●天沢聖司にツッコミを入れる・第3節
Japanese only

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聖司君、ようやく念願が叶って、イタリアへ行けることになったね。
しかし、そうするには、せっかく仲良くなりつつある雫ちゃんと離ればなれになってしまう。
だけど、最初の決意通り、イタリアへ旅立つ決心が揺らがないところは立派だ。
雫ちゃんも、キミのそういうところに惹かれるんだよ。
たとえ、遠く離れていようとも、顔を見ることなく、声を聞くことさえなくても、
二人の絆は一層深まっていくんだね。
キミの目標は、もうキミひとりだけのものじゃないんだ。
がんばれ、聖司!
 
 


状 態


聖司のホンネ(推定)


実際の行動


昼休みになる。
聖司、雫のクラスへおもむく。


いよいよ、俺の一世一代のスタンドプレーをする日がやってきた。
今日こそ、俺と雫ちゃんの仲をみんなに公認させてくれるぜ。(ドキドキ。)


聖司、クラスの入口で立ち止まり、雫を呼び出す。


聖司
「あのさ、月島はいるかな?」

雫のクラスメイトA
「天沢じゃん。何?」


あ、まさかクラスを間違えてへんやろな。いや、そないなことはないはずや。ずっと前から確認しとったし。
頼むからちゃんと居ててや、雫ちゃん。(ドキドキ)

オレ、雫ちゃんに真っ先に知らせたいことがあるんだ。ゆうべ、ようやく親父を説き伏せてイタリア行きを勝ち取ったんよ。

これでオレの一大目標のひとつが叶ったわけや。そして、残る目標はただひとつ。それは、ズバリ雫ちゃん、キミなんだ。
二兎を追わずんば二兎を得ず、この勢いで雫ちゃんをもオレのものにしてくれる。待ってろよ、雫ちゃん。


聖司
「月島って、このクラスだろ?」

雫のクラスメイトA
「月島?ああ、いるよ。」
「おーい、月島!面会だぞ。男の。」



「聖司君!」


おったおった、雫ちゃん。

早速、俺の必殺「既成事実作戦」を見舞っちゃろう。
これだけ大勢の前で注目されたら、もはやオレ達は公認の仲なのだ。(=^ ^=)


聖司
「月島、ちょっといいかな。」



「はい!」


おお〜っ、クラスメイトが囃しとる、囃しとる。しかし、この作戦は効きすぎるくらいに効くぜ。こわいくらい。(ドキドキ)

雫ちゃん、真っ赤になっちゃって。ウブだなあ。



「違う、そんなんじゃないわよ!」



「何? いったい?」


雫ちゃん、ムキになっとるな。そこがまたかわいー。

やっぱ、キミはクラスの中で一番かわいいよ。
こんなにかわいいい娘なら、他の男の一人や二人、雫ちゃんに目をつけていても不思議じゃないよな。
だが、これで勝負あった。雫ちゃんはオレがいただいたぜ、名も知らぬライバルちゃん。

おっと、つまらんこと考えている場合やない。はようイタリア行きのこと伝えんといかん。


聖司
「行けることになったんだ。イタリアへ。」



「あっち行こ。」


おっ、どこ連れていくねん、雫ちゃん。
こりゃ、まるで二人だけの密会みたいやん。
まあ、あんだけみんなの注目を集めた後なら、どこへ逃げても同じさ。いや、二人だけになろうとした方が、かえって注目されてしまうぜい。


聖司
「どこへ行くんだよ。」


「屋上!」


キミのスタンドプレーで、失意のどん底にたたき落とされてしまった男が一人おる。
でも、気にすることはない。そのライバルは既に事実上自滅していたんで、キミのライバルにもならんから。
それにしても、聖司君に呼び出された時に雫の出していた弁当箱は確かに大きかった。夏休み中の、キミのツッコミは、あながち外れではなかったみたいやね。
しかし、雫ちゃん、この日はちゃんと弁当を食べられたんやろか。
 
 
 


状 態


聖司のホンネ(推定)


実際の行動


雨が降る屋上


「あぁ〜。」


スタンドプレー、大成功!

これで、オレ達の仲も晴れて公認。
ほっほっほっ。(^o^)

おまけに、屋上で雫ちゃんと二人っきり。今日は雨やから、邪魔する奴もおらんし。まさに二人だけの屋上。♪♪♪

こりゃ、予想以上の展開になってきたぜ。すげえ。すげえなぁ。


聖司
「すげえなぁ」



「だって、あんなにたくさん人がいるところで呼び出すんだもの。」


ふっふっふっ、それはオレの作戦やってん。大勢の前で呼び出すのはちょいと恥ずかしかったけど。

むしろ、雫ちゃんが迷わず屋上へ連れ出してくれたことに驚いとる。やっぱオレに少しは気があると見ていいのん?

それに、オレ、イタリア行きを真っ先に雫ちゃんに伝えたかったことはホンマやねんで。


聖司
「悪い。一番先に雫に教えたかったんだ。」


雫(驚く)
「ご、誤解されるくらい、構わないけど…」


おっ、照れとる、照れとる。
照れる雫ちゃん、かわいいなあ。

それにしても誤解だなんて、これまたカワイイこと言ってくれるやないの。いやよ、いやよも好きのうちってやつ?

ここは構わずイタリア行きの話を進めてしまうとするか。


聖司
「親父がやっと折れたんだよ。ただし、条件付きだけどね。」



「え…なあに」


おっ、この反応はっ、雫ちゃんの頭は、まだイタリア行きの話題に入りきっていないと見た。さては、まだオレに呼び出されたことで頭がいっぱいっちゅーわけか。それはそれで嬉しいよ。こりゃ、ますます脈が出てきたぞ。わくわく。


聖司
「爺ちゃんの友達が紹介してくれたアトリエで、2ヶ月見習いをやるんだよ。」



「見習い?」


よっしゃ、だんだん話題に乗ってきたな。

ここは、まっとうにイタリア行きの顛末について解説してしんぜよう。とくと聞いてくれたまえ、雫ちゃん。


聖司
「その親方はとっても厳しい人なんで、見込みがあるかどうか、見てくれるって。
それに、俺自身が我慢できるかどうかもあるだろってさ。
だめだったら、おとなしく進学しろって言うんだ。
俺、そういうの好きじゃないよ。逃げ道作っとくみたいで。
でも、チャンスだから行ってくる。」



「いつ?いつ行くの?」


出発の時期を気にしてくれるなんて、嬉しいな。実は、準備が出来次第、すぐ出発なのよ。


聖司
「パスポートがとれしだい。学校とは、今日親父と話をつけるんだ。」



「じゃあ。すぐなんだ。…よかったね、夢がかなって。」


ありがとう、雫ちゃん。
これで夢の一つはかなった。
しかし、実はもう一つ夢があるんだ。

その夢とは、雫ちゃん。キミをオレのものにしてしまうことさ。どんなに遠く離れていても、どんな長く離れていても、いつもキミを想っていたいし、オレを想っていて欲しいんだ。

イタリアへ旅立つ前に、キミに告白しよう。一生懸命頑張って。


聖司
「ああ、とにかく一生懸命にやってみる。」


しばしの沈黙。


どうしよう、いま、この場で雫ちゃんに告白しようか。でも、まだ雫ちゃんは本当にオレをどう思ってくれているか分からないから、恥ずかしくて言えん。

オレ、キミが好きだ。大好きだ。その気持ちをどうにかして伝えたい。伝えたいんだ。

「オレ、お前が・・・。」



「あ…」

聖司
「お…」


赤くなる二人。


う。気まずい雰囲気。
何とかこの場を収めなければ。


聖司
「雨あがるぞ。」



「ホントだ。」
「わあ、あそこ見て。」


ううっ、もはや何を言っていいのか分からなくなってしもうた。

とりあえず、流れに身をまかせるとするか。



「虹がでるかもしれない」

聖司
「うん。」



「クレモーナって、どんな街かな…。 素敵な街だといいね。」


雫ちゃん、うまい具合に話題を振ってくれた。
とりあえずクレモーナの話でもして雰囲気を和らげよう。


聖司
「うん。古い街だって。バイオリン作りの職人がたくさん住んでいるんだ。」



「すごいな。ぐんぐん夢に向かって進んでいって。
あたしなんかばかみたい。聖司君と同じ高校に行けたらいいな、なんて…。」


雫ちゃん、その言葉・・・。
しばらくクレモーナの話かと思っていたら、いきなり高校進学の話になるなんて。

それも、一緒に高校に進学したいって…。

どうしよう。今まで雫ちゃんにオレの気持ちを伝えることばかり考えてたんで、まだその先までの準備が出来てない。どうしよう。


聖司
「………。」



「あはは、てんでレベルが低くてやんなっちゃうね。」


なぜ? あの控えめな雫ちゃんが、ここまで大胆に言ってくれるの? 雫ちゃんの性格から見て、かなりの勇気がいるはず。

…はっ、もしや、これは雫ちゃんはオレが好きだということを、それとなく言ってるのではないかっ!


聖司
「………。」


雨上がりの街を見続ける二人。


雫ちゃんにここまで言わせてしまった以上、オレもずっと胸にしまっていたことを言ってしまおう。

オレ、ずっとずっと前から、キミに惚れてしまったことを。初めて見かけたその日から、ずっとキミの瞳を追いかけていたことを。


聖司
「俺、図書カードで。ずうっと前から雫に気がついていたんだ。図書館で何度もすれちがったの、知らないだろ。
…隣の席に座ったこともあるんだぞ。」



「ええーっ!」


これくらいで驚いてくれるな、雫ちゃん。
まだまだあるんだ。決定的なことが。


聖司
「俺、お前より先に図書カードに名前書くため、随分本読んだんだからな。」



「………。」


雫ちゃん、キミが好きだ。大好きなんだ。

遠回しなのは承知のうえさ。 今、伝えられる精一杯の気持ち、受け止めて欲しい。


聖司
「俺… イタリアへ行ったら、おまえのあの歌うたって頑張るからな。」



「…わたしも…。」


雫ちゃん、いま、確かに「私も…」って言ってくれたよね。本当に、「私も…」って言ってくれたよね?

キミの気持ちを言葉で確かめたい。
ホントにオレを好いてくれてる?雫ちゃん。


バタン!!
クラスメイトがドアから噴出。驚く二人。



「こらーっ!!」


ああっ、雫ちゃーん・・・。

・・・ううっ、何で邪魔が入るねん、ええ雰囲気の時に限って〜っ。 おにょれら〜、あとでまとめてしばいちゃる〜っ!!!!!


聖司、屋上に残される。たたずむ聖司。」


聖司君、本当に雫ちゃんが好きならば、もっと正々堂々と告白したまえ。雫の気持ちを確かめてからおそるおそる遠回しの表現で告白するなんて、男らしくないぞう。

ともあれ、お互い「雫が好き」「聖司が好き」という直接の言葉はなかったけど、扉の向こうで雫が流した涙が何よりも雄弁に物語っていたよ。既に二人の気持ちが通じ合っているということを 。
 
 
 


状 態


聖司のホンネ(推定)


実際の行動


聖司、図書館へやってくる。
雫が調べものをしている。


…おっ、いたいた。熱心に何か調べものをしているな。気付いてくれるまで待つとするか。

う〜ん、なかなか気付いてくれん。
お〜い、雫ちゃ〜ん。俺より本の方が大事?ひょっとして、俺のこと眼中にないんやろか。
いやいや、雫ちゃんは集中すると周囲が目に入らないタイプに違いない。ここは我慢、我慢なのだ。


聖司、雫の向かいに座り、雫が気付くのを待つ。

雫、聖司に気付く

「あ…。 」


ようやく気付いてくれたか、雫ちゃん。
ちょいと驚いたかい?
驚いた仕草も、また可愛いな。思わず見つめてしまいそうだぜ。


聖司、雫をじっと見る。



「聖司君!
・・・もう行っちゃったのかと思ってた。」


実は、まだ行ってなかったのさ。
最後に雫ちゃんに会いたかったんよ。


聖司
「おじいちゃんに聞いて、ここじゃないかと思ったんだ。
会えてよかった。明日行く。」



「明日・・・。」


そう、明日行く。
今は雫ちゃんと一緒に過ごしていたいんだ。だから、ゆっくり調べものをしてくれていいよ、雫ちゃん。


聖司
「いいよ。雫が終わるまでここで待ってる。」


雫、聖司をちらりと見る。


雫ちゃんが俺を見つめてくれる。
ああ、このひととき。感動だなあ。


聖司も雫をちらりと見る。


雫の調べものが終わる。
図書館の前にて。


明日からしばらく雫ちゃんに会えないと思うと、名残惜しいなあ。

せめて、最後は雫ちゃんの手を握りしめて、カッコよく決めようぞ。


聖司
「送れなくてごめんな。」


「ううん。来てくれて、とても嬉しかった。
見送りには行けないけど、帰りを待ってるね。


俺も最後に会えて嬉しかったよ。
頑張って帰ってくるさかい、しっかりと覚えておいてくれよ、雫ちゃん。

いい雰囲気になってきたな。
おもむろに手を差し出して、と。


聖司
「うん。たった2ヶ月さ。」

聖司、雫に手を差し出す。


雫、聖司の手に合わせる。


やたっ、やたっ、雫ちゃん、素直に手を合わせてくれた。\(^o^)/

大好きだ。雫ちゃん!


聖司、雫の手を握りしめる。



「あたし、泣き言ばかりいってごめんね。
わたしも頑張るね。」


細い指やなあ。
雫ちゃんの手を握りしめると、とても小さくて、思わず君を守ってあげたくなってしまうよ。

でも、ここでニヤニヤしてはいかん。
あくまでも、クールに決めないとな。


聖司、だまって頷く。



「あ・・・・・・」


雫ちゃん、何を言いかけたんだい。
でも、聞くのはよそう。
君の手を握ったまま、しらばくこうして君の瞳を見つめさせてくれ。
うん。映画のシーンみたいだ。バッチリだ。


聖司
「じゃ、行ってくる。」



「行ってらっしゃいー。」


ふっふっふっ、決まったぜ。

さあ、イタリア、頑張るぞう。

聖司、手を振りながら坂道を上っていく。


聖司君、君は知っているか。走り去る聖司の後ろ姿を、雫がいつまでも見送っていたことを。帰りの電車の窓から、雫が地球屋のある丘をいつまでも見続けていたことを。
聖司君、君は気付いていたか。普段は「あたし」と言っている雫が、君の前では「わたし」と言うようになったことを。

雫は、君の生き方にあこがれ、少しでも追いつこうと懸命に努力しようとしている。聖司の雫に対する想いと同じくらい、雫の聖司に対する想いもつのっているんだよ。
精一杯、頑張ってこい。聖司君。
 
 
 


イタリアでの状況(推定)


聖司の行動(推定)


「なぜ?なぜなの?
なぜ、セイジは私の愛を受け入れてくれないの?
あなたには、私の愛の深さが分からないの?」


「僕には、日本に好きな人がいるんだよ、ルシータ。」


「シズクっていうんでしょ。知ってるわ。
あなたの部屋から毎晩毎晩、シズク、シズクっていう叫び声が聞こえて来るんですもの。」


「え?聞こえてたの?(顔真っ赤)

…そう、僕は雫が好きなんだ。」


「セイジ、私がキライなの?」


「いや、別に君が嫌いなわけじゃない、ルシータ。」


「キライじゃないのね?
じゃ、いまここで私の愛を受け入れて。」


「いや、君は嫌いじゃないけど、僕は雫が好きなんだ。だから、君の愛を受け入れることは出来ない。」


「どうして?そんなにシズクって娘がいいの? 
シズクのどこがそんなにいいの?
その娘とどこまでいったのよ。」


「どこまでっていったって。
かれこれ、かれこれ・・・・・・・・・・というわけさ。」


「え?イタリアへ来る前の晩に手を握っただけ?
キスさえしてないの? 」


「いや、雫は清純な娘だから、キスはまだまだ先なんだ。」


「まだ何にもしてないなんて、信じられない。
そんなの、本当の愛じゃないわ。」


「いや、雫は清純な娘だからね・・・」


私だって、充分清純よ。だって、あなた以外の男性を愛することは、もう出来ないんですもの。」


「てゆーかー、、、」


「心と心が通じ合ったっていうの?
それなら私だって負けない。私なら、心だけじゃなく、私の全てをセイジに捧げることだってできるわ。」


ぐびびっ。
「…はっ、いや、ダメなんだ。ダメなんだっ。」


「分からない。私、分からない。どうして、そこまでして自分を抑えなければいけないの?

でもいいわ。私の愛の力で、きっとあなたの心を解きほぐして見せる。」


「そんなこと言ったって…。
そうそう、僕には、あまり時間がないんだ。もうすぐ2ヶ月経つから、一旦日本へ帰らなければいけないし。」


「私もあなたと一緒に日本へ行く。
セイジの行くところなら、どこまでもついていくわ。」


「いや、日本は遠い。習慣も違う。
君も、故郷のドイツで、僕よりも魅力的な男性を見つけなさい。

それじゃあ、お先にっ。(聖司、退散する)」


「セイジ、待って。私を捨てないでー。

私、あなたを諦めない。どこまでも、どこまでもついていくわ。だって、あなたをこんなにも愛してしまったんですもの。
それに、私、日本へ行ってしなければならないこともあるんだから。」


やばい、ルシータは本気だな。飛行機を1日早いのに変更して、彼女の追跡をまかんといかんな。

…でも、言われてみれば、雫とはまだキスもしていないんだよな。
そうだ。日本に帰ったら、すぐ雫に会いに行こう。そして、雫のかわいいくちびるをいただいてしまおう。
あわよくばプロポーズも…なんちって。(^O^)


ルシータが日本へ行く理由には、聖司を追いかけることの他にもうひとつあった。
それは、バロン人形とその持ち主・西司郎を探すことである。戦火に引き裂かれた、祖母・ルイーゼの追憶の恋をかなえるために。
そう。ルシータこそ、あのルイーゼの孫娘だったのだ。

ルシータもまた、バロンの連れの人形を携えて日本を目指していた。しかし、1日早い飛行機に乗った聖司は、そのことを知る由もなかったのである…。
 
 
 


状 態


聖司のホンネ(推定)


実際の行動


未明の団地。
東の空が白ばみはじめる。


雫ちゃん、一刻も早く会いたくて、こんな明け方に来てしもうた。昨日、地球屋でじいさんから話を聞かされて、ホンマびっくりしたよ。俺、自分のことばっかり考えていて、雫ちゃんも頑張っていたことまで気がつかんかった。ごめんよ、ごめんよ、雫ちゃん。

好きや、好きや、好きやねん、雫ちゃん。
会いたい、会いたい、会いたいねん、雫ちゃん。

もし、朝日が昇るまでに雫ちゃんに会えたなら、あの秘密の場所へ案内しよう。とっておきの朝日を雫ちゃんに見せよう。そして、「雫、大好きだ!」って告白しちゃるのだ。

やおよろずの神々よ、我に力を与えたまえ。南無八万大菩薩よ、我にパワーを授けたまえ。あの窓が開かれんことを。そして雫が顔を出さんことを。 

窓よ開け! 雫よ出でよ!

でっ、でっ、でっ、でっ、でっ、とぅりゃぁああああっ!!!!!!!!!!!

心の中で、雫、雫っ!と唱えた。


雫、窓を開ける。
聖司に気がつく。


あぁーーーっ!雫ちゃんだ!!
ホンマに顔を出してくれた。夢やないやろか。

あ!俺に気がついた!


聖司、思いっきり手を振る。



「うそ・・・・・! ま、待ってて。」

雫、駆け下りてくる。


奇跡だ!奇跡だ!奇跡だ!本当に奇跡が起こったぜ!

こうなったら、絶対に秘密の場所へ行かなあかん。そして一気に告白せなあかん。

早く!早く!雫ちゃん!


聖司
「奇跡だ。本当に会えた。」



「夢じゃないよね。」


夢なもんか、雫ちゃん。
ああ、いまここで抱きしめたい。
そやけど、今は一刻も早く秘密の場所に急がんと。


聖司
「飛行機を一日早くしたんだ。乗れよ。

あ、ちょい待ち。それじゃあ寒いぞ。
…さ、乗った。」



「あたし、コートとってくる。」


あかんあかん。そないな時間はないねん。
秘密の場所行って、日の出見せて、告白するんやから!

さあ、出発するぞ、雫ちゃん。


聖司
「時間がないんだ。さあ乗って。
…しっかりつかまってろ。」


聖司、雫を乗せて自転車をこぎ出す。


ああ(じ〜ん)。雫ちゃんが、いま俺の後ろに乗ってる!

のひょ、のひょ、のひょ。 v(^o^)v v(^o^)v v(^o^)v
いぇい、いぇい、いぇい。 v(^o^)v v(^o^)v v(^o^)v


「雫に早く会いたくてさ、何度も心の中で呼んだんだ。雫ーって。
そしたらさ、本当に雫が顔を出すんだもん。すごいよ、俺達。」



「わたしも会いたかった。まだ夢みたい。」


ああ(じ〜ん)。雫ちゃんが俺の背中に頭をつけてくれた!

やたっ、やたっ、やたっ。 \(^o^)/ \(^o^)/ \(^o^)/
にゃは、にゃは、にゃは。 \(^o^)/ \(^o^)/ \(^o^)/


聖司、自転車をこぎ続ける。



「クレモーナはどうだった?」


さあて、どうやって雫ちゃんに告白してくれようか。
「あの朝日は美しい、でも、キミの美しさにはかなわない。」
なんちってね。 (=^o^=) 

おっと、妄想にふけっている場合やない。雫ちゃんの質問に答えんと。


聖司
「見ると聞くとは大違いさ。でも、俺はやるよ。
…あ、明るくなってきたな。」



「降りようか?」

乗ったままでええよ、雫ちゃん。
キミを乗せたまま登ることが、俺の夢だったんだ。


聖司
「大丈夫だ。お前を乗せて、坂道登るって、決めたんだ。」



「そんなのずるい。
お荷物だけなんてやだ。
わたしだって、役に立ちたいんだから!」


ふふふ。どさくさにまぎれて、雫ちゃんを「お前」って言っちゃった、言っちゃった。

しかも、雫ちゃんも嬉しいこと言うてくれるやないけ。
その言葉、俺への愛と思っていいかい?


聖司
「わかった。頼む。 もう少しだ。」



二人、坂を上りきる。雫は息が上がっている。


はぁ、はぁ、やっと登り切った。
けど、俺はちっとも疲れないよ。
さあ、急がねば!


聖司
「雫、早く乗れ。」


秘密の場所に到着。


やった。
何とか間に合った。

雫ちゃん、ちょっと段差があるから、コートを持とうか。


聖司
「間に合った。」

「持とうか。」



「平気。」


うわ。「平気」だなんて。
俺のコートをしっかりと持っててくれるなんて、嬉しすぎる。


聖司、雫を奥まで案内する。



「すごい。朝もやで、まるで海みたい。


どうや、雫ちゃん。なかなかいい景色だろう。

でも、まだまだとっておきの景色があるんだ。
東の空を見てごらん。


聖司
「ここ、俺の秘密の場所なんだ。もうじきだぞ。」


夜明け。

朝日を見つめる雫。


…とうとう、ここまで来たんだな。
思えば、図書館で初めて雫を見た日から、俺は雫に夢中だった。本気で惚れてしまったんだ。

図書カードに名前を書いたり、隣の席に座ったり、何とかして雫に気がついてもらおうとしたんだよ。

それからも、いろいろなことがあったね。

夏休みの学校で「コンクリートロード」をからかったこと。あれは今でもよく覚えているよ。

図書館へでっかい弁当を届けたこと。雫が地球屋に来たことは本当にびっくりしたんだ。そういえば、あの時にはもうムーンに出会っていたのかな。

二学期が始まってすぐ、学校の渡り廊下ですれ違ったっけ。キリリとした雫ちゃんを見て、本当にカワイイなあって思ったんだ。

そして、いつだったか、雫はムーンと一緒に地球屋の前でたたずんでいたね。その日は少し憂えた感じだったけど、「カントリーロード」を歌ったキミは輝いていたよ。

イタリア留学したいって言ったのも、実は雫がはじめてだったんだ。俺の目標を知ってもらったから、親父の説得にも熱が入って、ようやく説得できたと思ってる。

イタリア行きが決まったことを早く伝えたくて、雫のクラスまで行ったんだけど、あれは俺も勇気がいったんだよ。その後の屋上で、初めて俺の気持ちを伝えられた。途中で邪魔が入らなければ、思いっきり雫を抱きしめたかった。

イタリアへ行く前日の図書館。思えば、あの時にはもう自分の目標を持って頑張っていたんだね。

イタリアでも、一瞬だってキミのことを忘れたことはなかったんだ。本当だよ。(ホンマかいな)

そして、早く雫に会いたくてイタリアから戻ってきて、じいさんから話を聞かされた時は、本当に驚いたんだ。雫も、本当に頑張っていたんだね。

ただ物語を読むだけじゃなく、自分で物語を作るということ、それは目標に向かって頑張ること。何て素晴らしいんだろう!

それなのに、雫、何も応援できなくてごめん。自分のことばっかり考えてて、ごめん。
「聖司がいたから頑張れたの。」とまで言ってくれたのに。
俺だって、俺だって、雫がいたからこそ頑張れたんだ。

俺、雫が好きだ。大好きだ。
ずっと一緒にいたいんだ。
この気持ち、どんな言葉で伝えたらいいんだろう。


…雫、あのさ。俺、今すぐって訳にはいかないけど、俺と結婚してくれないか。


聖司
「これを雫に見せたかったんだ。
おじいちゃんから雫のことを聞いてさ、
俺、何も応援しなかったから。自分のことばっかり考えてて…。」



「ううん、聖司がいたからがんばれたの。」



聖司
「・・・。」


「あたし、背伸びしてよかった。自分のこと、前より少し分かったから。
…わたし、もっと勉強する。だから、高校へも行こうって、決めたの。」


聖司
「雫、あのさ。
俺、いますぐって訳にはいかないけど、俺と結婚してくれないか。」



「えっ。」


俺、きっと一人前のバイオリン作りになるから。

そしたら、そしたら、きっとキミを迎えに行くから・・・。


あ、俺、何だかすごいこと言ってしまったような気がする。でも、でも、これが俺の本当の気持ちなんだ!


聖司
「俺、きっと一人前のバイオリン作りになるから。そしたら・・・。」



「・・・うん。」


ホントか?


聖司
「ホントか?」



「嬉しい。そうなれたらいいなって思ってた。」


そうか。やった!


聖司
「そうか。やった。」



「待って。風、冷たい。」


コートを二人で羽織ろうと・・・。何ていじらしい。

大好きだ!大好きだ!雫ちゃん!


聖司、思いっきり雫を抱きしめる。



「ぁ。」



「雫、大好きだ!」   



聖司君、君は内気な少年だった。雫ちゃんに惚れていながら、心に秘めた本音をなかなか出せなかったし、本音と実際の行動も、なかなか一致しなかった。
しかし、ついに自分の気持ちを正直に伝えられたね。心から出た、本物の言葉で。

それが真実の言葉なら、本当に偽りのない言葉なら、朝日に向かって誓って欲しい。
どんな困難に直面しても、決してくじけることなく頑張り続けることを。
どんなスランプに悩まされても、決して初心を忘れることなく頑張り続けることを。
そして、一人前のバイオリン作りになって、雫ちゃんを迎えに日本へ戻ってくることを…。

おめでとう、聖司君。健闘を祈る。
 
 
 
 
 


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