を作り上げた。

 音楽面でも初めての試みばかりだった「山田くん」。最大の問題がニューヨークの矢野と東京の高畑監督との打ち合わせ。2人が直接会ったのは2回だけ。あとは電話と手紙のファクスのやりとり。大活躍したのがデータ通信・ISDN回線だった。

 ニューヨークの矢野は作った曲をISDN回線に乗せてせて東京に送る。東京・渋谷のスタジオで矢野の音源を待ち受けたジブリ音楽担当の稲城和実さん(36)が、コピーしたテープをジブリに持ち帰り、高畑監督がチェックする作業が3回行われた。

 ニューヨークと東京の時差は13時間(サマータイム)。矢野が昼間、音源を送っても高畑監督がチェックし終わるのは明け方。その直しが矢野に届けられるのも逆に米の真夜中。追い込み時には日米で、徹夜の作業が続いた。

 5月20目に帰国した矢野は翌21目に東京・早稲田のアバコ・スタジオで最終録音を行った。稲城さんが「背筋が、ぞっとするくらいすごかった」と言うのがストーリーの中盤で主人公夫婦・まつ子とたかしが踊るタンゴ。矢野のピアノのほか、ウッドベース、アコースティックギター、スネア・ドラムの4人でのセッション。高畑監督が希望した「ピアノ・ベースのオーソドックスなアルゼンチン・タンゴ」の生演奏が録音された。

 いつも冷静な高畑監督を「ものすごい曲。最高です」と興奮させたタンゴこそ、主題歌「ひとりぼっちはやめた」と並ぶ"奇才"矢野の真骨頂だった。

 レコーディング終了後、「音楽監督を引き受けた時は、こんなに大変だとは思いませんでした。(自分でも)本当によくやったなあと思います」。矢野が笑顔を見せれば、高畑監督も「矢野さんに音楽をお願いして本当に良かった。矢野さんの声が入ったことで、この映画に欲しいと思っていた、にこやかさが出て、聴いていてリラックスできる音楽になった」。

 98年11月、ジブリでの初対面の瞬間、「癒(いや)しより、なぐさめ」という製作コンセプトで意気投合した矢野と高畑監督。2人の出会いが今、最高の映画音楽を生み出した。(中村健吾)(当該記事より)







1999年6月11日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ:第3部 2



高畑勲監督のラブコールで実現 "声優"中村玉緒

 「となりの山田くん」の声の部分制作は98年6月26日、「秋の夜を打崩したる咄かな芭蕉」など、シーンごとの締めとなる俳句の朗読後・柳家小三治の収録からスタートした。

 おとうさん・たかしを益岡徹、おかあさん・まつ子に朝丘雪路、おばあちゃん・しげに荒木雅子、キクチババのミヤコ蝶々、さらに音楽監督の矢野顕子も藤原先生役で登場。高畑勲監督こだわりの豪華な声優陣が次々と参加してきた。

 そして、先月31日。たっぷり1年間かけた声の収録の最終日。東京・赤坂の三分坂スタジオでクライマックスの瞬間がやってきた。

 「アニメ映画のアフレコは、まったく初めてでこざいます」1。スタジオに響いた特徴のある低い声。声優としての出演は、まったく初めて。ブラウン管の人気者・中村玉緒(59)が、しげが見舞う入院中の友人、役名「眼鏡の女」として声優の大トリを飾ったのだ。

 この「眼鏡の女」、入院中にもかかわらず病院内のうわさ話が大好き。脚本にして3ページ、セリフ数13個の小さな役にもかかわらず強烈な印象を残すキャラクターだ。「死んでしまうかもしれない立場なのに下世話で好奇心だっぷり。面白いキャラクターだけにしんみりせず、大阪弁で明るくやれる玉緒さんで、ぜひ」と高畑監督。自ら玉緒に"ラブレター"をしたため出演交渉した。

 もともとジブリが所属する徳間書店グループ傘下の大映出身の玉緒も出演を快諾。2時間たっぷり用意していた予定時間の半分の1時間で完ぺきに、おしゃべり好きのおばあちゃんに成り切った。

 「(収録は)もう終わりですか。物足りないですねえ。実写で『山田くん』をやる時があったら、また、この役をやりたいくらいですわ。高畑さんのラブコールにこたえて、ここに来て良かったです」と玉緒は笑顔満開。

 高畑監督も「玉緒さんは個性がある人だから、それだけで(役柄が)成立しましたね」と大満足。同席した鈴木敏夫プロデューサーに「わたしは若いから、おばあちゃんの役は難しいと思ったけど、そのままやれば、おばあちゃんができちゃいましたわ」。玉緒は笑いながら打ち明けた。

 年配のファンから若者まで幅広い人気の個性派女優の参加。「となりの山田くん」のアフレコ作業が、この日、最高の形で幕を閉じた。(中村健吾)(当該記事より)







1999年6月10日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ:第3部 1



デジタル音響で満足いく音作り

 アニメ映画界のヒットメーカー・スタジオジブリが97年夏から2年がかりで作り続けてきたアニメ映画「ホーホケキョとなりの山田くん」(監督・高畑勲、7月17日公開)が間もなく完成する。7月1日に予定されている完成被露試写会でベールを脱ぐ製作費20億円、ジブリ初のフルデシタル・アニメの"今"を追った。

7月17日公開
 国内有数の録音設備を誇る東京・浜町の東京テレビセンター407スタジオでは5月21日から「となりの山田くん」のダビング(別々に録音したセリフ、音響、効果音を最終的にミックスする)が行われていた。

 素材は朝丘雪路(63)、ミヤコ蝶々(78)ら豪華声優陣が録音した声と音楽監督の矢野顕子(44)が作った映画音楽。そして、まだ色のついていない画面もある映像に若林和弘・音響監督(35)らスタッフが用意した効果音【環境音、生音(なまおと)=足音など絵に合わせて録音し直したもの】など様々な種類のサウンドを次々と加えていく。

 「アニメ映画の成否は半分が映像、半分を音が決める」と言われるほど音響は大切。「今回は(抜群の音の)デジタル音響での上映となるので、とにかくクリアに収録、ダビングすることを心掛けています」と、86年「天空の城ラピュタ」からジブリ作品に携わっている井上秀司・東京テレビセンター副社長(50)。効果音作りのベテラン・伊藤道廣さん(50)の作った効果音を、それこそ効果的にミックスしていく。

 ジブリ作品は95年の「耳をすませば」以降、高音質を誇るドルビーデジタルを使用してきた。が、全国260館以上で公開する「山田くん」では、さらに幅広く、いい音を提供するために、もう一つのデジタル音響システムであるDTS(デジタル・シアター・システム)という6チャンネル・システムも採用した。

 スクリーン裏に3つ、両サイドに2つ、低音専用に1つと全6系統のスピーカー設備を用意するデジタル音響で目指すのは、耳の肥えた観客も満足の音作り。「高畑監督には、音のないシーンでも音のない音をつけて下さいと言われました。山田家の家族が何もしていない時も、外でなんらかの音がしているはず。普通に生活している分には気づかないような音も入れてほしいとね」と伊藤さん。

 これぞ高畑監督の目指す史上最高のアニメ映画の真骨頂。リアルな動きを彩る本物の音作りは21日までの丸1か月をかけ、@セリフ合わせA音楽入れB効果音入れCこれらすべてをミックスしての最終ダビングの順番で午前10時から「終電まで、時には徹夜もあり」(井上さん)のペースで行われる。

 本物を目指す"高畑イズム"があふれた「山田くん」の音作り。そして、5月31日。豪華声優陣の大トリといえる大物女優が「山田くん」アフレコ緊急参加した。(中村健吾)(当該記事より)






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