News Clip of "My Neighbors The Yamadas" 2

July, 1998 Challenge of Studio Ghibli 1-1

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1998年07月27日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 10


突然の題名変更に漫画でいしいさん流OK

 宮崎、高畑画監督の生み出してきだジブリの作品には必ず共通の一文字が入る法則があった。宮崎作品なら「風の谷のナウシカ」「魔女の宅急便」など「の」の字は欠かせない要素。「もののけ姫」は2つの「の」の字がついた。

 が、自宅に戻った高畑監督はひと晩考えて「いくらなんでも『ぽっぽちやん』はないだろう」という結論に達した。「そうだ。『ホーホケキョ』と付けよう」。なぜ、「ホーホケキョ」なのかの理由はだれも分からないまま、ジブリは高畑案を採用したが、困ったのが、鈴木敏夫プロデューサー(49)だった。

 原作者・いしいひさいちさんは「ジブリなら」ということで昨年3月の初交渉で、あっさりと映画化を了承してくれた。が、11月に突然、決まった題名変更を原作者が、どう受け止めるか判断はつかない。

 なんとか、新題名をいしいさんに伝えだ鈴木敏夫プロデューサーだったが、その返事は「新春まで(返事は)待ってください」。ドキドキしながら待つこと一か月、12月11日付の朝日新聞朝刊4コマ漫画「ののちゃん」にクッキリと「ホーホケキョ」の文字が躍った。いしいさん流の「OK」の印だった。

 そして始まった「山田くん」のポスター作り。「ホーホケキョ」を生かし、花札をモチーフに梅にウグイスの絵柄となったが、そこには「提携・日本テレビ、博報堂」の文字。ここに毎回、数百億円の金が動くジブリ作品ならではの争いがあった。(中村健吾)(当該記事より)






1998年07月25日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 9


宮崎、高畑両監督の不思議な信頼関係

 なぜ「となりの山田くん」の題名の前に「ホーホケキョ」と付いているのか。そこには宮崎駿監(57)と高畑勲監督(62)との不思議な信頼関係があった。

 ジブリの両輪である"2人の天才監督"は1963年、宮崎監督がアニメ製作会社・東映動画に入社して出会った。翌年、東映動画労組の委員長と副委員長としてともに闘い、以来35年間、「ひょっとして僧み合ってるのかなと思ってしまう瞬間もあるほど、愛僧相半ばする開係」(鈴木敏夫プロデューサー)を続けてきた。

 宮崎監督は現在、ジブリから徒歩5分のご近所に自身のアトリエ「豚屋(ぶたや)」=建物の壁に2頭の豚が描かれているため命名=を建て、アニメーター養成塾を準備中。16日の「山田くん」製作発表会見でも「高畑さんは案の定、『山円くん』製作に悪戦苦闘しでいるようですが‐」と満場を笑わせた後、「高畑さんが挑戦しているシステム(フルデジタル化)が安定した時に、さて、私に何ができるかな」と、2001年公開を目指す自身の次回作への意欲も披露した。

 が、その場で初めて流された「となりの山田くん」の、まだ彩色されていないプロモーションビデオを見た後、「この感じが出せる生身の役者はいませんよ」と、高畑監督に心からエールを送ることも忘れなかった。

 「『となりの山田くん』って題名だけじやダメですよ。『火垂るの墓』『平成狸合戦ぽんぽこ』と、パクさん(高畑監督のあだ名)の作品には必ず『ほ』の字が付いてます。『ほ』が付いてないのは問題です。そうだ。『ぽっぽちゃん』と上に付けましょう」宮崎監督が、そう言い出したのは「もののけ姫」が大ヒット中の昨年11月のことだった。

 眼鏡の奥の日ば全く笑っていない。"天才・宮崎"の突然の発言に鈴木プロデューサー始めジブリの面々は、あ然とした。だだ一人、高畑監督だけが「宮さんは宮さんなりに『山田くん』のことを考えてくれたんだなあ」と感慨深げだった。

 では、なぜ「ぽっぽちゃん」が「ホーホケキョ」になったのか。なぞは残った。(中村健吾)(当該記事より)






1998年07月24日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 8


親子に気遣いもプレッシャーもない

 昨年6月、1000編以上ある、いしいひさいちさん原作の4コマからエピソードを選び「となりの山田くん」脚本の構想に入っていた高畑勲監督(62)を、大さな衝撃が
襲った。

 神戸・須磨区で起こった連続小学生殺傷事件。いわゆる「酒鬼薔薇事件」の容疑者として逮捕されたのが14歳の中学3年生だったのだ。その前年には奴隷のように扱われた父親が金属バットで長男を撲殺する事件も起さていた。次々と世間を騒がす子供の、そして家族の事件。88年の監督作「火垂るの墓」で戦争の悲惨さを描くだけでなく、子供の疎外など現代の人間関係への問題提起を目指した"社会派"にとって、ここ数年の日本の現状は目に余るものだった。

 「題名にホーホケキョなんて、のんきにうたいながらメッセージを言うのはいやなんですが…」上照れた高畑監督だが「今のいやな世の中は子どもだけじゃなく、その親も含めて考えていかないと」。いつもと変わらない静かな口調で言う。

 監督の嫌いなはやり言葉が「癒(いや)し」。「今、精神の病がすごく増えているじゃないですか。人々が病気じゃないと『癒し』なんて言葉は出てこないはずですよね」と高畑監督。「今の日本は「いい家族でいたい』『いい父を演じたい』というプレッシャ−ばかりがあふれてます。それが高じて突然、キレたりする。大体、父親が子供に『話し合おう』と言うなんて、おかしいんですよ」

 そして「山田家」には、見事に気遣いもプレッシャーもない。「そういうふうに続いてきた普通の生活の安定感が、あの一家にはあるんです」と上いう高畑監督は、約1300人が集まって16日に行われた「となりの山田くん」製作発表会見のひな壇の上で「今、大まじめな人が多くて、それがすごく気になっていました。『もののけ姫』のキャッチコピーは『生きろ』でしたが、『山田くん』は、もっと楽に一生きたら…』という感じで」と話して場内の大爆笑を誘った。

 その横で大ウケしていたのが、高畑監督にとって永遠のライバルであり、盟友でもある宮崎駿監督(57)だった。(中村健吾)(当該記事より)






1998年07月23日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 7


今作る意味を考えた

 発端は、「もののけ姫」の大ヒットで今や日本一、金の稼げる映画製作者となった鈴末敏夫プロデューサー(49)の一言だった。「これ、映画になりませんかね」−。

 93年暮れ、鈴本プロデューサーが朝日新聞の朝刊連載漫画「となりのやまだ君」(原題)を指さして高畑勲監督(62)に言った。「4コマ漫画でしょ。どうやって長編に?」会話は途切れ、襲ってさた「もののけ姫」の"あらし"の中、「山田くん」は忘れられた存在になっていった。

 企画が復活したのは96年末のこと。「もののけ姫」のような壮大なファンタジーをやっていると、小さな話をやりたくなるもんなんですよ」と鈴末プロデューサーは振り返る。実は、この直前に高畑、鈴木コンビで半年間、煮詰めてきた1つの企画がつぶれていた。平安時代を舞台にした古典「長谷尾草紙(はせおぞうし)」の映画化。妖(よう)術・反魂の術により死体を集めて生まれた美女を巡る幻想的で怪奇な物語の長編アニメ化を2人は狙ってきた。

 が、高畑監督の結論は「なぜ平安時代を描くのか。作る意昧が見いだせない」だった。「あの人は作品に着手する前に常に"意味"を求める。作る意味、新しい映像技法を開発するというテクニック上の意味との2つを」と鈴木プロデューサー。

 1つ目の作る意味−。「今のドラマは、みんな人間の心理を描こうとする。「エヴァンゲリオンは象徴的です。その点、山田くんは人の外面しか描かないし、世の中、ファンタジーーだらけの中、見事に現実だけ描く。反時代的で非常にに挑戦的。今、これをやる意味はありますね」高畑監督は納得した表情で言った。

 「『山田くん』には、ついこの間まで日本にあった家族の姿がありますよね」そう続けた高畑監督の表情に鈴木プロデューサーは「これは面白くなる」と確信した。そして、高畑監督が、脚本執筆のため、いしいひさいちさんの原作4コマを読み込み始めた時、日本中を震かんさせた"あの事件"が起こった。(中村健吾)(当該記事より)






1998年07月22日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 6


ディズニー相手に一歩も引かず

 「『となりの山田くん』に米ディズニー社が出資、海外配給権も獲得」本紙がこう報じた4月20日、日木経済新開はこのニュースを1面で掲載した。経済紙までが意義を高く評価した快挙。ディズニーがライバル関係にある他社の作品に出資したことは過去になかった。スタジオジブリが属する徳間グループは96年7月、ディズニー社との間で映画とビデオの世界配給に関して業務提携はしていたものの、まだ製作発表前の作品の"青田買い"には世界中が驚いた。

 来春にも予定されているのが「もののけ姫」吹さ替え版の全来公開。一昨年からスタートした交渉過程で、徳間康快・徳間書店社長(76)はディズニー社のマイケル・アイズナー会長に「今、ジブリではこんな作品を構想中だ」と、朝日新聞に連載されていた「となりのやまだ君」(原題)の原画を送った。

 アイズナー会長は興奮気味に「ぜひ、この映画に出資しただい。ウチが製作費の20%を負担したい」と申し出た。「それでは配給収入の比率がおかしくなる。徳間グループ50%、日本テレピが30%、博報堂が10%、ディズニーも用10%だ」。徳間社長は天下のディズニー相手に一歩も引かず、主張を通した。

 「普通映画作りは"お金を出してください"と頭を下げるもの。それがジブリ作品は逆。ディズニーまでが"金を出したい"と一言ってくる。どうだい」と得意満面の徳間社長。

 「宮崎駿、高畑勲という2人の天才監督を持つジブリの作品は、世界中どこに行っても通用するんだ。今の映画界はアメリカだけ強くてほかは弱い一強百弱。『山田くん』がアメリカに出ていくことで、惨たんたる日本経済にも地図の書き換えが出てくるんだよ」徳間社長の怪気炎はとまらない。

 大ヒット映画のプロデューサーに贈られる藤本賞を最多の4回受賞しているヒットメーカー・徳間社長のみならず、企画段階でディズニーまで魅了した「となりの山田くん」。足掛け7年に及ぶ映画化プロジェクトは91田年、鈴木敏夫プロデューサー(49)が高畑監督に掛けた何げないひと言からスタートした。(中村健吾)(当該記事より)






1998年07月21日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 番外編

映画王者アメリカに一矢報いる

 日本映画史上最高の配収113億円を挙げた「もののけ姫」(監督・宮崎駿)、史上初めて世界アニメ界の巨人・ディズニーから10%の出資を引き出した話題作「ホーホケキョ となりの山田くん」(監督・高畑勲)。2作品のゼネラル・プロデューサーを務める徳間康快・徳間書店社長(76)は、16日に行われた「となりの山田くん」の製作発去会見で、両サイドに宮崎、高畑監督を従えて言った。

 「2人の天才監督が作るスタジオジブリの作品で"日本映画ルネサンス"を起こしますよ」。徳間社長は『もののけ姫』』は日本中で1350万人が見た。日本の人口の10人に1人が見たってことで、頂上を極めたってことなんだ。次は世界に向かうのが当然でしょう」

 その言葉どおり「もののけ姫」と、まだ一部しか完成していない「山田くん」は、ともに世界を目指す作品だ。今月、、クレア・デーンズらハリウッドのトップスターたちが参加して英語吹き替え版の製作がスタートした「もののけ姫」は、来春、全米100都市1000館で公開される。日本映画としては史上空前の規模。配給するディズニーグループのミラマックス社は全米大ヒットに向け、大型キャンペーンを計画中だ。

 「山田くん」も、出資したディズニー社配給での世界公開が決定済み。全米始め世界20か国以上で、いしいひさいちさんの、あのキャラクターたちが大暴れすることになる。「今、世界の映画界はアメリカばかりが強い"一強百弱"でしょう。惨たんたる状況に一矢報いるのがジブリの作品。『もののけ姫』と『山田くん』で、地図の書き換えが行われるはずです」と徳間社長。

 「とにかく、日本国内で小さくやっててもダメ。世界に出ていかないと継続力がないんだよ。われわれジブリのアニメが、日本の一番走者となって世界に羽ばたいていくんだ」。そんな壮大な狙いのもと、ジブリ初の完全コンピューター化によるフルデジタル・アニメ「となりの山田くん」の製作は、昨年9月から東京・小金井市のスタジオジブリで静かに続いている。(中村健吾)(当該記事より)

※7月21日は新聞休刊日で宅配は休みのため、駅売り版の紙面に番外編として掲載されました。







1998年07月20日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 5


制作費は下限16億円、上限はなし

 97年春、高畑勲監督(61)は映画の原案3つを持って、東京・新橋の徳間書店社長室にやってきた。そのうちのひとつが朝日新聞の朝刊連載漫画を原作にしだ「となりの山田くん」だった。トツトツと語る高畑監督に、徳間康快社長(77)はその場でGOサインを出した。「庶民生活の幸せ、美しさを描いている山田一家には、助け合って進んでいく人生の楽しさがある。これはビジネスになると思った」と徳間社長。

 113億円の配収を記録した「もののけ姫」などのジブリ作品をはじめ「敦煌」「おろしや国酔夢譚」などの歴史巨編など自らの感覚を頼りに大ヒットを連発してきた大物プロデューサーの嗅(きゅう)覚に「山田くん」の企画は"ビビビッ"と届いた。

 「人は『山田くん』の世界を求めている。映画は自分の趣昧とか自己満足で作ってもはた迷惑なだけ。人に求められるものを作らないと」と徳間社長。即座に「製作費は下限16億円、上限はなし。高畑さん、30億円使いたいなら、使ってもいい」と言い渡した。

 豪快な次の一手は、約1年後に打たれた。松竹への配給権委譲だ。「ひん死の重傷の松竹への義侠(ぎきょう)?冗談じゃないよ」と徳間社長。大映は5月、「大映21世紀ルネッサンス・チーム」を設立。年間10本の映画製作を目指し、映画製作会社としての態勢を固めた。すでに八リウッド・スターのスティーブン・セガール主演の「大魔神」など、いくつもの大作の企画が進行中だ。

 「これからウチはソフト製作会社として、いくつも作品を作っていくのだから配給網も東宝だけじゃだめ。松竹、ワーナー・マイカル、東急…。いろいろなところと、どんどん組むんだ」自社の作っだ映像ソフトの"出口"を求める徳間社長最大の武器が「山田くん」だった。「この作品で日本の映像産業が変わる」という徳間社長の一言葉どおり、邦画界に"ビッグバン"が起きた。アニメ映画界の巨人・ディズニー社が史上初めて「となりの山田くん」への製作費用10%出資を決めたのだ。(中村健吾)(当該記事より)






1998年07月18日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 4


配給権松竹委譲に驚く業界

 東京・赤坂プリンスホテルで行われた16日の「となりの山田くん」製作発表会見。ひな檀の上で大谷信義・松竹社長(53)は緊張した表情で言った。「松竹初のジブリ作品の配給。多方面からの期待大きく、身が引さ締まる思いです」

 業界をあっと言わせた「ホーホケキョ となりの山田くん」配給権の松竹への委譲。の「おもひでぽろぽろ」91年の「おもひでぽろぽろ」から「もののけ姫」まで、ジブリはここ5作品続けて東宝と手を組んできた。過去に「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」などで東映とも組んだことはあるが、松竹とのタッグは初めて。今年1月19日の奥山親子解任劇の記憶も鮮明な松竹の登場に、映画界は大きな驚きに包まれた。

 仕掛け人はもちろへゼネラルプロデューサーを務める徳間康快・徳間書店社長(76)だ。「松竹が私に『配給させてくれ』と頼んできたなんて、とんでもない。こちらから起死回生の策として『山田くん』をやらないか、と声をかけたんだよ」

 徳間社長が松竹の永山武臣会長、大谷信義社長、幸甫専務を東京・新橋の徳間書店社長室に招いたのは"1・19クーデター劇"の2日後。突然の申し出に、松竹のトップ3人は「本当ですか?」と絶句。徳間社長は「おれは冗談は言うけど、うそは言わない」と返したという。

 今期決算で93億円の赤字を計上、25年ぶりの無配転落となった映画界のしにせへの配給権委譲。ドル箱のジブリ作品を手渡すことになった東宝の松岡功会長も、すぐに徳間社長のところに来て「『もののけ姫』の際に何か落ち度があったのか」と聞いてきたという。

 それに対する徳間社長の答えは「いや、東宝は良くやってくれました。これで東宝と切れたわけじゃない。また一緒にやりましょう」その言葉どおり、ジブリと同じく徳間書店が母体の大映が製作する「ガメラ3」と「大魔神」は東宝が配給する。では、なぜ「山田くん」は松竹なのか。徳間社長が初めて、その理由を語る。(中村健吾)(当該記事より)






1998年07月17日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 3



史上最多1300人会見 ついにベール脱いだ!! 3分間のプロモーションビデオ公開

 スタジオジブリの最新アニメ映画「ホーホケキョ となりの山田くん」(監督・高畑勲、来年7月公開予定)の全ぼうが16日、明らかになった。東京・紀尾井町の赤坂プリンスホテルに史上最多の1300人を集めて「もののけ姫からとなりの山田くんへ 共同会見」が行われ、製作中の一部が初公開された。ゼネラルプロデューサーの徳間康快・徳間書店社長(76)からは、来春の「もののけ姫」英語版の全米公開構想も発表された。

 製作発表会見が、そのまま世界最高峰のアニメ工房・ジブリへの注目度を示すものとなった。集まったマスコミ、映画関係者の数は約1300人。半数以上が立ち見。会場に入りきれなかった約200人は別フロアのモニター画面で会見に参加した。

 昨年来日したハリウッドの人気者レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピットでさえ、会見に集まった人数はそれぞれ600人と700人。昨年の「もののけ姫」の製作発表でも700人ほどだった。

 1300人分の熱気の中、3分間の「山田くん」のプロモーションビデオが流された。まだ彩色されていないモノクロ画面の中で「山田家」の夫・たかしと妻・まつ子が、いしいひさいちさん原作の漫画通り、ユーモラスにやりとりする。この作品で、ジブリが7億円を投入して挑戦中のフルデジタル化(完全コンピュータ化)は、公開までの極秘事項。この日は従来のアニメ映画と変わらない画面の露出にとどまった。

 「もののけ姫」の宮崎駿監督(56)とともにひな壇に並んだ高畑監督は「『もののけ姫』の大ヒットがなかったら、この作品の企画自体、取り上げられなかったでしょう」と世紀のヒット作に敬意を表したうえで「『山田くん』で、これまでアニメでやったことがない新しいことをやる自信がある」と、きっぱり続けた。

 史上初めてディズニー社が製作費のうち10%を出資することで話題の超大作は、すでにディズニー配給で世界20か国以上での公開も決定済み。"史上最大の会見"は、徳間社長の「『山田くん』の製作費は下限16億円で上限はなし。日本の家族を描いたこの作品が米国で成功すれば、すごい文化交流になりますよ」という豪快な一言で幕を閉じた。

タイタニック沈没させる 「もののけ姫」英語版1000館で
 米ディズニー社の中核メンバー、ブエナビスタHEのマイケル・ジョンソン社長、ミラマックス社のスコット・マーチン副社長も緊急来日。来春の「もののけ姫」英語版吹き替え版の詳細が発表された。

 北米では「イル・ポスティーノ」や「Shall we ダンス?」を全米ヒットさせたミラマックス社が100都市1000館で公開した後、ブエナビスタ配給で独、英、伊、ブラジルなど世界各国で公開。その後、英語吹き替え版を日本に逆輸入し東宝配給で再公開することになる。

 「(配給成績で)抜かれた『タイタニック』を抜き返して、もう一度、沈没させますよ」と徳間社長。ジョンソン社長からは先月26日に売り出された「もののけ姫」のビデオが出荷本数で380万本(過去の日本での販売記録は「アラジン」の220万本)を突破したことが明らかにされた。

 会見では現在、米ロサンゼルスで吹き替え版アフレコ中のクレア・デーンズ、ミニー・ドライヴァー、ジリアン・アンダーソンのハリウッド・トップ女優3人が「私たちの『もののけ姫』も期待して」とビデオレターを寄せた。

豪華おみやげ3900万円?
 会見の出席者には総額3万円分の"おみやげ"が用意された。中身は「もののけ姫」のビデオ(4500円)、「もののけ姫はこうして生まれた」ビデオ3巻セット(1万円)をはじめ特製のアシタカ腕時計、「山田くん」キャラクターぬいぐるみなど全7点。配収113億円の大ヒット作「もののけひ姫」を生み出したジブリらしい豪華さだった。(当該記事より)






1998年07月16日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 2



「デジタル化」が切り札に

 「もののけ姫」を始めジブリのアニメ映画は、丹念に描かれた背景画と、その前面で動き回るキャラクター部分(セル画)を重ね合わせて撮影することから出来上がってきた。映画のフィルムは1秒間24コマ。「もののけ姫」のサンやアシタカといったキャラクターも、1秒につき最大で24枚のセル画に少しずつ動きを変えて描かれ、それを連続撮影することでさまざまな動き目を得る。セルはキャラクター別に描かれることも多いので、カットによっては1秒で50枚以上描かれもする。

 もっとも、1枚の絵画のような背景画と、漫画的に輸郭がくっきり出るセル画のキャラクターの質感の違いは隠せない。ディズニーを驚かせたキャラクターの緻(ち)密な動きと豊かな表情が売り物のジブリでさえ、この問題は残った。

 作画監督制やレイアウト・システムなどを導入し、日本のアニメ製作システムの"生みの親"とも言われる高畑監督にとって、セル画と背景の同質化はアニメ作家としての悲願だった。背景とキャラクターが全く同質のアニメとしては、カナダのフレデリック・バックが5年をかけ、手がきで完成させた「本を植えた男」(87年)などがある。だが、一枚一枚すべて一人の人間がかき込むこれらの作品の長さはせいぜい30分。全編110分の「山田くん」に、この手法を当てはめるわけにはいかない。

 どうやって画面全体が同質の日本初のアニメを作りだすか。ジブリではセルや絵の具といったハード面でのコスト高対策として、作画作業のデジタル化(コンピューター化)を計画していた。この「デジタル化」が「山田くん」製作のための大きな力となった。

 ジブリでは「もののけ姫」の次の作品からは全面的にデジタル化することを決めていた。今春、30台以上のコンピューターを購入したことに着目した高畑監督は「作業を単純にするだめのコンピューター化ではなく、デジタルでなければできない表現に挑もう」と決めた。製作がスタートしてから10か月。日本アニメ史上最大のチャレンジの一端が、16日に行われる「山田くん」の製作発表会見で明らかにされる。(中村健吾)(当該記事より)






1998年07月15日 報知新聞

「もののけ姫」から「となりの山田くん」へ 1

彩色の筆の音が消えた

 アニメ映画のヒットメー力−、スタジオジブリは現在、最新作「ホーホケキョとなりの山田くん」の製作と、邦画で前人未到の配収記録を樹立した「もののけ姫」の米国進出を同時進行で進めている。世界最先端のアニメ工房にマスコミとして初めて密着、数々のナゾに迫る。

 ジブリから、セル画に色を層ける彩色用の筆の"サラサラ"という音が消えた。代わリに聞こえるのはコンピューターのマウスがパッドの上を走る音だけ。1985年、宮崎駿監督(57)らが設立したスタジオジブリは、東京・小金井市にある。「風の谷のナウシカ」以降、「もののけ姫」まで11本の劇場用作品で総配収244億円をたたき出してきた工房は、白を基調にした3階建て。ビルの窓はどこも異様に大きい。アニメーターは目が命。自然光をより多く取り入れるための工夫だ。

 各フロアごとに20人以上のスタッフが机を並べている。隣席同士でも会話はない。それぞれへッドホンをつけ、音楽を聴きながら作業に没頭している。不気味なほどの静けさは設立以来、変わらない。この現場で昨年9月から、高畑勲監督(62)率いる103人のスタッフの、ある挑戦が静かに始まっていた。作品名は「ホーホケキョ となりの山田くん」。昨年9月、「もののけ姫」のメガヒットの影に隠れるように極秘裏に製作がスタート。来春の完成を予定し、現場には現在、大変な緊張感がみなぎっている。

 「『山田くん』では内容、技術両面でジブリが今まで経験したことのない、全く新しいことに挑戦しています。それだけに果たして無事、作り上げることができるのか。正直、不安も大きいんですよ」そう言うのは制作部長の高橋望さん(37)だ。なぜ、ジブリから彩色の筆の音が消えたのか。なぜ、103人の製作スタッフは、これほどまでに切羽詰まっているのか。答えは「今度は、一見してセル画に見えないものを作るんです」という高畑監督とともに、今年4月、約7億円の設備費をかけてジブリに導入された30台のワークステーション(高級コンピューター)が知っていた。(中村健吾)(当該記事より)






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