イオランタ

Iolanta

 

原作

ヘンリク・ヘルツ(Henrik Herz)の戯曲『ルネ王の娘 Kong Renes Datter

台本

モデスト・イリーイッチ・チャイコーフスキー(Modest Iliych Tchaikovsky 作曲者の弟)

作曲

ピョートル・イリーイッチ・チャイコーフスキー 1891年

初演

1892年12月18日、マリンスキー劇場(ペテルスブルク)

演奏時間

全1幕:90分

時・所

15世紀。南フランスのプロヴァンス地方の山中

登場人物

レネ Rene プロヴァンスの王 ・・・・・・・・・・・・・B

ロベルト Robert ブルゴーニュ公爵 ・・・・・・・・・・Br

ボデモン Bodemon 伯爵、ブルゴーニュの騎士 ・・・・・T

エブン=ハキヤ Ebn-Hakiya モール人の医者 ・・・・・・Br

イオランタ Iolanta レネ王の娘 ・・・・・・・・・・・・S

マルタ Marta ベルトランの妻、イオランタの乳母 ・・・・A

アリメリク(レネ王の従者、T)、ベルトラン(門番、B)、ブリギッタ、ラウラ(イオランタの友人、S、MS)

 

解説

《くるみ割人形》との二本立て用に書かれた小品で、作曲者の体質に合った台本と相まって珠玉の名品となっている。

 

全1幕 イオランタの住む城の広間と庭

レネ王は生まれた娘イオランタがあき盲と知った時から、城内の者全員に「娘に絶対に盲である事を悟らせぬように」と命じ、外部の人間と娘とは全く会わせないようにして娘を育てた。

美しい娘に成長したイオランタは乳母マルタ、友人のブリギッタやラウラに囲まれて何不足ない生活を送っているが、「何かがもの足りない」と訴える。マルタはその言葉を聞いて、思わず涙ぐんでしまう。イオランタはマルタの眼に触れて、彼女が泣いているのを知り、「何故」と問う。マルタは「貴女が泣いているので、つい私も」と答える。それを聞いてイオランタは、「私の眼に触りもせずにどうして私が泣いているのが解ったの」と訝る。一同は戸惑い、ブリギッタは「きっと音楽のせいよ」と言い、マルタは楽師たちに音楽を止めさせる。

イオランタは楽師たちを退かせ、マルタに「眼というものは泣くためにだけあるの」と問い、静かに歌い出す、アリア<悲しい涙などは知らずに過ごした日々 Otchego etoprezhde ne znala ni toski ya, ni golya, ni slyoz >。

マルタはイオランタに「もう私を困らせないで」と言い、友人たちは花を讃える合唱をしてイオランタの悲しみを紛らわせようとする。イオランタは「皆の優しさにどう応えたらいいのか解らないわ」と言いながら、マルタに「子供の時に歌ってくれた子守唄を歌って」と甘える。マルタは皆と一緒に優しく子守唄を歌い、皆は城内に入っていく。

誰も居なくなったところへ角笛が聞こえ、アリメリクが入って来る。門番のベルトランが現われ、「ここに入る者は死刑だ」と行く手を遮る。アリメリクは「王の伝令ラウリが死に、自分がその代理として来た」と王の指環を証拠として見せ、「王がムーア人の名医を連れて来られる」との伝言を伝え、「それにしても此所は何処」と問う。ベルトランは「王が盲目の娘イオランタを隠して住まわせている立入禁止の城だ」とその経緯を説明する。

角笛が聞こえ、王がムーア人の医者を連れて現われる。王が「娘は」と問うと、迎えに出たマルタが「お休み中です」と答える。医者は「眠っている時の方が診察しやすい」と言いマルタに案内されて城内に入る。王は「娘の目に光が与えられるならこの身を捧げよう」と父親の苦しみを歌う、アリア<罪もなくなぜに苦しむ、この運命 Gospodi moi, esli greshen ya >。

医者が診察を終えて現われ、「治る可能性はあるが、見たいという強い意志がなければ手術をしても無駄だ」と説明し、「イオランタに真実を知らせなければ治療は出来ぬ故、夕方まで王の返事を待つ」と言う。王は「絶対に娘に真実を教えてはならぬ」と厳命し、皆は城内に入る。

イオランタの婚約者ロベルト公爵が友人のボデモン伯爵と共にこの城に迷い込んでくる。公爵はマチルダという恋人が出来たために、レネ王に会って婚約の解消を申し入れようと旅をしているうちにここに来てしまったのだ。二人は『これより先に入る者は死刑に処す』という立札を見て立ち止まるが、山中にあるあまりにも美しい楽園を見て驚く。ロベルトはマチルダを讃えてアリアを歌い、ボデモンは<いや恋の囁きも僕には無縁だ Net! Chary lask krasy myatezhnoi >とロマンスを歌う。

二人は城内に入り、部屋の中を覗き、昼寝をしているイオランタを見る。ボデモンはあまりに美しい姫を見て魅惑されるが、ロベルトは先程の立札を思い出す。昼寝から覚めてイオランタが出てくる。彼女に夢中になったボデモンは自分の名前を告げ、「迷い込んだのだ」と申し訳を言う。姫は、「ワインでもお持ちしましょう」と城内に入る。ロベルトは、「これは罠だ」と言って、残るボデモンを置いて助けを求めに行く。

ワインを持って現われたイオランタと話すうちにボデモンは彼女が盲であることを知る。彼女は白いバラと赤いバラの区別がつかず触らなければ何も解らなかったのだ。そして「眼は泣くためにあるもの」と言って涙を流す姫の手を取ってボデモンは光を讃えて高らかに歌い出す<神の創り賜うた最高の美女よ Chudny pervenets tvoren’ya

姫は「光が見たい」と叫ぶ。そこにレネ王と共に城内の全員が現われる。姫はボデモンから光の話を聞いたことを王に話す。王は困惑しながらも娘に「医者の治療を受けたいか」と問う。姫は「どうしてよいか解りませんが、お命じになるなら従います」と答える。医者は「その程度の意志なら成功は請け合えない」と言う。すると王はボデモンに「お前は城前の立札を見たであろう、もし娘が治らぬ場合は死刑だ」と宣告する。姫は「そんな可哀相な、お慈悲ですから許して」と言うが、王は「絶対に駄目だ」と宣言する。イオランタは「では何事にも耐えてきっと治って見せます」と医者と共に別宮に行く。

王はボデモンに「死刑などとは嘘だ、許せ」と言う。ボデモンは「姫を妻に」と望むが、王は「娘は婚約しているのだ」と断わる。そこにロベルトが武装した兵を連れて友人を救いに来るが、レネ王を見て驚く。そして「婚約の解消を」と王の前に跪く。王はそれを受け入れ、「娘が治ったら、ボデモン伯に与えよう」と約束する。

医者が出て来て「手術は終わりました」と言う。眼に包帯をしたイオランタが現われる。皆の緊張する中で包帯がとられる。姫は「明るい光だわ」と叫ぶ。しかし見えても誰だか解らない。父の声で彼と解り、王の顔を触って「お父様」と言う。レネ王は「お前の新しい保護者はこの方だ」とボデモンに娘を渡し、二人は抱き合い、皆の喜びの合唱で幕となる。