●「となりの山田くん」ニュースクリップ:5
News Clip of "My Neighbors The Yamadas"

1998年11月〜12月

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1998年12月09日 日経産業新聞

映画ビッグバン 徳間書店 公開、制作者主導で

 「何か私どもに落ち度があったのでしょうか」−。

 今年の初夏、徳間書店(東京・港)を訪れた東宝の松岡功会長の表情は、徳間康快社長の一言でみるみる青ざめた。松岡会長には、東宝の力で徳間書店傘下のスタジオジブリ作品を大ヒットさせてきた自負がある。にもかかわらず徳間社長はジブリの次回作「となりの山田くん」は東宝でなく、松竹や東急レクリエーションの劇場網を使うと決断した。

 徳間社長は言う。「もう巣立ちの時期。そうでもしなければ制作者側が覇権を取れない」

 徳間社長は現在、ジブリ作品をてこに、硬直的な映画産業の構造を揺さぶり始めている。全国の好立地に劇場綱を築いた東宝には、ヒット性の高い外部作品が多数集まる。その結巣、東宝は上映形態や売り上げの配分などで強い発言力を持っている。

 「となりの山田くん」は、あらかじめ上映日程を定めるブロックブッキングを避け、柔軟に対応できる洋画系劇場で公開する。松竹、東急レクリエーション、ワーナー・マイカルなどに加えて、東映も一部劇場で上映を決めており、反東宝包囲網が出来上がった。「コンテンツ(情報の内容)を持つ企業が劇場網を選べることこそ重要」という徳間社長の持論を反映した形で劇場網を持つ企業と製作者側が互角に話し合える環境づくりをめざす。

実写の娯楽作品開発
 徳間社長は「となりの山田くん」の制作発表で、「制作費は最低16億円で、上限はなし」と豪語した。実際、制作費はすでに20億円を超している。圧倒的な強さを誇った東宝は思わぬ連合軍の登場に対し、今年大ヒットした「ポケットモンスター」の第二弾で、興行力確保に乗り出す。

 劇場公開の形態への変革だけでなく、徳間社長はディズニーとの提携で、邦画の海外展開を始めている。ジブリ最大のヒット作「もののけ姫」はやや遅れ気昧だが、来春には全米100都市1000館で公開する。「となりの山田くん」ではディズニーの日本法人に制作出資させた。

 アニメをてこにした米国進出の次に狙っているのは、実写による娯楽作品の開発だ。今年十月下旬、東京・渋谷で開かれた第11回東京国際映画祭。審査委員長として来日した映画プロデューサー、ジェレミー・トーマス氏が書簡を徳間社長に残した。トーマス氏は「戦場のメリークリスマス」や「ラストエンペラー」で実績を持つ。二人は共通して映画の国際展開に関心が高い。徳間社長は映画祭に招くなど交流を深める機会を増やしており、共同制作など新しい形で実写作品の海外進出をうかがっている。

 東宝、松竹、東映が映画制作を控えるなかで、徳間書店は特に意欲を見せる。徳間書店と来年六月に合併予定の大映は、年間10作品前後の制作を決めている。「ガメラ」「大魔神」といった大映製キャラクターだけでなく、宮崎学氏などによる話題の作品の映画化も検討。社内には30歳代を中心とするプロデューサーを9人集めて「大映映画21世紀ルネッサンス計画」も立ち上げた。

メディア企業に出資
 コンテンツ閲発へのこだわりには、衛星デジタル放送の開始など多メディア化の進展が影響している。東京湾岸を一望できる徳間書店の社長室に足を入れると、格調高いクラシック音楽が流れている。この音楽は、株主の「ミュージックバード」による音楽放送だ。

 「コンテンツの出口をたくさん持っておくことが大事」と話す徳間社長は、複数のメディア企業に出資している。CS(通信衛星)デジタル放送のディレク・ティービーをはじめ、松竹系の邦画放送を中心とする衛星劇場、東京を拠点にした東京メトロポリタンテレビジョン、BS(放送衛星)のデジタル放送会社、ビーエス日本などはその代表例。役員として発言権を確保している。

 「一番需要が高いコンテンツはニュースだが、その次に来るのは映画で、ソフト不足の現在はビジネスチャンスがたくさんある」

 映画制作を急ピッチで進める徳間社長の目標は、ディズニー出身のジェフリー・カッツェンバーグ氏が設立したドリームワークスの姿だ。様々なメディアにコンテンツを供給するハリウッド型映画会社を目標に、出版からゲームソフトなどにも事業領域を広げ、メディアコングロマリットに脱皮しようとしている。(遠藤繁)(当該記事より)






1998年11月30日 報知新聞

映画「となりの山田くん」 矢野顕子 初音楽監督 藤原先生役で声優にも初挑戦

 米ニューヨークを拠点に活動する歌手・矢野顕子(43)が来年7月公開のスタジオジブリの新作アニメ映画「ホーホケキョ となりの山田くん」(監督・高畑勲)の音楽監督を務めることになった。矢野が映画音楽を制作するのはデビュー4年目で初めて。夫の坂本龍一(46)は日本人唯一の米アカデミー賞作曲賞受賞者。矢野も世界に羽ばたくジブリ・アニメの音楽で世界的ヒットを狙う。矢野は藤原先生役で声優デビュ−も飾る。

 年に一度のニューヨークからの里帰りツアー「さとがえるコンサート1998」を行っている矢野。21日の青森市文化会館をスタートして来月15日の大阪フェスティバルホールまで全国を回るハードスケジュールの合間を縫ってこの26日、東京・小金井市のスタジオジブリを訪れた。歌手デビュー24年目にして初めて手掛ける映画音楽。高畑監督と初対面した矢野は「わたしと高畑監督は、欲しいと思っているものが同じでした。今、日本ではやっている『いやし』なんて言葉ではなく、『なぐさめ』こそ大切。それは家族の中にあるってことで意気投合したんです」と笑う。

 「もののけ姫」で配収118億円のヒットを記録したジブリリが、新作で矢野に自羽の矢を立てた。この10年、矢野のもとには映画、テレビドラマなどの主題歌の依頼がとぎれることはなかった。が、結婚してからの主婦、母親、そして歌手の3役兼業。基本的に自分のための音楽活動を続けるというスタンスを守るため、ごくたまにCM音楽を手がける程度だった。

 「家族を描く『山田くん』には"人間を表現したい"というわたしの音楽との共通点があります。まだ、イメージだけですが、主題歌として温かい気持ちになれるものを作りたい」。「がんばれ、タブチくん」以来の、原作者・いしいひさいちファンだったことも音楽担当を受けるきっかけになったと話す。

 夫・坂本龍一は87年、「ラストエンペラー」の音楽を手掛け、第60回アカデミー賞の作曲賞を日本人で初めて受賞した。「彼の作曲している姿を見てきただけに、映画音楽を作るのって本当に大変だな、自分にやれるのかなと思ってきました。でも、高畑監督とは息が合うので大丈夫」と矢野。

 来春、ニューヨークでレコーディング。矢野は人気キャラクターの藤原先生役で声優にも初挑戦。「山田くん」の新境地を開く。(当該記事より)

矢野顕子(やの・あきこ)
1955年2月13日、東京都生まれ。43歳。中学校まで父親の生まれ故郷の青森県で過ごし、青山学院高等部在学中の17歳でバンドを結成。ジャズクラブアルバムなどで演奏。76年、アルバム「ジャパニーズ・ガール」でソロデビュー、天才少女と話題になる。79年からYMOのワールドツアーのサポートメンバーとして同行。81年、シングル「春咲小紅」が大ヒット。80年に坂本龍一と結婚。現在22歳と17歳の2児の母。90年には一家で米のニューヨークに移住した。





1998年11月22日 報知新聞

東映・松竹業務提携へ 第一弾は「となりの山田くん」 全国400の映画館で上映

 日本を代表する映画会社の東映と松竹が業務提携に向けて動き出していることが21日、明らかになった。両社の提携第1弾は来夏公開のスタジオジブリの新作アニメ映画「ホーホケキョ となりの山田くん」(監督・高畑動、1999年7月公開予定)が濃厚。両社の持つ劇場チェーンの合体で業界1位の東宝を抜く全国400館以上の巨大な上映網が誕生。日本映画界にもビッグバンの時代がやってくるか−。

松竹から申し出
 高倉健、鶴田浩二らのヤクザ映画をヒットさせてきた任きょうの東映。小津安二郎ら名監督を輩出し、寅さんシリーズでも多くの観客を魅了してきた松竹。東宝と並び、3大メジャーとして日本映画界をリードしてきだ2社が業務提携に向けて動きだした。

 現在、東映の岡田裕介取締役(49)と松竹の幸甫取締役(65)を窓口に慎重に計画が進められている両社の提携案。その第一歩として計画されているのが、配収118億円の大ヒットを記録した「もののけ姫」の生みの親・スタジオジブリの新作「となりの山田くん」の共同配給だ。

 この作品、今までジブリ作品を手掛けてきた東映、東宝を離れて、初めて松竹が配給することで話題を呼んできた。すでに全国160館以上の松竹チェーン、さらにワーナー・マイカル、東急レクリエーションなどのチェーンも使った大規模上映が決定している。

 そこに「『山田くん』をウチのチェーンでも上映できないか」と名乗りを上げたのが東映。両社トップの「山田くん」を巡る話し合いの中がら共同配給案が浮上。鎌倉シネマワールドの開鎖に踏み切るなど業績不振に悩んでいた松竹から東映へ水面下で業務提携を申し込んでいた背景もあり、交渉はスムーズに進むと見られている。

 今年に入って日本石油と三菱石油が合併に合意。第一勧業銀行と富士銀行が業務提携するなど、次々と同業種のライバル同士が手を組む日本社会。ついに映画界にもビッグバンの波が打ち寄せた形だ。両社の共同配給が実現すれば、「山田くん」の上映劇場数は約400館にまで拡大する。昨年の「ロスト・ワールド」の320館、「もののけ姫」の290館の上映館数記録を大きく上回り、今年の「GODZILLA」と並ぶマンモス・チェーンの誕生が濃厚。低迷続きだった日本映画界が、ついに再生に向け、立ち上がった。(当該記事より)

プラスα(解説)
 東映と松竹、以前ならタッグを組むことなど考えられなかったライバル同士の提携の動きには理由がある。昨年、「失楽園」など配収20億円以上のヒット作を輩出した東映も今年は「プライド」のヒットが目立つだけで「カンゾー先生」「時雨の記」といっだ力作が軒並み不振。松竹は、さらに悲惨で渥美清さん亡き後、どの作品も1億円規模の数字がやっと。「BEAT」などは宣伝費すら回収できない惨敗ぶりだった。
 「ポケットモンスター」が約41億円、「踊る大捜査線」が約30億円と次々とメガヒットを生み出す東宝との格差が広がるばかりの現状にメジャー2社が歯がみする思いをしていたのは間違いない。
 株価も東映397円、松竹423円に対して東宝は1万4870円(21日現在)。海通業界でも業界2位の大阪商船三井とナビックスが合併を発表したばかり。東映と松竹がタッグを組んで東宝に対抗しようとするのも当然か。(健)





1998年11月02日 東京中日スポーツ

秋の褒賞 「仲間に感謝!」高畑さん

「その道で年功を積んだ人がもらうものらしいが、自分というよりアニメ映画が年功を積んだのだなという感慨はあります。アニメを制作して40年。一緒に頑張った仲間への感謝を新たにしています。あとは次世代の育成です」

 高畑勲監督(63)は東京都小金井市のスタジオジブリで盛んに照れながら紫綬褒章受章の感想を語った。受賞理由に「リアリティーを重視した独自の領域を確立」とある。「そうです。アニメといえばファンタジー的はものと思われがちですが、私は『火垂るの墓』あたりから現実的なものをリアルに描こうとしたのです。アニメの表現で何が出来るかに挑戦している」

 昭和十年、三重県生まれ。三十四年に東京大学仏文学科卒業後、好きだったアニメ映画製作を目指して東映動画に入社。日本アニメーションなどを経て六十年にスタジオジブリに。のちに「もののけ姫」を記録的ヒットさせた宮崎駿監督(57)がいた。手がけたアニメはテレビアニメの「フランダースの犬」「赤毛のアン」など多数。アニメ映画の監督は東映動画「太陽の王子ホルスの冒険」(昭和四十三年)「風の谷のナウシカ」(昭和五十九年)、「天空の城ラピュタ」(六十一年)、「魔女の宅急便」(平成元年)、「おもひでぽろぽろ」(三年)、「平成狸合戦ぽんぽこ」(六年)などヒット作ばかり。

 現在は来年夏に松竹系で公開の「ホーホケキョ となりの山田くん」に取り組み、その次は「平家物語」を構想している。著書に「『ホルス』の映像表現」「映画を作りながら考えたこと」など。趣味はクラシック音楽鑑賞だ。(当該記事より)






1998年11月02日 朝日新聞(東京版)

秋の褒賞 脚本家・映画監督 高畑勲さん  アニメ固有の表現を追求

 「アニメーション映画が年功を積み、世の中で一定の評価を受けるようになった。それに対する賞を代表でもらったのだと思う」と恥ずかしそうに語る。

 大学生の時、フランスの劇場用長編アニメを見て、その表現力の豊かさにショックを受けた。卒業後の1959年、アニメ制作会社に入社。以来、名実ともに日本のアニメ史とともに歩んできた。70年代、「アルプスの少女ハイジ」(74年)、「母をたずねて三千里」(76年)など一連のテレビシリーズでお茶の間の人気を集めた。この仕事でコンビを組んだ宮崎駿監督(57)とともに84年、「風の谷のナウシカ」で高い評価を得、その後も「火垂るの墓」「おもひでほろぽろ」などを次々と監督。日本のアニメ映画を実写に負けないレベルに引き上げた。

 アニメにこだわってきたのは、「アニメにしか表現できないものがある」と信じるからだ。「ハイジ」の第一話で、初めてアルプスに連れていかれたハイジが、山の空気に触れて重ね着の服を脱ぎ捨て、下着一枚で急坂を駆け上がるシーンがある。「重ね着は、下界の窮屈な生活の象徴。そこから解放された喜びを表現したかった。実写では、着膨れ感は表現しにくいし、実際の少女は45度もの急坂を走れない。ハイジの気持ちを表すことは、アニメでなくてはできない」

 いま、来年夏に公開される「ホーホケキョ となりの山田くん」(現「ののちゃん」=朝日新聞連載中)の準備で大忙し。四コマ漫画のアニメ化は初めてだ。「私たちが仕事を始めた四十年前ごろから見れば、アニメーションの技術水準も感覚も格段に向上した。力のある人はたくさんいる。あとは、何を作るか、作ることで何を出したいか、だ。それを若い才能と一緒に考えていきたい」(当該記事より)






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