News Clip of "My Neighbors The Yamadas" 8

February, 1999 Challenge of Studio Ghibli 2-3

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1999年2月27日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ:第2部 29



楽しさあふれる矢野顕子サウンド

 米ニューヨーク在住の矢野顕子(44)と高畑勲監督(63)は、昨年末からファクスやEメールを使って「となりの山田くん」の音楽作りのため綿密な打ち合わせを行っている。

 「高畑監督、『となりの山田くん』の主題歌、こんな感じでいかがですか?」と問いかけるメッセージ。「山田くん」で、歌手デビュー24年目にして初めて映画の音楽監督を務める矢野は今回、主題歌を始め数十曲を書き下ろすため、現地のスタジオで音作り中だ。

 受け手の高畑勲監督(63)も、クラシック音楽に造けいが深い。「魔女の宅急便」(89年)では音楽演出を担当するなど確かな耳を持つ。監督から矢野への音作りのお願いも、とても具体的なものに。「初めての音楽監督だけど、高畑さんとのキャッチボールが楽しい」と矢野を喜ばせている。

 実際、2人は「山田くん」でペアを組むために出会ったのでは、と思わせるほど息が合っている。昨年11月26日、年に一度の里帰りツアー「さとがえるコンサート」のために帰国した矢野は、打ち合わせのためジブリに向かった。高畑監督とは初対面なのに「わたしと監督は欲しいと思っているものが同じてした。日本で、はやっている『癒(いや)し』なんて言葉ではなく『なぐさめ』こそ大切。それは家族の中にあるという考え方までね」と意気投合した。

 その言葉は、そのまま高畑監督の「山田くん」における狙いでもあった。喜んだ高畑監督は鈴木敏夫プロデューサー(50)とともに、その場で藤原先生役での矢野の声優出演まで決めてしまった。

 「家族を描く高畑監督の『山田くん』には、人間を表現したいというわたしの音楽との共通点もあります」「矢野さんの音楽は、とても自由なのに非常に『この世的』。彼女の起用は、ぼくの大きな願いでした」とエールを送り合う2人。

 劇場上映中の「山田くん」予告編でも流れている矢野製作の一部楽曲(現在、スキャットの形で上映中)にあふれる楽しさこそ「山田くん」の狙いだ。

 矢野は3月からニューヨークで、サウンドトラックの本格的レコーディングに入る。97年夏から続いてきたジブリの挑戦も7月公開に向け、いよいよ最終局面。"才女"矢野の参加で「ホーホケキョとなりの山田くん」は完成へのカウントダウンに突入。真夏の全国一斉公開へ、今、役者はそろった。(中村健吾)(当該記事より)







1999年2月26日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ:第2部 28



アニメっぽさ一掃 細かい色彩設計

 作画スタッフが頭を悩ます「となりの山田くん」の"いい感じ。"の追求は色の面でも徹底されていた。高畑勲監督(63)は「−山田くん」で従来のようなアニメっぽさを一掃するためシーンごとに非常に細かい色彩設計を行うことにした。水彩タッチの「−山田くん」だからこそ出る自然な揺らぎ、ニュアンスの違いを色彩面でも大事にしたい。

 例えば、カットとカットで山田家の夫・たかしの背広の色はシーンによって微妙に違う。「同じブルーの背広でも昼と夜、赤っぽい画面、黄色っぽい画面では全然違うはずですから」と保田道世・仕上部長。「もののけ姫」だけで約580色。全2000色のアニメ映画で使う色を生み出して"日本一の色彩設計ウーマン"と言われる保田さんを中心に、これまでもジブリ作品は多彩な色を生み出してきた。が、フルデジタルアニメ「−山田くん」は、それをを突き詰めた形なのだ。

 絵コンテ・演出の田辺修さん(33)、美術監督の武重洋さん(34)、田中直哉さん(35)が描いた美術ボード(シーンごとにキャラクター、背景を色つきで描いたもの)に沿ってカットごとの色のバランスをとるのが保田さんの仕事。

 「シーン一つ一つが気持ちのいい感じになっていれば仕上げは成功」と言うが、フルデシタル化で予想もしなかった問題も起きた。仕上げスタッフが色を塗る時に見るモニター画面と撮影したフィルムで、また色が違うのだ。
 「『−山田くん』の色は本当に薄〜い色で、とても微妙な色作業になっています。だから、モニターとフィルムで、ビックリするほど違ってしまっていることも多いですね」と保田さん。モニターにも個体差が。例えば画面がグレーがかっているか、茶色がかっているかでも色が変わってくるという脳みもデジタルペイントとともに生まれた。

 「『−山田くん』が終わるころ、新しい仕上げの法則ができて、その次の作品が終わるくらいでジブリの組織自体も変わっていくのでは」と保田さん。コンピューター化で何千本という絵の具の瓶もいったん、東京・調布市の倉庫に保管されることになった。

 「デジタル・ペイントがセルに戻るってことは当面、ないのでは」と保田さん。「セルの技術も何らかの形で保管していかないとね」と笑顔で続けたベテラン色彩ウーマンを悩ませた高畑監督の理想の高さは「−山田くん」で初めて音楽監督を務めることになった天才・矢野顕子(49)も感じていた。(中村健吾)(当該記事より)







1999年2月25日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ:第2部 27



デジタルペイントの速さは圧倒的 「トゥーンズ」を導入

 97年9月から20世紀フォックスも使っているイタリア製のアニメーションソフト「トゥーンズ」を使った本格的なデジタルペイントの練習に入った仕上げスタッフ。が、「コンピューターは万能じゃないんです。トゥーンズにしろ、ジブリの仕事をするには、まだまだ改良の必要がありますね」と保田道世・仕上部長は言う。

 ソフトとコンピューターのセットで300〜400万円する「トゥーンズ」でも、ーカット塗る際の絵の具の色が足りない、色が付いた線を黒い線と区別してスキャン(取り入れる)できないなどの欠点からジブリの仕事をするには物足りない面があった。

 保田さんのもとにイタリアから関発者がやってきて、改良に向けての話し合いをしたこともある「トゥーンズ」だが、もちろん、いい部分もたくさんある。デジタルペイントなら従来の手作業のように絵の具を乾かす時間もいらないし、大きなスペースもマウスでポンと指定するだけで均一に塗れてしまう。保田さんが「昔は絵の具の混ぜ具合一つでムラも出たけど、デジタルならだれにでも塗れて差は出ません。塗るという作業だけなら『もののけ姫』の時より何十倍も速いのでは」と言うように、速さは圧倒的だ。

 それでも、アニメにおける着色は速さがすべてではない。保田さんが何より大切にするのが「その絵が、どういう形になっているのか。それを見抜く力」だ。作画の描いた絵の形を見て、トレース(作画の線をなぞること)の線を変え、インクも変える。線1本の解釈を間違えただけで最終的な画面の印象はガラッと変わってしまう。仕上げは決して色を塗ればいいだけの職場ではなく"絵を、見る力"が要求されるのだ。

 「だから、デジタルペイントの便利さに安住しているのではだめ。今はコンピューターの可能性を見いだしながら試行錯誤していく段階。自分の中で"こうすればできるのでは。という法則を作りながらやっているから大変です」と保田さん。そして、「となりの山田くん」だからこその大変さも、背景にはあった。(中村健吾)(当該記事より)







1999年2月24日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ:第2部 26



デジタル化で絵の具&筆が消えた

 「もののけ姫」までのセル板に色を塗るセル・アニメから、描いた絵をデータとして取り込んだコンピューター内で色付けするフルデシタル・アニメ「となりの山田くん」へ。ジブリ最大の移行の中、最も激変したのがモノクロの線画に色を付ける仕上部だった。

 アニメーション歴40年の保田道世・仕上部長は1960年代の東映動画時代から高畑勲(63)、宮崎駿(58)両監督と仕事をしてきた、ジブリのすべてを知る女性。その保田さんは「もののけ姫」製作中の97年3月、鈴木敏夫プロデューサー(50)から「ジブリのフル・デジタル化を考えています」と、コンピューター導入の相談を受けた。

 ジブリでは「平成狸合戦ぽんぽこ」(94年)の図書館のシーンからCGを導入。その後、CG部分が作品中に増えていく中で保田さんは「CGで作った画像なら、その部分はデジタル・ペイント(コンピューターによる着色)にした方が合う」と判断していた。一方で、筆を使って色を塗るという手作業に従事する仕上げスタッフに対して「幼いころからの手作業の経験が足りないのか、物足りないな」と感じていたこともあって、「もののけ姫」でも一部使用していたイタリア製のアニメーションソフト「トゥーンズ(TOONZ)」の全面的導入に賛成した。

 「たとえば『もののけ姫』のシシ神のシーンのように、CGの力で今までのジブリ作品とは違った部分を,取り入れられると感じたんです」と保田さん。97年夏のデジタルヘの完全移行で、まず職場環境が一変した。絵の臭で汚れた机も彩色用の筆もすべて消え、代わりに「石のような机、モニターとコンピューター・マウスだけ」(保田さん)がジブリー階の仕上部を占拠した。モニター画面を見るため一日中、ブラインドを閉める。これまでセルは明るいところで見るのた当たり前だったが、太陽光線もさえぎり、電気の明るさままで抑え気味に。「もののけ姫」.までは筆や絵の臭を取りにいったりで人の動きも頻繁だったが、今では仕上げスタッフ11人は一目中、モニター画面とにらめっこになった。

 「環境の一大変化でしたね。仕事場も家庭と同じ生活の場所とするなら、随分、無機質な部屋になったなという感じかな」と保田さん。が、仕事内容の変化は職場環境の変化以上に激しかった。
(中村健吾)(当該記事より)







1999年2月23日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ:第2部 25



何ヶ月たってもOKが出ないシーンも

 「『もののけ姫』では描き込むという自分の特徴がよく出たと思う。でも『となりの山田くん』では、自分が持っていなかった部分も要求されている気がします」と両作品で美術監督を務める武重洋二さん(34)は言う。

 目指したのが、いしいひさいちさんの原作を元に、絵コンテ・演出の田辺修さん(33)が生み出したやわらかいキャラクターの動きを背景にも踏襲すること。できるだけ重くならず、やわらかく一体化する。この作品に入る際、武重さんに高畑勲監督(63)が言った「一層に力の入っていない、見ていて安心できるような絵をかいてほしい」という言葉の真意もそこにある。

 「山田くん」の背景の目標は「前に出すぎない。そこにないようである。なくてはならないものなんだけど、あるってことを主張しない、目にしみ込んでくるような絵」(武重さん)なのだ。

 「もののけ姫」の時は1枚の背景画に2〜4日かかることもざらだったが、今は1日5枚の量産も可能。が、「量は上がるけど、精神的なコンセントレーションの難しさは『山田くん』の方が上」と言う。

 たとえば、山田家の居間のシーン、それも夜の場面はかいてから何か月もたつのに、いまだに高畑監督のOKが出ていない。武重さんは深い青を使った"夜色"を70色の絵の具の中から選択。その色を画用紙にホワッと塗ることで室内での"夜"を生み出したつもりだった。が、高畑監督の要求は「一見して夜と分からせてほしい」だった。

 「たとえば『もののけ姫』なら、夜は夜でベタッと絵の具を塗れた。でも『山田くん』では極力、ものを描かず、色のグラデーションで的確に表現することが必要。昼間のシーンなら画用紙の白を残して表現する。夜なら全体に色をかぶせればいいだろうと思ったんですが、ことは、そう単純ではなかったんです」

 もう一つ、水彩ならではの難しさも横たわる。たとえば、パレットに1回、赤い色を作って、それをもう一度、再現するのは至難の業。ちょっとした水の量の違いがすべてを左右する。「ラフだけど、計算し届くされたいい感じ」の実現に悩んでいる美術スタッフたち。「ラフな感じのいい色合いの美術ボードさえ作れれば勝ちなんですが…」という武重さん。そして今回、カラー面の激変で最も忙しい思いをしているのが、彩色を担当する保田道世・仕上げ部長だった。(中村健吾)(当該記事より)







1999年2月22日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ:第2部 24



キャラクターと背景の質感の一体化

 「もののけ姫」に続き「となりの山田くん」でも美術監督を務める武重洋二さん(34)は多摩美大油絵科出身。「とにかくかき込むのが油絵出身の自分の特徴」という緻(ち)密な表現力で「もののけ姫」のたたら場のシーンなど重厚な背景を数多く手掛けてきた。

 その武重さんが今、「『もののけ姫』とは、同じ要素を探す方が難しいくらい違う」という「山田くん」と懸命に闘っている。

 画材からして、ポスターカラーから水彩絵の具に変わった。「まさに水と油でしょ」ニヤリと笑う武重さんは昨年夏から、もう一人の美術監督・田中直哉さん(35)と2人で、色彩、雰囲気など「山田くん」の画面全体のもととなる「着彩ボード」(キャラクター、背景が一体となった絵に彩色したもの)をかいてきた。

 一番、戸惑ったのが「もののけ姫」まで大きな武器となってきた油絵の手法が通用しないこと。たとえば、油絵は上からどんどん塗り足して修整できる。また、「何か違うな」と感じた時、手を動かしていくうちに見えてくる部分もあった。

 「これまではガムシャラに手を動かしていた。肉体労働という感じで絵をかいているうちに、なんとかなったんです」という武重さんが直面した「山田くん」の壁。それは作画スタッフたちも口にした「情報量の少なさ」に起因する。

 「少ない線でかく絵だけに筆一本一本のタッチが重要になる。一筆一筆の的確さが、とても目立ってしまう。色も同じ。透明水彩を使って色が薄い分、ちょっとでも色が違うと変化が大きく出すぎてしまう。ちゃぶ台などハッキリとしたものなら大丈夫でも、地面の色のニュアンスなどは取り返しがつきません」という。

 もともと、アニメ映画の背景は自己主張を抑えてきた。あまりに背景画が強いと肝心のキャラクターが、その中に埋もれてしまうからだ。そのうえ、「山田くん」はキャラクターと背景の質感の一体化という全く新しい試みにも挑んでいる。

 「ぼくたちのかく背景は、なるべく手前には出てこないように、できるだけ省略。手数を減らしてかいています」という武重さんたち11人の美術スタッフは、さまざまな技術的問題に直面していた。(中村健吾)(当該記事より)







1999年2月20日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ:第2部 23



簡単そうに見える絵で奥深い表現

 「となりの山田くん」で、動画スタッフ30人が描いた絵をチェックする舘野仁美さん(37)。「もののけ姫」でも動画チェックという役名で同じ仕事をこなしていたが、その量と内容は大きな変化を遂げていた。

 「1日、50〜300枚の動画をチェックしてかき直します。例えば、キャラクターを動かし過ぎている絵を抑え気味に。硬い線の絵を柔らかくボヨッとした感じに。全体の絵のつじつまを合わせる。複数のキャラクターが出てくるシーンでの人と人の重なりのおかしさを修正するという感じですね」と舘野さん。

 が、「絵の矛盾を見つけるのが目的」という舘野さんの仕事内容は「3枚の動画」システムの導入で、より複雑になった。「『もののけ姫』までは1枚見ればよかったところを『山田くん』では3枚重ねて見る難しさがあります。クイック・アクション・レコーダー(動画をカメラで取り込み再生、動きを確認する機械)などで、いちいち当ててみても線がヒュッと抜けていたりすることがありますからね」

 作業開始当初は動画チェックをしていた舘野さんの同僚・斎藤昌哉さん(32)が今、内線動画作りだけに専念しているところからも分かる作業の複雑化。「今、動画としては完成形の2割まできたところ。今までワーストに遅れていた『もののけ姫』に比べても、とても遅れていますね」と舘野さんは苦笑いする。

 大変な分、これまでにないアニメ映画「山田くん」ならではの楽しさ、やりがいもたくさんある。「意図的に簡単そうに見える絵を描こうとしていますけど、実はとっても奥深いものを表現しようとしている。それが、やりがいにもなっています」と舘野さん。

 「本当に少ない線、情報量でリアルなことをやる。妙な間を、わざと作る。サラッとかいているけど、心の奥深いところに響く、今までにない作品を作っている感じが『山田くん』にはたくさんあるんです」ジブリ作品には「となりのトトロ」(88年)から参加している10年選手の心を揺さぶる「山田くん」の新しさ。背景を担当する美術監督・武重洋二さん(34)も、同じことを感じていた。(中村健吾)(当該記事より)







1999年2月19日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ:第2部 22



スタッフ泣かせ「3枚の動画」

 ジブリでは同じ絵を作る作業を手掛けていても、原画と動画のスタッフは厳密に分かれている。賀川愛さんら原画スタッフが描いた動きの基準となる絵と絵の間を埋め、細かい動きの部分を描いてキャラクターを動かしていく動画スタッフは30人。その中心的存在がアニメーター歴18年の舘野仁美さん(37)だ。

 昨夏は午後8時には帰宅していた舘野さんが今、仕事を終えてジブリを出るのは真夜中の1時過ぎ。スケジュールの遅れから全体が追い込み態勢に入ったこともあるが、最大の理由は「3枚の動画」にある。

 「となりの山田くん」の作画枚数はジブリ最多、いや日本アニメ映画史上ダントツで最多の「もののけ姫」の14万4000枚を抜く15万枚。理由はこれまで1枚で済んでいた動画を実線(実際に画面に出る線)、内線、リンカク線の3枚分、描いているからだ。

 「この作品でアニメ表現を突き詰めたいと思っています」という高畑勲監督(63)が狙ったのが、1枚の水彩画がすっと動き続けているような世界初のアニメ映画。セル・アニメの最高傑作「もののけ姫」でも逃れられなかったアニメ映画の宿命。ペタッとしたキャラクターと緻(ち)密に書き込まれた背景との質感の違いを打破するため、画面全体の質感を水彩タッチで統一。1枚の絵がキャラクター、背景一体となって動き続けているような絵を作ってしまおう。それがジブリ初のフルデジタル・アニメ「山田くん」の狙いだ。

 水彩画には当然、塗り残しやはみ出しが出る。それを意図的に表現するために実線以外に内線(キャラクターの線の内側に描く色指定のための線)とリンカク線(背景部分が白く抜けてしまわないように色をつけた線)が必要になるのだ。

 物理的に動画スタッフの仕事は3倍に。「最初に『山田くん』の絵を見た時は"線も少ないし、やわらかい絵だし、楽だな"と思ったんです。でも実際に描き始めてみると、初めての経験だらけ。本当に大変ですよ」という舘野さんの言葉どおリ、作画作業は試行錯誤の連続になった。

 絵の重ね合わせが自由に、しかもまったく劣化なくできるコンピューターを使ってのデジタルペイントだからこそ導入できた「3枚の動画」システム。舘野さんが、ジブリならではの最新システムの秘密と魅力を語る。(中村健吾)(当該記事より)







1999年2月18日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ:第2部 21



原画間の動画3コマがリアルな動き作る

 キャリア20年のベテラン原画ウーマン・賀川愛さんだが「となりの山田くん」での仕事量は明らかに増えている。「もののけ姫」冒頭のアシタカがやぐらを登るシーン。長老がいるやぐらのてっぺんまでクルクルと回りながら登っていく動きは「さすがジブリ」と観客の度肝を抜く完成度だった。

この場面を担当したのが「絵を描いてキャラクターに好きな芝居をさせて。いつもやることは一緒でも、ビタッと気持ちのいい動きが再現できた時って本当に楽しい」と言う賀川さんだ。

 「風の谷のナウシカ」から「山田くん」までジブリの大部分の作品にかかわってきた賀川さんだから言えるのが宮崎駿監督(57)と高畑勲監督(63)という2人の天才監督の演出法の違い。

 「宮崎さんは描いた原画を見せれば、そのキャラクターが、どういう動きをするか動画部分までわかる。高畑監督は、わたしたちが動画スタッフも含めて、動きの完成形に近いものを見せて初めて慎重に判断するところがあるんです」

 自らがだれよりもうまいアニメーターの宮崎監督と、自分では絵を描かず「自分で描かない分、人の絵を"うまいね"と喜ぶ気持ちが大きい」と明かす高畑監督との違いを的確に表現する。

 賀川さんは「『もののけ姫』は宮崎さんというバックボーンがいて、直してくれるっていう安心感があったのかも」と言った後、「実は『山田くん』に入った直後、高畑監督の要求がわからない時期があったんです」と正直に明かす。

 「最初は(いしいひさいちの)『がんばれタブチくん』みたいな感じかと思って。でも漫画っぽく描くと、監督から"もっとリアルに"って言われて。でもリアルに描きすぎるとベタッとしてしまったり、いまだによくわからない部分もある。動きのタイミングも漫画っぽい速いタイミングかと思うと、もっとユックリですしね」と賀川さん。

 仕事量が増えたのには、もう一つのわけがある。過去の作品では原画は原画として動きの最初と最後のコマしか描かなかった。が「山田くん」で賀川さんは「中割り」と言われる原画と原画の間の動画を3コマ分描くようになったのだ。すべては「こんな感じあるよね」というリアルな動きを2頭身の山田家のキャラタターにさせるための努力。そして、16人の動画スタッフも今、同じ汗をかいていた。(中村健吾)(当該記事より)






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