News Clip of "My Neighbors The Yamadas" 4

August, 1998 Challenge of Studio Ghibli 1-3

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1998年08月20日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 30

来年のアカデミー賞も狙う!!

 米ロサンゼルスでの「もののけ姫」英語吹き替え版製作は、実写映画1本分の約3億円をかけ、7月初旬からスタートしている。

 まずは声優第1号として日本でも「X−ファイル」で大人気の女優ジリアン・アンダーソン(29)がモロの君役で出演。「娘が『となりのトトロ』が大好さなの」と、やる気満々で収録を続けている。英語版シナリオを担当するのは「サンドマン」などのSF小説で知られる二−ル・ゲイマン(37)。テーマ音楽をマドンナ(38)が担当するなど、まさにハリウッド大作並みの大プロジェクトとなっている。

 すべて全米公開を担当するディズニー傘下のミラマックス社の努力のたまものだ(欧州はブエナビスタ、アジアは徳間インターナショナルが配給)。「ミラマックスは『もののけ姫』で勝負しようとしてるんです。宣伝費はばく大だし、当然、ヒットさせないとだめですから」と鈴木敏夫プロデューサー(49)。

 「イル・ポスティーノ」「ニュー・シネマ・パラダイス」といったイタリア映画、日本の「Shall we ダンス?」など外国作品を次々と全米ヒットさせているミラマックス社が、来年の目玉に据えているのが「もののけ姫」英語版。ミラマックスのハービー・ワインシュタイン社長は「来年3月のアカデミー賞を狙う」と公言している。

 5月、ロサンゼルスのミラマックス本社にワインシュタイン社長を訪ね、最終契約交渉を行った鈴木敏夫プロデューサーは「全編ノーカット、音楽は変えない−2条件だげを出しました。後はハービーに『もののけ姫』という子供を預けたのだから、どう育てるかは彼次第と静観してます」という。

 ハービーは"シザーハンズ(はさみ)・ハービー"の異名を持ち、「Shall We−」を約20分間、カットしてしまった男。いまだに「修整する前に相談するから少しカットさせてくれ」という相談がミラマックスから舞い込むという。"究極のアニメ映画"「となりの山田くん」とともに、「もののけ姫」の全米進出からも最後まで目が離せない。=おわり=(中村健吾)(当該記事より)






1998年08月19日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 29

全米公開はディズニー全体で大歓迎

 来春、「もののけ姫」は全米100都市、1000館で一斉公開される。直前にはクリントン米大続領夫妻を招いて全米プレミア試写会も催される、日本映画史上最大のプロジェクトだ。

 「メイド・イン・ジヤパンのアニメ映画を本物の商品として外国に出すのは初めて。最高に痛快です」とブエナ・ビスタ・ホームエンタテインメント日本代表の星野康二さん(42)。93年、「ディズニーの者ですが、会ってもらえますか」とジブリを訪れ、両社の縁結びの神となった人だ。

 "アニメ映画の巨人"ディズニーが唯一、連戦連敗を喫していたのが日本市場。すべてジブリ作品の存在が敗因だった。「日本にいると、本当にジブリの強さを実感する。戦うより、その懐に飛び込んで、ビデオの販売契約を結べたらと思ってジブリこ行きました」と星野さん。

 95年末には、ジブリの社長でもある鈴木敏夫プロデューサー(49)の方から星野さんに「どうせなら、これから作る、『もののけ姫』の全世界配給もディズニーでやってくれないか」と逆提案。翌年、ディズニーのマイケル・オービッツ社長(当時)が徳間康快社長(76)を訪ね、7月の業務提携発表までとんとん拍子に話は進んだ。

 「私はジブリのアニメを引っ提げ、世界に羽ばたいていきたいと思っていた。こちらもディズニーに接触しようと患っていただけに、ありがたい申し出だったね。世界へ出ないと継続力がないんだよ」と徳間社長は振り返る。

 同じことをディズニーサイドも『もののけ姫』を何度も見て、黙って圧倒されている状態。ジブリ作品には従来のアニメでは考えられない構図、繊細なタッチなど絶対的な個性がある。『もののけ姫』の全米公開はディズニー全体でも大歓迎されているプロジェクトです」と星野さんは言う。

 9月末にはジブリの旧作「魔女の宅急便」が全米でビデオ発売されるほか、「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」の映画公開、ビデオ発売もディズニーは計画中。すべては「もののけ姫」の全米大ヒットのために練られた作戦。その全ぼうを今、鈴木プロデューサーが語る。(中村健吾)(当該記事より)






1998年08月18日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 28

ディズニー関係者のジブリもうで

 全世界での映画興行収入10億ドル(約1400億円)を誇る"アニメ界の巨人"米ディズニー社の関係者は、来日すると必ず東京・小金井市のスタジオジブリを訪れる。

 6月末、ジブリにやってきたのはディズニー最新作「ムーラン」のプロモーションのため来日したバリー・クック、トニー・バンクロフトの両監督。「もののけ姫」の宮崎駿監督(57)が笑顔で迎えた。

 「あなたは、ディズニーにアニメーターに大きなインスピレーションを与えた。私も影響を受けたひとりです」とバンクロフト監督。「『となりのトトロ』(88年)が大好き」とクック監督。宮崎難徳とのアニメ談義は延々と続いた。

 「私はミヤザキを尊敬している。なぜって?彼の作品はディズニーと全く違う手法を取りながらも、ディズニー作品を全く同じ感動を与えてくれるからさ」とクック監督。ディズニーにアニメーターたちはジブリ作品をすべて見ていると余す。宮崎監督は「『もののけ姫』は約100人のスタッフで作ったけど、監督として目を行き届かせるのが大変な仕事だった。ディズニーはよく700人からのスタッフを管理できますね」と行って笑いを誘った。

 なごやかな階段の裏側では、世紀のヒット作「もののけ姫」とディズニーが手を組んだビッグ・プロジェクトが進行していた。来春にも予定されている100都市、1000スクリーンでの英語吹き替え版「もののけ姫」の全米公開だ。

 この計画に関しては、まだ作品が制作中だった96年夏、すでに1次契約が結ばれていた。同年
7月にディズニーとジブリが所属する徳間グループが映画とビデオの世界配給に関する業務提携を結んで以来、最初のプロジェクトとなる。

 なぜ、ディズニーはこれほど実利作品にほれ込んでいるのか。93年、ディズニーがはじめてジブリに接触を開始した時点から、常に交渉の窓口になってきたブエナ・ビスタ・ホームエンタテインメントの星野康二・日本代表(42)がその秘密を明かす。(中村健吾)(当該記事より)






1998年08月17日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 27

役者を起用し"本物"を求める

 「となりの山田くん」の声優選びには、鈴木敏夫プロデューサー(49)の「ぼくたちは本当のドラマを作ろうとしているんです」という決意が込められている。

 声優として参加しているのは父・たかし役の俳優・益岡徹(41)、母・まつ子役の女優・朝丘雪路(62)、祖母・しげ役の女優・荒木雅子(73)、キクチババ役の女優・ミヤコ蝶々(78)ら。「もののけ姫」の森繁久弥、森光子といっだ声優陣に劣らぬ豪華版だ。

 「おもひでぽろぽろ」(91年)では今井美樹、「平成狸合戦ぽんぽこ」(94年)では古今亭志ん朝ら、あっと驚く声選びを続けてきた高畑勲監督(62)は声に対して厳密。キャラクターそれぞれの声のイメージが細かくハッキリしているため、こだわりを持って声優を選ぶ。

 ジブリは絵ができてから声を録音するアフレコも使うが、まず、声を録(と)ってから、それに合わせた絵作りをするプレスコ方式を多用してきた。

 今回、たかし役にはさまざまな俳優たちが候補に挙がった。が、「声にあまりに存在感がありすぎて絵が負けてしまうのは困る。『山田くん』の、あっさりしだキャラクターには、軽い声がいい」(鈴木プロデューサー)という考えから益岡に決まったという経緯もあった。

 「絵がアッサリしてる分、感情が過多になったとたん、絵と声が合わなくなるんです。深く感情を入れないという女優として本当に難しいやり方をしています」と、これが声優初体験の朝丘。また、78歳で声優初挑戦となったミヤコ蝶々に高畑監督が求めたのは「キクチババの難しい言葉遣いと漫画的な絵の食い違いの面白さを出して下さい」ということだった。

 大物を使いながらも、狙うのは「スケッチ風略画」と名付けた絵との相性の良さ。「もし、本職の声優さんを使ったら、いかにもアニメアニメした感じになってしまう。今回は声の技術でなく、話の内容こそ聞いてほしいから、俳優さんを起用しました」と鈴木プロデューサー。あくまでも"本物"を求める「山田くん」の理想は、声にも表れていた。(中村健吾)(当該記事より)






1998年08月15日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 26

手作業からフルデジタル撮影へ

 94年の「平成狸合戦ぽんぽこ」製作時に発足したジブリ撮影部の仕事内容は「となりの山田くん」で大さく様変わりしていた。「もののけ姫」までは撮影部長の奥井敦さん(35)が導入した2台の撮影用カメラを使用してきた。設計から奥井さんがかかわった完全コンピューターコントロールの逸品で、値段も2台で1億5000万円した。

 これまでは美術部が描いた背景の上に最高8枚までのセル画を乗せ、手作業で撮影してきたが、今回からはフルデジタル。奥井さんの仕事も巨大カメラの先につけたデジタルカメラで、まず背景部分を撮影。その後、仕上部がコンピューターに取り込んで彩色した、セルに相当するデータを合成するという作業になった。

 「日本はフルデジタルの後進国。『山田くん』のようなシステムは、ディズニーが10年以上前からやってきたこと。日本はそれだけ遅れていたんですね」と奥井さん。ディズニーだけでなく、今年アニメ映画界に参入してきた20世紀フォックスの「アナスタシア」、ワーナー・ブラザースの「キャメロット」などもすべてフルデジタル・アニメだった。

 モニター画面の撮影、合成作業となる「山田くん」は背景、キャラクターの合成の結果が画面上ですぐ見ることができる。これまでのように撮影したフィルムが上がって初めて絵が見られるのではなく、モニター上での試行錯誤が何度でも可能になった。

 「気に入らなければ簡単に直せてしまう。モニター上で納得できるまでやってしまう。時間はかかるし、製作スケジュールとの兼ね合いが大変。なにしろ、すべてが初めての経験ですから」と言いながらも、奥井さんは意欲的だ。

 「撮影にかかる時間は、場合によってはこれまでの倍以上こなるでしょうね。私たちの作業が絵作りの最終段階だけにここで滞ると作品のスケジュールにダイレクトに影響します。それをどう詰められるかが最大の課題です」と奥井さん。

 こうした不安とは別に一流俳優たちによる声の部分の収録は順調に進んでいた。(中村健吾)(当該記事より)






1998年08月14日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 25

「ボブスレー篇」で大活躍のCG

 来春、約1時間50分の長さで完成予定の「となりの山田くん」。百瀬義行CG部長(44)が演出する「ボブスレー篇」(スタッフ間の呼称)は全編の約10分の1の長さとなる予定だ。現時点で約90編に絞られた、いしいひさいちさん原作の4コマを元にした小エピソードの間を貫いていく波乱万丈の物語ということだけが明かされている。

 「『山田くん』の原作はごく普通の家庭の話だし、日常的なやりとりの描写に終始します。それだけの構成では絵的にも変化に乏しいし、現実にはありえない気が晴れるような疾走感を加えることはできないだろうか…。それが『ボブ篇』誕生のきっかけでした」と百瀬さん。

 漫画のようなキャラクターがリアルでシリアスな動きをする本編と異なり「ボブ篇」は水彩独特の塗り残しはなく、キャラクターも立体的になる。本編と全くタッチを変えた世界で生かされるのが百瀬さん得意のCGだ。

 「もののけ姫」ではタタリ神のへビがアシタカの腕に巻きつくシーンなど数か所にしか使われなかったCGが「ボブ篇」では大活躍。マッピング(コンピューターが作った立体モデルに美術が描いた背景画をはりつけること。立体感が抜群で、見る者にさまざまな角度に回り込んで見る感覚を与える)などの技術を駆使して、「止まっていると、ただの絵なんだけど、動くと、すごく立体的で奥行きがある」(百瀬さん)シーンの連続だ。

 CG的で超立体的な絵がさまざまな視点から捕らえられる。「こんな視点からも」「あんな視点からも」と観客が驚く視点の移動と大胆なカメラアングルで「ボブスレー篇」は走り続ける。が、絵柄は従来のセル・アニメのベタッとしたタッチでも、いかにもCGといっだ感じのメタリックなものでもない。あくまでも水彩画の、あっさりしたタッチで繰り広げられるのだ。

 百瀬さんは「見る人は"『山田くん』のどこにCGを使うんだ"って思うだろうけど、ぼくらから見ると逆に『山田くん』だからこそCGの入る余地があって、できる部分もあるってことですね」と昨年7月から続けてきた作業に自信たっぷりだ。

 そして作画、美術、仕上、CGの各部署が作り上げたパーツを一つにまとめる撮影部でも今、大革命が起こっていた。(中村健吾)(当該記事より)






1998年08月13日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 24

デジタルで可能になった水彩タッチ

 「もののけ姫」製作準備中の95年6月に新設されたジブリCG部には、百瀬義行さん(44)をはじめ8人のスタッフがいる。1時間50分(予定)、90余編のエピソードをつなぐ接着剤的な役割のオリジナルストーリー「ボブスレー篇(仮称)」の演出も手掛ける百瀬さんは「山田くん」でジブリが初めて挑戦することになったフルデジタルをこう説明する。

 「『ボブ篇』に限らず、全体の印象は水彩のスケッチ画。漫画的なラフな絵に生々しい存在感がある。全く日本初。今まで見たこともない絵になるでしょう」
 百瀬さんが例に引くのが、カナダの天才的アニメ作家フレデリック・バックが5年をかけてキャラクター、背景まで一枚一枚の動画を手がきで完成させた「木を植えた男」(約30分)のようなプライベートアニメ。ひとりの作家が驚異的な時間と根気をかけるからこそ可能なタッチの統一、キャラクターと背景の一体化をコンピューターの力を借りて実現してしまおうというのだ。

 演出の田辺修さん(33)、作画監督の小西賢一さん(30)のタッチ、線の太さで全編が統一され、水彩ならではのバラつきさえも整合性を持って動き続ける。「今までのセル画だとアニメとしてのリアリティーを持ちすぎて物語が現実と離れたファンタジーになってしまうんです」と高畑監督。百瀬さんも「水彩タッチはセルでは無理。デジタルでこそできたものでしょう」という。「目指す絵は日本初のものですが、デジタルといってもアニメ作りの道具が変わっただけ。デジタル技術を見せつけられる感じだと観客はシラけてしまうと思うし、気分よく見てもらうだめのデジタル技術導入と思ってもらえばいいんじゃないかな」と百瀬さん。

 「デジタルアニメは画面上ラフな段階でいくらでもシミュレーションができる試行錯誤ができるから前より時間がかかってしまう。デジタル化の本来の意味は省エネとか生産性の向上にあるはずだけど、今回の、『山田くん』の場合は逆ですね」。そう笑う百瀬さんが今、生み出そうとしているのが「山田くん」中のオリジナルストーリー「ボブスレー篇」だった。(中村健吾)(当該記事より)






1998年08月12日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 23

コンピューター上で新色作り出す

 「となりの山田くん」製作にあたって、最も変わったのが東京・小金井市にあるジブリ1階の仕上部だ。作画スタッフが描いた線画に色をつけるのが仕上部。「もののけ姫」まではジブリの中でも最も明るい照明のもと机に向かっていたスタッフは、今、最も薄暗いライトの下で仕事をしている。

宮崎駿監督(57)を「暗くなったなあ」と驚かせた照明は、コンピューター画画をクリアに見るという目的のため。フルデジタルアニメとセルアニメとの大きな違いは、手作業でなくコンピューター画面上で色付けすること。昨年9月、ジブリが購入した彩色用ソフト、トゥーンズを使ったコンピューター画面上での作業。仕上げスタッフ12人が手にするのも動物の毛でできた筆から、コンピューターのマウスに代わった。

 アニメーターとして40年のキャリアを持つ保田道世・仕上部長は"日本一の色彩設計ウーマン"と言われる。既製の絵の具からアニメ映画にふさわしい色を調合、生み出し続けて2000色。単純な色遣いがほとんどだったアニメ映画界にさまざまな中間色を導入し、「ジブリのカラー大革命」を起こした人だ。

 「もののけ姫」では宮崎監督の依頼のもと、1作で600色を使用。ディズニーさえ驚かせた保田部長も、「山田くん」参加とともに筆をマウスに代えた。「でもね、水彩画タッチの『山田くん』で高畑監督が使おうとしている色は、今までの色とは全然違うの。今までの2000色では全然足りないし、コンピューター上で新しい色を、どんどん作っていかないと」と保田さんは話す。ベテラン・アニメーターの仕事内容も一変させるジブリの"デジタル革命"。その中心となる百瀬義行CG部長(44)もまた、悪戦苦闘していた。(中村健吾)(当該記事より)






1998年08月11日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 22

"脱リアル"で作業内容が一変

 「となりの山田くん」で武重洋二さん(34)とともに美術を担当する田中直哉さん(35)らジブリの美術部は総数12人(うち特殊効果担当が2人)。「もののけ姫」では主人公アシタカが故郷の村を旅立っていくシーンの背景など、全部で360枚の情景画を描き上げた田中さんが今、大いに悩んでいる。

 田中さんは武蔵野美術大デザイン科を卒業後、いくつかの背景会社を経てジブリに入社。「もののけ姫」まではキャラクターを描く動画スタッフとは違い、美術作品に近い背景を描くという「どこか絵かき的な部分で」(田中さん)仕事をしてきた。今回、画材がポスターカラーから水彩絵の具に変わると同時に、描く絵まで一変した。

 「『山田くん』でも最初はリアルな具象画を描いていったんです。でも、あのキャラクターと全然つり合わない。高畑監督からも『全く描かないで、場所や家具など、そのものを感じさせてほしい』と言われて」と田中さんは振り返る。高畑監督の狙いは、ムラもある淡い水彩画タッチの絵が動くこと。例えば、山田家の室内を表現する際に家具などをリアルに描き込まず、そこが部屋の中であることをいかに表現するか。

 前作まで具象の極致ともいうべき絵に挑んでいた田中さんらスタッフは、今までとは全く逆のことを求められた。「これじゃ、だれでも描ける絵じゃないか、とか不満を持ったりした末、半年間かかってたどり着いだのが、いかに抜けた空間をつくれるかということ。色の濃淡やグラデーションでさまざまなものを表現しようということなんです」と田中さん。

 高畑監督からは「このシーンにはキャラクターの寂しい心情が込められているので、もう少し寂しい色にしてほしい」「キャラクターのいる場所が変わったのを色の違いで分からせてほしい」などと初体騒の支持が次々と下されるという。「自分自身が絵を描く宮崎監督とは違い、高畑監督は、ぼくらが作ったものに対してやりとりを重ね、方向方向性を示す存在。今、ぼくたちは『もののけ姫』とは180度違った作業内容をこなしています」

 こういう田中さんと同じ思いを、東映動画時代から宮崎、高畑両監督と仕事をしてきた大ベテラン、保田道世・仕上部長も抱いていた。(中村健吾)(当該記事より)






1998年08月08日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 21

水彩塗り残しの感覚を出す苦労

 ジブリが日本で初めて取り組んでいるのが、セル画と背景画を別々に描く手法の排除。キャラクター、背景の2つが全く同じ質感を持つ水影画のような絵がリアルな動きをすることだ。水彩画には当然、塗り残し、はみ出し、ムラがある。それを、そのままアニメーションにしようというのが高畑勲監督(62)の狙いだった。

 「『もののけ姫』まで、ぼくらは描き込んで描き込んで、どこまでキッチリ描けるかに挑戦してたわけです。それに対して『山田くん』では線が途切れていたり、太くなっていたり、今までのアニメでタブーとされていたことばかりやってるんです」というのは動画チェックの斉藤昌哉さん(32)だ。「アニメがどんどん密度が高くなって神経症的になっている中、あえて抜けたものを作ることに意味があると監督は考えたんです。それは『肩の力を抜いて生さようよ』いう作品のコンセプトにもつながる。『もののけ姫』が今までのアニメ技術の最高峰とすれば、『山田くん』は今まで積み上げたものが全くない世界への挑戦です」

 そんな斉藤さんたちを最も戸惑わせたのが「3枚の動画」だつた。高畑監督は今回三枚一枚の動画につさ、それぞれ(1)実線としてのキャラクターの線を描いたもの(従来のアニメ映画と同じ)(2)水彩画画的塗り残しやはみ出しを作為的に表現するため、キャラクターの線の内側に色の線(内線)を描いたもの(3)塗り残したすき間から見える背景部分が白く見えてしまわないよう色をつけた線(リンカク線)の3種類の動画を描くことにした。

 「水彩塗り残しの感覚を、どうしても出したい。それが監督の狙いでした。水彩タッチはセル・アニメでは無理。デジタルでこそできるものです」と百瀬義行CG部長(44)は言う。「いままでなら1枚描けばよかったところが今回は、それぞれ3枚描く。簡単そうに見えて、すごく難しい。正直イライラすることもあります」と斉藤さん。

 一方、それとは違った形のプレッシャーを、背景中心に作品の世界を演出する美術部のトップ・田中直哉さん(35)は感じていた。田中さんは同僚の武重洋二さん(34)とともに美術監督を務めているが、「山田くん」ではここにも大きな変化が起きていた。(中村健吾)(当該記事より)






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