●「となりの山田くん」ニュースクリップ:3
News Clip of "My Neighbors The Yamadas"

1998年7月・報知連載 スタジオジブリの挑戦 第1部 2

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1998年08月07日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 20


ひとつの絵につき3パターンを用意

 アニメーター歴17年の動画ウーマン・舘野仁美さん(37)は、ジブリ作品には「となりのトトロ」(88年)から参加する10年選手だ。勤務時間は午前11時から午後8時まで。「今は、まだ追い込みじゃないから早く帰れます」という。毎日、約50枚の動画を4Bの鉛筆で動画用紙に描く。

 なぜ4Bかと言うと、作画監督の小西賢一さん(30)が使っているのが4Bの鉛筆だから。30人いる作画スタッフ全員が小西さんと同じ線の太さ、濃さでキャラクターを描くための工夫。完成した「山田くん」の線がすべて小西さんの線で統一されるようスタッフが同じ濃さの鉛筆を使用する。

 「『もののけ姫』の時はしっかり、はっきり、くっきりした絵を描いてましたが、『山田くん』はフワッとして線も途切れたりを平気でする絵。鉛筆でサラッと描いた感じと言えばいいんでしょうか」と館野さん。

 「雑に汚く描くのではなく、フワッと感じよくボヨボヨッと脈動する感じに描くのが『山田くん』なんです」と続ける舘野さんは何度もけんしょう炎になりかけ、週に1回、ジブリに診察に来る整体の先生の常連だ。

 「もののけ姫」では1日に10枚ほど描いていた動画スタッフが、今、「山田くん」では日産50枚をこなしている。その秘密が「動画3枚」という言葉にある。種を明かせば、ジブリの作画スタッフは「山田くん」ではひとつの絵につき3種類の絵を描くようになり、作業量が3倍になっているのだ。

 高畑勲監督(62)が「山田くん」で目指すのが、「水彩画のようなサラッとスケッチしたような絵が複雑な動さをすること」。が、1人のアニメーターが10年以上をかけて手作業でこなす作業を、コンピューターの力を借りて1年で実現してしま狙い。「氷彩画の持つ色を塗り残した感じや色がはみ出た感じをコンピューター上で再現することは、ある方法を取らないと不可能なんです」。そう言う百瀬義行CG部長(44)が今、「動画3枚」の秘密を明かす。(中村健吾)(当該記事より)






1998年08月06日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 19


動きにこだわり原画枚数は倍以上

 「もののけ姫」、そしてディズニーのアニメでもキャラクターたちの動さは、どこか漫画的で大げさなものだったりした。

 「跳んだり、はねたりの漫画的なアニメ表現。それはリアリティーの面で言えばばウソなわけです」と「となりの山田くん」作画監督の小西賢一さん(30)。同じことを「もののけ姫」では作画監督も務めた原画マン・安藤雅司さん(29)は「あのキャラクターが、普段人間が動くとおりの動きをするすごさ。『もののけ姫』以上に動きにこだわるために、あの時の倍以上の原画枚数が費やされています」
と表現する。

 2人に共通するのがジブリそのものへの危機感だ。「今まで、ぼくたちは、いい作品も作ってきたし、それなりの力量もあるかなと思ってさましだ。でも、高畑監督の求めている、"あ〜、こういう動きってある、ある"という『気分』を的確に表現するという面では、まだまだだとわかりました」と小西さん。

 安藤さんは、もっとストレートだ。「自分たちがアニメ界のトップにいるなんて思えない。ジブリには、どこか宮崎監督たち才能のある一部の人たちにゆだねてしまっている部分がある。そこが崩れたら総崩れになる恐れだってある」

 「となりの山田くん」で高畑監督が平均年齢29歳のスタッフたちに求めたのが、世界のアニメーターたちが模索し続けてさた"究極のアニメ映画"。小西さんは「作ってて"こんなアニメは今までなかっただろう"という実感があるんです。ジブリ・アニメという確固たる枠の延長上でやるのもいいけど、先の読めない面白さが『山田くん』にはあるんです」と言う。

 ジブリが「山田くん」で、どんな絵を見せようとしているのか。原画と原画の間をキャラクターの動きで埋める動画の部分を統括する動画チェックの斉藤昌哉さん(32)、その狙いを「小西さんが1人で10年かかって作る映画を作ろうということ」と表現。「キーワードは3枚の動画です」と続けた。「3枚の動画」とは一体、何なのか。(中村健吾)(当該記事より)






1998年08月05日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 18


脂乗ってきた研修生出身者が主力

 ジブリ2階に陣取るメーンスタッフ。「『となりの山田くん』製作の中心的存在」と鈴木敏夫プロデューサー(49)が言う作画監督の小西賢一さん(30)は昨夏から山田一家のキャラクターを描き続けていた。

 高畑勲監督(62)の隣に座り、すべての絵の責任者となる小西さんは、ジブリが89年に導入した研修生制度の1期生。それまでのアニメ業界で、きちんとした研修制度を持っていたのは東映動画、テレコムの2社だけ。他社では作品ごとに優秀なアニメーターの引さ抜き合戦を続けていた。

 宮崎駿監督(57)の提案で始まったジブリの研修制度。まず1年間は月給を支給しながらアニメの線引きを教えていく。だいたい1年で、ある程度の線が引けるようになったところで作品作りに参加させる。

 「研修制度を始めて9年。1期生で入ってきた小西君たちが30代になり脂が乗ってきた。さあ抜てさだということです」とジブリ社長でもある鈴木プロデューサー。判断墓準は「だれがアニメーターとして、うまいか」の点だけだ。1月に47歳で急死した「耳をすませば」監督の近藤喜文さんら「もののけ姫」で中核だったベテランメンバーたちが抜けたことも「山田くん」スタッフの若返り(ジブリ全体の平均年齢は29歳)に拍車をかけた。

 そして今、小西さんは悩んでいた。「なぜ、こんな簡単そうなものを作っているのに、こんなに苦労しているんだろう」−。作画スタッフが、この作品で目指すのが「スケッチ風略画」。いしいひさいちさんの原作どおりのシンプルで漫画そのもののキャラクターを、いかに面自く動かすか。

 「こんなに頭が大さくて、足が短いキャラクターが"そうそう、人って、こういう感じで動くよね"と共感できる感じを出して動く面白さ。何気ない動きでも、すごく感じが出て表現力が高いと普通の人でも"面白い"と感じるんですよ」と熱く語る小西さん。高畑監督の一言うのが「気分を出して」のひと言。

 「山田くん」の目指す観客に「あ〜こういう動きってあるよ」と思わせる動きは、日本アニメの損点「もののけ姫」でも実現でさなかったものだった。(中村健吾)(当該記事より)






1998年08月04日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 17


リアルな動きに大きな衝撃が…

 "事件"は7月16日、約1時間に及んだ「となりの山田くん」製作発表の最後に起こった。

 会見中、まだ彩色されていない「山田くん」の3分間のプロモージョンビデオが流された。仮の題名は「バナナとドラ焼き」。酔って帰ってきた「山田家」の主人・たかしが「何か食うものはないか?」と聞くと、妻・まつ子がバナナとドラ焼きを差し出すという粗筋を淡々と描いたものだ。そして質疑応答が続いた後、突然、徳間康快・徳間書店社長(76)、高畑勲監督(62)と、ひな壇の中央に並んでいた宮崎駿監督(57)が発言を求めてマイクを奪い取った。「この(キャラクターの)感じを生身で出せる俳優はいませんよ」宮崎監督は興奮のあまり上気した顔で言った。

 「宮さんは3分間ビデオのキャラクターが見せた、ものすごい動きにアニメーターとして大きな衝撃を受けたんです。これを描いた作画マンはだれか?それがマイクを奪い取る上いう行動になったんです」と鈴木敏夫プロデューサー(49)は分析する。

 約1300人の会見出席者の何人が3分ビデオのすごさに気付いていたか。玄開を開けて入ってくる。酒に酔ってよろける。バナナをムシャムシャと食べる−そんな一つ一つの動さに宮崎監督の目がくぎ付けになったのだ。「キャラクターの動き、動くタイミング。頭、手、足すべてが動きの頂点でまとまり、実物の人間と同じ動きをする。それをやっているのが漫画どおりの簡略化された山田家のキャラクターなんですよ。すごい衝撃でした」と言うのは「山田くん」の原画マン・安藤雅司さん(29)だ。

 衝撃の3分間ビデオを作ったのは、91年の「おもひでぽろぽろ」に原画マンとして参加。「山田くん」がジブリ作品への初の本格参加となったフリーのアニメーター・橋本晋治さん(31)だった。まさに漫画そのものの山田家のキャラクターたちが、人間の普段の動きそのままの動きをするすごさ、驚き。それこそが高畑監督の「となりの山田くん」での狙いだった。

 そして、"天才アニメータ−"宮崎駿を焦らせたこの3分間ビデオが、安藤さん始め現場スタッフに大きな影響を与えることになる。(中村健吾)(当該記事より)






1998年08月03日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 16


ジブリ作品は絵コンテが命

 ジブリの103人のスタッフはキャラクターを描く作画部、背景を描く美術部、彩色する仕上部、フィルムを焼き付ける撮影部、そして94年の「平成狸合戦ぽんぽこ」製作時に発足したCG部の5つに分かれる。3階建てのジブリビル(東東・小金井)の1階に仕上、CG、撮影、2階に作画と全体を統括する制作管理部門、3階に美術の各スタッフが陣取る。

 この夏、「となりの山田くん」の絵コンテを担当する田辺修さん(33)は悩んでいた。高畑勲監督(62)は「私の仕事の5分の4はアニメーター」と公言する宮崎駿監督と達って、自ら絵をかくことはない。監督の頭の中にある各場面の演出、レイアウトを実際の絵にするのが田辺さん。「山田くん」の絵すべての責任者的立場だ。

 「普通の映画だと、絵コンテは全体を見渡すための略画にすぎないことが多いんですが、田辺さんの給コンテはそのまま完成形に近い」と「山田くん」作画監督の小西賢一さん(30)。いくらジブリが作るといっても「山田家」のキャラクターたちは、いしいひさいちさんの原作のまま。それを、どうジブリ流に味付けするか。それが田辺さんの腕の見せどころだ。

 「このキャラクターたちは基本的にだれがかいても一緒だけど、簡略な線でかかれているだげに、かえって幅が広い。そこで田辺さんの持っている独特のニュアンスが入ることが重要なんです。実際、田辺さんというフィルターを通った山田一家は"いい感じ"です」と小西さん。
 が、昨年8月から高畑監督が細かい指示を書さ込んだ脚本をもとに絵コンテをかき進めている田辺さんは「今、すごいプレッシャーがあります。ジブリ作品は他社より絵コンテで決まってしまう部分が多い。後の作業に与える影響も大だし」と真剣そのものだ。

 「はっさりいって苦戦してます。家族で居間でくつろぐパターンが多い山田家のただずまいが、いつも同じではつまらない。例えば"(父親の)たかしらしいポーズとは?って考えだすときりがない」そういう田辺さんに代表される高畑組スタッフの理想の高さが、先月16日こ行われた製作発表会見でひとつの事件を生むことになる。(中村健吾)(当該記事より)






1998年08月01日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 15


脚本第1稿は5時間分にもなった

 高畑勲監督(62)が、いしいひさいちさんの原作4コマから「これは」という作品を選んだ脚本第1稿が出来上がったのは、昨年11月18日のことだった。

 「これも面白いね」「あれも面白いかな」…。選ばれたのは約200編。「監督付」という不思議な肩書で製作日誌をつけつつ、監督の手助けをしている田中千義さん(34)は「居合わせたスタッフで第1稿の読み合わせをしてみたら、なんと5時間分になってしまった。"長編すぎる"と、みんな真っ青になっていました」と振り返る。

 「不思議なもので、この長さでも飽きずに面白く聞けたんです」と田中さん。原作の魅力か、高畑監督の構成の妙か。それでも構成はやり直し。鈴木敏夫プロデューサー(49)の要求は「90分にまでしてください」だった。

 「今こそカレー」「居眠りバス」など、山田家の面々が引き起こす事件に表題をつけつつ、再構成。「"大体、オチは一つ一つにつけるべさなんですかねえ"って感じで監督は悩み続けました」(田中さん)今年の2月18日、ついに2時間10分ほどの脚本が出来上がった。エピソードは90編に刈り込まれていた。

 昨年8月の時点で絵コンテや原画をかくメーンスタッフ数人にはエピソード一つ一つが出来上がるだびに脚本を細切れで渡し、絵作りの作業がスタートしていた。宮崎作品の場合は少なくとも絵コンテ作業には脚本の3分の1が出来てから入っていたが、高畑監督の場合は「まさに自転車操業」(田中さん)だった。この時点で「あと20分は削って1時間50分の長さで完成させたいですね」と高畑監督は宣言。「悩んで削っていると、中身が簿くなってしまうんですよ」と付け加えるのも忘れなかった。

 作画作業にも不動のエースとして参加する宮崎監督とは違い、あくまでも演出家であり、自ら絵をかくアニメータ−と一線を画す高畑監督の考えを、絵コンテとして起こす田辺修さん(33)の苦労には想像を絶するものがあった。(中村健吾)(当該記事より)






1998年07月31日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 14


フルデジタル化で製作工程も様変わり

 ジブリの製作工程は「もののけ姫」と「となりの山田くん」では激変している(別掲イラスト参照)。

 ジブリにおけるアニメ映画製作工程を簡単に紹介しよう。まず監督が執筆した脚本を元に各シーン、エピソードを絵を中心にレイアウトまで説明する絵コンテが描かれる。この絵コンテを基礎として作画作業が進む。ジブリではキャラクターのシーンごどの中心となる絵を原画、原画から原画の間をつなぐキャラクターが動いている部分を動画と呼ぶ。

 基本的に原画→動画の順番に作業は流れていく。さらに背景画を担当する美術部があり、美術スタッフの背景作業も原画、動画作業と並行して進む。ここまでは「もののけ姫」「山田くん」共通で完全手作業。が、フルデジタルアニメ「山田くん」は、ここから先が大変ぼうを遂げている。

 動画後の作業をすべて高級コンピューターにデータとして入力。動画までで出来上がったモノクロの絵に彩色する仕上部は、これまで筆でセル板に色を塗ってきたが、今回からセル板は全面廃止。マイクロソフト社の彩色用ソフトを使ってコンピューター画面上で色づけするようになった。

 でき上がった動画も全てスキャンし、テータ化。高畑監督の理想「キャラクター、背景均一の水彩画が動いているような絵」実現のため、コンピューター画面上で作画部が描いた絵が合成され、CGもふんだんに加えた上でテジタル編集される。「もののけ姫」まで9割、フィルム撮影していた撮影部の仕事も当然、様変わり。全でのデータをデジタルカメラで取り込み、コンピューター上で処理することになった。

 ジブリスタッフ103人を襲ったフルデジタル化。それぞれの作業ぶりを作画部30人の"今"から順に追う。(中村健吾)(当該記事より)






1998年07月30日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 13



急務だった製作コスト削減

 「となりの山田くん」のフルデジタル・アニメ化に多大な貢献をしている30台のワークステーション(高級コンピューター)。が、もともと、この30台は「山田くん」を作る目的で導入されたわけではなかった。

 創立以来13年、100人以上のスタッフが一枚一枚丹念に彩色し、撮影したセル画の精度で世界最高峰の技術を誇ってさたジブリだったが、実は88年の「となりのトトロ」「火垂るの墓」製作時から大さな分岐点に立っていた。「アニメ映画というのは、本当にお金がかかるんです。100人以上のスタッフの人件費だけでなく、絵の具やセル板といった必要不可欠なハードの面でね」と言うのは制作部長の高橋望さん(37)だ。例えば、キャラクターを描くセル板のセルとはセルロイドの略。アニメ業界では約15年前からセルロイド板は消滅。合成樹脂アセテートの板を使用してきた。

 が、このアセテート板を製造してさた富士フイルムが2年前、製造を中止してしまった。アニメ業界は外国産のアセテート板に移行。ジブリも1枚34円の高額で購入してきたが、「もののけ姫」で使ったアセテート板の数は14万4000枚。これだけで、コストは500万円近くなる。

 さらにキャラクター、背景に色をつける絵の具。業界ではポスターカラーを使用してきたが、これが高さ20センチほその瓶詰で1本1800円以工の高級品。ジブリが使うプロフェッショナル試用のポスターカラーは国内で2社しか製造していないうえ、新しい色彩を調合してもらう際には絵の具代は当然、割高になる。

 東映動画時代から高畑、宮崎両監督を支えてきたジブリ仕上部の保田道世部長が「もののけ姫」で使用した色数は約600色。彩色だけで億単位の大金が動く。「アニメ製作のコスト削滅は急務でした。そこで昨年末に30台のワークステーションを購入。高畑監督が、これを使って新しいアニメ表境に挑めるのでではと思った。まずは、いかに製作コストを下げるかという課題があったんです」と高橋さんは言う。そして、ジブリの現場は「もののけ姫」の時とは明らかに変わってきた。そんな「山田くん」製作過程に潜入する。(中村健吾)(当該記事より)






1998年07月29日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 12



"ギャップ"を埋めたフルデジタル化

 昔ながらの家族を描くことに「となりの山田くん」を作る意味を見いだした高畑監督(62)にもう一つ、大きな問題が立ちはだかった。

 いしいひさいちさんの原作はききびきびした起承転結が魅力の4コマ漫画。「朝日新聞で毎朝読むと面白いのに、単行本でまとめて読むと、それほど面自くない。つまり、長編映画にしてしまうと原作の面白さがなくなってしまうということ。さあ、どうするか困り果てました」と鈴木敏夫プロデューサー(49)。

 そこで高畑監督が考えたのが、原作4コマの一つ一つのエピソードを20以上のショートストーリーとし、その間にジブリのオリジナル部分を付け加えること。各エピソードの間を、103人の製作スタッフの間で仮称「ボブスレー篇」と名付けられた波瀾万丈の物語が貫いていく二重構造だ。

 もう一つ、高畑監督はジブリ創立以来の技術的課題にも挑む決意をした。「背景を緻密(ちみつ)に描き、キャラクターの動さも緻密に描く」。ディズニーも驚嘆したジブリの理想をエスカレートさせた背景とキャラクターの質感の一体化だ。大ヒット作「もののけ姫」でさえ残ったのが、絵画のような完成度の高い背景と真っ平らで質感のないセル上のキャラクターとのギャップ。鈴木敏夫プロデューサーも「前から
気になっていた」と言うセル・アニメの根本的欠陥をだれよりも痛感していたのが高畑監督だった。

 16日に行われた「山田くん」製作発表会見で「これまでアニメでやったことがない新しいことをやる自信がある」と豪語した高畑監督の言葉の裏にあったのが、フルデジタル化(完全コンピューター化)した作画技術によるアニメ製作だ。制作部長の古高橋望さん(37)は、こう説明する。「背景、キャラクターの質感一体化のために、高畑監督は絵の密度を思いっきり下げてしまうことにしたんです。背景もすごく簡単にする。まるで水彩のように見える絵をデジタルで作り上げ、色指定なども全部、デジタル処理するんです」。そこにジブリ最大の挑戦があった。(中村健吾)(当該記事より)






1998年07月28日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 11

映画界にもビッグバンが起きた

 「映画界にはビッグバンが起こっている。いいものは系列とかに関係なく、それに適したところが手掛ければいいんです」。16日の「となりの山田くん」製作発表会見。出資者の一人、日本テレビ・氏家斉一郎社長(72)が言い放った。

 いしいひさいちさんの4コマ漫画「となりのやまだ君」(原題)は、91年から朝日新聞朝刊で連載が始まった(現在は「ののちゃん」に改題)。企画段階では当然、朝日新聞系列のテレビ朝日も提携に意欲を見せた。が、89年の「魔女の宅急便」以来、ジブリ作品に出資、ジブリCG室にスタッフを派遣するなど、10年以上にわたって太いパイプを築いてきたのは読売新間系列の日本テレビだった。「原作の関係上、「山田くん」がテレビ朝日さんに行っても、おかしくなかった。最終的には、これまでの協力関係予とウチの熱意がものを言ったのでは」と日本テレビの奥田誠治・映画担当副部長(42)は、ホッとした表情を見せる。

 もう一つ、し烈だったのがジブリをめぐる博報堂と電通の提携権争い。16日の会見では史上初めて東海林隆・博報堂社長(65)と桂田光喜・電通副社長(65)が同じひな壇に並び、業界の度肝を抜いた。博報堂は94年の「平成狸合戦ぽんぽこ」までさまざまなジプリ作品に出資してさたが「もののけ姫」だけは電通に奪われていた。ゼネラル・プロデューサーを務める徳間康快・徳間書店社長(76)は「昔、電通には黒沢明監督の『まあだだよ』(93年)で損をさせてしまった。"今度はもうけさせて"と電通に頼まれたんで『もののけ姫』で組んだんだ」と種明かしするが、「もののけ姫」で電通は日本生命ち12億円という前代未聞のタイアップに成功。博報堂は、ほぞをかんだ。

 今回、徳間社長は「日本生命クラスのスポンサーを連れてきてもらう」という条件で再び博報堂と組んだ。「『もののげ姫』と同等のキャンペーンを張る」と気合十分なのは博報堂エンタテインメント事業局の藤巻直哉さん(45)。

 数画億円のビッグマネーを動かすジブリの新作。大企業の思惑の陰で、高畑勲監督(62)は「山田くん」製作上の大きな壁に直面していた。(中村健吾)(当該記事より)






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